記憶がない月。(栞の視点)
恐れていた事が、現実になってしまった。
崩壊はしていない。
むしろ、穏やかなのを感じている。
ただ、るかという人格と話した時と違ってルル君を感じられないのがわかる。
星さんが、ボロボロと泣いている。
当たり前だ。
さっきまで、結婚式をして誓いまでしてくれた男は自分を忘れて、仮装パーティーだと言っているのだ。
こうなった事に、僕はショックを隠せなかった。
フラッとした、星さんを支える。
「華、ちょっと二人でいれる?」
「うん、大丈夫だよ。」
月を華に預けて、星さんを連れて店を出た。
「ごめんなさい」
「ううん、少し僕も外の空気を吸いたかったから」
「そうですか」
「うん」
僕は、何も言わなかった。
言えば、傷つけてしまう気がした。
「月に、僕と結婚式をあげたんだよとは言えませんでした。」
「わかってる」
「男を好きなんて、きっと嫌だろうから」
「そんな事は、ないよ」
「ありますよ。」
僕は、星さんを抱き締めていた。
「辛かったね。せっかく、月と一緒になれるはずだったのに…」
「繋がる度に引き裂かれてたから、今回も同じ。僕と月は、繋がれない運命だったんだと思う。」
「そんな事ないよ。」
僕は、星さんの背中を擦った。
「月と幸せになりたいだけなのに…。」
泣き出してしまった。
どうにか、月を戻せないだろうか?
「大丈夫、小さな欠片でも拾い集めて。月は、星さんの元に辿り着いてくれるから」
僕は、ギュッって抱き締めてあげた。
「月がいない生活は、無理だよ。でも、僕が月の恋人だって言えないよ。もし、月が女の子と付き合ったらどうしたらいいかな?」
星さんは、泣きながらそう言った。
「僕やみんなが、支えるから。だから、何も心配しないで欲しい」
そう言うしかなかった。
「ここにいたのか」
僕は、星さんから離れた。
「詩音。」
「美咲さん、何かありましたか?」
「いや、華から聞いたから記憶がないって」
「うん、そうだよ。」
星さんは、泣いてる。
「俺も、星君の事支えるから。だから、一人で抱え込まないでよ。華や晴海も頼ってよ。これから、どんな事があっても支えるから」
そう言って、詩音は星さんの頭を撫でる。
「僕は、月と一緒にいたかっただけなんです。ただ、それだけだったんです。」
「月君だって、同じだったよ。だけど、何かがおきた。でも、ちゃんとどこかにその気持ちがあるはずだから…。見つけてみよう。俺達も協力するから」
詩音の言葉に、星さんは泣いていた。
わかってるよ。
二人がどれだけ惹かれ合っていたかって…。
だから、大丈夫。
時間が、かかっても絶対にまた繋がり合えるから。
「いつかは、ハッピーエンドになりますか?」
詩音に、星さんが言った。
「なるよ、絶対なる。俺達、みんながそうするから。信じてくれない?」
詩音は、そう言って星さんを抱き締めた。
結婚式をして、目覚めた月は元に戻っていて、今までの何だったんだよーっておとぎ話の世界を想像していた。
現実は、記憶が消えた。
消えたのか、消したのか、閉まったのかはわからないけれど。
月が、崩壊しないように食い止めたのがわかった。
ただ、こっちは相当なダメージを受けている。
月は、僕も覚えていない。
どこから、月に話すべきか…。
詩音は、黙って星さんを抱き締めていた。
「辛いなら、月君としばらく離れてくらしてもいいんだよ?」
「大丈夫です。さっき話しましたが、僕はもう月が知らない時間を過ごしているのが嫌なんです。だから、あの家に二人で帰ります。」
星さんは、涙を拭って、笑ってる。
「何かあったら、絶対に僕達に連絡していつでも駆けつけるから」
「わかっています。」
「戻れる?」
「はい」
星さんと、僕と詩音は中に戻った。
月の元に行くと、華と晴海と楽しくお喋りをしていた。




