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マスターリバイバル◇F◇  作者: 嘆譚みぃ
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4話 深憶共鳴

 母を強奪されてから数日経った日のこと。久しぶりにカザーの意識が戻った。そして驚いた事に、あれだけ深く刻まれた傷が完治していた。


 あれ………ここってどこだ?


 周囲を見回すと、そこには自分の為だけに用意されたのだろうか? 今自信が眠っているベッドだけが一つ置かれた部屋に横たわっていた。

 つまり、ここはおそらく病室だろう。だけど、部屋の隅は埃だらけ。こんな場所で病人を労れっちゃだめだろ………という気持ちが湧く。

 そして衣服を確認すると、白の布を一枚羽織っているだけという、簡素な見た目をしている。


「すみませ~ん!! 誰かいませんか~?」

 自分の意識が回復したことを誰かに伝える為に、声を大きく叫んだ。

「………」

 折角呼んだのに、誰からの返事も無し。カザーは退屈に感じ、自力でベッドから降りて人を探すことにした。


 まずは部屋を抜けて、病院と思われる施設の通路へと出る。そこは日当たりが悪く、妙にシンとしていて薄気味悪い。それに加えて右左右左と一本ではあるもののくねくねしていておかしな構造になっている。こんな場所、お化けでも出るんじゃないかと思えてきて、無意識の内に歩くスピードが上がる。

 そして緊張感が高まっている最中に背後から、ギシギシと扉が開く音、トントンという足音、床が軋む音が続けて聞こえてきた。

「だ、誰かいるんですか? いるなら返事をして下さい。返事をしないなら、問答無用で火の玉を投げつけます」

 カザーはいつ襲われても大丈夫なように後方を向いて立ち止まる。右手に意識を集中させて、メラメラと燃え上がる火の粉を纏わせて威嚇した。すると、音は微塵もしなくなる。


 なるほど、このくらいの魔法で動きが止まるのなら、おそらく僕を追いかけている何者かはそこまで強くないな。となれば、ここはリハビリ代わりに勝負を仕掛けてやるか。


「おい!! そこにいるのは分かっているんだぞ。僕に痛めつけられたくなかったら、正々堂々姿を現して戦え!!」

 カザーは挑発をする。だがしかし、おそらくいるはずの存在からの応答は無し。

「おい、ビビってるのか? 早く姿を出せ!! 出したら何もしない」

 こんなに言ってもやはり何も返事は返って来ない。やっぱり気にし過ぎだったな、とカザーは確信する。

「はぁ………馬鹿らしい。この際幽霊でもいるなら仲間にしてやろうと思って期待したのになぁ………」

 少しだけ思わせ振りな声を漏らし、結局出てこなかったことを確認したあとに、こんな場所に居ても時間の無駄だと改めて思い、走ってこの場から抜け出そうとした。


 それから数分経って、また一つおかしな点に気づいた。

「なんで、全力で走っているのにこの建物から抜け出せないんだ? それに、本当に誰もいないし………。流石におかしいだろ」

 かざーは強引な手を使うことにした。壁に手を当て、そして爆発を引き起こす。すると、抜けられるほどの小さな穴が開いた。

 ようやく外に出れると油断した瞬間だった。突然触れられている感覚はないが、誰かに後方から引っ張られて、強引に院内に引き戻された。しかし、引きずり回されている最中、腕は目視出来なかった。


 やっぱり何かいるという予想が、ここに来て本物だと確信する。

「あの~、あなたの目的は何ですか? 僕を外に出させたくない理由は何ですか? こんな強引にやっているんだから、僕もそれ相応の理由を知る必要があると思うんですが!!」

 かなり強気な姿勢で訊ねる。

「………」

 やはり、質問に対する答えは返ってこない。そこで、カザーは質問を変えた。

「はぁ………もしかして、僕のことが怖いんですか? だとしたら、それは誤解なので、外に出して下さい」

 言葉だけで出て来てくれたら楽なのになぁ………せめて返事だけでもいいのに。

「そうだ!! 返事だけしてくれ。声を出すのが嫌なら、手を二回叩くだけでいい。僕は単純に、そこに意思疎通できる人がいるのかいないのかが気になるだけだから。だって、いないのにこんなことを言っていたら、恥ずかしいじゃん」

 友好的だということをアピールしたうえで、今度は優しくお願いをする。それと同時に自身も手を二回叩いた。


「パン………パン」

 かなりスローペースではあるが、手拍子が聞こえた。

「やっぱり誰かいたんだ~。よかった~」


「………?」


 カザーは直感で、誰かが不思議がっているのを感じ取ると、「いや、僕一人で叫んでいたらただのおかしな人だけどさ、少なくとも誰かがいるんなら、僕がおかしな人ではなくなるじゃん」、笑いながら伝えた。

「そうだ、もう僕は警戒心を解いたんだから、君も警戒心を解いてよ。一度姿を見てみたいしさ!!」

 カザーは続けてそう言った。すると、相手も心を許してくれたのか強引に得体の知れない魔法を使ってカザーの腕を引っ張った。

 そしてとある病室に着いた。そこは光が全く入らない空間だった。

「ここが君がいる部屋なのかい? 随分真っ暗だね。まるで、本当にお化けが出そうな部屋だなぁ。部屋を明るくしても大丈夫かい?」

 訪ねると、もう一度「パン………パン」と手を二回叩く音が聞こえた。


「大丈夫ってことだよね? 【炎照魔法・弱】」


 カザーは部屋に光を灯すと、部屋の隅に一つだけ設置されたベッドの上に寝込んでいる人を発見する。

「うわぁぁぁあああああああぁぁぁ………」

 一度あまりの悍ましさに叫んだものの、一度呼吸を整えて。

「き、君が僕を脅かしていいたのかい?」

 そっと近づいて姿を間近で見てみる。


 目は片方が完全になくなっており、もう片方は残ってはいるが真っ白で機能していない。口は溶けていて開くことが出来ない。

 そのグロテスクな姿に怖気づき、そっと二三歩後ろへ下がった。しかし、相手は近づきたいのかカザーの背中を見えない何かで押してきた。それに、危害を加えてくる気配は一切無い。

 そこでカザーは考える。もしかしたら、ただ仲良くしたいだけなんじゃないかと。

「分かった。多分だけど、君って魔法の扱い得意だよね? なら、いいことを教えてあげるよ」

 まだ怖いという気持ちが無くなった訳ではない。ただ、悪意はなくただ遊びたいだけの、だけど病床から動けない子を放っておくなんて自分のプライドが許さない。だから、優しく頬の辺りに手を当てた。

『今、僕は君の心に直接語り掛けています。そして今、君も多分同じように手で触れば意思を伝えられるようにしました』

 カザーはその子に自分の意志と【深憶共鳴】の使い方を流し込む。その後に、皮膚が剥がれた腕を自身の頬に触れさせた。

『聞こえてる、かな?』

 早速心の声が聞こえてきた。

『うん、聞こえてるよ。この感じ、本当に悪意は無かったんだね』

 カザーは早速意思を伝えた。

『うん。誰かがいる気配がいたからつい』

 少しだけだろうか? 相手からの意思が伝わってくると、カザーは頬は、先程までは感じられなかった温もりを感じる。

『それなら何より。あと、自己紹介を忘れていたからするね。僕の名前はカザー。十歳の一流魔法使い』

『私はミーシャ・ヴェネット。数え間違いが無ければ、十二歳。こう見えても可愛いかったんだよ………こんな醜い姿になる前はね………うぅぅ…あ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"!!!』

 この時、カザーの頬を伝って自分一人じゃ背負いきれない程の負の感情が一気に流れ、脳内を強い電撃が走った。


「いってええええええええええ!!!」


 突然の攻撃に耐えられず、床をのたうち回って絶叫する。

『ご、ごめん。私そんな事するつもりじゃ無かったの。ただ、昔のことを思い出してつい感情が溢れちゃって………』

「き、君があやまることじゃない。ただ、君のその辛かった過去を僕に伝えようとするのを、このコミュニケーションツールを使って行うのは金輪際やめて………」

 今の攻撃でかなりダメージを負ったものの、何とか立ち上がってそう伝えた。

『ごめん………もう、私のこと怖いよね………出てっていいよ』

 悲鳴が再び脳内に送られてくる。触れてもいないのに。


「え!? 待って!! 今、どうやって僕に意思を伝えたの!?!?!?」

 触れずに【魔伝承法】を行うことは、カザーには出来ていない芸当。それを出来る彼女を見て思う。なぜ僕すら出来ていない魔法を、ついさっき教えた彼女が既に出来ているのか。

「嫉妬心」「尊敬の意」

 真逆の気持ちがカザーの頭の中を巡って対立する。


『なあ、あいつの見た目化け物だよな。だから、そのことを伝えてあいつを悲しませて、ここから逃げようぜ』

 自分の心の奥底から聞こえてくる悪魔の囁き。

「何を言うんだ!! あの子は今でこそ確かに見た目は怖い。だけど、それでも心は何者にも染まらない純白なんだぞ!! ふざけるな!!!」

 自分の中で暴れまわるそいつに向けて、自分自信が喝を入れる。

『カザーは暖かいから違うと思っていたけど、やっぱり怖いんだね………もういいから出ていって………』

 ミーシャから強いオーラが放たれる。今度は、おそらく頭が痛くなる程度では済まされないだろう。

 カザーは身の危険を感じ、すぐさま部屋から抜けた。


 数秒後。ビカンッ、という激しい爆発音と同時に扉の隙間から白い光が放出された。


『ほらな、言っただろ? あいつは化け物なんだよ』


「うるさい………別に部屋が吹き飛ぶ程の爆発じゃないし、喰らったとしても多分死には至らないから問題ないし………」

 カザーは自分自身に反論するのだが、どこか腑に落ちない。

 こんな邪悪な感情、前まであったっけ?


『ちっ』


「それより、あの子は大丈夫か確認しに行かないと!!」

 再びミーシャのいる部屋へと入る。この時、ミーシャが心配だということしか、カザーの頭の中には存在しなかった。

「大丈夫!?」

『な、なんでまた来るの?』

「だって、僕は君が本当に何物にも染まらない純白な子だって信じているから!!!」

 カザーは泣きながら、それをも吹き飛ばす程の笑い声をあげる。そして自分がされて嬉しかったことをした。

「身体が、暖かい………? もしかして、抱き締めてる………の?」

「うん………なんだか今、君の全てが理解出来ているような気がするよ」

「私の全て………? あんまり調子のいい事言わないで………!!」


 ミーシャが叫んだ瞬間だった。カザーの意識がミーシャに侵食され、気が付いた時には意識は真っ暗な空間へと閉じ込められていた。


『どうかな? これが私の全てだよ………』


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