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女同士でも裸の付き合い


 意外かもしれないが、魔族はお風呂が大好きである。



 過酷な環境である魔大陸にだって温泉ぐらい湧くし、楽しいモノ気持ちいいモノ大好きな彼らは、温泉を中心に街を作ることもある。そうじゃなくても、自分の家に風呂場を作る民家だって少なくはない。いくらケンカ上等な魔族でも、『入浴中は(いさか)いを起こすべからず』という暗黙のルールに従っている。


  水や清潔を嫌う種族を除けば、風呂場は魔大陸の不可侵領域だ。



「む、むむむむむ」


 当然魔王城にも浴場はある。男女別にある兵科の大浴場と、幹部や王族専用・個室型の浴場。

 わたしは叔母であるレグ(ねえ)と一緒に、レグ(ねえ)専用の浴場でまったりと湯につかっていたのだが。


 わたしの目の前には、レグ(ねえ)の筋肉質な裸体、ではなく、胸から突き出て湯に浮かぶ二つのぽよんぽよんがある。

 お母様のたゆんたゆんには劣るものの、両生類に近い肌の質感も含め、その健康的な張りは十分戦力になりうると感じた。


「ふむふむ」


 わたしは自分の胸を鷲掴みに、しようとして(くう)を掴む。


「むしろ伸び代がある」

「いや、夢を見るのは悪いことじゃねえけどよ」

「夢とは叶えるものだ」


 諦めぬ気持ちが大事だと、自分史上最も魔族らしい格言を生んだ気がする。




「それにしても、本当に本当なんだな・・・・・」


 レグ(ねえ)がわたしのプリティなお尻を注視して呟く。わたしからはよく見えないし敢えて見ようともしないけど、目線の先にはきっと、青白く輝く勇者の印が刻まれているのだろう。

 レグ(ねえ)は今、どんな気持ちでこの印を見ているのだろう。両親や四天王のみんなが、これを見た時に何を思ったのだろうか。


「アスラも最近知ったんだろ?」

「わたしも変だとは思ってたんだ。蒙古斑(もうこはん)だと思ってたけどたまに光るし、そのことを聞いても苦笑いされて『他には話すな』って言われるし、読む本には検閲が入るし、やけに魔力や戦闘技術の伸びが良いし」

「背は伸びないのにな」

「伸ーびーまーすーぅ、ちょっと成長が遅れてるだけですー」


 ああ、お風呂で身も心もほぐれていく。魔族の不可侵領域とはいうが、湯に浸かってるとささくれ立っていた気持ちが消えて無くなっていくのだ。レグ(ねえ)もきっと、これを見越してお風呂に誘ったのだろう。


「さっきは悪かったな、親子の問題に口挟んだりして」

「別にいいよ。わたしとレグ(ねえ)は姉妹のようなものだし、そもそもこんなことで周囲に当たり散らしていたわたしにも非があるもの」

「こんなことってお前」

「魔王を倒さなきゃいけないのって人間側の都合でしょ? わたしが勇者だから何って話じゃん」

「・・・・・強いなアスラは」


 わたしが憧れた人の一人が、こんなわたしのことを『強い』って言ってくれる。それだけでわたしも何とかなる気がした。





「んぅ? レグ(ねえ)、それ外さないの?」


 湯船に浮かんでまどろみながらも、ふと、レグ(ねえ)の尖った耳に黒い真珠がぶら下がっているのを見つけた。他のピアスは外して湯船に入っているのに、その黒真珠だけが彼女の耳で輝いている。


「ああ、これか? これはちょっとした思い出があってだな」

「おお? 男? オトコからの貢ぎ物ですか? こんなお高そうなものを?」

「バカ、バロック真珠っていう安物だよ」


 そう言って指先で真珠をつつくレグ(ねえ)。なるほど、その形は真円に近くはあるものの、少しだけ雫型に歪んでいるようにも見える。


「まあ、尊敬する人からの貰いモンだ。これだけは肌身離さず持ち歩くようにしてる」

「ふぅん。でも、黒真珠かぁ。黒真珠・・・・・」

「どうかしたか?」


 ふわふわとした頭で、その響きを噛み砕くように連呼する。


「いや、なんでこんなこと思い出したのか、自分でもわからないんだけど。エルシーのことでさ」


 魔王軍四天王、兼メイド長のエルシー。家事と呼べるものならほぼ完璧にこなす優秀な猫魔人だが、よくキャッチセールスや宗教勧誘に捕まるのが目撃されているらしい。副官で執事長のドリー師団長がよく愚痴を吐いていた。


「あの人って四天王だからそれなりにお金あるし、大抵の嘘に騙されるから、よく変なもの買ってくるんだよね。こないだも自分よりでっかいツボ買ってきて『姫様! 幸せになれるツボですよ!』って興奮しながら言うんだよ」

「あぁ、もはや名物だよな」

「でもその時だけ、歴史的に価値のありそうなツボだってことがわかったんだよ。わたしが独自に調べたけど、確か古代の魔族文字で・・・何だっけな・・・・・」


 わたしの中で何かがつながりそうな感じはあるけど、何だろうか。のぼせているせいかもしれない。


「確か、こう・・・・・『この大地は大きな二枚貝のようなもので、私たちは生きた宝石である・・・・・白く輝くものたち、黒く輝くものたち、親が違うだけで皆同じ、虹色の輝きを秘めて、いる・・・・・』」


 この文章はどこの教典にも載ってない、何とも興味深い内容だった・・・・・やばい、景色が歪んで、もう頭ん中真っ白に・・・・・早く出なきゃ、のぼせて、溺れる・・・・・。

 そんなことを考えてたら、誰かが後ろからわたしの首に腕を回した。この張り付くような肌の感触は、レグ(ねえ)、かな・・・・・じゃあ、寝ちゃっても良いかなぁ・・・・・。




「そのツボを、売りつけたのは、たしか、黒真珠・・・教団・・・・・」



「・・・・・『麻痺体液(パラライズリキッド)』」





 わたしの口に、何かが流し込まれた。

※用語集


・バロック真珠

 二枚貝の中身が傷つくことによって発生する『生まれる宝石』だが、そのほとんど異物の付着などで真円に成り切らず歪な形になる。これらはバロック真珠と呼ばれ、比較的安価な値段で手に入る上に、同じ形の物が二つとないことから注目度が高い宝石となっている。

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