鎖をあげる
『ーーープリンセスは王子様がむかえにきて救われる・・・ーーーFin』
図書室で一人、絵本を閉じてため息を着く。自分が男であるばっかりにお姫様にもなれないし、誰かを迎えに行く運命があったのなら拒絶せざるおえない。
僕は地味で根暗な高校生、読書感想文が夏休みの宿題だなんて世も末だ。今年はスケジュール通りに学校のカリキュラムが終わらず、全校生徒の就職率98%の我が校は宿題が全て小学生レベルになってしなった。
現実逃避したくて絵本を選んでみたがどれもこれも今の世界を逆に嫌なものとして写すかの如く美しく嘘くさい。絶望で顔を塞いだ。
ギッ・・・
隣の席に誰かが座ったようだ。無視してふて寝してると髪をガシッと掴まれた。
いくら地味でも睡眠妨害を許せない、相手に取っ組み合いの構えで起き上がると、生徒会長くんが眼鏡をカチカチしてた。
生徒会長はこの学校きっての腫れ物、吹き出物、外れ物で、多分彼しか校則を守っていない。彼は7:3に髪を固め、腕の角度にこだわりがあるのか垂直にしか腕を動かさない。ロボットパルタ呼ばわりされてること、知ってるのかな。
「デコ眼鏡、何の用だ」
「校則違反です。なんですかこの髪の色は。汚い紫もあったものですね。」
染め戻しのし過ぎで髪に色が入らなくなった紫、それが僕の髪色。チリチリで来るものを拒む僕の鳥籠。
「僕を捕まえていい気になったつもりかよ、その汚ねえ手を俺からどかしな」
「汚いと言われたら尚更外せません。君を矯正します。」
僕は奴に髪を掴まれたまま職員トイレの個室に押し込まれた。
奴のベルト、よく見たら道具が沢山ぶら下げられており、刃物が混じってて唾を飲む。
「校則を守らせるために髪を切るのかよ」
「いいえ私は切りません。しかし切るまでずっとこの個室の中ですよ。」
ドア側に奴がいるので開けられない。力ずくで押そうにも何故か生徒会長が跳ね返ってくる。よく見たらベルトをドアに固定しており、ドアの鍵の前に覆いかぶさっていた。手馴れてやがる。
汗が床を覆い始める。お互い限界に近く、顔が触れ合う距離のため熱気や湿ったぬるい吐息が容赦なくお互いを苦しめる。頭がぼーっとしてきて、気がつけば奴のポロシャツで汗を拭いていた。
「辛いだろう?」
「わーった、切るからそれ貸しな」
手を伸ばした瞬間手錠を嵌められて上に釣り上げられた。
「!?」
「この学校は治安がとても悪いです・・・なのに僕が生徒会長になれたのって、私の見た目で皆さん余裕ぶっこいちゃってるからなんですよね・・・刃物なんか渡したら私が危ないなんてこと予想つきますよね」
畜生・・・髪を切ることを同意させるための罠だったのか。僕は頭に血が登り暑さもあり動けば動くほど自分が苦しいので大人しくじっとすることにした。トイレの便座を上げる。そこに僕だった髪がどんどん投げ込まれる。玉入れの分量で積もった髪は定期的に流されて糞と尿に混じって行った。
僕は髪が見たくなくて目をぎゅっと閉じて耐えた。冷たい機械の先端が額に触れる。バリカンだと瞬時に覚った。何度となく僕の頭上を走る芝刈り機、飛び散った髪は元々汚いトイレのため大して目立たず、耳の周りを調髪する際に鋏や櫛で弄ばれて変な声出してしまい威厳も底をついた。
最後綺麗なシルクのハンカチで辺りを拭かれ、汗だくの個室から開放された。
トイレから出る際に大きい鏡をいつもの癖で見てしまう、変な声が出る。誰だかわからない。僕だった。奴は手を念入りに洗っておりさっきの言葉まだ気にしてるのかと思うと少し気の毒になった。
僕は毬栗より短く切りそろえられた、凶気の桜みたいになってて、ここまで短いと逆に風紀悪くしてるのではと問いただしたところ、
「そんだけ短ければ染めないでしょう」
とのことで、最近は頭の日焼けが日常生活に支障をきたしており、日傘が手放せない。
僕はお姫様にも王子様にもなれないが、一部のニッチな方々の目にとまり、ほしい物リストから物資を受け取ることを本業とするまではあと3ヶ月ぐらいかかる。