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澱み②


「おーいおーいおっちゃーん、イルミナントしょーたいちょー」

「どした姫さん」



 どーも、わたしこと魔王の娘アスラです。今わたしは牢屋に閉じ込められています。壁に窓はないし、『乱魔の輝石』とかいうシステムのせいで魔法も魔術も使えないという徹底ぶり。誰か助けてくれ。


「レグ(ねえ)に殴られて折れた奥歯を治したいんだよー。わたし治癒魔術使えないし、こんな魔力練れないようなところじゃどうしようもないよー。治せなくなる前に早く出してよー」

「なあ姫さん、そりゃ難しいぜ? オイラにゃその権限はねえよ」

「クーデター起こそうなんて人たちが権限なんて気にしてんじゃないよ。わたし無力な子どもじゃん? 出してくれてもいんじゃない?」

「うっ、そんな子犬みたいな目で見るなよぅ・・・・・」


 ふっふっふ、いくらキングオレンジスライムと言っても、精神年齢が初老間近なこの男では、わたしのおねだりに叶うまい! 伊達にシルバーキラーと呼ばれてねーぜぃ!



「小隊長、あまり油断めされるな。この娘はあのレグラ師団長に一撃を入れ、そのツノをへし折ったのですぞ」


 こちらから覗き込むことはできないが、隣の(おり)らしき隙間から、馬の鼻と口先がにゅっと突き出てきてそう言った。

 彼の名はゲラルド。この牢屋の新入りである。



「レグ(ねえ)に手も足も出なかった馬がなんか言ってる」

「もう一度行ってみろクソガキ、二度と女として使えない体にしてやる」

「同じ房なら尻に敷いてやんぜブタ馬ロリコン野郎」

「小隊長っ! 俺のメイスを返してくれ! この壁とガキに風穴開けてやるっ!!」

「許すわけねーだろ懲りろバカ。姫さんも挑発すんのはやめてくれ」

「この変態が発情するのが悪いんだよ。まあわたしの美しさのせいでもあるけど」

「コロスッ!!!」


 顔の見えない者同士で喧嘩が成立しているのを見て、おっちゃんは呆れかえっているようだ。というか、ゲラルドの煽り耐性が脆弱すぎてヒートアップしてるだけな気がする。

 レグ(ねえ)にあそこまでコケにされ、心が折られていても不思議じゃないのに、素手で壁を殴る音が虚しく響いてくる。元気な馬だなあ。





「冗談はここまでにして、おっちゃんに見てもらいたいものがある」

「なんだよ(やぶ)から棒に」

「これなんだけど」


 八つ当たりも充分なので、わたしはイルミのおっちゃんにあるものを差し出した。おっちゃんも渋々と言った様子でそれを受け取り、しげしげと眺める。


「んん〜? ただの小せえナイフじゃねえか・・・・・待て、これどっから出した」

「ふっふっふ、よくぞ聞いてくれました」


 わたしは不敵に笑いながら後退し、もう一つ同じナイフを取り出して見せる。


「さらっと紹介するけど、これがわたしの魔法だよ。消費する魔力量によって、想像(イメージ)したものを創造(クリエイト)できるっていう超便利な魔法。魔力はバカ食いするし、こんな場所じゃできることなんてたかが知れてるけどね」

「ハァー、姫さんには何度も驚かされるな。余計に目を離せねえよ」

「おっちゃん。『乱魔の輝石』は魔力を乱すのであって、魔力そのものを消すことはできないんだよね」

「そうだな、魔力のコントロールを乱すことによって魔法や魔術を使いにくくするってだけだ。生半可な攻撃じゃこの牢屋は破れないからな」


 魔法を行使するのに、必要な魔力を籠めるという手順が存在する。この際一定の量に達した時に邪魔をするのが『乱魔の輝石』だ。魔力の供給が足りなった魔法は発動しないか、発動しかけたところで霧散し消失する。魔法だけではなく、儀式や詠唱によって行使する魔術も同様である。


「はいそこでこいつの出番です!」

「・・・・・姫さんの手がどうかしたか?」


 わたしは右の手のひらを突き出してみせた。おっちゃんは意図が読めないようで、首を(かし)げている。


「この腕に魔力を込めていくよ! ふんっ!!」


 掛け声とともに、私の腕からうっすらと青い魔力光がほとばしる。周囲を照らすこともできない微弱な光だが、私の腕に確かな変化をもたらすのには充分だった。



 指先から手首、肘、肩、首筋そして頬へと、走るように。わずかな痛みを伴いながら、赤色に輝く幾何学的な紋様がわたしを(おお)っていく。

 常にわたしの全身に彫られている入れ墨らしいんだけど、こうして意図的に魔力を込めないと見えないようになっている。

 魔王ゾルダークの、お父様の体に彫られているのと同じものだ。



「そいつぁ、先代魔王の」

「古参なだけあってよく知ってるね。そう、『拡張(エクステンション)魔方陣(ライン)』だよ」




拡張(エクステンション)魔方陣(ライン)』。先代魔王マージャフラハが使っていたとされる魔法だ。その手に触れたもの全てをこの赤い線で侵食し、直接魔法陣を書き込んで魔術を行使できるようにする。

 公明な魔術師でもあり、気まぐれな性格でも有名だった彼は、「なんとなく」という独自の感覚で魔方陣を開発しては周囲のものに試していくという、とんでもない魔王だった。


「わたしが生まれた時、先代様がふらっとやって来て刻んでったらしいよ。効果は『封印』と『固定』。暴走していた()()()()()()()()()()()を、わたしの任意でのみ発動するための術式」


 そうこの魔方陣、()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 先代の魔法だから? 開発した魔術の効果? いや、その両方で初めて成立する現象なんだろうなきっと。手で触れただけで魔方陣を書き込んで好き放題できるって、本当とんでもないよ先代様。


 


「さて、と。おっちゃん、そこどいてくんない?」



 わたしがそう話しかける前から、おっちゃんはスライムボディをプルプルさせて身構えていた。おそらく、歴戦の兵士の勘でわかるのだろう。わたしの右手に宿るなにかの、その危険度を。


 それでも彼は立派な兵士で、その中でも生粋の(おとこ)だった。

 鉄棒の先端をわたしに向けて、警告する。


「姫さん、その手を下ろさないとケガするぜ」

「わたしは降りないし殴られてもいいけど、おっちゃん死ぬよ?」

「それでやめる兵士は魔王軍にいねえよ」


「やっぱかっこいいねおっちゃん」



 ああ、初めて言葉を交わした時からわかっていた。このスライムは、今際(いまわ)(きわ)まで決して退きはしないと。




 わたしのこの腕に込められた魔法はただ一つ。想像(イメージ)創造(クリエイト)する名もなき万能魔法とは全くの真逆で、魔方陣によりたった一つの効果で固定された、できれば「生きている誰か」に使いたくなかった魔法。





「『反転術式〝穿(ウガチ)〟』」




 鉄格子の一部が、向けられた鉄の棒が、私の目の前の空間が。



 そして、おっちゃんの頭部が、消失した。















































 ()()()()()()()()()





「ハイ復活っ!!!!!」

「あるぇ!?!?!? へぶッ」

 

 そしてそのまま触手でぶん殴られ、わたしの意識は本日二回目の闇に落ちるのであった。



 スライムは体積が一定以下にならないと死にません。イルミナントも背がちょっと縮んだだけです。

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