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死した竜の物語  作者: 獅子貫 達磨
第一章 死出の旅路
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7話 檻での暮らし

朝起きると前足の痛みはすっかり引いて元の傷一つない状態へと戻っていた。

普段の暴発よりやや大きめの怪我だったが完治するのか。

今まで竜と言う種族全体が同じような再生能力だと思っていたが、俺だけなのかもしれない。

ただ、人間が言っていたようにあくまで俺を鑑定した奴の推測なわけで竜種としての再生能力が高いだけで加護の効果は別のところにあるのかもしれないが。

まぁ、それは今悩んでも仕方の無い事だな。

俺にも鑑定があればいいんだけど。

いや、鑑定があっても効果までは分からないんだったか?

そこら辺の詳しい事は分からんな。


辺りを見渡すと昨日と変わらず檻に囚われた魔獣たちが居る。

寝てるやつも結構いるし、起きてるやつも俺と眼が合うと警戒するが昨日よりは緊張が解けたみたいだな。

さて、微妙に明るいのは天井付近から朝日が漏れてるせいか。

地下っぽいと思ったが天井付近は一階部分も含むみたいだな。


さて、とは言ったものの昨日までと同様に場所が変わっただけで囚われの身であることには変わりなく何かが出来る訳ではないんだよな。

おそらく人間の言う競売とかで、俺が売られるまでこの環境は変わらないと思っていいだろう。

売られた先で好転するのかそれともさらに悪くなるのかまでは分からないが。

個人的にはぜひとも前者であってほしいところだが、如何せん人間の今までの感じを見るに現状維持か悪化しそうだとも思う。


俺もここまで来ると殆ど親の助けは当てにして無かった。

いや、家族が当てにならないって言っているのではなくて、どちらかというと最早どうしようもない、と諦観の域に達してるだけなのだが。

ただ、万が一の脱出の可能性に備えて俺も辺りを警戒しておいた方がいいだろうな。

やはり狙い目は檻から出される瞬間か。


そうこう、一人で悩んでいると、扉が音を立てて開く。

俺が昨日ここへ入った時とは違う壁端にある小さな扉だな。

扉が開ききると見たことのない人間が中へ数人入ってきた。

全員、何かしらの入れ物を持っている。

……弱そうだな。少なくともこいつらが俺を襲っていれば俺も蹴散らして逃げれただろうに。


倉庫内に入った人間はそれぞれの魔獣の檻に近づくと、持っている入れ物の中から何かを檻内に投げ込んでいく。

ああ、飯か。そういえば腹が減ったな。

暫く待っていると俺の檻の前にも人間が来て、俺の檻の中に生肉を投げ込んでいった。

匂いを嗅ぐが、別段変なにおいはしないな。

俺が最後だったのか単純に物珍しいのか、俺に餌を投げた人間は別の魔獣のところへは行かずに俺を見ている。

微妙に食べ辛いが、気にしてもしょうがないだろう。

気にせずそのまま丸呑みにする。

あー、ガットリーが寄越した肉の方が旨かったな。

なんか、古い味がする。

ま、食えない事は無いし贅沢言ってられないが。


俺が喰い終わった後も、まだ人間が見てくるため軽く唸ると、慌てて別の魔獣のところへ走って行った。

唸られた程度で怖がるくらいなら最初から見るなよ。ったく。


元々、そこまで大量にここに魔獣が居る訳でもないので直ぐに飯は終わり、人間は元来た扉を通って出ていく。後は僅かに空気中に残る血肉の匂いが残されるだけとなり誰も来なかったように静まり返る。


暇になったから檻に入った魔獣を一匹一匹見て行くことにした。

因みに俺以外に竜が居たら良かったけど、残念ながら見当たらない。

……惜しいやつならいるけどあれは竜種じゃねぇ。

まぁ、そこまで竜種が頻繁に捕まるようなら俺が捕獲されただけであそこまで騒ぎ立てられる事は無いだろうからな。

竜じゃなくてもせめて会話の通じそうな知能を持った奴が欲しかった。

ちぇっ。


右端から見て行く。

まず……知らない奴。

でっかいハサミと長い尾を持った平べったいやつ。

足がいっぱいあるな八本位か?

顔は見当たらないし、節っぽいからたぶん昆虫の一種だろうけど。

ただ、俺の見たことある昆虫はもっと小さいぞ。

あれは人間と同じくらいあるな。

長い尾はくるりと曲がり丁度体の上らへんに先端がある。

尾の先はとがってるから多分針か何かがあるんだろうな。

ま、話は通じそうにないな。


次は知ってる奴だな。

鹿だ。

ただ、俺の知ってる鹿と違って角が真っ白でかなり大きい。

反面、体は少し小さめだな。

あれじゃ喰うところあんまりないだろ。

因みに警戒心が高いのか俺が来た当初と比較しても遜色ないレベルで未だに俺を警戒している。

正直出される肉じゃ物足りないから美味そうに見えてくる。

せめて檻が近ければつまみ食いできるんだけど……。

いや、あの警戒を見ると真横に檻があっても俺の手の届く距離には来ないだろうな。


次は惜しい奴。

真っ黒い鱗のワイバーンだな。

竜天獄の頂上付近で見かけたことがある。

残念ながら種としてはこの中で一番近いが近いだけで意思疎通が図れる訳じゃ無い。

悲しいね。

種が近いからこそ本能的な差が分かるのか、昨日からずっとこちらを伺うような視線を向けてきているけども。

でも話せないと意味ないんだよ!

脱出するにせよ話し相手にするにせよ。


さて、もう少し種類がいるかと思ったが後は二番目に紹介した鹿が三頭いるだけだった。

これでこの場には俺含めて計七匹か。

本当にやる事が無くて暇だな。

ただ、有事の際に備えて休んでおくか。

有事の際も逃げられるとは限らないけどな。


▼△▼△▼△▼


「純度百パーセントの夜輝金(ステライウム)製の穂先でお前の体格に合うものとなると29モネリだな。」


「あー、親父、もう少しだけ安くなんねぇか?」


「馬鹿を言うな。

 お前が帝国狩猟団である事に加えて、長年の付き合いだからこそ、たったの29モネリなんだぞ。

 嫌なら材料を自分で揃えて来い。」


くぅ、それを言われると結構きつい。

実際払えない額じゃないが、全財産が吹き飛ぶことになる。


うーん、ただなぁ。

折角手に入れた8モネリだから中途半端な強化にはしたくないんだよなぁ。

臨時収入でここまでの物が手に入る事は滅多にない。

つまり、今回で武器を新調したら数年はこのままって事だ。

一個型落ちするとなると緋紅銀(サングイウム)製って事になる。


ただ、やっぱり切れ味と強度が結構違う。

そりゃ、剣に比べると槍なんてあんまり切れ味は重視されないが、どっちかっていうと硬い物と当たった時の強度が全然違う。

それに微妙な差が命取りになる事もあるからな……。

かといって夜輝金(ステライウム)鉱石なんぞパッと探しに行けるモノじゃない。

実際、親父の提示する値段は酷く良心的ではある。


あー、迷っても仕方ねぇな。

どうせ競売で金は手に入るんだ。

最悪知らない中じゃないから支払いは一月位待ってもらえばいい。

競売の金が回ってきたら払えるさ。


「分かったよ。それじゃ29モネリで頼む。」


「おうよ。柄の調整はサービスでしておいてやる。

 一週間もあれば完成すると思うからそれ位に顔を出せ。

 料金は完成してからでいい。」


「あいよ。じゃあ頼んだ。」


さて、店を出たところで今日の立てた予定は終わった。

取りあえずさっさと武器を新調したかったんだよな。

ああ、ただこれで今回の稼ぎ以上に貯金も込みで飛んじまった。

暫く飲んで遊べるかと思ったけど、そううまくは行かないか。

ジャスティーとかはしばらく遊ぶんだろうな。

グラレナは……本買うか貯金するイメージしかないが。

アズズは家族を養うの大変だろうしな。


んじゃ、まぁ、一人でサクッと小遣い稼ぎになる依頼でも受けに行くか。

裏通りから大通りに面した道に出てそのまま川沿いに進んで帝国狩猟団のギルドへと向かう。

もう十何年と見慣れた扉をくぐって中に入ると、中で話をしているギルドメンバーが何人かこちらを振り返る。


昨日の晩はギルマスの爺に上納金渡しに行っただけでかなり囲まれて鬱陶しかったからな。

一瞬身構えたが、今日いるメンバーは比較的落ち着いているみたいで、興味はありそうだがすぐに駆け寄ってくるようなやつはいなかった。

もしくは昨日話したことである程度話が広まったか。それなら昨日面倒くさいながらも話したかいがあったもんだ。


「よう、ガットリー。大金星だったらしいじゃねぇかよぉ。

 一杯奢れよ。」


と思っていたが、絡んでくるやつは絡んでくる。

しかも酔っぱらってるとは輪をかけて面倒くさい。


「おう、オクトル。久しぶりだな。

 残念ながら武器を新調して既に文無しとなった身だ。

 ジャスティーとかをあたれよ。」


「んだよ、ケチくせぇなぁ。一杯位どおってことないだろぅに。」


「お前は酔うと面倒くさいんだよ。

 と言うか既に酔ってるだろう。」


「んなこたねぇよ。俺はまだ酔っちゃいねぇ。」


「酔っぱらいはみんなそう言うんだ。

 なんか、変わった事ないか?」


あまりこいつのペースで話すのは良い事とは言えない。

美女ならともかく、おっさんに付き合って飲むほど暇じゃねーんだ。

どうせ話すなら有益な事を話さないとな。


「んん~。特には無いかな。

 お前が居ない間もこの帝都は相変わらず喧しかったぞ。

 あー、留守中の話じゃないが、早速お前の連れ帰った子竜の競売日が決まったらしいぞ。」


「はぁ?まだ連れ帰って一日しかたってないぞ。

 早すぎないか?

 それに今月の競売はもう月初めに終わっただろ?」


「なんでも、いい感じに他の商品とかも揃ってるらしくてなぁ。

 そしてお前の連れ帰った子竜だ。話題の鮮度が落ちないうちにやっちまいたいんじゃねぇか?」


ああ、成程な。

言われてみればそれもそうか。

まぁ、子竜の捕獲は中々大きな事件だろうな。

イーホからしても高い金で買い取ってもらいたいだろうし、そう考えると子竜が話題の中心に居る間に売ってしまいたいんだろう。


「それで?競売はいつだ?」


「明後日の昼からだってよ。

 なんでも闘技場を貸切ってやるらしいぜぇ。

 豪気だよな。」


「ま、それぐらいの目玉って事だろ。

 貴族とか場合によっちゃ王族も来るだろうから下手な場所じゃできないんだろうよ。」


「あーあ、俺も竜をペットにできれば仕事が楽になるのになぁ。」


そのまま、近くの椅子に座ったかと思えば、そのままグウグウといびきをかき始めた。

呑気なもんだな。

ま、こいつもこう見えて第二等級だから俺と同じ腕前だ。

ある程度遊んで暮らしても問題ない程度稼いでるんだろうよ。


にしても、明後日か。

ずいぶんと急だな。

ま、余り間が空くよりかはさっさと競売金が入った方が都合がいい。

これで俺も急いで依頼を受ける必要は無くなった訳だが、折角ここまで来たんだ。

数日開けてたこともあるし見て行ってもいいだろう。

さて、何があるか……。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

・牛喰蟹の狩猟【2モネリ】

・仙王牛の狩猟【1モネリ】

・ヴィーデン街道で出没する盗賊団の討伐【6モネリ+指名手配対象報奨金】

・ユグドリアルの涙の採取【採取した瓶数x5モネリ】

・ファンディ国への護衛【10モネリ】

・イズランディア諸島への護衛【5モネリ】※船旅

・貴族子女への魔術指南【月30ダート】※女性限定

・魔道具の……

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


うむ、時間的なものもあってか美味しいと思える案件は無いな。

牛喰蟹は少し行きたい気もするが、俺だけじゃまず無理だ。

せめて優秀な雷魔術師が欲しいところだな。

そもそも海が主戦場な時点で中距離がメインの俺は魔術師の露払い位しかやる事が無くなる。

魔術指南の依頼も美味しいが生憎と女性限定だ。

貴族の出す依頼は見極めさえすれば割のいいものが多いんだよな。

これが残ってるのは単に魔術師かつ女性が少ないからだろう。


じゃあ、まぁ、金の目途は立ってるし適当に飲みに行くか。

依頼のボードに背を向けて出口の方へと向かう。

景気よくいびきをかくオクトルの横を通って出口の扉を開けようとしたところで、外側から扉が開けられる。

っとと、危ない。

一歩下がってギルドに入ってくる相手を優先する。


「お、ガットリー。丁度いいところにおったの。」


「急に扉が開くから誰かと思ったら爺か。」


扉から入ってきたのは背の低い髭もじゃの老人だ。

頭部は既につるっぱげで髭だけが長く胸の下まで伸ばされている。

顔の見た目の割に背筋は伸びて眼が鋭くギョロギョロと辺りを見ているあたりただの年寄っていう雰囲気は微塵も感じさせない。

ま、それに腰に剣をぶら下げてるからな。

この爺が帝国狩猟団のギルドマスターのエンガイ、エンガイ……何とかだ。

確か氏があったが忘れた。

ただ、元は第一等級狩人で多分一線を退いた今ですら俺より強い、と思う。

手合せした事は無いけどな。


んで、丁度いいだって?

爺からそんな感じの言葉を聞いた時ってあんまりいい思い出が無いんだけどな。


「お前さん宛の指名依頼をついさっき受け取ってきたところじゃ。」


「指名依頼?誰からだ?」


「商業組合じゃよ。何処にしまったかのぅ。

 都合よく出くわすとは思ってなかったもんでな。

 おお、あったあった。ほれ」


爺が二つ折りにされた紙を俺に突き出してくる。

嫌だが受け取るしかないか。

商業組合ならまだましな依頼だろう……。

内容に想像がつかないが。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

・捕獲した子竜についての情報提供【5ダート】


先日、捕獲された子竜についていくつかお聞きしたいことがございます。

よろしければ今晩に国際狩人機構帝都本部一階でお待ちしております。

今晩が難しければ明日も同じ時間帯にお待ちしております。

ささやかながらお礼金も用意させていただきます。

なにとぞよろしくお願いいたします。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


バカ丁寧な書き方だな。

貴族か貴族相手の商人だなこりゃ……。

にしても話ねぇ。

話すだけで銀貨五枚なら悪くない。悪くないが……。


「どうじゃ?」


「商人への情報提供の依頼だろ。

 珍しくはないが、この内容で銀貨五枚ってのはな。」


「ほう、報酬までは見てなかったわい。

 まぁ、低いよりはいいじゃろう?」


「とぼけるな爺。金にうるさい商人がその対価に払う金だぞ。

 何かあるに決まってる。」


「ぐはは。ただ、お前さんに損はないじゃろ?

 もうあの子竜はイーホに納めた後じゃろうて。

 お前さんの管轄じゃなかろう。

 単に貴族向きに話を仕入れたいだけかもしれんぞ?」


「まぁ、そうだけどよ……。

 考えても仕方ねぇ。受ける事にするぜ。

 会って直接聞く。」


「それがええ。

 取引場所もイーホ内じゃからそうそう怪しむこともなかろう。

 今晩行くと言う事で連絡しておいてよいか?」


「ああ、構わねぇよ」


今晩の予定が出来たな。

さて、なんだろうな。

よくわからない内容っていうのは何とも気持ち悪いもんだな。

少し人間視点が多いです。

主人公視点が話相手が居ないから結構難しい……

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