二十二話 本物へ
城へ入ると豪快なシャンデリアが場を照らすホールへ続いていた。その奥には幅の広い階段があり、その上から見下ろすようにカザーを見る者がいた。
「やっぱりお前か……」
右腕に長細い管を巻いた、金色の短髪を逆立たせた、母を奪い、背中を切り付けてきた男、ゲノムがそこにはいたのだ。
「名前知ってるってことは知り合い?」
「あぁ、最悪な男だよ」
ミーシャの問いに一言で答え、カザーは男を睨み付けた。
「最悪な男…………? 最高の男の間違いだろ!?」
男は笑い飛ばしたかと思えば壇上から跳び、次の瞬間にはカザーの顔目掛けて拳をぶつけた。
その攻撃はデイクが戦っていた最中も行っていた為、予め予測して腕を腹部でクロスさせて防いだ。
だが、奴の一撃は強力で拳が直撃した方の腕は折られてしまう。それでも空かさず【爆炎】を奴に浴びせ、それで生じた火の粉によって視界を悪くさせる。
さらに追撃として、隙を見たミーシャは【肉体強化】と【烈風大空夜】を同時に発動させ、肉体の強度、パンチの振り、自身の移動速度を最大にまで上げる。それは彗星にも匹敵するする程華やかで鮮やかで、これをもろに受けた奴は吹き飛び、腹部には大きな穴が空き、口から多量の血を吐き出した。
「ゴホッ、ゴホッ! 参った参った、敗けだ」
ミーシャの必殺技が直撃したとはいえ、あまりにも呆気なく決着が着いてしまったのでカザーほ怪しむ。
「嘘だ。僕らが油断したところで回復して反撃する気だろ?」
「ゴホッ……今の俺を見てそんなこと出きる様に見えるのか?」
「……」
苦しそうに咳き込む奴の姿を見て一瞬心が揺らぐ。許しちゃいけない相手だとは言え、殺すほど悪いことをしたのかと言われればそれは分からない。だってお母さんが死んだとも限らないんだし……。
「見えるわよ。遠距離から即死レベルの攻撃を出来るあんたがそんなに簡単に怯むわけないじゃない。そして、カルミアはどこにやったの?」
ミーシャは悪人に対して強く当たる。自身がついさっき殺されかけたのだから無理もない。
「あの女か……それは分からん。勝手に自爆して勝手に倒れたからな。俺は殺してない」
「そんな言い分がまかり通るとでも思ってるの?」
奴の態度で怒りが爆発したミーシャは、再び殴りかかろうとする。
「ちょっと待ってよ。ここは交渉しよう。僕にお母さんとカルミアさんを返し、そしてここの城を手放す。そしたら許すよ」
でもカザーはミーシャの右腕を押さえながら奴に情けをかけた。
「沢山の人を操ったり殺したりした、そんの奴を許すとか正気なの?」
「分かんないよ。でも、ここで殺しても何も生まれないんじゃないかなって…………」
「それって単純に自分自身で人を殺したっていう過去を作りたくないだけでしょ? そんなの優しさでもなんでもない、腰抜け!!」
「でも…………グハッ……!」
カザーはミーシャに散々言われ気がドンドン沈んでいる最中、片肺を鋭い石のツララのようなもので打たれた。
「やるべき時にやるべきことを出来ない。それすなわち死。自分の甘さが仇となったなぁ。ハハハッ! 言い遅れました、私が本物のゲノム・セルトロスです! こんな弱い偽物は存在事態が悪だから消え失せろ!!」
お気楽な様子、言い換えるなら余裕を見せてゲノムが再び階段の奥から姿を現した。
「弱すぎて敵ながら失望しましたね」
そういった後すぐにゲノムは瞬間移動をしてカザーの目の前に移る。
「カザー、お前は俺に一生勝てないよ。だから大人しくお家でママのミルクでも飲んでなよ……あ、お前のママは今俺の手持ちにあるからいなかったんだ」
俯くカザーの顎を右手で持ち上げ顔をじっと見つめながらゲラゲラ笑い声挙げ、侮辱する。
「う゛う゛……」
カザーはあの時の痛みが蘇るような感覚に陥る。耐えられないトラウマが絶え間なく脳内を過る。死にそうな顔になり、頭を伏せて踞ったまま泣き出した。
「あ~あ、まだ子どもだから泣いちゃった。それで、隣にいる可愛らしい君はカザー君の代わりに戦うかい? ただ、君が俺に攻撃をしても、果たしてそれは当たるのかな」
不気味な笑みを浮かべながらミーシャを見つめ問いただす。
「絶対に殺す。これ以上人を貶さないで!!」
「いい返事いい返事。この歳でここまでキマッてる人はなかなかいない。賛美の意を込めてこちらも本気で行かせてもらおう」
到底太刀打ちできない相手。分かっていても戦うしかない。今まで感じたことのないような途方もない緊張感がミーシャを圧迫する。
「青ざめてるけど平気かい? やっぱり死ぬのは怖いよね」
「別に死ぬって決まったわけじゃないし……死ね」
先に動き始めたのはミーシャだった。さっきと同じようにゲノムへ殴りかかる。
「へ~、12歳にしては速い。でも、所詮12歳。俺は余裕で見切れるよ」
伸びたミーシャの右腕を軽く屈伸させヌルりと回避する。攻撃後に勢いが止まらず姿勢を崩したミーシャは素早い動きで腕を掴まれる。
「君、顔はいいね。でも俺は容赦しない。ドンッ!」
ゲノムは左足を軸に身体をしっかりと固定し、右足を勢いよく踏み込んで勢いをつけた。するとゲノムの踏み込みに地中が反応してミーシャの衝突するであろう地点に針のように鋭い岩が隆起した。
直撃すれば絶対に身体に岩に身体が貫通して死ぬ。
でも、貫通さえしなければ何とかなるかも。
【肉体強化】
ミーシャは身体を固くして受けるダメージを減らそうと考えた。だが、予想外の事態がこの危機的状態の時に発生した。
『あれ、魔術が使えない……!?』
気がついた時には時既に遅し。ミーシャの胴体と岩肌がぶつかった。
『あぁ、こんな奴に殺されるんだ…………』
避けられない死を前に、抗うことを辞めた。
『思えばカザーといた瞬間はほんの一瞬だった。親にも見捨てられ、友達なんて寄ってくるような性格じゃなかった私はずっと暗闇に閉じ込められたままだと思っていた。だから初めて会った時、私を救ってくれたその瞬間から大好きになった。沢山嫌われるようなことをしちゃったのは自覚してるけど、それでも仲良くしてくれて、短い間だったけど楽しかったよ…………。私と唯一対等に接してくれてありがとう。』
どうせ伝わらないことは分かってた。だけど、それでも、何かの奇跡でも起こって通じればいい、ミーシャはそれだけ思って目を瞑った。
もう少しでミーシャが死ぬ。そんな状況の中カザーは何か見えない物体に全身を包まれた。
『どうかお願いします。私の大事な一人娘を助けてください』
身体がその声の主を覚えているのだろうか、初めて聞く声なのに、どこかで聞いたことがある。いいや、今はそんなことどうでもいいんだ。ミーシャを助けることだけを考えろ。
でも助けるには一瞬でゲノムの腕の切断と岩を破壊しなければならない。だけど、それをするにはまだ慣れてない結界術を発動させて、ピンポイントで二つの対象を切断しなければならない。
それに、結界術を誤ればミーシャを切断してしまうかもしれないし、そもそも発動出来るか分からない。でも、やるしかないんだ。だから全神経を研ぎ澄ませ。絶対に成功させろ。
「【結界術】、届けえええええええ!!!!!」
カザーは身体が前のめりになるほど両腕を伸ばし、救うという一心で結界術を発動させた。
シュン、バン……ドンッ、立て続けに三回音が鳴り、辺りは静まり返った。




