十四話 新たな出会い
「あなたがカルミアさんでしたか。これを受け取って下さい」
カザーはポケットから封筒を取り出した。
「お、レターなんて珍しいな。大歓迎なのさ」
受け取るとすぐ、封入されている幾つかの書類を取り出し内用を確認する。
「やあカルミア、元気そうで何よりだ。久しく連絡をくれなかったが、やはり俺は合格することさえ出来なかったUNMF入隊試験に合格し、今では幹部候補にまで登り詰めるお前のことだから仕事も忙しいのだろう。だから俺に返事は書かなくっても大丈夫だ。
そしてここから本題、近況に関して。最近、俺を剣王に、お前を合格まで導かせたルーナ様が連れ拐われたらしい。それに加えてルーナの息子も大怪我を負わされたようだ。俺は俺を導いてくれた人すらも油断して助けられなかったことが悔しい。それに、俺は恐らく今のゲノムという男と戦えば敗北するだろう。なんせルーナが破れたらしいからな。
だから、ここでお前に頼みがある。ゲノムという人間からルーナ様を救出して欲しい。
P.Sルーナの息子から聞いたのだが、スンドラで王を名乗る者が一晩で城を築き、町を乗っ取ったらしい。だから、町の救助を優先させて欲しい。変な任務より、よっぽどやらねばならぬ任務だと俺は思うぞ」
この手紙の他に、ゲノムの犯人像と書かれた肖像画が描かれた紙も入っていた。
「フムフム……引き受けよう……といいたいところだが、この手紙は差出人が書かれていないようだ。誰からなのさ?」
「デイクさんからです」
「デイク……」
カルミアは手紙を再びじっくりと見つめる。
「確かに、言われてみれば筆圧がそっくりなのさ」
筆圧で分かるものなのか、一瞬疑問に思うのだがそこは気にせず本題を話すことにする。
「それはそうと、要件があってあなたに会いに来たのですが、聞いてくれますか?」
「言われなくても分かっている。君のお母さんの救出だろう?」
さも当然のようにカルミアは言う。
「それもそうですが、今回は違います」
「えぇ!? そのことよりも重要なことがあるなんて信じられないのさ!?」
身内のことよりも重要な用事があるのかと驚いた顔を見せるカルミア。
「はい。それはスンドラという地域の救出です」
カザーは用件を先に出してから詳しく説明した。
「フムフム、内容は分かった。引き受けよう」
「本当ですか!?」
「うん、もちろんさ!!」
一切の迷い無い、透明な眼差しをカザーに向ける。
「それは心強いです。本当にありがとうございます」
かルミアに深く感謝し、一礼するカザー。
「あーでも、一つだけ条件というかお願いというか、試したいというか、とにかくやって欲しいことがあるのさ」
「やって欲しいこととは何でしょう?」
「カザー君の力が見たいのさ。だから、明日日が昇る前にまたここを訪れてくれ。だって、あなたもこれに参加するつもりだろう?」
「力を見たいのか……」
確かに今の自分を客観的に見てどう思われているのか知るのはいいことだ。
「分かりました。明日の朝、また訪れます」
ハキハキとした威勢の良い声で言う。
「いい声だ。それじゃああなたが脱走したことは説得させておくから、私の後ろに見える扉から窓口に行けるから、退出してくれ」
「はい、分かりました。今日は忙しい中ありがとうございました」
退出する前にもう一度お辞儀をし、すぐにこの場から去った。
部屋を抜けると、窓口で聞き覚えのある声が警察隊の人と口論しているのが聞こえてくる。
「カザーを早く返しなさいよ。金なら幾らでもあるんだから」
窓口で警察隊の一人に向けて袋いっぱいに入った金貨を見せつけるミーシャ。
「それはその、脱走されてしまいまして……」
「魔術対策無しのただの檻に入れるなんて馬鹿?」
「子どもだったので油断してしまいまして……」
「ガキを逃がすなんて……いや、ガキを檻に閉じ込めて罰金請求するなんて馬鹿? ホンット使えない第一、初犯でなんで留置場行きなのよ」
カザーはすぐさま駆け付けて、「まあまあミーシャ、そんな怒んないでよ」、となだめるように言う。
「怒るなって……私を怒らせたのはカザーでしょ。何、その自分は部外者です。喧嘩を止めに来ました的な態度は? なおさらムカつくんだけど」
余計に怒りがエスカレートするミーシャ。
「あ、すみません。僕が全て悪かったです」
二人に向けて誠意のお辞儀をするカザー。
「ほら、子どもでも謝れるのに……あなたたちは言い分けだけ?」
余計にミーシャの挑発材料を与えてしまった。これはどうなってしまうんだ?
「うるさい。何の争いごとをしているのさ?」
カザーが出てきた扉から出てきたカルミアは、騒ぎ立てるミーシャの肩を無理やり掴んで警察隊との距離を保たせた。
「本当に呆れるのさ。こいつあなたの知り合いか?」
カルミアは目を三角にし、先程までのラフな言い方からハードな固く冷たいトーンに落とす。
「そうです」
カザーが答えると、カルミアの表情が一変。口元だけ不気味に笑みを浮かべてこう言った。
「それならよかったのさ。ならこの子を連れて今すぐここから立ち去ってくれ。あと、明日はこの子は連れてこないで欲しいのさ」
その発言に苛立ち、ミーシャは敵意をカルミアに対しても向けた。
「は? あなたに私がカザーについていくかどうかを指図されなきゃならないの?」
「メリット無しにただただ仕事を妨害する悪い子ちゃんは嫌いなのさ。分かったら早くここから出てくれないかな? 立場上、女の子に痛い目を合わせることはできないからさ」
「立場上ねぇ……」
ミーシャは何か悪巧みを思い付いたようだ。クスりと笑みを浮かべる。
「ねえ、私はあんたに喧嘩を申し込もうと思うの。乗る、それとも乗らない?」
「喧嘩は乗らないのさ。だけど、真剣な試合なら歓迎しよう」
「し、試合?」
予想よりも僅かにずれた回答に戸惑い、同じ言葉で返す。
「明日、私はカザー君の力を見るために戦いを行う。そのついでにあなたの力も見てやろうって話なのさ」
「なるほど……面白いじゃない。受けてやるわ」
ミーシャは自信に満ちたギラギラとした目付きでカルミアを見つめながら、高笑いをあげた。
「好戦的な女なんて珍しいな。この勢いがいつまで続くのが楽しみになのさ」
そう言い残すと、再びカルミアは作業へ戻ってしまった。
「じゃあ、僕らも一旦引き上げるとしよう」
「そうしよっか。私たちお利口さんだもんね」
UNMF本部を抜け、その後は何事もなくスムーズに近場の宿屋へとチェックインし、夕食を近場で適当に済ませた。気がつけば宵の青天の空に綺麗な月が映える、それはそれはロマンチックな時間になっていた。
そして就寝前にふと思う。
「そういえばさ、なんで僕が捕まっていたことを知っていたの?」
ふかふかなベッドに横たわりながらミーシャに訊ねた。
「う～ん、なんでだろうねぇ?」
普段とは明らかにことなる口調でミーシャはシラを切る。
「教えて。悪いことは言わないからさ」
優しく言っても、「私もう疲れたから寝る。絶対起こさないでよ」と誤魔化され、瞬間的に眠りにつかれてしまう。
「ったく……」
この様子だと自ら口を割ることは絶対に無い。だから本当はやりたくないけど、仕方がないよね。
ミーシャの額に手を当て、記憶を覗こうとした。しかしその時だった。
「次、万が一私の記憶に無断で侵入したら殺す」
手が粉々になりそうな程に握られており、その後すぐに頬を叩かれてしまった。
「カザーも明日は早いんだからもう寝なよ」
「わ、分かったよ……」
納得はいってないが渋々了解するのだった。
