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死した竜の物語  作者: 獅子貫 達磨
第四章 帝国を目指して
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43話 分の悪い賭け

クソッ。

視界が回る。

油断した。

こんなに視界が高速回転するのは初めての経験だな。

まぁ、頭が回ってるんだから当り前だけど。


そんな風に考えていると、考える余裕があることに気が付く。

前回…二回目の模擬戦でエヴァ―ンに首を斬られた時は「あっ」と言う間もなく気絶した。


『吸血鬼の気絶は頭と心臓が分断されることが原因だ。

 今回、回避はタイミング的に無理だったからな。

 諦めて斬られる直前に心臓を喉元に移動させる事に専念した。』


ああ、それで心臓と頭が別れなかったから気絶もしないと。

そんな会話をしているとボトッと頭が地面に落ちた。

丁度視界の先に俺の胴体があって、死神が首の落ちた俺の体に刃で追撃しようとしてる瞬間だな。

さっきまでなんとか避けれたが流石に頭が分断されたら遠隔で身体を動かすなんて芸当は出来ない。

動かない竜の身体なんてただのデカい的でしかない。

鎌であっさりと真っ二つに割断された。

と同時に鎌が振り下ろされた瞬間、向こうに残された俺の体から太い骨の杭が一本飛び出して死神の肩を直撃する。

と同時に鮮血が舞う。

貫通したみたいだ。

初めての有効打だな。


『チッ、心臓狙ったんだけどな。

 あのタイミングでも奇襲が効かねぇのかよ。』


ヴァゴスのぼやく声が聞こえる。

残された身体に何かしたっぽいな。


『追撃に合わせて一回だけ反撃できるように身体の方に細工をしたんだが…。

 一回限りだ。

 本当ならあそこから更に棘でも生やしてやりたいが、複雑な命令なんぞあんな短時間じゃ出来ねぇしな。

 んな事はどうでもいい、この隙にさっさと治すぞ。』


治すって言ってもさっきまでと違って首だけしかないんだが。

さっきまでは斬られた面と面をくっつけるだけだったけど。


『復元は元の体がないと無理だ。

 だからさっさと最低限の体を創ってやるから元の体を取り戻せ。』


そういいつつ俺の首の下から肉が盛り上がってくる。

首から明らかに頭部以上の肉が増殖しててなんか違和感があるな。

それにそれに合わせてオドがもりもり減っていくんだが。


『お前は吸血鬼の能力として再生…正確には復元ってのを普段から使ってる。

 今は俺が一からお前の細胞をオドを代償に創ってるからな。

 復元は元の肉体があれば大したオド消費も少なく再生速度も速い。

 だが、今みたいに再生の素となる肉体がない場合の吸血鬼は治る速度がかなり遅い。』


特に級位が低いとな、とヴァゴスが続ける。

成程ね、元の肉体が無くてもヴァゴスがオドを代償に作れるってことか。

かなり燃費が悪そうだけど。


『だから吸血鬼は首を切ったら燃やせって言われるんだよ。

 ま、本来の吸血鬼だと心臓が破壊された時点で詰みなんだけどな。

 取り敢えず動ける最低限だけだ。

 お前の体を全部作り直したらオドがすっからかんになっちまう。

 さっさと身体を取り戻すぞ。』


取り敢えず死神が肩に刺さった骨を抜こうとしているタイミングで首から下に小さめの胴体と足だけが生えた。

これで最低限バランスが取れるだけのパーツが揃ったから後は魔領法で動けるな。

魔領法で手を作ると地面を突き飛ばして反動で俺の体と死神のほうへ飛び上がる。

俺が飛びかかった事に気が付いた死神が咄嗟に鎌を振ろうとするが肩に骨が刺さってるからか、さっきより動きが鈍い。


魔領法で拳、ヴァゴスの能力で創った骨の杭で上下から同時に攻撃をしかける。

怪我して動きにくいならどっちかは食らうだろ?

更にそっちとは別方向の割断された体に魔領法の手を伸ばす。

さて、結果は……魔領法の拳が鎌によってかき消された。

しかし、下側から攻撃した骨の杭はギリギリ鎌が届かず死神の腹に直撃して吹っ飛ばすことに成功する。

よし。

吹き飛ばすと同時に元の体に魔領法が届いて首の断面と再生した身体が接触し瞬時に溶け合った。

一瞬の硬直はあったが直ぐに身体の感覚が戻ってくる。

ただいま…いってぇな、身体真っ二つじゃねぇか。


『まぁ、さっきの攻撃はその真っ二つにされた事の代償に当たった訳だからな。

 さっさと治…避けろ!!!』


言われる前に治そうと集中した瞬間、突然強い衝撃と共に身体が真横に吹き飛ばされた。

チクショウめ、なんだってんだ。

そのまま壁までまっすぐ飛ばされて叩きつけられる。

そして、そのまま地面に落ち…ない?


衝撃のあった腹を見るとさっきヴァゴスが反撃したときに使った太い骨の杭が見えた。

それが俺の体を貫通して壁に縫い付けるようぶっ刺さってやがる。

あー、クソ、抜いて投げられたのか。


グッッ!


更に死神の腹に刺した二本目も飛んできて今度は俺の前足の付け根に刺さって此方も壁まで貫通する。

やべぇ、完全に壁に縫い付けられる感じになったぞ。


杭を飛ばしてきた死神のほうを見ると悠々と歩いて此方に向かってくる。

肩と腹付近の服には大きく穴が開いて血で濡れているが肝心の奥の素肌は元の褐色の皮膚で傷一つない。

再生までするのかよ…。


『なんとなく予測はしてたが最悪だ。

 …まぁ、吸血鬼の神だからな。

 再生位はお手の物だろ。』


吸血鬼の神…そういやそんな事言ってたな。


『ま、あくまで噂だけどな。

 だが吸血鬼の特徴ともいえる紅眼にあの身体能力、それに再生能力だ。

 吸血鬼に近しい何かの神だと思っていいだろ。』


神に近い存在っていうなら別に吸血鬼じゃなくてもそれなりに強いとは思うけどね。


『だが、そんなに実際のイメージと乖離するものを神が司ることはねぇよ。

 地上の民を神が騙す意味もねぇ。』


何にせよ辛いな。

折角の有効打だってのに折角与えた攻撃が消えちまった。

それに対してこっちは満身創痍だ。


『一応あっちも無限に回復できるわけじゃないって信じたいが…。

 それにこっちも別段満身創痍じゃねぇさ。

 オドが尽きかけてるだけだ。』


それだけで十分満身創痍の上にどん詰まりだろうが。

オドがなくなったら俺もヴァゴスも何も出来ねぇってさっき言ってたじゃねぇか。


『まぁな、っと!!』


タイミングを見計らって壁に縫い付けられたと偽装したままヴァゴスが骨の杭を射出する。

死神の攻撃が届くギリギリまで引き付けてから射出された杭は、相手も警戒してたのか難なく回避された。

再生されてしまったとはいえ、こっちが有効打を与えたことでさっきまでよりかはやや警戒してるみたいだな。

奇襲に失敗したことで壁に留まる必要もなくなり、地面に降り立って魔領法を展開する。


『さて、どうするか…。

 真面目に手が尽きてきたぞ。

 お前のオドももう残り少ないことだしな…。』


何か逆転できそうな良い手はないのかな…。


『そんな手があればさっさとやってるぜ。

 こんな相手に手を抜いて勝てると思うほど思い上がっちゃいねぇよ。』


まぁ、そりゃそうだよな。

にしても俺が戦って苦戦してる敵って不死者が多いね。

エヴァ―ンと言い死神(レフソ=ウェル)と言い吸血鬼ばっかだ。

……ん?

なぁ、あいつも吸血鬼ってことは心臓が弱点なのか?


『あん?…まぁ、そうだろうな。

 お前みたいに他の不死性があるかは分からねぇが…。

 ただ心臓を潰すことで間違いなく弱体化はするはずだ。』


それじゃ…っと危ねぇ!

近づいてこねぇと思ったらまた血の刃だ。

芸がねぇな、と言いたいが実際俺はそれを食らって痛い目見てるから馬鹿にできねぇ。

首を飛ばされた時と同様に刃が三つ飛んでくる。

二つは避けて残った一つを骨の杭で弾こうと魔領法の腕を伸ばす。

骨の杭がスパッと両断され、続いて魔領法の腕も切断される。

チッ。

ただ、その二つを切断したことで威力が落ちたのか飛来した刃は俺の体に切傷は残したものの身体を両断するまでには至らない。

魔領法の腕が切り落とされたことでまたオドが減ったけどな!

切り落とされた骨の杭をダメ元で魔領法で投げつけるが、まぁ避けられるよな。


『…で?何かいい案でもあるのか?』


その前に聞きたいんだけど、さっき俺が頭を落された時に身体を動かしてたよな?

あれってどの程度動きを設定できるんだ?


『あれは何かをされたら何かをし返すって反射行動を植えつけれるのが関の山だ。

 ……ああ、成程な。

 お前が考えてるみたいに複雑な行動をさせたいなら俺様が身体に残る必要がある。』


俺の考えを読み取ってくれたようで何より。

こういう戦闘中で時間のない時に言語以外の直接的な思念でやり取りできるのは無駄が無くて助かるね。

で、ぶっちゃけ出来そう?


『あー…まぁ、不可能ではない。

 が、それもその能力がお前の想像通りの効果を出せるならって前提だ。』


だけど字面的に勝算はありそうだろ?

それに他に手がないのも事実だ。


死神が再度鎌を振り血の刃を飛ばしてくる。

今度は五つ。

三つが最大ってわけじゃないかったのかよ!

しかも、刃を飛ばすと同時に俺たちのほうへと突撃してきた。


『……お前と別れて行動するのは不安しかねぇが仕方ねぇ。

 お前が言う通り他に手がないの本当だしな。』


じゃそれで。


『チッ、分の悪い賭けだ。』


正面から飛来する刃の内、二つを避けて残りを魔領法で受け流す。

さっきと同様に魔領法が両断されてオドが消失するが、身体へのダメージは最小限で済む。

ただ、それと同時に飛び込んできた死神の鎌の一刃に対しては咄嗟にしか対応できず、ヴァゴスが骨の杭で攻撃を僅かにずらすだけに留まった。

結果、頭から尻尾まで真っ二つにされることは防いだが返す刃で再び首を斬り飛ばされた。


いつもお読みいただきありがとうございます。

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