なんで、女といる?[流星の視点]
今日は、早く帰れる。
俺は、ロビーを抜けた。
「笹川さん、誰か待ってるの?」
「院長、お疲れ様です。マッチングアプリで出会った人を待ってまして」
「マッチングアプリ?そういうの流行ってるね。聞いた事ある」
「彼が、来たので失礼します。」
笹川さんが、走っていく。
月?
まさか、そんなはずはないよな。
月は、星さんを好きなわけでこんな場所で女性といるはずなどない。
嫌、でもよく似ている。
少しついてってみるか…。
俺は、笹川さんの後をつけた。
彼女と店に入るときに、ハッキリとわかった。
紛れもなく、月だ。
どうなってる?
何が、起きてる?
誰に聞くべきだ。
俺は、連絡先を見つめる。
栞ちゃんの連絡先を知らないのだから、海の華に行けばいいのか
俺は、タクシーをひろって海の華に連れてきてもらった。
「流星さん、何してるんですか?」
ちょうど、降りたタイミングで絵を持った栞ちゃんに会った。
「月の事、聞きたくて」
「何か見ました?」
「うちの看護婦さんの、笹川さんとマッチングアプリで知り合ったみたいなんだけど…。そんなのしないよね?」
「今の月なら、ありえますね。」
「どういう意味?」
「結婚式したんです。海の華で、星さんと」
「そうなんだね」
「ええ、それで酔っ払って意識を失いました。」
「そうか」
「それで、現れたのはすべての記憶を失くした月でした。」
その言葉に、驚いて栞ちゃんを見た。
「それって、星さんを…」
「忘れました。」
「なんで、マッチングアプリ?」
「出会い探してるんじゃないですか?」
栞ちゃんは、悲しそうな目をした。
「月は、何かしたんだね?」
「同姓同士の恋愛に嫌悪感を示しました。星さんに不気味だと告げたそうです。僕は、今の月は嫌いです。それよりも、星さんの心が壊れないかが心配です。」
「そんな…。俺が出来ることがあれば協力するから。連絡先教えるよ」
俺は、ポケットから名刺を取り出して栞ちゃんに渡した。
「流星さん、僕はあの月に会いたいです。今の月には関わりたくない」
栞ちゃんは、そう言って泣いている。
「すまない。俺が、あの日、月を呼んだせいだ。」
「関係ないですよ。ただ、このまま女の人と結婚をする気がして仕方ないんです。」
「その時は、俺がちゃんと協力するから宇宙兄さんにも頼んでおくから」
「お願いします。どうか、星さんから月を奪わないでほしい」
「わかってる」
俺は、頭を下げて帰る。
どうすれば、いいんだろうか?
スマホを取り出した。
「流星、どうした?」
「月の記憶が、完全に消えた」
「知ってる。さっき、星さんから連絡がはいった。」
「マッチングアプリで、婚活までしだしたようだ。」
「心配するな。そうなったら俺が検査させる」
「頼むよ。どうか、彼と月を離さないであげたい」
「兄貴としてか?」
「そうだ。兄貴としてだ」
「わかった。」
宇宙兄さんは、電話を切った。
兄貴として、幸せを願った。
星さんとなら、大丈夫だと安心した。
なのに、なぜ…。
こんな事になった?
誰かを呼び戻す方法は、ないのか?
全部消えたわけじゃないよな。
「はい」
「桐生です。お迎えに伺いましたがおられませんでしたので…。」
「ああ、海の華にきていた。今から、タクシーでもどるよ」
「はい、奥様がお待ちです。」
「わかった。すぐに行く」
今日は、里美への奉仕の日だ。
今は、忘れて帰ろう。
リュリュ、るか君、月、必ず誰かを連れ戻してみせるから…
だから、星さん待っていてほしい。
兄として、出来るだけの事を俺はやってみせるから…。
タクシーに乗って、星城病院までと伝えた。




