生きてるなら[栞の視点]
あれから、流星さんに連絡をして星さんの事や月の事を聞いたりしていた。
星さんが、氷雨君と会った事も聞いた。
化け物は、大丈夫だろうか?
次の日の夜に、流星さんから連絡がきた。
「栞ちゃん、宇宙兄さんと俺で、月に伝えたから」
「落ち込んでいましたか?」
「宇宙兄さんは、死ぬんじゃないかと言っていた。俺も、去って行く月からは、絶望しか感じなかったよ。」
「月の肉体を、あの月が消すかもしれないんですか」
「そうかもしれないし、生きてるかもしれない。俺にも、ハッキリとはわからない。」
「明日になれば、わかります。連絡ありがとうございました。」
「うん。また、会おうね。栞ちゃん」
「はい」
流星さんと電話を切った。
不安しかなかった。
生きててくれるなら、あの嫌な奴でも構わない。
僕は、そう思いながら眠った。
次の日、朝から麻美がケーキを作っていた。
「おはよう、何でケーキ?」
「美子さんに作り方教えてもらったの。チーズケーキ」
麻美は、嬉しそうに笑っていた。
「楽しみだな」
時刻は、九時を回った所だった。
最近、海の華のお客さんから絵を10枚卸したいと頼まれて、僕は寝不足だった。
「月さんが居たら、色塗りを少しでもやってもらえるから絵に集中できるのにね」
「そうだな」
絵以外の仕事の、ポスターやチラシの色塗りは月がやってくれた。
それで、僕は絵に集中できた。
でも、月がいない今…。
かなり、しんどい。
「アシスタント雇う?美術部の方に、声かけてみる?」
「月と同じ色彩感覚の人がいるだろうか?」
僕は、月の色彩感覚が好きだ。
僕の想像した色をきちんと表現する事が出来るし、もちろんそれ以上も…。
ピンポーン
「きたかもな、出てくる」
「うん」
星さんだけが、来たのかもしれない。
玄関の扉を開いた。
「おはよう」
「おはよう」
星さんと月が、一緒にいるのを見て泣いてしまった。
「そんなに喜んでもらえたら嬉しいな」
指輪をつけてる。
「誰?」
「るかだよ。」
そう言って笑った。
「戻ってこれたの?」
「戻ったというより、呼ばれたって感じかな。」
「月が、嫌な思いをしたんだね。聞いてる、流星さんから」
「それだけじゃなくて、星とな。それでな」
るかは、顔を真っ赤にしてる。
「それは、僕の口からは言えないよ」
星さんも恥ずかしそうにしてる。
「わかった。寝たんだな」
僕の言葉に、るかは動揺した。
「し、し、栞。そんな言い方はないだろ?」
「結局、たったって話だろ?散々、出来ないって煽っといて。器でしかないって気づいたんだろ?」
僕の言葉に、動揺している。
「それは…。美咲兄弟から聞いたんだな」
「だから、なんだよ。」
よかった。
生きてるなら、誰でもよかったよ。
「あがって、コーヒーいれるよ」
「うん」
星さんとるかは、笑ってる。
「暫くは、るかのままなのか?」
「さあな?あいつが、戻ると死にたがるから…。このままが助かるけどな。」
「星さんと、寝れるしな」
「ば、馬鹿な話をするな」
「よかったって顔に書いてるけど!!」
「そんな事あるか」
「あるね。だったら、毎日する方がるかのまま何じゃないの?」
僕の言葉に、るかは納得したような顔をしていた。
「僕は、あの月に嫌われてるからね」
「嫌な顔されたの?」
「うん。それでもやめなかった。死んでしまう気がしたから…」
僕は、星さんを抱き締めた。
「ずっと、辛かったよね。ごめんね。でも、化け物に食べられてなくてよかった。」
「僕、氷雨がいなかったら死んでた。」
「わかってる。あいつは、酷かったから」
「栞さん、僕。るかが戻ってきてくれて喜んだんだ。酷いでしょ?あっちが、月だったかもしれないのに…。だって、僕の絵を描いてた。あっちは…。でも、僕はるかの方が嬉しかったんだよ」
「酷くなんかないよ。僕だって嬉しかったからわかるよ。だから、自分を責めなくていい」
僕は、星さんを暫く抱き締めていた。




