うまくいったかな?[流星の視点]
「あいつ、死ぬかもな」
顕微鏡を片付けながら、宇宙兄さんは俺に言った。
「どうして、そう思うの?」
「俺、知ってたんだ。あいつが、手術したのも全部。親父に聞いてたから」
「それで?」
「目覚めたあいつに、親父が行ったよ。種無し君って。そしたら、あいつ。窓から飛び降りようとした。まあ、助けたのは俺だけどな。錯乱してたから、忘れてるだろ?」
紙コップを片付けたり、機械を丁寧に拭いている。
宇宙兄さんは、俺なんかよりも強いのかもな。
「母さん、流星の事で何度も死のうとしたんだよ。それを助けたのも、俺。親父が、母さんを殺そうとしたのも助けたのは俺。何か、俺の前でみんな死にたがったり、殺りたがるんだよな。」
宇宙兄さんの感情が欠落していると感じていたのは、みんなが死を植えつけるからだとわかった。
この人は、実は誰よりも愛情を持っていたのではないだろうか?
歪ませたのは、両親だったのではないだろうか?
「こんな俺でも、流星が産まれた時も、月が産まれた時も、喜んだんだぞ。だけど、月が産まれた日の夜中。俺は、酔っぱらた親父に話しかけた。」
宇宙兄さんは、ジャケットを脱いだ。
腰の辺りを捲る。
「赤ちゃんに会いたいって言ったら、デッカイグラス投げつけてきやがった。あの、汚点と関わるなら殺すってさ。知ってたか?お前が産まれてしばらくたった日」
二人きりだからか、宇宙兄さんは、カッターシャツを脱いだ。
胸にデカイ傷がある。
「お前が、母さんに愛されたら、心臓をえぐりとってやるからってさ。」
「宇宙兄さん。それ、父さんにやられたのか?」
「だから、言っただろ?俺は、あの親父に月を殺らせないって」
知らなかった…。
宇宙兄さんの体が、こんなに傷だらけだった事を…。
「年に一回も、会わなかったのは、なぜだ?」
「さっき言っただろ?俺が、母さんに愛されたら心臓を抉りとられるんだ。悪いが、妻の為に死ぬわけにはいかないよ」
宇宙兄さんは、笑いながら服を着た。
「その手首の傷、まだ新しいよな?」
「あ、これか。流星が、死のうとした日に母さんが親父より俺に一番にかけてきたから!自殺にみせかけて死なしてやろうか?だってさ。親父は、相当俺が嫌いだ。」
ボタンをとめながら、宇宙兄さんは、目を伏せた。
「何で?嫌われてるんだ」
「婆さんと爺さんを、一番最初に奪ったからだよ。」
そう言って、宇宙兄さんは片付けを始めた。
「歪んだ愛情しか、流星や月に与えられなくてごめんな。でも、こんなんでも一応愛してたんだぜ。」
宇宙兄さんは、俺に笑いかけた。
「星さんがいたら、どんだけ傷ついてもあいつは大丈夫だろ?」
「うまくいったかな?」
「いくさ。俺は、いくらでも嫌われてやるからよ。」
「宇宙兄さん」
「流星は、記憶の塗り替えでもして。良い兄貴になっとけ」
宇宙兄さんは、やっぱり思っていたより優しい人間なんだ。
すべての始まりは、親父のせいだったんだ。
「まあ、親父の事、恨んでやるなよ。あいつは、あいつで寂しいやつなんだよ。叔父さんに聞いた。」
「そうか」
「勝手に愛されてないとか暴走しちゃったらしい。るかさんが、大好きだったからってのが一番の理由だってよ。詳しくは、婆さんと爺さん、目覚めて元気になったら聞いてみろ」
「会って行こうかな?」
「今度は、月を連れてきてやんないとな」
宇宙兄さんと、並んで歩く。
「まだ、意識もどってない」
婆ちゃんと爺ちゃんは、眠ったままだった。
「2、3日中に、家族を会わせてる方がいいですよ」
担当医が、宇宙兄さんに話していた。
月を連れてこなくちゃいけないな。
どうか、星さん。
月を守ってくれ。




