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pt.1 踊り好きのピクシー -Totentanz- ②

「セリ、飯を頬張ってモグモグしてるお前もかわいいな」


 ごふっ!


 またしても脈絡もなく発せられたボルターの言葉に、セリは夕飯の麦入りスープの麦粒(むぎつぶ)を気管内へ誤侵入させてしまい、激しくむせた。


「うん、行儀は悪いが苦しそうに咳き込むお前もかわいいな」


「ちょっと! なんなの!?」


 突然かわいいを連発するボルターに、セリは真っ赤な顔で抗議した。

 しかし照れているわけではなく、一過性の酸欠による紅潮である。


 レキサの方を見ると、レキサは必死な顔で首を振っている。

 僕は何もチクっていない、僕は無実だと目が語っている。


 次にロフェを見ると、にこにこと鶏肉のソテーを頬張っている。

 もしかして、ロフェがボルターに昼間の件を伝えたのだろうか。


「ああ、粘液(レヴァーミ)の言う通り、お前はすぐに赤くなるな。そういうところなんかは、かわいいな」


 リーク元はレヴァーミか!!


 しかし今回に関しては、セリはかわいいと言われたことで照れて赤くなっているのではなく、一過性の酸欠による紅潮を引き起こしているに他ならない。


「うるさい! 黙って! ただかわいいって言えばいいと思ってるんでしょ!? バカにしないでよ!!」


 セリは真っ赤な顔を見られないように、空になった皿で隠しながらボルターに怒鳴った。

 ちなみに今セリの顔が赤い要因の比率は、怒りが70%、酸欠が25%、照れが5%である。


「ん? そんなことねえよ。よく考えたら普段かわいげのない女が急に弱味を見せるギャップ萌えってのも破壊力あるしな」


 セリの抗議を気にした風もなく、ボルターはスープをすすりながら返事をする。


 ほらやっぱり! かわいげがないって言った! またかわいくないって言った!!


 どういうメカニズムかは不明だが、ボルターの言葉にセリの胸はぎゅーーーっと締めつけられるみたいに苦しくなった。


 これはきっと嫌いなヤツからの不愉快な発言に、嫌悪感情が沸き上がったことで発生する生理現象に違いないとセリは判断する。


「普段やたら人のことを変態だの近づくなだの生意気言うくせに、こないだの夜みたいに、俺と離れたくない~って胸にすがりついてあんあん泣いたりすんのとか、ありゃあ、めちゃくちゃかわいかったな」


「わーーーーーっ!!」

 セリは立ち上がってボルターのセリフに自分の大声をかぶせた。


 レキサの「セリ姉、ご飯中だよ」という冷静な制止の声は、セリの耳には聞こえない。


「俺と離れたくないーとか、俺の傍にいたいーとか、俺が好きだー、愛してるー、もうめちゃくちゃにしてーとか。

 いやー、かわいかったなあ、また見てえなあ」


 動揺するセリを見て、完全に悪ノリで事実無根の話を盛り出したボルターに、セリはかえって冷静になった。

 無表情でスッと席につく。


「は? それ誰の話? ていうかもうあんた発言禁止。黙って食べて」


 セリの表情はすでに凍てついた仮面へと豹変している。

 同時に室内にもひんやりとした空気が漂い始めた。


「照れんなよ、本当は俺が好きで好きでしょうがないんだろ?

 っんとに素直じゃねえんだから……まあ、それがお前のかわいいところか?」


 ボルターが再度セリを動揺させようとかわいい攻撃を繰り出したが、完全に空振りだった。


「……黙って食べなさい。それ以上しゃべったらおかず没収」


 凍てつく仮面は凍える命令を変態に下した。


 もはやいくらかわいいと唱えても仮面にダメージは与えられず、さらにはペナルティで皮がパリパリの一番おいしい部分を残しておいたチキンソテーを取り上げられそうになり、さすがの変態も観念して沈黙し、食事を再開したのであった。



 ――夜。

 子供たちを絵本で寝かしつけ、ボルターは酒で寝落ちさせ、セリはおニューの白いふわもこコートを羽織って、月光が輝く夜の世界へ足を踏み出した。


 自然と顔がほころんでしまう。


 内緒の夜間外出という背徳感と、未知の世界に招待される喜びが混ざり合って、セリの身体の中で感情が外へ弾けそうになっていた。


 森へ向かう足が不思議なくらい軽い。

 今夜の月の光は、足元がはっきり見えるほど明るい。

 知らず知らずのうちにセリは駆け足になっていた。


 あっという間に森に着くと、セリの体が金色に淡く光り始め、その光に呼応するように森の一部が同じ輝きを放ち始めた。


 ――もしかして、この光を辿ればいいのかな?


 セリが進んでいくと、光は少し先を導くように移動していく。

 まるでセリを招くように、歓迎するように、森がセリを深部へと(いざな)う。

 嬉しくなり、セリは気がつくと光が呼ぶ先へと夢中で駆け出していた。


 柔らかな光が消えたと感じた瞬間、セリは見知らぬ広い草原に立っていた。


 見渡す限り、終わりのない草原。澄んだ夜空には雲一つなく、大きな満月が浮かんでいる。


 セリが振り返ると、森はもうどこにもなく、ただ月明かりに蒼くきらめく一面の草原が広がるのみ――。


 どうやらここは自分の住んでいる場所とは完全に別世界のようだったが、セリは不思議と怖さを感じなかった。


 若々しい草の薫りが、風にのってセリのもとに届く。

 その風すら、さっきまでの身が引き締まるような冷たさはなく、優しい温かさを感じさせる柔らかい風だった。おそらくコートを脱いでも寒くはないだろう。


「ようこそセリ!」

「さっそく踊る?」


 セリの周囲には、いつの間にかピクシーたちが集まっていた。背丈はセリと変わらない。

 この世界に入り込んだ際に、どうやらセリがピクシーたちと同じサイズになってしまったようだ。


「この子たちが無理を言ってしまったようですみません。でも、せっかくなんでどうぞ好きなだけ踊っていってくださいね」


 大人の口調で話すピクシーが挨拶したが、やはりセリには子供のピクシーたちと見分けがつかなかった。


 踊って踊ってとせがまれて、セリは満月を見上げながら、さて何を踊ろうかと考えた。

 キャラバン時代の記憶を辿ると、誰かが月明かりの下で、美しく舞っているイメージが浮かんだ。


 セリはすぐにそれが団長のナナクサと分かった。


 誰が奏でていたのかはもう思い出せないが、もの悲しい旋律の笛の音に合わせて舞うナナクサの幻影を手繰りながら、セリは月光の下、緩やかに足を踏み出した。


 髪の先まで計算され尽くしたようにさらりと流れるナナクサの長い髪と、装飾を凝らした衣装が(ひるがえ)る光景を思い浮かべながら、指先までしなやかに、優美な曲線を描くナナクサの舞の動きをなぞる。


 団長は、あの曲をどんな表情で踊っていた……?


 しかし、セリがナナクサの表情を鮮明に思い出そうとすればするほど、愛しい人の面影は霧の中へと遠ざかっていく――。


 届かない。届いてはいけない。

 もう、私はあの人に近づいてはいけないのだから。


 (かすみ)の向こう側に消えていくナナクサを、意識の中で感じながらセリは舞を終えた。


 本来なら、いつもここで兄弟子のスズシロが舞の出来の採点を辛口で発表してくるが、もうそれもない。

 もう、二人ともいないのだと分かってはいても、セリの耳は無意識に声がかかるのを待っていた。


「は~い、セリ。ちょっとこっち来てね」


 舞の余韻に浸り、恍惚(トランス)状態のセリをピクシーたちは手を引いて誘導する。


「はいどーん!」


 掛け声と共にセリは唐突に穴の中へと突き落とされた。

 セリが状況が把握できるよりも先に、瞬く間に土をかけられ埋められてしまう。


「……え? あれ? なにこれ? なに人のこと埋めようとしてんの?」


 もがいて出ようとするが、すでに腕までしっかりと埋まってしまい身動きができない。

 しかしピクシーたちはまだまだ土をセリの上に盛っている。


「セリ、なんかすっごいヤバいオーラ出てたよ!」

「うんうん、ゴーストにとりつかれてるっぽい感じ!」

「漢字一字で表すのならまさに『怨』!」

「ちょっと大地の治療を受けててね!」


 スズシロに負けず劣らず失礼千万な感想を口々に言いながら、ピクシーたちは寄ってたかってセリに土をかけ続け、ついにセリは首から下まで完全に埋められてしまった。


 とどめに何かの枝を顏の前にぶっ刺され、ピクシーは軽い口調でセリに告げた。


「ほい完成! そのまましばらくお待ちくださーい♪」


「えーーーーーーっ!? ちょっとなにこれ! ひどくない!?」


 叫ぶセリを囲んでピクシーたちは輪になって踊る。

 その光景を目にして、セリは自分の置かれた状況を悟った。


 ――これ、もしかして何かの生贄の儀式的なやつだったりする……?


 死を覚悟したセリの視界で、何かが揺れた。


 目の前に挿された枝が、震えるように振動している。

 セリが目を凝らして見つめていると、枝から小さな木の芽が生まれ、少しずつ膨らみ、ゆっくりと新緑の葉を開くと、夜露(よつゆ)一滴(ひとしずく)こぼした。


 次々と芽吹いては葉を広げ、まるで涙のようにパタパタと大地に雫を落とし、枝はいつしか小さな木になっていた。


 (つや)やかな葉を繁らせたセリの顔ほどの小さな木は、風に吹かれて心地の良い葉音をさわさわと鳴らした。


 セリはこの木のわずかに甘みのある香りを知っている。ここまでセリを案内してくれた森の匂いだった。


 気がつくといつの間にかピクシーたちの輪舞も終わっている。ピクシーたちが埋まったセリの顔の周りに集まってきた。


「あ、終わった? 応急処置終了?」

「セリは水が過剰だったみたいだね。どこかで変な水飲んだりしなかった?」

「水はね、すごくデリケートで、すぐに悪いものに染まっちゃうから気をつけた方がいいよ!」

「じゃ、早く出てきて踊ろう!」


 水がどうのと言われてもセリにはさっぱり分からなかったが、とりあえず分かることが一つだけあった。


「用が済んだなら出して! 一人で出るの無理だし!! ひっぱって出して!!」


 叫ぶセリにピクシーたちは呆れて笑う。


「えー、出れないの? これだから人間ってダメだなあ」

「人間は水と土からできてるくせに、土との繋がりを忘れてるから仲良くできないんだよ」


 なにやら説教タイムになってしまうが、セリとしては一刻も早く地上に出してもらいたいのでピクシーたちのご機嫌を損ねるわけにはいかない。


「……おねがいします。無力な普通の人間である私をここから掘り出してくださいピクシーさん」


「ま、しょうがないか、セリもただの人間だもんね」


 ピクシーたちがよく聞き取れない呪文を唱えると、セリの周りの土が急に軽くなり体が動くようになった。セリは難なく自分の力だけで簡単に地中から這い上がることができた。


 そして不思議なことに土の中に埋められたにも関わらず、真っ白なふわもこコートには泥一つ付いていない。


「――汚れてない。なんで?」


「まあいいじゃないそんなこと。それよりセリ! さっきあたしたちが踊ってたやつ一緒に踊ろう?」

「お、いいね! セリ最後まで踊れるか~? すっげえ大変なんだぞ、おれたちのダンス!」


 コートの表面を疑いの目で確認しているセリを捕まえてピクシーたちが輪舞に誘う。


「なになに? どういう風に大変なの?」


 セリはさっき自分を囲みながら生贄儀式だと思い込んでしまった踊りを教えてもらう。


 単調な輪舞の振り付けだったので、セリはすぐに概要をつかんだ。


 左方向に四拍分ステップを踏みながら進み、その場で手を叩きながら左右にステップを踏んで一回転。今度は右方向に二拍分進んで、右隣の相手と一回転し、腕を組んで回って立ち位置をチェンジ。

 これを繰り返しながら、回っていく。

 ステップは各自の熟練度に合わせて複雑にしてもいいらしい。


「じゃ! 始めるよ!」


 太鼓(ドラム)をもったリズム隊のピクシーたちが拍子をとる。


 始めはアダージョ(緩やかに)からのスタート。

 セリはピクシーたちの楽しそうな表情を見ながら、歩調を合わせて踊る。


 次第にアンダンテ(歩くような速さで)へと段階が上がっていく。


 そしてアレグロモデラート(ほどよく速く)



 いつの間にやらプレスト(急速に)



 ピウ・モッソ(それまでよりも速く)


 ピウ・モッソ(もっと速く)


 さらにピウ・モッソ(めっちゃ速く)



「ちょっ、ちょっと待って!」


 セリの悲鳴は高速回転する輪舞にかき消された。

 踊るというより引きずり回されているといった方が正確かもしれない。


 あれ。息ができないぞ?


 息ってどうやって吸うんだっけ?

 吐かないと吸えないんだっけ? あれ、なんか息が吐けないぞ?


 ヤバい。なんか苦しいかも。


 あ、目がチカチカしてきた。


 あれ、ここどこだろう。世界がキラキラして虹みたい。

 あ、キレイな川が流れてる。泳いだら気持ちよさそう……。


 向こう岸に誰かいる。おーい!


 ……え? こっちに来ちゃダメ? この川を渡っちゃダメなの? 早く戻れ? 手遅れになる?


 え? なに? 手遅れって何……?



**



 太鼓のリズムが止まったと同時にセリはその場に崩れ落ちた。


 呼吸ができず、無理やり咳込むと胸が裂けるように痛んだ。

 自分の体の中で、太鼓が激しく轟いている。胸が爆発しそうだ。


 空気が体に入らない。喉が変な音を立てている。

 目が回って、景色が歪む。地面が波打つように揺れ、吐きそうだった。


「すっごいセリ! 最後まで踊れた人間初めて見たよ!」

「生きてる? あ、良かった。まだ生きてるね!」


 耳の中で超音波が鳴っていて、ピクシーたちの言葉がうまく頭に入ってこない。


「こないだ連れてきた人間なんて半分踊ったあたりで息止まって死んじゃったもんね!」

「その前なんて、目が回って吐いちゃってそれが詰まって死んじゃってたよね!」

「セリ平気? もう死ぬ?」


 キャッキャッと無邪気に笑いながらピクシーたちは楽しそうだが、不穏な『死』という単語が何度かセリの耳をかすめていく。


「――は? え? ……死?」


 苦しい息をしながらセリは訊いた。こんなに苦しいのはいつぶりだろう。スズシロにお仕置き窒息プレイをされた時以来だろうか。


「そうそう、前にここに呼んだ人間の話。

 セリみたいにパーティーに招待したんだけど、踊ってる最中にみーんな死んじゃってね。

 とりあえずみんなここで土に還してあげようってことで埋まってるんだけどさ」


 言われてみると、セリの埋められた穴の回りに点々とこんもりと盛られた土の山があり、墓標なのかプレート状の石が載っていた。


 セリの背筋を冷たい風が吹き抜けていった。


「――ねえ、もしかして、さっき私が落とされた穴って……」


 聞いてはいけないと思いつつ、口が勝手に問いを口にしてしまっていた。そして思った通りの返答が帰ってくる。


「そう! セリがもし死んだらその中に埋めようと思ってたんだ!」

「せっかく掘ったのにもったいないね。セリ生きてるもんね」

「ジャストサイズなのにね」


 やばい、もしかしたら生きてても埋める気かもしれない。

 セリはピクシーたちに気づかれないように退路を探したが、自分が通ってきた森は影も形もなく、どう帰ればいいのか分からなかった。


「えー、オレ悔しい! セリ、次の満月でリベンジ! 絶対次こそ死ぬまで踊らせるから!」


「ちょ……っ、勘弁して!

 なに? あんたたち私のこと殺す気で連れてきたってこと!? パーティに招待とか言って私のこと騙したの!?」


「違うよー、純粋に踊りが上手な人と一緒に踊りたいだけだよー。

 でも人間って軟弱だから、ボクたちの踊りについてこられなくて死んじゃうんだよー」


「相手が死ぬまで踊りを止めないだけじゃなくて!? なんか目的が私を殺すことにシフトしてないでしょうね?」


「そんなことないない♪ ボクたちと踊れる仲間は大歓迎♪」


 笑ってはいるが、正直信用できない。もう二度とここには来ないぞとセリは固く心に誓った。


「じゃあ次のゲストもセリで決まりだね。というか生きてる限りセリはレギュラーメンバーだね」

「セリ、次の満月の日も必ず遊びに来てね」


 誓ったそばからさっそくお声がかかる。


「あ、えーっとね、たぶん次は……」

 セリが当たり障りのない断りの口実を考えているうちに、陰のある笑顔をしたピクシーたちがたたみかけてきた。


「来なかったら許さないからね」

「ピクシーとの約束を破ったら、おうちまるごと破壊しちゃうようなイタズラしに行くからね!」

「ピクシーを敵に回すと怖いんだぞう?」

「もう祝福の粉かけちゃったから、逃げられないからね。隠れても見つけるから」


「――え?」


 断る隙を与えずに、ピクシーたちがセリに詰め寄る。どの子も笑顔なのが逆に怖い。とんでもない種族に気に入られてしまったとセリの頭に後悔の念がよぎった。


 しかし、後悔してももう遅い。

 セリの体にはすでにピクシーという無邪気にも恐ろしい種族の祝福の粉が浸透してしまい、無効化不可、効果は永久となっているらしい。


 改めて説明を聞いてみると、祝福の粉の作用によって、この種族に歓迎されるということは、この種族と等しい存在であるという証を施されたことと等しいらしい。

 その結果、何故だかセリもピクシーを強制的に歓迎させられるということになってしまうらしい。


「じゃあセリ、お疲れ様~。また次も待ってるからね! 来なかったら家まで迎えに行くからね!」


 ご機嫌なピクシーたちと不吉な別れの挨拶を済ませたセリは、ふいに立ち眩みのような症状に襲われ――。



***



 セリが目を開けると、そこには自分の部屋の暗い天井が広がっていた。

 窓から柔らかな月明かりが差し込んでいる。まだ夜中のようだ。


 ベッドの中で布団に(くる)まっている自分は、当然コートは着ていないし、パジャマ姿である。


 もしかして、今までのはすべて夢だったのだろうか。


 踊りで殺されそうになるなんて、まるで自分のいたキャラバンみたいだ。


 思い返して、セリは自然と笑みがこぼれるのを感じた。

 きっと、もうキャラバンに帰れない自分の願いが生んだ夢だったのかもしれない。


 もう一度、誰かと一緒に踊りたいという夢。


 夢で叶った。楽しかった。少し怖かったけど、やっぱり大勢で踊ると楽しかった。


 幸せな夢をありがとう。また夢で逢いに行けたらいいな。


 セリは幸せな気持ちのまま、もう一度深い眠りへと落ちていった。


 ――しかし。




「おいセリ! お前いつまで寝てんだ? 具合悪いのか? 部屋入るぞ!!」


 朝になりいつまでも起きてこないセリを心配してボルターが部屋に入ってくる。

 頭まで布団をかぶっているセリの姿に、ボルターは眉をひそめながら声をかける。


「おいやっぱり具合が悪いのか? 顔、ちゃんと見せろ」

 布団をはぐると眉間にしわを寄せた険しい顔のセリが出てくる。


「なんだよ、どうしたセリ」


「全身が……メチャクチャ痛すぎて動けないの……! ちょっとでも動くと、激しい激痛の痛みがバキバキとギシギシが交互の連続ターンのクリティカルヒットで私のターンが永久に来なくて……どうしよう、私このままじゃ痛すぎて死んじゃう」


 珍しく意味不明なことを口走るセリにボルターが、ますます心配な表情になる。


 ボルターは「触るぞ」と断ってからセリの肩や腕、背中や足などを触れたり押したり揉んだりし、しばらく黙った。


「――ただの全身の筋肉痛だな。お前、この一晩で一体どこのダンジョンで暴れてきたんだ? ロンダルキアか?」


「……筋肉痛?」


 じゃああの夢は夢じゃなくて本当にあった出来事ってこと? てことはまた来月私はまたあそこに行かなくちゃいけないってこと? またあの拷問のような引きずり回しを食らうってこと?


 しかし、そんなことよりも今はこの強烈な全身の痛みを何とかしなければベッドから降りることさえできなかった。


「ボルター……痛いのとんでけ……とかお願いしてもいい?」


 (わら)にもすがる思いでボルターに『手当て』の催促をする。どれだけ請求されるか分からないが、動けないよりはマシだ。


 そう思い、恐る恐るボルターへ視線を向け、その表情を見たセリは自分の決断を後悔した。


 例によっていつもの3割増しのキメ顔をしながら、目に妖しい光を宿し、舌なめずりをしながらセリを見下ろしていたからだ。


「ああ、いいぜ? 俺のアメイジングお手当フルコースをたっぷり味わわせてやるよ。うんとかわいい声で()かせてやるから覚悟しろよ?」


 当然声もキメ声で、わざと吐息がセリの耳に触れるように甘くささやく。


 ――やっぱり、こいつが私にかわいいなんて言うときはろくなことがない。


 セリはこれから始まる『手当て』に屈しないように、力いっぱい歯を食いしばったのだった。


この続きは

ウルカヌス<外伝>

ITN.2 ヒーリングっと・ぼるキュア にてお楽しみいただけます。

良かったらどうぞ。

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