知らない人からの電話[星の視点]
月は、朝からとても機嫌が良さそうだった。
胸が締めつけられて、苦しい。
月は、女性と結婚するんだ。
きっと、僕を捨てて平気な顔して別の誰かと過ごすんだよね。
家を出ていった。
涙が止まらなかった。
ブー、ブー
「もしもし」
「星、僕だよ」
「太陽公園に今からきて、待ってるよ」
「わかった。すぐ、行く」
僕は、氷雨との電話を切って用意をした。
鍵を閉めて、歩きだす。
太陽公園について、氷雨を待っていた。
氷雨に再会したのに、僕は何も感じていなかった。
化け物も、静かだった。
氷雨の愛を受け取るために、キスをしたのに化け物は静かだった。
「ごめん、氷雨。今日は、帰る」
「わかった。」
氷雨には、申し訳なかったけれど僕には、月が必要な事を気づいてしまった。
「いつでも、呼んで。必ず来るから」
「うん、わかった。」
それでも、氷雨を覚えてる体は、抱き締められると喜ぶ。
氷雨が、僕の匂いを纏っている事が何よりも愛しくて仕方ない。
「ネックレス、ずっとつけてるんだね」
「当たり前だよ。」
「月さんを選ぶ事を怒ったり悲しんだりしないよ。僕はね、星が生きていてくれる。
それだけで、幸せなんだよ。」
氷雨に、頭を撫でられる。
嬉しくて、堪らない。
氷雨への愛は、ちゃんとあるんだよ。
並んで歩いて、公園を出た。
「じゃあ、僕は帰るよ。何かあったらすぐに呼んで。駆けつける」
「待って」
僕は、また氷雨にキスをしてしまった。
「ごめん。」
「謝らないで。愛してるよ、星」
氷雨に、ギュッーって抱き締められた。
身体中に、暖かい気持ちが駆け巡った。
「じゃあね、星」
「うん、気をつけてね」
僕は、氷雨が小さくなるまで見届けていた。
四時半だった。
重い足取りで、家に帰ったけれど月は、いなかった。
僕は、ソファーに横になった。
投げ捨てた指輪を探さなくちゃいけない。
どれくらいボッーとしてたかな、雨の音がして窓の外を見た。
雨の予報あったっけ
月、傘買ったかな?
びしょ濡れじゃないかな?
ちゃんと、帰ってこれるかな?
頭の中に、月がいっぱいな自分が嫌だった。
キッチンに行って、お湯を沸かす。
[氷雨、雨降る前についた?]
[ギリギリ大丈夫だったよ]
[よかった]
[うん、ありがとう]
氷雨とのやり取りに、救われた。
グラグラとお湯が沸いて、コーヒーをいれる。
いつかは、一人ぼっちになるんだ。
ママに捨てられた時みたいに…
胸の奥が、締め付けられた。
ブー、ブー
月からだった。
「はい」
「もしもし、星さん?」
「誰ですか?」
「あの、この人のスマホからかけてて。女の人じゃなかったんだ。あの、困るんですけど。迎えにきてもらえないですか?」
「えっと、どこにですか?」
「……。お願いします。後、30分で仕事に行くんで」
「わかりました。今から行きます。」
僕は、電話を切ってタクシーを呼んだ。
コーヒーを飲めなかった。
家を出て、タクシーに乗り込んだ。
急いでやってきたのは、僕と月が再会したマンションだった。
タクシーから降りて、部屋の前でインターホンを鳴らした。
ピンポーン
「あっ、星さんですか?」
「はい」
「鍵、これで。また、今度返して下さい。俺、仕事なんで」
「すぐに帰りますよ」
「まだ、眠ってますし。ずぶ濡れですし。別に悪い人じゃなさそうなんで、起きてから帰って下さい。」
「ありがとう。でも、なんで僕に連絡をくれたのですか?」
「ああ、あの人がずっと、ひかる、ひかるって言うんで。スマホから探してかけました。まさか、男の人だとは思わなかったですが…。遅刻するので、行きます。では、失礼します。」
そう言って、彼はいなくなってしまった。
町田さん、表札にそう書いてあった。




