十九話 妙な予感
一本の道を進めば中心にある城へと侵入出来る作りになっているとカルミアの計画書に添付していた地図に書いてあった。だからもっと見張りとかを張り巡らせているのかと思っていたのだが、あまりにも何も無さすぎて怖い。
要塞内の厚く高い城壁には幾つかの窓があるのだから、そこから攻撃を仕掛けてきてもいいと思うのだが、何故してこない?
もしかすると、今この場に王という人物は存在しないのでは……? それとも、これが嵐の前の静けさというやつか?
どちらにせよ、今やるべきことはただ一つ。要塞の制圧、そして王の討伐だ。
強い意思を胸に道を突き進んでいると、要塞内にある第一の門にたどり着いた。そこにはこちらから行けるよう橋が架かっており、それを渡った先には闘技場のような円形の建物が存在している。しかし、ここを通る以外に城へ進む道は見当たらない。橋を渡り建物に入る、その前に罠が仕掛けられているか確認する為、石を投げた。
カン、コロン……。
聞こえたのは石が転がる音だけ。
「異状なし」
何もないことを確信したカザーは建物を突っ切ろうとしたのだが…………。
「はぁぁぁ!!!」
入口の上に隠れていた者に背後から殴られぶっ飛ばされる。
「今の時代はこんなガキですら戦わせられるのか。酷い世界になったものだな」
台詞を吐き出し、世の中を蔑むように言う。
「だったら、お前も戦いをやめろよ!!」
カザーは立ち上がり、奴の方を見て言い放つ。
「それは出来ない。俺はあくまで王に雇われている身 なんでな」
雇われてるだと……。だったら、解決策は一つだ。
「雇い金は幾らだ」
そう、雇われているんだったら金しかない!!
だが、カザーの思惑は外れた。奴は突然目を見開く。そして這い上がる衝動の全てをカザーに向け、殺意の目を向けた。
「あぁそうだよなぁ!? お前は果てしない時間を奪われたことがないもんなぁ!? だから金で解決出来ると思ってるんだよなぁ!?!?!?」
奪われた……そっか、この人も何かしらの理由があっていまここで王に雇われていたんだね…………。
「あの、僕に何があったのか教えて下さい!!」
涙ぐんだ目で訴えかける。
「なんだ、命乞いか?」
「違います。ただなんか……誰かに話したら楽になるのかなって…………」
「ハハハ……そんなんで解決出来るのはガキの悩みだけだ。もう話しかけるな」
説得は虚しい結果に終わった。そして戦闘が始まった。
奴は地面に手を当て何か呪文を唱える。すると足下を震源として激しい揺れが発生。危機を悟ったカザーは逃げようと入ってきた場所とは逆の位置にある出口を目指して走った。
「おい、止まれ……」
奴は何を思ったのか、慈悲深げに言う。罠かもしれないと思い一瞬振り向くことを躊躇した。しかし無視して進むことなんて出来なかった。
「グググ、ゴゴゴゴ」
地面から槍のような鋭い岩が隆起した。奴が引き留めていなかったら確実に岩に串刺しにされていただろう。でも、なんで引き留めた?
振り返ってそのことを尋ねる。
「分からねぇ……ただ…………」
「ただ?」
間が長かったので聞き返した。
「復讐心は拳じゃないと収まらねぇ!!」
奴は言葉通り、カザーの腹部目掛けてアッパー。そして宙に吹き飛ばされたところを、奴は上から殴り追い撃ちをかける。連続で攻撃を受けたこと、さらにそこから地面に後部を強打したことによりもう戦えない程にボコボコにされた。
やっぱり嘘だったんだ…………ありもしない善意の心を信じちゃったんだよ…………。
自分自身の心の弱さを認識し、ひたすらに悲しくなる。これ以上は何をやっても無駄だ。そっと目を閉じてせめて楽に死のう、そう考えて意識を先に失わせた。
『あいつごときに負けるのか。ったく……』
「プライドで万年の月日待ちわびた光を失うなんて愚かだな。だから落とされるんだろ?」
カザーの肉体は再び立ち上がり、問いかける。
「あれだけやっておいてまだやれるか。なかなかやるじゃ…………」
奴の気合いが再び注がれようとしていた時だった。カザーは魔術により手を刃物のように鋭く変形させ、奴の首から腹部にかけて刃を振り下ろした。
「何か言い残すことはあるか?」
奴の切断された上半身を掴んで問いかける。
「な、なんでお前は俺を殺せた?」
「クソな質問だな。だが答えてやるよ。俺にはつまらぬ自尊心なんてないからだ」
最後にそう告げ、上半身を跡形もなく焦げ壊した。
『危険な奴は消えた。目を覚ませ』
「バチンッ!!!」
―――
城の窓から侵入者であるカザーを見ていた王は異常な程に今の戦いに興味を見せた。無論、カザーは監視されていることに気づいていない。
「あいつを殺るなんてなかなかやるぅ。じゃあ、こいつはどう対処する?」
王は城から無数の黒い羽を持つ兵士を解き放った。それらは羽を華麗に羽ばたかせて要塞の上空を舞いながらカザーを含む全ての侵入者に飛びかかろうとする。
「フムフム、空中からの増援かい? そんなの定済みなのさ」
空中で王が召喚した兵士達が固まっている地点に向けて爆発魔法を行う。それと同時に、外部で待機する砲撃班へ「一斉砲撃だぁぁぁああああ!!!」、と叫び声を挙げて城からの増軍を増やさない策に出た。
へぇ、城を囲むように敵軍が構えているとは……ならば、こちらもそれ相応のやり方をさせてもらおう。城内にいる人は一人残らず悪夢を見させてあげるね。
「【結界術・超汎用】!!!」
その瞬間、城の敷地内に雲より高く存在する、脱出不可能な大型結界が張られた。そして外部からの攻撃は止む。逃げ場を失う。
王を倒すしか生き残る道は無くなった。