38話 能力の詳細
奇しくもこの場で欲しいと思っていた報酬を2つとも手に入れる事が出来た訳だ。
まぁ、後々の事を思うと素直に喜んでいいだろう。
何があるにしても力があって困る事なんてないのだろうし。
ヴァゴスが詳細鑑定の封じられた魔石を手に取ると、今度こそ周りにあった箱は地面に溶ける様にして消えた。
さて、その鑑定の魔石どうする?
『まぁ、さっさと使っちまって良いだろう。
幸いこの魔石を使って手に入るものは知識だからな。
知識は嵩張らねぇからそっちに変換しておくに越したことはねぇよ。
俺様もお前も鑑定じゃ今一パッとしねぇ能力があるからな。』
ふむ。
じゃあそうするか。
「終わったみたいね。」
っと、ヴァゴスと話していると後ろから声がかかった。
振り返るとイザヨイとアカツキが既に近くまで来ている。
返事をしようとするとアカツキが笑いながら話しかけてくる。
「思ったより時間かかってたねー。
ここってガイコツさん達の所でしょ。
そんなのでこの先大丈夫ー?」
む。
最大限、急いで倒したつもりだったんだけどな。
何か言い方的に力の差を感じてちょっと凹む。
まぁ、位階で言うなら2人ともエヴァーン以上だから当たり前なんだろうけどさ。
「アカツキ。
失礼な事言わないの。
それは私達が関与する話じゃないわよ。」
俺が反論…言い訳する前にイザヨイが窘める。
それに対して分かりやすくアカツキは頬を膨らませた。
まぁ、別に俺からは何か言う事は無い。
言ったところで彼女らからすれば時間が掛かったって感じた事実が変わる訳ではないし。
膨れたアカツキを無視してイザヨイがこちらへ再度声をかけてくる。
「報酬も取れたみたいね。
それじゃ、先へ進みましょうか。」
そう言ってイザヨイはスタスタと先へ続く扉へと歩を進めた。
あー、えーっと、それでいいのか?
詳細鑑定の魔石はどうするのか話してる途中だったけど。
『ま、さっさと使っちまっても良い、とは言ったが必ず使わなきゃいけねぇって訳でもねぇよ。
どうせ、またこの先の道中は暇だろ?
それなら俺様が魔石の仕様を確認しておいてやるよ。
つってもすぐ終わるだろうけどな。』
そんな事を言って、直後に『ほらよ』と情報が頭に捻じ込まれた。
急な情報の挿入にウッとなった。
いきなりはやめろよ…情報量が少なかったから驚く程度で済んだけどさ。
取り敢えず引き離されるのは嫌だったし、先に進むイザヨイたちの後に続くことにする。
えーっと、ヴァゴスから渡されたのは……ああ、鑑定結果か。
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名前:決壊魔石:詳細鑑定
材質:
『魔石』
効果:
『詳細鑑定(使い切り)』
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あー……。
うん、特に目ぼしい情報は無いな。
役に立たない鑑定だ、って言うと怒られそうだけど。
『いや、俺様は別段怒らねぇけどな。
これをくれた楽神トープルは怒ってもう加護くれなくなるかもしれねぇぞ?
ま、そんな細かい機微なんて気にしないだろうけどよ。
ただ、お前の言う通り今回の鑑定結果は確かに役立たずだな。』
ふーむ。
んじゃ大人しくイザヨイとかに聞いてみる?
ここの迷宮は何回も踏破してるっぽいし知ってると思うけど。
『ま、それが無難かね。
あんまし借りを作りたくねぇんだが…。』
あの二人はこの程度の事を借りとは認識しないだろ。
と言うかそれを貸しって言ってしまう吸血鬼なら、このルートの情報と途中の付き添いはどんな程度の貸しになるんだか。
そもそも今回俺達に付き合ってくれてるのだって自分たちの移動の序程度としか思ってないような二人だ。
ま、そんな訳で気にしなくてもいいだろうし、取り敢えず聞いてみるよ。
もうすっかり手慣れてきた喉のヴァゴス製の声帯を振るわせて音を出す。
「なぁ、さっきの迷宮主の討伐報酬で詳細鑑定って決壊魔石を手に入れたんだけど、これの効果ってわかるか?」
そう、声をかけると前を進むイザヨイが俺の声に対してチラリとこちらを振り返り、そのまま口を開きつつ前方へと向き直る。
「さっきの階層主の報酬で出たのかしら?
えーっと…詳細鑑定って言うと…。」
「おねーちゃん、この前も拾ったじゃない。
詳細鑑定の魔石でしょ?
じゃあ、能力と加護鑑定の奴じゃないの?」
思い出そうと考え始めたイザヨイに横合いからアカツキが声をかける。
「ああ、そうだったわね……。
私は使わないから忘れちゃってたわ。
えーっと、その詳細鑑定の効果は能力か加護の効果の確認に主に使えるわね。
他にも物へ使うと普通の鑑定よりやや詳細な説明がでるはずよ。
まぁ、自分の能力や加護への鑑定に使う場合は、まず自分がどんな能力や加護を持ってるか認識している必要があるから、そういう意味では効果となる対象はやや限られるらしいわね…。
こんな内容でいいかしら?」
「ああ、充分だ。」
だそうだぞ?
『ふむ。
となると何に使うかって話だな。』
何にって言うと互いにどの能力と加護にって話か?
『ああ、別に何が何でも効果を知りたい物なんざ持ち合わせてねぇだろ?
それなら良く分からねぇ互いの能力の謎を解いておいた方が身の為だ。
さて、えーと、まずは…そうだな。
取り敢えず互いに不明な能力や加護をリストアップしてやるよ。』
俺のだと四尾なる命とかが詳細は分からない能力だったっけ。
他に良く分からない能力ってあんまりなかった気がするけど。
『不老』とかは詳細見なくてもそのままの効果だろうし。
加護にいたっては……よく覚えてないな。
ヴァゴスの能力もあまり覚えてない。
血を固めたりする力はあったの覚えてるけど。
よく使ってるしね。
……今思えば俺の血って加護の力で酸と毒の特性を持つようになったんだよな?
それをヴァゴスの血液硬化で固めて武器にしたら結構強いんじゃないか?
『一考の余地ありだな。
偶にはお前もいい事を考える。
ま、それはさて置き、ピックアップしてやったぞ。』
早いな。
……ま、実際の所、互いにそんなに時間がかかる程に能力も加護も多くないか。
鑑定して順番に見るだけだもんな。
すぐ終わるな。
『まず、お前の能力からだ。
取り敢えず効果が今一つパッとしないのは『四尾なる命』と『隠匿存在』だな。
ただ、正直なところ隠匿存在は幾つかのパターンが考えられるだけで、正直調べたくなる程じゃねぇ。
だから、正直に言うならお前の能力だと一番意味不明なのは『四尾なる命』だ。
こいつだけが良く分からん能力だからな……。
ま、とは言ったところで元なった能力が『連なる命』ってならその系統なんだろうよ。
因みに加護は特に面白そうなものは無かったからパスだ。
お前の場合は大体能力つ繋がっている加護が多いからな。
次に、俺様の能力だ。
と言っても俺様の場合も加護で良く分からねぇのは無いからな。
不明なのは能力の『再現構築』って奴だけだ。
つまり、結論を言うとお前の『四尾なる命』と俺様の『再現構築』のどっちかの詳細を見るって話になるな。』
成程ね。
確かにその二つに絞られるか……。
うーん、それで言うならヴァゴスの再現構築の方で良いと思うけど。
俺の四尾なる命は恐らくだけど連なる命系統の能力でしょ?
それなら完全に不明なヴァゴスの能力の方に使った方が得策じゃない?
『ふむ。
まぁ、一理ある。
ただ、お前の『四尾なる命』は詳細な情報を知ってるか知らないかで立案可能な作戦の数が変わるんだよなぁ。』
『連なる命』に近い能力でしょ?
それじゃあ何にしてもそもそもな話として眷族が居ないと意味ないんじゃないの?
俺の眷族が居ない状態だとそもそも発動もしないような気もするけど。
……いや、同系統ってだけで発動前提はまた別物かもしれないけどさ。
『いや、吸血鬼に関する能力で命にまつわるって言うなら間違いなく系統としては似てるはずだ。
無から有は生まれねぇ。
お前の言う通り命のストックが無い状態だとすれば確かに調べる意味はない…か?
うーむ……。
それじゃ、まぁ、今回は俺様の能力の方にするか。
これでショボかったら怒るぜ?』
いや、俺のせいにするなよ。
それに俺の能力の方こそショボかったらどうすんだよ。
『そん時はそん時だ。
なんにせよ今回の詳細鑑定の対象じゃねぇからな。
さて、んじゃ使ってみるかね。』
ヴァゴスがゴソゴソと体内で動くのが感じ取れる。
そして俺の体表の外へと決壊魔石を移動させて、躊躇なく砕いた。
バキン!
音を立てて割れた決壊魔石の破片がキラキラと宙を舞いながら俺に纏わりつく。
正確にはヴァゴスにだろうけど。
音が聞こえたのかイザヨイはチラッとこっちを見たが、興味なさそうに視線を逸らす。
これでいいのか?
『……ああ。これでいい。……成程な。
今回ばかりはお前の意見が正しかった…かもしれねぇな。
いや、お前の能力が分からねぇからそっちが判明するまで比較は出来ねぇけどよ。』
ヴァゴスがそう言って俺の頭に得た情報を流し込んできた。
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■再現構築
能力使用者が構造を理解した無機物を構築し再現する能力
使用する代償としてオド、マナ、もしくはそれに代替するエネルギーが必要
更にエネルギーからのみ生み出す訳では無く、構築元となる物質が別途必要
代償は再現する無機物により変動する
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んーと?
つまりどういう事だ?
『……まぁ、要は俺が細胞を消費して作れるモノが器官以外に無機物にも対応した、って事だ。
つまりはお前に作った眼や声帯と同じように金属なんかも作れるって事かもな。』
それが凄い事なのか俺には分からん。
身体の器官だけでも充分便利だしな。
『考えてもみろ。
今お前の身体を守ってる俺の身体。
その身体の体表の鱗はあくまでお前の細胞から学習した竜の鱗ってだけだ。
しかも幼竜のな。
防御力は戦って体感した通り、魔術による攻撃で容易に剥がれる。
その鱗の素材を金属に変えられるんだぜ?
それだけでも十分有用だろうが!』
……確かに言われてみれば有用そうだ。
あれ、んじゃ今ヴァゴスに言えば身体の表面を金属にしてくれるのか?
そう聞くと同時にヴァゴスにオドが吸い取られる感覚が走る。
『ああ…。
む……ふむ。
いや、ダメだな。』
何だよ?
『俺様も当然能力の詳細が分かったから内容に沿って今実行しようとしてみたぜ?
ただな、結果から言うなら鱗の素材がうまく金属で再現できねぇ。
何かに変わりそうな気はする上に実際にオドは消費している。
発動自体はしてそうなんだが無駄撃ちに終わってる感じだな。』
えー、何でだ?
『……おそらくここからは俺様の推測だが、理解した無機物ってのがネックなんじゃねぇか?
言われてみれば俺様は今までそんなに詳しく物に興味を抱かなかったからな。
どの程度で理解したって言えるのか分からねぇが…。
まぁ、金属の鱗はまた今度だ。
俺様が金属についてもう少し知る必要があるだろうな。』
んだよ、手っ取り早く戦力増強になると思ったのによ。
『ま、前も言ったが早々そんなうまくいかねぇよ。
残念だったな。』
ちぇ。
ヴァゴスとそうやって検証している間に気が付くと60階層の階層主の扉前まで来ていた。
早いもんだ。
それに戦わずに検証に集中できるってのはいい事だな。
これが俺とヴァゴスだけなら倍の時間かかってただろう。
いつもお読みいただきありがとうございます。




