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卯月雲 1
「89,90,91,92…」
「…99,100!…」
3回目の素振りが終わる。
脳をリセットするには無心に竹刀を振るに限る。
「どうした亜樹?今日は気合い入ってんね」
同じ剣道部で亜樹以外の唯一の2年女子、梨沙が驚いている。
「いつもこれぐらやるでしょ。何なら今日は掛かり稽古もしたい気分…」
「ゔっ…掛かり稽古は…試合前だけで良くないか…?」
「梨沙がやらないなら…慎二先輩、掛かり稽古どうっすか?」
3年男子部員、武藤慎二先輩がうんざりした顔で無言で答える。
「そんな嫌そうな顔しないでくださいよ。先輩、予選はもうすぐですよ?」
「掛かり稽古はさあ…ちょっと…」
慎二先輩が梨沙に助けを求める。
「予選前に掛かり稽古毎日やったらより強くなりますって!」
梨沙は慎二先輩を生贄に差し出すことを選んだ。
「でしょ。じゃあ梨沙も一緒に!」
亜樹は笑顔で梨沙に防具を差し出した。