十八話 戦争の始まり
夕闇の迫る頃、二人はスンドラへ到着した。だがしかし、そこには以前いた狂う人々は姿を消し、あるのはシュンと刃物の如く鋭い結晶が舞い、二人に絶え間なく斬撃を加えてくる雪だけ。
幸いにも少しの炎で雪は対処出来るから問題ないが、どうやらこの地は僕らを拒絶しているらしい。
そして街を少し進んだ先に、助けを求められた要塞の前へ到着した。そこには以前と変わらず門番をする背の高い男と低い方が薪に起こした火の前で楽しそうにくつろいでいた。
「久しぶり。今夜君らは自由になれるから期待して待っててね」
「おぉ!!本当に来てくれたんだ!!ありがっ――――――」
「うわぁぁぁぁ…………」
背の高い男がお礼を言おうとした時だった。突然首が上下真っ二つに切断された。そして低い叫び声を背の低い方は挙げた。
「今、何が起こったの? 全く攻撃の気配を感じなかったんどけど……」
ミーシャは一瞬息をのみ、理解不能な正体の掴めない攻撃に恐怖する。
折角忘れていたのに、目の前で人がやられたせいでゲノムに植えつけられたトラウマが甦りそうだ……。でもそれ以上に、僕と同じトラウマを他の人にも植え付けた攻撃主が許せない。
「何処にこの人を殺した奴はいるんだ!!」
咄嗟に大声で発する。
「カザー黙ってよ。相手を威嚇するようなことしたら私たちまでやられるかもしれない。少しは考えてよ」
ミーシャは保身的な考え方だ。
「考えてるよ。だから犯人の居場所を探そうとしているんじゃないか!!」
「い、居場所なら分かってるっす。この要塞の中……街の奴らは全員王に首を切られて死んだっす」
動揺して今にも泣きそうな中、必死に平常心を保ちながら背の低い方は話し終えた。そしてうずくまり、号泣した。
兄貴が目の前で死んだにも関わらず、涙を抑えて情報を伝えてくれたんだ。
「ごめんミーシャ。僕、先に行ってくるわ。カルミアさんを見つけ次第、こっち側に来てね」
「待ってよ。カザーのせいで計画が壊れたりでもしたらどうするの?」
「大丈夫、もう依頼主が死んじゃったんだから計画は壊れているようなもんだしさ……」
カザーの魂は壊れかけ。今さらどう足掻いても止めることは出来ない。
「う、うん……絶対に死なないでよ」
「分かってる。またあとでね」
最後にそう言い、要塞を正面から突き進んでいくのだった―――。
カザーが行ってからすぐの事だった。カルミアは数多の兵を引き連れて到着した。
「ミーシャちゃんは先に来ていたのか。そして、カザー君はどこなのさ?」
一番聞かれたくないことを一番始めに尋ねられる。
「そ、それは……先に行っちゃって……仕方ないでしょ。止められなかったんだから!!」
「先に行っちゃったんだねぇ…………えぇ!? 何やってんのさ!?!?」
ミーシャの頬にはビンタが飛ばされる。でも、今回ばかりは何も言い返す気が起きない。だって、問題は全部私にあるもん。
「皆の衆聴いてくれ!! 私達は先に向かう。だからお前たちも定位置について、私の合図が出たら一斉に砲撃しろ!!!」
そう言って向かおうとしたところに、「ちょっと待って。私の定位置は?」すかさず尋ねた。
「ミーシャちゃんはあの赤髪のマヤって女の指示に従って後から私たちを追ってこい」
そう言うとカルミアは少数の強そうな剣士達と共に要塞へ入り、辺りの兵士達も素早く動いて要塞を囲むように陣取った。
だが、一人赤髪のマヤという女は震えて動けない様子。
「ねぇ、私達も早く行こうよ」
ミーシャから話しかけるのだが、無反応。
「人の話聞いてるの?」
焦りから意識せずトーンが強くなる。
「あっ、あ……うん…………うぅ……」
少し強く言いすぎたからなのか、女の子は低い声で泣き出してしまう。
こんなんで泣く人と一緒に行動なんて嫌なんだけどと思いながらも、「ごめんね。泣かないで。もっと優しくしてあげるから!!」、気を遣って接する。
でもその声はマヤには届いていない様子だった。
接し方が難しそうな子。取りあえず右腕を握りしめてから、「あ、あ~、コホンッ……!」、咳き込みを一度して間をためて言う。
「え~、なんて言えばいいのか分からないけど、とにかく私達も行こう。私は怒ったりなんかしてないからね」
再び、今度は優しく手を握りしめながら伝えた。そうしたら手の温もりによる暖かさで意志が通じたのか、マヤは涙を握られていない方の手で拭い、小さく頷いた。
まだかなり不安を感じるミーシャであるが、一先ず行くための準備は整った。
こうして全員が戦地にて自身の役割を果たす準備が出来た。果たして、無事に計画は成功できるのか。