pt.10 影に囚われた二人 -Autommune disease- ③
ずっと目を閉じていたが、眠りに落ちる気配はまったくなかった。
セリはベッドを抜け出すと、寝ているメトトレイを起こさないように、そっと窓を開ける。
夜風が冷たくて心地よかった。
「……レミケイド?」
隣の部屋の窓から、自分と同じように夜風に当たるレミケイドを見つけ、セリは思わず窓から身を乗り出した。小声で呼びかける。
「ねえ、もしかしてレミケイドも眠れないの? あのさ、そっちに話をしにいってもいい? ここだと、メティさん起こしちゃうかもだし……いい?」
答える代わりに、レミケイドは部屋の中へと消え、少し遅れてドアが開く軋みが聞こえた。部屋のドアを開けてくれたのだろう。
セリは足音を忍ばせてレミケイドの部屋へ移動する。部屋の入り口でレミケイドが待っていた。
「一応忠告しておくが、こんな深夜に男の部屋に上がりこむのは感心しない。引き返すなら今だぞ」
「え? ドア開けてくれたのに帰れって何? はいっていいの? ダメなの? どっちなの?」
セリが見上げて文句を言うと、レミケイドはすぐに背を向け、部屋の奥へと入っていく。入ってもよいということだろうと解釈し、セリは後に続いた。
「なにを話したいんだ?」
ベッドに腰をおろしながらレミケイドが尋ねてくる。セリは椅子を動かして、レミケイドと向かい合う位置で座った。
「え? うーん、特にこれといってないんだけどさ……。なんか眠れなくって、勢いで来てみちゃった……。目を閉じてるとさ、いろいろ思い出してきそうで。
あ、二人の治療が効いてないってことじゃないんだよ? 治療が効いてるから思い出さないんだけど、でも私の頭のどこかにはいるんだよなぁって。なんか……それが落ち着かなくって」
レミケイドはしばらく腕を組んで下を向いていたが、そのままの姿勢でポツリとつぶやいた。
「昼間は君を怒鳴ったような気がする。取り乱して悪かったな」
「え? ううん。そんなことないよ」
唐突に話題が変わったので、少し面くらいながらもセリは返事をした。
「君は少し、雰囲気が妹に似ている。……だから助けてと言われて、怖くなった」
「怖い?」
セリの疑問には触れず、レミケイドは続けた。
「俺も君と同じ毒持ちだという話は聞いたんだろう?
俺に毒を植え付けたのは歳の離れた姉だった。姉は娼婦で、俺と妹を懸命に育ててくれて……俺は姉に頭が上がらなかった。だから姉の言うことは何でも聞いた。
姉が邪魔だというやつは、みんな消した。姉を守るために、俺は何でもやった。
……いつからかは覚えていないが、姉の言うことにまったく逆らえなくなってしまったことに気づいた。姉の命令も日増しにエスカレートしていった。
ある日、姉は言ったんだ。『私より綺麗なあの妹を殺してよ。目障りなの』と。
逆らえなかった。頭では抵抗しているのに、体が姉の命令に従ってしまう。妹が泣きながら俺に言うんだ。『助けて。お兄ちゃん助けて』と。
妹を殺した俺は、半狂乱になって、そのまま姉まで殺した。そのままスラムの住人を狂ったように手あたり次第殺し続けているところをボスに捕獲された。……更生を受けた後、現在に至る」
淡々と業務連絡をするかのようにレミケイドが語り終えた。
呆気にとられたまま固まっているセリを見て、レミケイドは補足する。
「君の参考になればと思ったから話した。俺がこの経過を思い出せるようになるまでだいたい1年を要した。それまでは思い出そうとすると拒絶反応や、毒の暴走でギルドに手間をかけさせてしまった。今は鮮明に思い出してもこの通りだ。……いや、今は昼間のボスの治療が効いているせいか……」
まったく表情を変えず、世間話をするかのように語るレミケイドへ、セリは返す言葉が思いつかなかった。困惑するセリの表情を見たレミケイドは、言葉を付け加えた。
「頭の中にいる記憶のせいで、落ち着かないと言っていただろう。もう少し辛抱していろ。
自分が確立して抵抗力がつけば、思い出しても毒に飲まれないようになる。君の目の前に実例がいる」
そこまで言われてセリは、今までのレミケイドの話が自分を励まそうとしてくれたものだということに思い当たった。
「……ありがとう。そんなつらい話、私に話してくれて。ちょっと、落ち着いた気がする。
そう、それと昼間のお礼もまだだったね。助けに来てくれてありがとう、レミケイド。
レミケイドが助けに来てくれたから、私、この町の人を傷つけずに済んだ。本当にありがとう、助けてくれて」
ゆっくりと顔を上げてセリと視線を合わせたレミケイドは、わずかに眉を寄せた。
「自分の役割を果たしただけだ。それよりも、君には悪いことをした。人目のあるところで君を捕獲せざるを得なかった。
ディマーズに捕獲されるということは毒持ちの証明だ。
町の住人から差別や迫害を受けることになるかもしれない。もう少し、配慮できれば良かったんだが……」
セリはゆっくり首を横に振った。
「私、ここを出てディマーズに入るよ。もともとそういう約束だったもんね。
早くレミケイドみたいになりたいから、向こう行ったら、うんと厳しくお願いね」
「……いいのか?」
その『いいのか』が、ここを出ることなのか、厳しくすることなのか、どちらを訊かれているかはわからなかったが、同じことだったのでセリは微笑みで返した。
「明日、みんなに挨拶して出てくよ」
「……そうか。なら早く寝た方がいい。さっさと部屋に戻るんだな」
なんの余韻もなく、レミケイドが立ち上がった。
「なにそれ。来たばっかりじゃん。なんでそんなにすぐに追い返すの?」
「こんな深夜に男の部屋にいるのは感心しない。用が済んだら自分の部屋に戻れ」
「またそれ?」
ふとセリの頭の中で、昼間にボルターが展開していた持論が浮かぶ。何で急にそんなことを思い出したのか、セリにも分からなかった。
「……レミケイド。あのさ……、レミケイドもやっぱり……」
不安そうな顔でうかがうセリに、レミケイドが不審な表情で見返した。
「……ごめん。やっぱりなんでもない」
さすがにセリは訊けなかった。
レミケイドもやっぱり変態だったりするんでしょうか、と。
変態じゃない男は存在しないって本当なんでしょうか、と。
隠す派とオープン派なら当然レミケイドは隠す派だとして、一体なにを隠してるんでしょうか、と。
もう少しレミケイドと仲良くなることがあったら、そのときにきいてみよう。
セリは曖昧な笑みを残して、素直に自分の部屋に戻ることにした。
*****
メトトレイは早朝すぐにリリーパスの街に向けて出発してしまったので、セリとレミケイドは朝食を二人でとり、宿をあとにした。
レミケイドの話では、ディマーズに捕獲された人間が一人で町を歩いていると、住人の私刑に遭う可能性もあるという。
この町でそんなことする人がいるなんて、とてもセリには信じられなかったが、護衛だといってレミケイドはセリに寄り添うように歩いていた。
「あ! セリちゃん! 聞いたわよ!」
市場のおばさんたちが数人、セリのもとへと駆け寄ってきた。
レミケイドがすぐに反応して、セリの前に出て盾になる。
「あ! この彼が昨日の彼? やだあ! 若い〜!
えー? セリちゃん、ボルターさんじゃダメだった? やっぱり歳が近い方がいいの?」
「ねえ、あなた歳いくつ? セリちゃんとはどこで知り合ったの?」
「……は?」
レミケイドが困惑した声を上げた。
「鎖で繋いでセリちゃんのこと連れてったって聞いたけど、なあに? 監禁癖があるの? あれでしょ、塔の上に閉じ込めて『いい子にしてたかい?』とか言って自分の名前つけたナイトに見張りさせたりするんでしょ? いいわよね〜! イケメンは何しても許されて!」
「私も束縛強い系イケメンに監禁されたーい! 『あなたをご主人の元には帰さない』とか言われたーい!」
「で!? あなた歳は!? いくつって聞いたでしょ!」
「は? え? あ、歳は19ですが……」
セリは珍しい光景に目をみはる。レミケイドがうろたえている。すごい。レアイベントだ。
「これからボルターさんのとこに行くの? ボルターさん、セリちゃんのこと溺愛してるから、ぜったいボロカスにされるわよ〜!」
「手土産持ったの? ダメよ~。おばさんが成功するご挨拶ってのを教えてあげる♡ プロポーズっていうのはね……」
「やっだあ! お肌すべすべ! 若いっていいわね〜!」
「イケメンはヒゲが生えないって本当ね〜! 毛穴レスよ! 毛穴レス!!」
「あらやだ!! なによ! 細く見えて意外にしっかり筋肉ついてるじゃない!! ポイント高いわ~!」
・・・・・
「なんなんだ、あれは……」
おばさんたちの嵐が過ぎ去り、レミケイドは石畳に膝をついた。昨日メトトレイの治療を受けた直後より衰弱しているように見える。混乱の隙をついてありとあらゆるところをまさぐられたらしい。
「ここのおばさんたちって、恋バナが好きなんだよね。全然そういうのじゃなくてもそういう話にして盛り上がるんだよ。
私、しばらくエヌセッズに新しく入った女の人と付き合ってることにされてたもん。ひどいとボルターとその人と私の三角関係だとか言われてたな~。ボルターはどうでもいいとして、女同士だよ? すごい想像力だよね、どうしたらそういう話になっちゃうのか……」
「……正気の沙汰じゃない」
震えるように首を振ったレミケイドが小さくつぶやいた。
あらぬ噂をたてられて迷惑をかけると言っていたメトトレイも、これを警戒していたんだろう。
短い間ではあったがメトトレイもかつてはここで暮らしていたのだから、おばさんたちの洗礼を経験したことがあるのかもしれない。
エヌセッズのギルドへ先に顔を出したが、ボルターは来ていなかったので、その足で家に向かう。
家の中から、楽しそうな声が聞こえる。
玄関を開けると、異様な光景が広がっていてセリは目を疑った。
「だからセリはこうだろ? 『女王様の名において、あなたに鞭打ちの刑を言い渡しますわ!』 どうだ! 俺のが一番だろ!」
「ちがうのよ! しぇりは『いたいのいたいのおしおきよ』っていうんだから!」
「僕が見たセリ姉はそうじゃなかったよ……っセっ!? セリ姉!?」
レキサがセリたちに気づいて、顔を真っ赤に爆発させた。
ボルター家の一同は、なぜか三人がそれぞれセリのエプロンを装備して、なぜかムチを持っていた。
これは一体、なんの儀式なのだろうか。
「……正気の沙汰じゃない……」
レミケイドがつぶやいた言葉にセリも激しく賛同した。
「お、帰ったか。今な、誰が一番セリに似てるかコンテストをやってたんだ。せっかくだ、投票してくれよ」
「……私じゃあないと思うよ、それ……」
「はあ!? んなわけねえだろ! まあ人間、自分のことがいちばん見えねえもんだもんな。よし、客人に決めてもらおう。この中で誰が一番セリに似てる?」
半泣きのレキサを取り押さえたまま、ドヤ顔で決めポーズをするボルターとロフェを横目に、レミケイドが視線だけでセリにおうかがいを立てる。
セリは表情だけで、適当に返事しといてと合図を送った。まともに相手をするだけ無駄だ。
「まあ、無難どころで、こうだな」
レミケイドはロフェを選んだ。
「ほおら! やっぱりね! ろふぇがいちばんしぇりににてるんだから!」
「くっそぉ! マジか!! 自信あったのに!!」
ボルターが本気で悔しがっている。本当に正気の沙汰ではない。
「あのーみなさん。私、ここを出てディマーズに入ることにしました。だから、みんなとはこれでお別れになります。お世話になりました」
このタイミングで言い出したのは失敗だったかもと思いながらも、セリは半ば無理やり本題に入ってしまった。強引に流れを作らないと、ふざけた話だけで夜になってしまう。
「ちょっと待った。セリ、お前まだ14歳だよな? なら保護者の同意が必要だ。お前一人で勝手に決めんな。それは俺が決める」
ムチをびしっとセリたちに突きつけると、ボルターが毅然とした態度で言い放った。
「だってボルター、私の親じゃないし……てゆうかムチいつまで持ってんの? エプロンも取ってよ、恥ずかしい。しかも、よりによってなんであんたがピンクのフリフリなわけ?」
「ふざけんな! 何様だ? 一人で大きくなったような面しやがって! だいたいなあ! 急に人にものをぶつけて飛び出したと思えば朝帰りしやがって! しかも帰りは男連れか!?
俺はお前をそんなふしだらな娘に育てた覚えはないぞ!! お父さんは悲しいっっ!!」
「お父さんじゃないでしょ! 私だってあんたの娘になった覚えなんかないわっ! 勝手に悲しんでなさい!!」
「とにかくっ! 少なくとも一緒に暮らしてる以上、俺はお前の保護者であり監督者だ。いきなり無断で男のところに泊まって朝帰りするようなやつに一人暮らしなんて心配でさせられるわけねえだろうが!! うちから通いなさい!!」
「だから!! 無断じゃないし! 宿の人が連絡したでしょ!! それにここからリリーパスの街には片道2日かかるのにどう通えっていうのよ!!」
「あのクソふざけた手紙か!? 『あなたには愛想が尽きたので今夜は他の男の人の腕の中で眠ります』か!? ふざけんな! 俺が何したって言うんだよ!? あてつけにも程があるわっ!!」
メティさん!! なんつー手紙を出してるんですかっ!!
セリは激しく頭を抱えた。よく考えたらメトトレイの手紙に巻き込まれるのはこれで2回目だ。レミケイドが見かねて助け舟を出した。
「彼女と自分は別々の部屋で寝ました。手紙の件はただの嫌がらせでしょう。
彼女は毒に影響されやすい体質です。以前リリーパスで話をした際にディマーズでの訓練が必要と自分が判断しました。ギルドマスターの了承も得ています。彼女の身を案じるのであれば、ディマーズに任せていただけないでしょうか」
レミケイドが懐から同意書を取り出しボルターの前に置く。すでに毒持ちだと言わないでくれた配慮に、セリは思わず胸が熱くなった。
「俺はそんなこと一言も本人から聞いてねえぞ。『俺の方がお義父さんより彼女のこと分かってます』アピールか? ってかやっぱお前と泊まったんだな!?
言っとくけどな、俺はお前にお義父さんなんて呼ばれる気はねえからな!! 俺はお前を息子なんて認めねえ!! 手土産出してきても無駄だぞ! お前なんかにうちのセリはやらん!!」
「ボルター落ち着いて。なんでレミケイドがあんたの息子になるの? そんな話はしてないでしょ!」
「うるせー! お前もドライすぎるぞセリ! 二人を見ろ!!」
ボルターがレキサとロフェを指差す。そこには悲しそうな顔をした二人がセリを見つめていた。
「セリ姉……。もう会えないの? 出てっちゃうの? もう帰って来ないの?」
「やだあ……っ、しぇりいなくなっちゃやだよぉ……っ」
くうっ!! ここに来ての切なさ乱れ打ちが!!
セリは大ダメージを受け、胸を押さえた。見かねたレミケイドが再度ボルターへ交渉する。
「彼女の今後を思うならディマーズに任せてもらいたい。今の彼女はとても脆い。何かあってからじゃ遅い」
「俺はお前と話なんかしねえぞ!
おい、セリ。お前、こないだまでここにいたいって泣いてただろうが。どうなったんだそれは」
ボルターの視線はまっすぐにセリを見据えている。セリはそれを受け止める。
もちろん。そんなの決まってる。
ここにずっといたいに決まってる。
でもだめなんだよボルター。
私が居続けたら、ここが壊されちゃうかもしれないんだよ。
ここを守りたい。
私の大好きな場所を失いたくないから。
だから決めたんだ。
「自分でちゃんと考えて納得して決めたの。昨日みたいに暴れて迷惑かけるの嫌なの。だから……」
「俺たちはお前を迷惑になんか思ったことねえ。馬鹿にすんな。お前がいなくなることの方がよっぽど迷惑だ! もう俺たちはお前の作る飯なしじゃ生きらんねえんだぞ! 絶対出ていくのは断固反対だ!」
言い分がめちゃくちゃだが、横でレキサとロフェが必死な顔で父親を応援している。悔しいけれど、嬉しくて泣きそうになった。
少しだけ、未来の自分を甘やかしてもいいだろうか。
この先の自分が、がんばれるように、くじけないように、ご褒美を用意しても許されるだろうか。
「じゃあ……ディマーズのメンバーとして一人前になれたら。そしたら、またここに戻ってきてもいい?」
毒に飲み込まれることがなくなって、あの人を前にしても自分を失わずにいられて、もしかしたらあの人を毒から救えたら――。
もう、大事なものを失う恐怖に怯えずに済むようになったら。
大切な人を守れるくらい強くなれたなら。
それができた私は、幸せになっても許されるだろうか。
真面目な顔のボルターが念を押すように、確認する。
「よし、じゃあだいたい期間は5年ってとこだな。それで一人前になれなかったらお前にディマーズは向いてないから連れ戻す。そんで改めてエヌセッズで働いてもらうからな。
それともう一つ条件をつけさせてもらう。休暇のたびにうちに顔を出すこと。土産必須だ。別に高いやつじゃなくていいぞ。酒と菓子な」
セリには休暇の概要が分からないだろうと、レミケイドがすぐに説明してくれる。
「心身ともに衰弱する仕事だからな、休暇は必須になっている。数日程度だが年に2回、任意の時期に取得可能だ。家庭のある人間は帰省するケースが多い」
「でも、ディマーズになると身内にも危険が及ぶって聞いたことが……」
以前、インディから聞かされた話を思い出し、セリは口を挟んだ。
「安全のために、休暇をとる人間とは別にサポートをつける。自分は監視されているようで好きではないが。まあ、君がここに帰る分にはサポートは不要だろう」
意味が分からずにセリは首をかしげた。
レミケイドがなぜかボルターを真正面に見据えながらセリに説明する。
「うちのボスがこの町で不当に拘束された出来事があった。救出に向かったディマーズの誰もが、たった一人の男に手も足も出せず奪還できなかった。非常に遺憾な事例だ」
「ああ、あれな。復帰後に相当しごかれたらしいな。少しはレベルアップしたのか?」
レミケイドの言葉に続いて、ボルターが意地悪な笑みを浮かべて口を挟んだ。レミケイドはボルターの言葉を無視して、セリの方へ向き直った。
「ディマーズより戦力が高い保護者がいる場合はサポートがいても出番はないだろう。保護者の人間性の問題は多少懸念材料だが、この町に毒気がないことは前回確認済みだ。君が休養を取るには最も適した環境だと自分も推奨する」
セリにはなんとなくレミケイドが、この条件を飲んでさっさと同意をもらってしまえと言っているように聞こえた。
ボルターの方からもプレッシャーがかかる。
「どうするセリ? その条件を飲むならサインしてやる。それともやっぱディマーズやめてエヌセッズに決めるか?」
自分がここに繋がっていることがナナクサにばれてしまわないかという不安がないわけではない。
でも、ディマーズに入らなければ、どのみちナナクサと対峙することはできない。
答えは決まっている。
セリはまっすぐにボルターの目を見て、はっきりと声に出した。
「ボルター、サインして。私、ディマーズに入りたい」




