ヒロインが婚約者を狙っていますが、そんなことより悪役令嬢は肉が食べたい
人生ではじめて小説を書きました。
誤字、脱字、文法間違い等多いとは思いますが大きな心で許して下さい。
スマホからの投稿なのでみにくかったらごめんなさい。
気楽に読んで下さいね。
うっすら瞼をひらくと白い天井がみえる。
「小林さん!!」
「「「ねえちゃん!!」」」
焦ったような声がする方へ視線をむけようとした私の目に映ったのは、腕からのびた細い管。
「…点滴」
あぁ、記憶が確かなら大きな仕事が一段落したお祝いで社長が超高級焼肉をおごってくれるはずだったのに、、
もう夢にみるほどずーっと楽しみにしてたのに!!
私の身体にお肉が取り込まれるのを!!!
なのに、今私の身体に入ってきているのは点滴…
目じりからすーっと一筋の涙が流れる。
「私の身体に必要なのはお肉なの…」
ほとんど音にならない声で呟いたのを最後に、私は意識を失った。
◇ ◇ ◇
「お嬢様、ローストビーフは何枚切り分けましょうか?」
そんな前世を思い出したのは、目の前で公爵家おかかえの料理人が肉の塊から、芸術品のようなローストビーフを切り分けてくれている姿をみた時だった。
「しゃ、しゃんまい(3枚)」
溢れてくる記憶に思わず食いぎみに噛んでしまいながら答えた私はアプリーナ公爵家の末っ子、リンコ=アプリーナ7歳。
いや、7歳で噛んだだけですんだんだから、よくやった私、グッジョブ私!
「リンコは本当にお肉が好きだなー」
「ほら、この鴨のローストもおいしいぞ」
なんて家族はニコニコしながら私のお皿にお肉を盛ってくれ、周りの使用人たちもそんな私たち家族に優しい目をむけている。
(ひとまず動揺は悟られていない、かな?)
なんとかパニックで味がしない夕食を終え、お父様お母様お兄様たちにおやすみのキスをし、湯あみをおえ、私付きのメイドにお手入れをされて1人になった部屋で鏡をみる。
この世界では公爵家の子どもといえど1人になる時間はあるみたいだ、まぁもともとこの世界は設定ゆるゆるの乙女ゲームの世界なのだが、、
そう、この世界は乙女ゲームの世界なのだ!!
そして、私はそのゲームに出てくる悪役令嬢のリンコ=アプリーナなのだ!!
こんな短時間にそこまで思い出したのは、何を隠そう前世の私がそのゲーム[ショコラに魅せられて]の開発の関係者だったからだ。
[ショコラに魅せられて]通称[ショコ魅せ]
「あなたと甘い毎日を」をテーマに
スイーツに溢れたドルチェ王国の学園ドルチェを舞台に、平民ながらスイーツ作りの才能を認められたヒロインのショコラちゃんが数々のイケメンスイーツ男子たちを攻略していくゲームである。
スイーツに溢れているとは言え、チョコレートが存在しなかったこの世界にはじめてチョコレートをもたらしたのがヒロインのショコラちゃん。
前世を思い出してもチョコの誘惑とは抗えないものがある、私の弟たちもはじめてチョコを食べたあとのスーパーでの「チョコ買ってー」攻撃はすごかったなー。
あっ、つい思い出に浸ってしまった、そんなわけでこのゲームの中でもはじめてチョコレートを食べた攻略対象者がどんどんヒロインに魅せられていくのである。
そのチョコレートには不思議な力もあり、その力が判明したあとは攻略対象者と魔王を討伐するなんておまけストーリーもあるが、ごくごく普通の乙女ゲームである。
開発元の「あわよくばコラボカフェ」を狙った意図が見え隠れはするが横においておこう。
普通の乙女ゲームである。
である。あるのだが、
ものすごい人気が出た!
社会現象になるほどに!
斜め方向に!
「ゲームに出てくる肉料理がとにかく美味しそうでした。」
「飯テロ乙」
「深夜にしてはいけないゲームNo.1」
「ヒロインが作ったお弁当を彼氏に作ったら大成功でした。」
「画面から匂いがただよってきました。」
スイーツどこいった。
ショコラちゃんが中庭で攻略対象者に渡すお弁当に入っている唐揚げやミートボールをはじめとする庶民的な肉料理たち。
(そのあとデザートに出すショコラスイーツがメインなので、お弁当は一瞬しか出てこないのだが)
かたや幕間でナイフとフォークを手にヒロインにどのような仕打ちを行おうかと企む悪役令嬢の口元にはこばれる高級肉料理の数々。
学園生活で数回ある舞踏会では並べられたスイーツの角にこっそり映る口直しの簡単に食べられるハムやソーセージ。
それらの肉料理は
本物より美味しそうとあっと言う間に話題になり
ヒロインの作ったお弁当は
#ショコ魅せ #作ってみた
とSNSをにぎわせ、「彼氏の胃袋をつかむお弁当」とレシピ本まででる始末。
公爵家の豪華な料理や舞踏会で出された料理は、有名ホテルでビュッフェに出され
本来の思惑のコラボカフェどころか、全国展開のハンバーグ屋やお弁当屋とのコラボも展開されたのであった。
で、その数々の料理のグラフィックを担当していたのが、この世界に来る前の私だったのだ。
ゲームのストーリーやシステムには何も関わる事はない、ただただ背景の料理を描いていく仕事、もうこんな状況になってごめんなさい、大人気の絵師さん、イケボの声優さんたちより話題になってごめんなさいと恐縮する日々をおくっていました。
ゲーム開発チームのみなさんには、よくやったなんて声をかけてもらったのだけど、、
ここで私がなぜ肉料理にただならぬ執着をみせるか少し話をしよう。
というほど大層な事はないのだが、ぶっちゃけお金が無かったのだ、
いや、きちんと大学を出て社会人を送ってるから無いという言い方も違うか、
中学校にあがる時に父親が病気で亡くなり、女手1つで私と弟たちを育ててくれた母親も私が大学を卒業した年に病気で亡くなった、ふたりとも保険をかけてくれてたので今すぐ住むところや生活がどうと言う事はなかったのが、私の弟たちと言うのが6歳下の食べ盛りの16歳の三つ子、
会社の年配のおじさまたちには下に三つ子の弟がいることから「よっちゃん」なんて呼ばれていたが、弟たちはとんちんかんなこともなく各々スポーツや勉強などで、しっかりとした高校生活を送っていた。でもとにかく食べ盛り!食べても食べても、おまえたちの胃袋は宇宙かと言いたくなるほどだ、それでもかわいい弟たちの進学費用をためながら、食卓に並ぶ肉はひときれでも弟たちに。
仕事終わりにお肉奢るよなんてお誘いも、帰って家事があるからと断り、良かったら夕飯にと差し入れられたコロッケ12個も4人で3個ずつじゃなく、「お姉ちゃん食べてきたから」と3人で4個ずつ。
なかなか、大好きなお肉をお腹いっぱい食べる機会もなく、ゲーム開発中もスイーツなら食べる機会もあったけどお肉はあくまでおまけ、参考資料に取り寄せることもできず私のお肉熱はゲーム内の肉料理へむけられ、結果美味しそうな肉料理がゲーム画面に並ぶことになったのである。
コラボがはじまってもその仕事をするのは企画担当者たちで、特に私が関わることもなく、[ショコラに魅せられて~nextseason~]の開発チームで忙しい日々を送っていた、そんな中で無事配信がはじまりほっとしたところで
多分、、過労だろうなー。
あの日焼肉を楽しみにしすぎて昼食抜いたのもあるんだろうな、オシャレな職場のフロアの中心にある螺旋階段を踏み外し、病院に運びこまれ点滴を見つめながら生を終えたようだ。
残された弟たちのことも気になるが、あんなに早くに亡くなるならもっとわがままにお肉食べれば良かった…。
いつも誘ってくれたのに一度も一緒に食べに行けなくてごめんなさい。
あぁ鏡にうつる自分の顔がぼやけてくる。
そのままどれだけ放心していただろう、涙をぬぐうと「パシッ」と頬を両手でたたく、気合いいれすぎて真っ赤になったけど。
「毒林檎と呼ばれた悪役令嬢に転生したのはあれだけど、公爵家!美味しい肉料理を満喫して、あわよくばショコラちゃんと仲良くなって、お弁当もいただこう!」
拳を血がにじむほどグッと握りそう心に誓ったのだ。
その誓いもむなしく心が痛み肉が食べられない日々が来るなんて、その時の私は思ってもいなかった。
◇ ◇ ◇
私が記憶を思い出してから10年、私は17歳になった。
シルバーに輝く髪はゲームに出ていた時のような腰までのロングではなくあごラインのボブにしている。真っ赤な少しつり目の丸い大きな瞳に真っ赤に艶やかな唇、頬も自然な赤みをしている。小さい時はお兄様たちに「林檎ほっぺ」なんて言われてよくツンツンされていた。
何もしなくてもくるんと上向きのばざばさのまつ毛は瞳の周りに影をおとし何か憂いているようだ。
そんな瞳の先には現在ヒロインショコラちゃんに「あーん」とお弁当の唐揚げを食べさせてもらっている私の婚約者マクシミアン様の姿がみえる。
マクシミアン=ドルチェ17歳。
この国の第2王子で[ショコ魅せ]の攻略対象者の1人である。
眉目秀麗、文武両道、THE王子な王子さま。
黒髪碧眼の整ったお顔に学年トップの頭脳だけでなく、トップとはまだまだ大差があるが学生ながら剣の腕前はこの国No.2の実力がある。
王子とは思えないゴツゴツとした手にはその努力が刻まれているを私は知っている。
マクシミアン様と私は10歳の時に婚約を結んだ。
はじめてあった時に「庭園をみよう」と手を握られ、嬉しくて顔を真っ赤にさせて手を握りかえしたのは遠い思い出だ。
「真っ赤な林檎みたいでかわいい」
マクシミアン様はそう言って輝く笑顔をみせてくれた。
けど…
それから7年、だんだん遠くなるマクシミアン様との距離に私はどうすることもできず、今では手を握ることもなく、16歳のデビュタントではエスコートもしてもらえず、1人美味しそうな料理に手もつけずに壁の花として過ごしたのだ。
私はマクシミアン様と婚約を結んだ10歳からあんなに大好きだったお肉料理が食べられなくなっていた。目の前に並ぶハムやソーセージを見ても重たい気持ちでため息が出るだけだ。
そして今現在中庭でヒロインに唐揚げを食べさせてもらっているマクシミアン様を見ながら自分がとても険しい顔になっているのがわかる。
そんな視線に気付いたふたりがこちらに顔を向けた。
マクシミアン様は一瞬「しまった」という顔をしたが、その横でショコラちゃんが気づかれないように口元をニヤッとゆがめたのがみえた。
私の存在に気付いたマクシミアン様の護衛の3人が私たちの間に壁を作る。
それをみた私は大きなため息をつきながらその場を後にするのだった。
ヒロインのショコラちゃんは現在16歳、ミルクチョコレート色の肩下までのふわふわの髪にチョコレートブラウンの瞳。本当にチョコレートや砂糖菓子で出来ているんじゃないかと言うふわふわした雰囲気の庇護欲そそる女の子。ゲーム開発チームの上司の好みど真ん中だ。確か奥さんがこんな感じだったなー。
ちなみに悪役令嬢の私は、いつも食事に誘ってくれていた同期の好みど真ん中らしい。いまさら確かめるすべもないのだが。
とにかくこの学園にショコラちゃんが入学してきたのは1年前。
私は幼い時の誓いを達成すべく仲良くなる努力はしたのだが、うまくいかず、それどころか
「きゃっ!!」といいながら私の橫で転けること数回。
ショコラちゃんの教科書の表紙が破られていたり、スイーツ作りの実習で使うエプロンがはさみでズタズタになったのは私が犯人だと言う噂がまわっているそうだ。
ある時は私に直接話しかけてきたこともあった。
(学園内は身分の差がないのでマナー的にはオッケーなのだ)
「リンコ様ひどいですぅー。マクシミアン様の頬にある傷ってリンコ様がつけたって聞きましたぁー。なんで婚約者なのにマクシミアン様を傷つけるんですかぁ?」
と、
そのことに関しては事実でもあるので、私は何も言えず曖昧に微笑むしかなかった。
そんな私の笑みをみて
「悪役令嬢こわっ!どうせなら私を傷つけてくれた方が話進むのに」
と、ボソッと呟いたのが私にだけ聞こえたのだった。
そんなこんなで私はもやもやした気持ちをかかえながら毎日を過ごしている。
中庭でのお弁当イベントはレシピ本を出せるほど目撃した。
ショコラちゃんが私とぶつかったと言うことが増えるとマクシミアン様の周りには護衛が増え、今現在この国が平和とはいえ騎士団の、第1~第3隊の隊長たちがマクシミアン様の護衛につくほどだ。
隊長たちよりも実力はマクシミアン様の方が上なのだけどね、、
それとは反対に私の周りからは人が減り小さい時から私の癒しだった公爵家で飼っているモフモフの犬ですら、私から引き離された。
いつまで、こんな生活が続くのだろう。
◇ ◇ ◇
それからしばらくたったある日、その事件はおきた。
学園の階段の上で反対の壁にかけられた時計の橫にある、学園名物の波打つ壁をぼんやり眺めている私の橫で
「悪役令嬢仕事してくれないから、自分で飛び降りないといけないじゃないの」
と小さく呟いた後
「キャー」
と大きな悲鳴をあげながら階段から飛び降りたショコラちゃん。
思わず手を出してショコラちゃんの手を掴もうとした私は、いつの間に駆けつけたのか階段の下でショコラちゃんをうけとめるべく両手を広げるマクシミアン様が私をみながら険しい顔をしているのをみて、その手をひっこめるのであった。
悲鳴をきいて集まる人々、最近私の周りに人がいなかったのでこんなに囲まれるのは久々だ。
あぁ、こんなに目撃者がいたらもうごまかせない…
私はこのあと起こるであろう色々を想像し、顔を青くするのであった。
◇ ◇ ◇
階下にはマクシミアン様に抱きかかえられ、顔を赤くしているショコラちゃんがいてこんな状況なのにうらやましくなる。
「リンコ様に落とされて怖くて怖くてぇ」
と上目遣いでマクシミアン様に訴えている。
マクシミアン様は階段の上で立ち尽くしている私に目線を向けると小さくうなずいた。
それを見て私はあきらめた表情をうかべながらも背筋を伸ばすのであった。
ケガがないとわかったので、地におろされたショコラちゃんは私に今までされたと言うことを泣きながら話している。
昼休みと言うこともあり、周りには先ほどよりたくさんの生徒が集まり、階段がまるでステージのようだ。
ショコラちゃんの訴えを右手で制し、階段をのぼりながらよく通る声でマクシミアン様が話しはじめる。
「今ここで」
周りのざわめきが止み、生徒たちがマクシミアン様に注目する。
ショコラちゃんは下をむきながらも
「きたっ、断罪イベント」
なんて周りにきこえないように呟いている。
マクシミアン様は続ける。
「ショコラの勘違いを正そう!!」
「へっ?」
ショコラちゃんも周りも何を告げられてるのかわからないと言う顔をしている。
「勘違いなんかじゃないですぅ、私本当にリンコ様にっ」
「いや、勘違いだあの時計の橫の波打つ壁をみてみろ」
マクシミアン様はくるりと後ろを向き時計を指さす。
「リンコに階段上で押されるとあそこまで飛ぶ(物理)」
「「「???」」」
「実際目でみないとわからないだろうな、おいっ」
その呼びかけに第1隊の隊長が私の橫に出てくる。
その姿は前世でいうアメフトのような格好だ、頭までがっちりガード。
「リンコ様お手柔らかにお願いします。」
「そっと、そっとしますけどケガしたらすいません」
私は謝りながらそっと、時計に向けて隊長の背を押す。
その瞬間
ドシン!!
と大きな音とともに、隊長が波打つ壁に重なるようにめり込んだ。
『!!!!!!』
「いやー、相変わらずすばらしい!」
壁からジャンプして隊長が降りてきた。
ケガがないようでほっと息をはいた私にむかいながらマクシミアン様はまた喋り出す。
「リンコはとてつもなく力が強いのだ、階段上で押されて無事なわけがない。ちなみに波打つ壁は階段上で私がうっかりリンコに抱きついた時に飛ばされた跡だ」
周りはシーンと静まりかえる。
私は真っ赤な顔を両手で抑えうつむくしかない。
「階段から押されたのは私の勘違いかもしれません、でっでも、今までも廊下でっ、それに教科書やエプロンやっ!それに落ちる私に差し出した手をひっこめるような人ですよ!」
ヒロインつえーな、
壁にめり込んだ隊長を見なかったことにしてショコラちゃんは上目遣いでまた訴える。
それにこたえるマクシミアン様。
「先ほど見た通りリンコにぶつかるとケガをする、そんなことはしないが万が一リンコが教科書をやぶくと背表紙から破ける、真っ二つだ、力が強すぎてハサミをつかえない、切るだけだと爪の先で十分だ」
なおも続ける。
「さっき落ちる君をリンコがひっぱれば肩が抜けていただろうな、後ろに飛んでいったかもしれない、それを危惧した私が目線でリンコを止めたのだ」
あぁ、もう恥ずかしくて顔をあげられない。
◇ ◇ ◇
[「私の身体に必要なのはお肉なの…」]
前世の私の最期の言葉を斜め上に解釈した神様。
「私の身体に必要なのはお肉(筋肉)なの」
よくわからないチート能力を私につけてくれた。
記憶を思い出したあの7歳の日から、私の身体はお肉を食べるほど筋肉の密度が増えるようになった。
筋肉がついてごつくなるのではなく密度があがるのだ、前世で読んでた大好きな漫画のあのこのように。
見た目は華奢なこの腕の皮膚の下には人の何十倍という筋肉がある。
記憶を思い出したあの日、パチンと軽く叩いた頬が赤くなったのも、握りしめた拳から血が出てたのも、あの日のローストビーフや鴨肉のローストが私の筋肉へとかわりはじめたからだったのだ。
マクシミアン様にはじめてあったあの日、すでにお肉の筋肉変換開始から3年、気を付けていたのに嬉しくてマクシミアン様の手を握りかえした瞬間
『ボキボキボキ』
マクシミアン様の指の骨が折れた。
そんな大変で痛い状況の中でも
「林檎みたいでかわいい」
と私を気遣い、笑顔をみせてくれたマクシミアン様の為に私はお肉を食べるのをやめたのだ。
ちなみにお肉→筋肉の仕組みは神様が夢で教えてくれた。反論する間もなく。
お父様に神様に言われたと転生のこと以外は正直に話したので、私のこの能力は王家はじめ一部にはばれている。
その後も気を付けていても、マクシミアン様を突き飛ばしケガをさせ、手を握って骨を折り。
ダンスで足を踏んだらあながあくかもしれないからダンスは禁止。
デヒュタントはお父様やお兄様たちも私を恐れてエスコートしてくれなかった。公爵家の男たちは軟弱なのだ。
ふいに呼ばれて振り返った拍子に私の髪の毛がマクシミアン様の顔に当たり傷をつけたので(髪の毛一本一本までが鋼のように鍛えられているのだ)腰までのロングヘアはあごラインまで切った。
硬すぎる髪の毛にハサミが入らず自分の手刀で切ったのは思い出したくもない。
何もしなくてもカールするまつ毛はまつ毛自ら腹筋をした成果なのである。
やさしいマクシミアン様は
「私が鍛えてリンコより強くなればいいのだから、リンコは思う存分大好きなお肉を食べればいいよ」
と言って国内No.2になるまで身体を鍛えてくれたけど、No.1の私との差はなかなか縮まらない。
何度も骨折した指のせいで、王子とは思えないほどゴツゴツとした手をしている。
◇ ◇ ◇
そんなことを思い出しながらも、恥ずかしくて顔から手が離せない。
マクシミアン様は話を再開する。
「私としては愛するリンコがちょっと力が強くてもかわいいのには変わりないから隠さなくてもいいと思うのだが、本人が恥ずかしがるのでショコラの勘違いを利用してリンコからみなを遠ざけていたのだよ。」
((ちょっと!?))
周囲の生徒たちは壁のめり込みをみながら、心の中でつっこんだのだ。
マクシミアン様の愛する発言に私はさらに顔を真っ赤にしてその場にうずくまる。
そんな私とマクシミアン様をみてショコラちゃんがまた声をあげる。
「でっでも。マクシミアン様は私と会うときは護衛をつけてリンコ様を牽制して、わっ私のお弁当を美味しい美味しいって、あれって私を好きだからですよね!」
「あーあれね」
マクシミアン様が頬を指で掻きながら照れくさそうに答える。
「君が騒ぐたびに私がリンコに走って抱きつきに行こうとするから、私を止める為の護衛だよ。最初は人数増やすだけだけだったけど、私を止められないから隊長たちまで出てきてしまったよ。」
「私たち隊長3人でも止めるのは難しいですがね」
第2隊の隊長が面白そうに笑う。
「あと、お弁当だがな、リンコが絶対美味しいから食べて感想を教えろと言うからな、そう頼んだのにお弁当を食べる私を恨めしそうにみつめるから大変だったよ。」
そう、あのお弁当を食べられないのが悔しくて険しい顔になっていたのだ、でも実物のお弁当はみたいと思いふたりが食べてる橫をついつい通ってしまっていた。
「でも、唐揚げあーんはいただけませんよね」
ここで、第3隊の隊長がニヤニヤしながら口を出した。
「しょうがないだろ!あの前日に虫に驚いたリンコに飛び付かれて両腕を骨折してフォークを持てなかったんだから!!」
…そんな大声で叫ばなくても、恥ずかしすぎる色々。
「それに、君がお弁当の後にくれるデザートのショコラに身体強化の力があるのがわかってね、悪いと思ったがリンコに釣り合う力を得るために利用させてもらったよ。すまないね。」
しれっとひどいことを言っている。
ポカーンとした顔で空気になりマクシミアン様の話を聞いていたショコラちゃんが『身体強化』の言葉にハッとして声をあげる。
「そっ、そうだ私の身体強化のチョコレートでこのあと脅威になる魔王を倒さないといけないんですよ!」
焦ったショコラちゃんはこの世界で普通に生活していれば知らないはずの情報を叫んでいる。
今までは転生者だろうとわかる小さな呟きも、筋肉が発達しすぎてよく聞こえる私の耳でしかひろわなかったのに、みんなの前で言ってしまっている。
しかしそのことには触れずマクシミアン様は話しを続ける。
「魔王ね、、魔王は、、1年前にリンコが倒したよ、、」
『へっ!?』
みんなの声が揃った。
「リンコが公爵家の庭で犬と遊んでる時に、ついうっかり豪速球で投げたボールがはるか彼方の魔王の急所に直撃してな、、一発だったよ、なっ?」
「はい!魔王が住む居城の空気がかわったので、調べにいくと魔王は消滅しそこに公爵家の紋様の入ったボールが転がっておりました。」
第1隊隊長が答える。
「魔王がいなくなったので、私たちが護衛につくことが出来るほど平和になったのです。」
第2隊隊長が続ける。
そう、それから私は大好きな犬と遊ぶことを禁止された。モフモフも犬を傷つけたらいけないので出来ない。
それどころか私のオーラを感知した動物たちは遠くで降参のポーズをするので近づくことも出来ない。
「さて、そんなわけで君の勘違いは証明されたかな?、集まったみんなもあくまでも勘違いを正しただけだから、リンコが恥ずかしがるし今日知ったことはあまり口外して欲しくないのだが」
「約束してくれないと君たちの家にボールが飛んでくるかもよ?」
いい笑顔でマクシミアン様が告げる。
(飛ばさないわよ)
色々思うところはあっただろうが、昼休みも終わりが近づき生徒たちはその場から教室に戻った。
恥ずかしい思いはしたものの、このまま平和にこの場がおさまると思ったのに、ここでまたショコラちゃんが爆弾を落とす。
「もう、悪役令嬢が筋肉ムキムキなんて聞いてないわよー。私はヒロインなのよ! こうなったら神様呼んで文句言ってやる!」
その言葉に、顔から手を離し私はショコラちゃんを見つめる。
顔の赤さもあっという間にひいた。
マクシミアン様も素で驚いた顔をみせた。
「神様を呼び出せるのか?」
「あたりまえじゃない私はヒロインなのよ!」
そう言い、いとも簡単に神様を呼び出し文句を言うショコラちゃん。
橫から口出すのもなーと思いながらおずおずと私は神様に話しかける。
「あのー神様?」
『おっ、お前は筋肉ムキムキになりたいと変わった願いをかけた娘ではないか』
「してません!」
そこから、丁寧な説明とお願いをへて私のこのとんでもチート能力は筋肉とともに消されることになったのだ。
『そっかーおかしなお願いだと思ったんだよ、でもこれからは運動しないと食べただけ太るから気を付けてね。ヒロインちゃんも愚痴ならまた聞くよーでもあと2回ね!じゃあねー』
神様はいい笑顔で消えていった。
◇ ◇ ◇
ぐっと拳を握る、血が出ない。
カールしていたまつ毛は下にさがりちょっと前が見えにくい。
私の前に立つマクシミアンの背中にそっと手のひらをあててみる、飛んでいかない。
「ちょ、力なくなったって聞いても背中押されるとびっくりするよ」
笑いながらこちらを向きマクシミアン様が抱きしめてくれる。
そっと抱きしめかえしてもマクシミアン様の腕は折れない。
「あぁ幸せだなー。」
私もそうだと返したいのに涙で言葉が出ない。
「なんか私馬鹿みたい、マクシミアン様にもお弁当作って損しちゃった」
雰囲気ぶち壊しの声が聞こえ、ふたりで苦笑しながらそちらを向く。
色々あったけど私はショコラちゃんが嫌いではない、ずっと心のなかでちゃん付けで呼んでたくらいだ。転生者ながらあのゲームのなかのお弁当を再現できる彼女を尊敬してしているぐらいだ。
チート能力がなくなった今、本当に仲良くなってお弁当を一緒に食べたいくらいだ。
それになにより出会った時からまっすぐ気持ちを向けてくれるマクシミアン様、年々物理的な距離は遠くなったけれど精神的には近くにいてくれて不安にならないようになんでも話してくれたので、ショコラちゃんに対する脅威はそんなになかった。
私の気持ちを重くしたのはショコラちゃんのお弁当をはじめとするお肉が食べられない日々が原因だったのだし。
そっと橫を見る、
『お前すっげー男前だから王子のキャラデザお前の顔参考にしようぜ』
『やめて下さいよ』
そんな冗談から決まった前世好きだった同期の顔に似たマクシミアン様。
10歳のあの日、一目で心をわしづかみにされ、制御を忘れて強く握りかえしてしまったのだ。
前世に戻ることは出来ないけれどこの世界で
「あなたと甘い毎日を」これから過ごして行けたらと願わずにはいられない。
◇ ◇ ◇
「ねえリンコ、今日は帰りに美味しいハンバーガー食べて帰らない?」
「はいっ!喜んで!ハンバーガーは何個まで食べてもいいのですか?」
「いくらでもどうぞ」
「ありがとうございますマクシミアン様」
「その、マクシミアン様ってのやめて、そろそろマックって呼んでくれないかな?」
ずっとお願いされていたことをふいに口に出され、フムと考える。
「はい、今まではマックと呼ぶとハンバーガーが食べたくなるから呼べなかった、、いや何でもありません。これからはマックと呼ばせていただきますね。」
「だと、思ってたよ」
小さな呟きはハンバーガーの種類を思いうかべる私には聞こえない。
ルンルンと、階段をおりて教室に向かう私をみつめながら
「はじめて、誘いが成功した」と感無量で呟くマクシミアンの言葉や
「ねえちゃんやっと、肉くえるなー」
「最期の言葉があれだったもんな、俺結婚しても孫が出来ても『肉たべたーい』ってねえちゃんが何回も夢枕にたったよ」
「俺も」
「それにしても」
「この話にスイーツほとんど出てこなかったな」
「設定ゆるゆるだしな」
と遠くで話す3隊長の言葉は、耳の筋肉がもとに戻ったリンコには届かないのであった。
おしまい。
筋肉は重いので、今までお姫様抱っこが出来ませんでした。(男女逆なら可能)
階段下で抱えられたヒロインがうらやましかったのはその為です。