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マスターリバイバル◇F◇  作者: 嘆譚みぃ
11/27

十一話 デート

 カザーはミーシャの手を繋ぎながら、フロムの町を歩いていた。

 久しぶりに感じるフロムの平和で暖かい町並みを見て、自身の周りの環境とは違って何も変わっていないと分かると安心する。

 そして更に少し歩けば行き付けの定食屋の前を通り、そこでいい匂いを嗅ぐと久しぶりに空腹を感じた。

 そういえば、感じていなかっただけなのか分からないけど今まで何もご飯を食べていなかったし、食べたいとも思わなかった。なんでだろう?

 カザーは不思議に思い、「ミーシャって僕が寝ている間とかに、ご飯を食べさせてくれたりした?」と問いかける。

「なによその変な質問……!!」

 ミーシャも何かに閃いたのか、自身に満ち溢れた顔表情を浮かべる。

「カザーからの質問の意図も、質問に対する答えも両方分かっちゃった」

「え!? 本当に!?」

 思いがけないレスポンスにカザーは驚かされる。

「うん本当。要するにカザーはなんで私達がご飯を食べずに動けているのか訊いているんでしょ?」

「正解、よく分かったね。それでそれで?」

「それは、緊張状態だったから無意識の内にエネルギーを補給する魔術でも使っていたんだと思う」

 ミーシャの答えはかざーにはいまいち理解出来ていない様子だ。

「もう少し分かりやすく教えてくれない?」

 再び問いかける。

「分かりやすくって……」

 ミーシャは難しい質問に少しだけ考え、そして話す。

「私達って生きるために無意識で呼吸をしているでしょ。それと同じように、食料の見当たらない土地にいる時、私達の潜在意識が自動的に魔術を介してエネルギーを補給してくれたんだよ。そして、今は至るところに食料があるから、お腹が空くんだと思う」と説明する。


 そんなこと出来るの? そう訪ねようとする前にふと思い出して納得する。名前も思い出したくない(ゲノム)に家で遭遇した時、(ルーナ)向けて放った言葉。

「人間の無意識下における自己防衛機能というのも、まだまだ捨てたものではないな………」

 聞いた時はピンと来ていなかったから気にも留めなかったけど、ミーシャの言うことが正しいのなら、(ルーナ)は少なくとも使えている。だから、僕らが使えない可能性も無くはない。


「そうなんだ。ミーシャって僕のちょっとした質問からここまで答えてくれるなんてすごく頭いいんだね」

 カザーは誉めちぎる。

「そのくらいは答えられて当然。誉められるに値しないわ」

 そうは言うものの、ミーシャの頬は少しばかり赤く染まる。

「なら、教えてくれたお礼に僕の右側に位置する、行き付けの定食屋を招待します。なんと、そこは僕の顔パスにつき、無料でご飯を食べれちゃいます」

 カザーは右手でいい匂いが漏れ出る店の扉を指差し、微笑ましげに言った。

「へ~、カザーの行き付けとかいいね」

 ミーシャは興味津々、声のトーンが高くなる。

「まあ、僕の味覚に狂いはないから期待しといて下さいよ」

 そう伝え、「僕です。いつものを頼みます!!」とカザーは元気よく挨拶しながら、懐かしい木製の扉を開けて定食屋へと入った。

「はいいらっしゃい………!?」

 いつものお姉さんの声。久々過ぎて聞いただけで涙腺が緩みそうだ。

「な、なんであんたがここにいるのさ。も、もしかして私の幻覚かい?」

 そう言って何度も目を擦って現実かどうかの確認をする。

「げ、幻覚!?」

 カザーは店を訪れて早々訳の分からないことを言われて困惑する。

「確か少し前のニュースで何者かに暴行されて死亡って言うことを聞いたから、もしかして幽霊かい?」

「はい………!?」

「だから、幽霊かどうか私が訊いているんだ」

 お姉さんも戸惑っているようだが、カザーも気になったことがある。

「お姉さん、一つ質問なんですけど、なんで僕が死亡したと言う噂が流れているんですか」

「なんでって、あんたが診療院のベッドで寝込んでいる時に、原形を止めていない程に切り刻まれたあんたの遺体が見つかったからだよ。それなのに、なんで生きているんだい? 私はそれが聞きたい」

 原形を止めていない程に切り刻まれた遺体………。僕に刻まれた傷は完治しているから、そんなはずはない。いったい僕がいない間に何が起こったんだ。カザーは不可解な点が連鎖的に出て来る。

「あの、それっていつの話ですか?」

「いつって、丁度あんたが倒れているのが見つかった翌日だよ」

「翌日………」

 カザーの頭では聞けば聞く程訳が分からなくなってしまう。しかし、その横でミーシャは笑みを浮かべていた。

「それで、カザーが入院したのはどこなんなの?」

 ミーシャは初対面にも関わらず食堂のお姉さんにいきなり訊ねる。

「誰だいあんた?」

 急に見ず知らずの人から訊ねられたものだから警戒して強い口調になる。

「あ~、この子は僕のお友達だよ。ミーシャって言うんだ」

「うん、カザー。私達仲良しだもんね」

 ミーシャは仲が良いアピールをするために頬を近づけて距離を近づけた。

「遂にカザーにもガールフレンドが出来たのかい。それも私よりも可愛いこなんてねぇ」

 どこか視線を逸らしてがっかりした様子を浮かべながら話す店主のお姉さん。そして、ガールフレンドだと思われて急に胸の鼓動が早まるミーシャ。

「ど、どうかしたの? 何か悲しそうだけど」

「いやぁねぇ、小さい頃からずっと見てきたから、こうやって血縁じゃないとはいえ子どもが成長する姿を見ると、だんだんと私ら周りの大人との距離が遠くなっていくんじゃないかと心配になってね」

「それなら安心してよ。僕は大人になっても食べにくるからさ。だっておばさん………いや、お姉さんの料理は世界一だもんね」

 カザーは褒めたたえ、一先ずずっと立っていたのでカウンターの席へと腰を掛けた。硬直するミーシャを少し強引に引っ張って隣の席に座らせて。

「ヨシ、あんたは死んでない。今の言葉を聞いて本物だと分かったよ。だから、今日は隣に座っている彼女さんも為にも本気を出してごちそうを作るから、期待して待っといてね」


 カザーはミーシャと二人で炎の中を踊るお姉さんのテクニックを見ながら和気あいあいと会話を楽しみ、おいしいご飯を食べるとあっという間に時間が過ぎていた。


「ごちそうさまでした。お姉さん、また来るね」

「私も久しぶりの食事でおいしいものを沢山食べれて幸せでした。今日は本当にありがとうございました」

 二人は扉の前で深くお辞儀をしながらお礼を言う。

「こちらこそありがとうね。それじゃあ、夜も遅いから気を付けるんだよ」

「ハーイ」

 二人一緒に元気な返事をして店を出た。そして、満月の微笑む夜空を見ながらカザーの家へと向かって歩くのだった。


 それから数分後、カザーはようやく自宅の小さなレンガ造りの家へ到着した。しかし、カザーはここにきて一つだけミーシャを招待する上で気がかりなことを思い出す。

 そういえば、僕が最後に家に入ったときは部屋中が血で塗りたくられていた。そんな部屋にミーシャを入れたら怖がられてしまうのではないだろうか。そしてそれ以前に、僕のプライドというものがそんな空間でミーシャをもてなすことを拒否する。

「ねえ、ここにきて申し訳ないんだけど、少しだけ待っていてくれないかな? もしかしたら家中散らかっているかもしれないし………」

 ごめんね、とカザーは軽く謝って先に中へと入ろうとするのだが。

「待ってカザー。それなら私も手伝うよ」

 腕を掴んで引き留められる。

「いいや平気。てか散らかっている部家見られるなんて少し恥ずかしいから、むしろ手伝わないで」

 焦って変に苦笑いをして空気を濁す。

「なによそれ…?」

「まあそういうことだから、すぐ戻ってくるからよろしくね」

 素早く握られた手を振りほどいてカザーは家の中へと入る。

「危なかった」、家の中に入ってすぐのリビングを見渡して呟く。もともと椅子三つと机、その上に皿数枚しか置いていなかった部屋は、至るところが血で汚れ、皿の破片が壁に刺さっている。机と椅子三つは無惨に折られ、断面がギザギザとして見るだけで痛い。    

 そして極め付きは(ルーナ)が引きこもっていた部屋。そこはどす黒く目眩を引き起こしそうな大気で溢れており、とても人を招ける状態ではない。そのため先に入って正解だと実感する。

 だが、こんな部屋を短時間で掃除することなんて可能なのか。カザーはその事が疑問に思って考える。


 その間一分。


 考えが纏まったカザーは部屋の中でパントマイムをするように手先から腕を繊細に動かし、【遠隔操術】という魔法を使いながら皿の破片や椅子のゴミを宙に浮かせ、一点にに集めた。

 この【遠隔操術】とは、カザーが、今行ったような人を除く物体ならなんでも遠隔で操ることができる魔法。

 使っていない物置に全てのゴミを詰め込み粗方の掃除は終え、仕上げに移る。水を手のひらから溢れんばかりに魔法で生み出し、その水を【遠隔操術】で操る。血の汚れを吸収させて汚れた水を窓から外に投げ捨てた。

 そして仕上げに(ルーナ)の寝室を何枚かのベニヤ板で隠して掃除を終わらせた。

 掃除が終わったリビングはもともと簡素だったのに更に家具が消えてしまった。だから自身の部屋からベッドと机を持ってきて申し訳程度に家具を配置させて部屋の掃除は終わらせる。

「これなら招くことが出来るな」

 カザーは自身を持って豪語し、カザーは急いでミーシャを呼びに外へ一度出た。


「ミーシャ、終わったよ」

 半開きの扉から顔を出して声をかける。

「案外早く終わったんだね。私てっきり何時間か待たされると思ってた」

「まさか、おもてなしする僕が夜遅く、家の前で女の子を長時間待たせる訳ないよね」

「いやカザーならありえるって。まあ、お邪魔します」

 僕ならありえるってなんだよ。カザーはムッとして頬を膨らませながら、扉を全開にしてミーシャを向かいいれた。

「うわぁ………ごめん」

 ミーシャは部屋の内部を見てテンションがあからさまに下がった。

「ご、ごめんってなんだよ」

 カザーが不思議に思って訊ねると、

「いや、そのね、私………」早口になって、「もっと豪華なのかと思ってたから、ベッドと机しかないから何て言えばいいか分からなかっただけなの。別に期待はずれなんて思ってないからね。これ本当だから信じて」

 両手を素早く体の前で何度も交差させ、誤解しないでと再び謝った。

「あはは~、正直だねぇ」

 苦笑して冷ややかな視線をミーシャに向ける。

「ま、まあいいわ。私は先に寝るからおやすみね」

 体を反らせながら大きな欠伸をするミーシャ。ゆっくりとベッドに横たわり、ベッドで大の字を開いて占領する。そのままそっと目を瞑って眠りにつく。

「ちょっとミーシャ…………」

 ぐっすり眠っているのに起こすのはかわいそうだよね。カザーは思い止まり、自分は床で横になる。

「これが僕の今出来るおもてなしだよ」

 そう呟いてカザーも眠りにつくのだった。

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