憎い兄のままでいい[宇宙の視点]
流星から連絡がきた。
月が、マッチングアプリをやり始めたと言う。
何も知らないあいつは、呑気だな。
「宇宙兄さんから、月に連絡をしてくれないか?」
「忘れられてんのが、怖いのか?」
「怖い」
「わかったよ。してやる」
俺は、流星とは違う。
月に嫌われる事は、何も怖くなどなかった。
忘れられていても、何も怖くなどない。
「何時に来るかわかんないのに、何してんだよ。流星」
朝の九時から、月城病院の入り口で流星は月が来るのを待っていた。
仕方ないから、俺も待っててやる事にした。
「月は、傷つくだろうね」
「そうだな」
「記憶をなくせば、結婚したいと思うものなんだな。」
「そうだな」
「宇宙兄さん、今までのように嫌われるつもり?」
「当たり前だ。俺は、月に愛して欲しいわけじゃない」
「そう言えるのは、羨ましいよ。」
流星は、行き交う人を見つめてる。
「流星は、月が好きだもんな。いろんな意味で」
「酷い言い方だね。俺を、軽蔑してるんだろ?」
「一度も、してないよ。俺だって人を好きになった事はある。だから、流星の気持ちもわかるよ」
「宇宙兄さん、かわったんだな。知らない間に、かわったんだな。」
「根本なんてかわらないさ。ただ、妻に出会って、愛情を知っただけだ。」
流星は、俺に笑いかけてきた。
「もっと早く宇宙兄さんと和解すべきだったかもね」
「今だから、いいんじゃないか?」
「月が、来たよ」
病院に来る人の中で、流星は月を見つけた。
「おい、どこ行く」
通りすがる月の腕を俺は、掴んだ。
「あなたが、兄?」
「そうだ、行くぞ。」
流星は、月の後ろをついてくる。
俺は、院長室に二人を連れてきた。
「橘月って名前さえしっくりきてないか?」
「ああ」
月は、不思議な顔で俺と流星を見た。
「橘流星です。月の二番目の兄です。」
「二人もいたんだな。」
月は、思い出せないようだった。
「午前診が終わったら、ちゃんとデータを見せてやるけど…。単刀直入言うが、月は妊娠させる事は不可能だ。」
「はあ?てめぇ、いい加減な事言ってんじゃねーぞ」
月は、俺の胸ぐらを掴んできた。
「殴ったって、お前に精子が戻ることはない。今の医学じゃ不可能だ。」
「宇宙兄さん、そんな言い方しなくても」
ドカッ…。
月に、殴りつけられた。
唇の端が、切れた。
俺は、今までのように淡々と話す。
憎い兄のままで、いいのだ。
「結婚をしたいのなら、これから一緒になる相手にちゃんと説明するんだ。自分は、精子を作れないから、子供を作れないと…。その上で、一緒になってくれるかをきちんと話すんだ。」
「てめぇ、ふざけた事、言ってんじゃねーぞ。」
「だったら、自分の目で確かめて帰れよ。その為に、呼んだんだ。後、一時間で終わる。それまで、おとなしく待っておけ」
俺は、胸ぐらを掴んだ月の手を離した。
たぶん、引き金は俺なら引ける。
「宇宙兄さん、それは…」
ペーパーナイフを月の頬にペタペタと当てた。
「どういうつもりだ。」
「絶望したら、お前はまた死のうとするんだろ?だったら、俺が選ばせてやるよ。どうやって、死にたい?間違った選択は、するな。お前の命ぐらい、俺がちゃんと殺してやるよ。」
「それが、弟に言う言葉か…。あんた、最低だな」
「最低でも何でもいいよ。絶望した時の自分を想像して、選択するんだよ。月」
月を壁に押しつけた。
「わかったな」
ダンっ…
月の横の壁を殴った。
「酷い、兄だな。あんた」
月は、その場に崩れ落ちた。
「それでいい、ちゃんと選べ」
俺は、月から離れた。
「流星、見とけ。コーヒーを買ってくる」
その場に居たくなくて、部屋をでた。
月、酷い兄になるから。
ちゃんと、記憶とりもどせよ。




