早い展開[月の視点]
俺は、朝から、機嫌がよかった。
星さんは、お腹が痛いままで引きこもっていた。
ダイニングテーブルに、二万円を置いてくれていた。
ありがとう、星さん。
食パンをトーストして、バターを塗った。
コーヒーをいれた。
二万円を、握りしめてから、ずっと胸の奥が、チクチクしている事に俺は気づかなかった。
それよりも、マッチングアプリで会う人とのドキドキの方を強く感じていたからだった。
トーストとコーヒーを食べて、部屋に戻る。
「フンフフーン」
鼻歌を歌いながら服を選ぶ。
ネクタイを締めた。
(イケメン)
心の中で、呟いた。
誰かが、言ってくれていた気がする。
香水をふった、お財布をポケットにいれた。
「いってきます。フフンーフン」
俺は、家を出た。
タクシーをひろって乗った。
病院の場所まで、連れてきてもらった。
「月さんですか?」
「はい」
「私、笹川真空です。宜しくお願いします。」
「橘月です。宜しくお願いします。」
凄く綺麗な人が、現れた。
タイプだった。
病院近くの喫茶店に、連れてこられた。
ホットコーヒーが、やってきて彼女が話し出した。
「年齢が、35歳だという事もあり、私は、長々と取り留めのない話や無駄なお付き合いを重ねたいわけではありません。付き合う事になるのであれば、3ヶ月以内に結婚をすると決めています。月さんは、どうお考えですか?」
「そうですね。俺も、その考えには賛同です。早く相手を見極め次にいけるわけだから」
「同じでよかったです。」
笹川さんは、笑ってコーヒーを飲む。
凄く綺麗だな。
でも、俺なんか、大事な事忘れてないか?
「返事は、三日以内にして欲しいです。」
「わかりました。きちんとします。」
俺は、笹川さんにそう言って笑った。
「月さんは、どんな人がタイプでしたか?」
「どんな人、特にタイプはないですよ。」
名前にも、まだしっくりきてない俺が、恋愛とか結婚とか出来んのかな?
「大丈夫ですか?」
「うん、大丈夫だよ。」
「じゃあ、また三日後、話を聞かせて下さい」
「わかった」
コーヒーを飲み終わると店を出た。
三日後、話をして。
その時には、笹川さんとお付き合いするかもしれないんだな。
「では、また」
「はい、気をつけて」
笹川さんは、歩きだした。
なんか、綺麗だけどロボットみたいな感じかな?
いや、感情ないのかな?
なんでだろう?
なんか、俺これでいいのかな?
三日後、OKをしたら3ヶ月以内に結婚。
悪くないけど、俺はそれでいいのかな?
なんか、胸の中がざわついて…
何だろう?
俺、なんか忘れてる。
大事な事を失くしてる。
タクシーに乗り込んだ。
何で、こんな場所に来たかな?
ザァー、雨が降りだした。
俺、誰だっけ?
橘月だよな。
なに、失くしたんだっけ?
なんか、苦しいよ。
[星]
頭の中に、なんか響いた。
俺は、その場に座り込んだ。
雨が、すごいな。
ザァー、ザァー。
大事な事なんだった?
俺は、何がしたいんだ?
頭を叩いても、思い出せない。
俺は、何してんだろう?
ザァー、ザァー
時計を見ると、5時過ぎだった。
笹川さんと付き合って、結婚していいのかな?
それで、本当にいいのか?
雨に打たれてる。
帰らなきゃいけないけど。
どこに帰るんだっけ?
さっきまで、ちゃんと覚えてたよな。
引きずりながら、歩く。
マンションの形、違うよな?
さっきの公園から、歩いてきたけど…。
どう考えても、違うよな?
俺は、歩きだした。
ピンポーン
インターホンを鳴らした。
「誰、あんた?」
「誰?」
「いや、こっちの台詞なんだけど」
「誰?」
「いや、意味わかんないんだけど…。」
頭が、クラクラしてきた。
フラッ…。
「大丈夫か?」
この人、誰?
俺は、薄れ行く意識の中、誰かわからない人に支えられていた。




