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死した竜の物語  作者: 獅子貫 達磨
第四章 帝国を目指して
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44話 逆転の一手

本日二度目の斬首刑。

ただ、最初と同様にヴァゴスの計らいで心臓を喉元に移動させているおかげで気絶は免れている。

っと、回転する視界の中でも死神が踵を返してこっちに向おうとしているのが見える。

さっきは切り落としたところで満足して頭だけの俺達から反撃を受けたからな。

頭が本体と割り切って反撃の態勢を整える前に追撃をして止めを刺そうって腹積もりなんだろう。

妥当な判断だ。

妥当な判断だが、今回に限って言えばそれは悪手だぜ。


こちらに向き直ったて事は、つまりは頭が切り落とされた俺の体に背を向けたって事だ。

そんな死神の背中に向かって骨の杭が射出され、死神の背中に突き刺さる。


「ケッケッケ。どっち見てやがる。」


振り返った死神の視界の先では俺の頭が再生して(・・・・・・・・)そう口を開く。

心臓を狙う予定って聞いてたけどやっぱり無理だったみたいだな。

咄嗟の奇襲でも寸前に察知されて致命傷を与えられない。

さっきの生首で奇襲したときと一緒だな。

奇襲ですら完全に成功と行かない辺り、かなりの実力差を感じるね。

再生した頭が喋ると同時に再度骨の杭が射出され、振り返ったばかりの死神の腰に刺さり吹き飛ばした。

そのまま俺の体(ヴァゴス)も吹き飛ばした死神へと積極的に飛び掛かっていく。

あっちの身体に俺がいない以上は接近戦インファイトしか出来ることがないから仕方ないね。


向こうの様子を見ている間にそろそろ地面に頭…つまり俺が落ちる。

落下と同時に首から下の最低限の再生が始まる。

さっきヴァゴスが身体に施したのと同じで、落下をきっかけに軽い再生だけを仕込んでもらった。

あくまで魔領法で移動するときに動きやすいようにする為に方向制御用のヒレみたいな物を生やすだけの最低限の再生。

もうオドも少ないから無駄遣いできないしね。


さて、向こうは一見ヴァゴスが有利そうに見えてるが奇襲に成功しただけだ。

俺は俺のやるべき事をしないとな。

実際のところ、有効打を与えても再生されるし、今の俺の体には俺がいない。

つまりヴァゴスにオドを供給する存在がおらず、事前に作った以上の骨の杭をヴァゴスは創れない。

その内の一本を背中に向かって射出して、その後に腰に刺して吹き飛ばした。

既に二本消費してる事になる。

うかうかしていると杭が尽きて本当にヴァゴスの打つ手がなくなっちまう。

…まだ一回も使ったことがないから不安だけど…。

思った通りの効果であることを祈ろう。

まぁ、祈るべき対象に近い存在に襲われてる現状だけどさ。


自分の持つ能力と加護に意識を集中する。

意識するべきは『隠匿存在』とおそらくそれの素になっているであろう『謀なるメルロイの隠加護』。

……意識してどうやって使えばいいんだ?

そういえば自分から意識した加護を使うのは初めてだ。

持ってる他の加護って何も考えなくても発動するものが多かったし。

吸血とかは自分の意志で使うものだったけど、その名の通り他の生物から血を吸うだけだったから使い方なんて考えなくて良かったけど。

意識意識意識……。

クソ、時間ないんだぞ。


意識意識……。

自分の中に深く潜る感覚。

なんとなくヴァゴスが体の中で蠢いていた時に近い。

ただ、体の中と言うかそれより更に奥のどこか。

力とか命の根源に近いような場所。

そこまで意識が巡った時に身体からゴソッとオドが抜き取られた。

それと同時に身体全身を…と言っても頭にヒレが生えただけの無様な格好の周りを何かで覆うかのような感覚に包まれる。

ヴァゴスに全身を包まれた時の感覚と似ているな。

ただ、ヴァゴスの時と違ってそこまでしっかりと体表を覆われる感覚を感じる訳じゃないし、眼に見える物じゃない。

実際、頭全てを包まれた感覚はあるのに視界ははっきりと見て取れる。

……これでいいのか?

チッ、能力的に効果が発揮されてるかどうか見ただけじゃ分からないな。

ただ今まで感じたことのない感覚なのは確かだ。

検証に割く時間なんて悠長な事は言ってられない。

まだ戦いの続くヴァゴスの方に目をやると接近戦で何とか戦ってるみたいだ。

ただ地面に相当数の骨の杭が転がってる。

あんまり時間もなさそうだし急がないと。

魔領法を体の周りに展開して軽く跳ねるようにしてヴァゴスと死神の方へと向かう。


真正面からの鎌の振り下ろしに対して、ヴァゴスが側面を滑らせるように杭を当ててうまく逸らした。

それに対して逸らされた鎌が地面に刺さる前に空中で軌道を変えて真横から襲い掛かるが、再度杭で鎌の刃の腹を叩いて軌道を逸らす。

が、完全には逸らしきれなかったのか首を浅く斬られた。

傷は即座に再生したから、俺の吸血鬼としての復元能力は俺の意識が無くても体の中で活きているみたいだな。

ただ、切り落とされたりしたらそこからの復活は無理だろう。

向こうの体にオドがない以上、ヴァゴスも再生は出来ないだろうし。

事実、背中から生えた触手は既にいくつか切り落とされた跡がある。

魔領法が使えないから物理的に杭を掴むものを作る必要があったんだな。

にしても、魔領法の腕より脆そうなあんな触手でよくあの鎌の猛攻をいなせるな。

ひょっとして俺が作ってもらった杭を持って戦うより最初からヴァゴスに任せた方がよかったのかもな。

ただ、以前にヴァゴスに言われた剣術の腕っていうのは少しわかった気がする。

俺だと一回か二回打ち合うだけで砕かれたり斬られたりしてたけど、同じ杭を使ったヴァゴスだとある程度は持続して戦えてる。

その差がヴァゴスの言うところの剣術の腕前なんだろう。


さて、身体を跳ねさせて死神の真後ろに陣取れた。

丁度、ヴァゴス、死神、俺と一直線に並ぶ感じだな。

幸いな事に死神はこちらを一瞥すらしない。

多分、隠匿存在がうまく作用してくれてるんだろう。

…そう信じたい。

問題はヴァゴスすらこっちに気が付いてなさそうな点だな。

いや、気が付いてないのか、余裕がないのか、気が付いてるけど無視してるのか分からないけどさ。

ま、何にせよここでヴァゴスに気づいてもらうまで待つって選択肢はない。

そんなことをしてると先に俺の体(ヴァゴス)が滅ぼされて、そのまま俺自体も倒されかねない。

隠匿存在の能力がいつまで続くか分からないけど永遠ってことはないだろうしな。


っと、気を窺っていると死神が何度目かになる突撃を敢行する。

しかも血の刃と同時に。

それに対してヴァゴスがニヤッと笑うと欠けた骨の杭で血の刃を弾く…振りをしてそのまま死神同様に前へと突撃した。

え、大丈夫か?

と思うと同時に両者が激突。

ヴァゴスの持つ骨の杭がきっちりと死神の腹をぶちぬいて背中から血でぬらぬらと光る杭が見える。

ただ、その代償に血の刃の当たった右半身の足は全て欠損し、鎌で大きく肩から心臓にかけて両断されている俺の体(ヴァゴス)

再生できない状態でどうする…ああ、いや、やっぱりヴァゴスは俺に気が付いたが無視してたんだな。

やるなら今ってことか。


なら俺のとる手段は一つだけだ。

千載一遇の機会を逃す訳には行かない。

地面に落ちた欠けた骨の杭を魔領法で拾い生首で咥えて、死神の背中に狙いを定める。

隠匿存在で俺の存在には気が付いていないはずだ。

たとえ気が付いたとしてもその腹を貫かれた状態からじゃ咄嗟に回避は難しいだろ。

魔領法で地面を大きく蹴り上げヒレでバランスをとり、死神へと真っ直ぐ飛び掛かった。

狙いは胸元。

死神の…吸血鬼の心臓ただ一つ。


いつもお読みいただきありがとうございます。

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