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死した竜の物語  作者: 獅子貫 達磨
第四章 帝国を目指して
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14話 無関係の陰謀

一先ず着替えたい、と言われたから好きにさせる。

幸い服もさっき見つけたのが余ってるし、服は別にヴァゴスが食う訳でもない。

使いたい奴の好きにさせるさ。


それに樽に入ってた服のいくつかはリリルカが元々持っていた物だったらしいしな。

そして着替えるついでに気持ち悪いから身体も洗いたいらしい。

別に身体なんて放っておいたらまた汚れるのだから気にしなくていいと思うが。

一々洗ってたら切りが無いだろうに。

人間の考える事とやる事はは良く分からん。


『まぁ、お前の今の身体は老廃物も出ないからな。

 精々埃とかで汚れる程度だ。

 でも、水を浴びると気持ちいいだろ?

 要はあれと同じだ。

 人間はあれを頻繁にやらないと気持ちが悪いらしいぜ?

 不便だよなぁ。』


あー、水浴びか。

まぁ、確かに水浴びは気持ちいいな、うん。

それはともかくとして、今後はどうするんだ?


『ああ、昼間は会話の練習をしろ。

 適当に話をして知識を仕入れろ。

 可能なら感性もな。

 後は夜になったらあの女は人間だし寝るだろ。

 そしたら今度は俺様と眼と魔術の訓練だ。

 お前は寝なくていいから二倍練習時間があっていいな?』


ハードだな。

ま、会話はコツがつかめて来たからいいんだけどさ。

魔術も同じくだ。

……でも、眼だけはやりたくないけどな。

言っても仕方ない事だけど。


「あの……。」


ヴァゴスと頭の中で会話をしているとリリルカが声をかけてきた。

どうしたんだ?


「着替えたいのですが……。」


だから水を使ってもいい様に甲板に連れて来ただろ?

幸いリリルカは簡単な創造魔術が使えると聞いた。

水球を出す位できると思ったんだけど、俺にやれって事か?

そんなポンポン水球は出せねぇぞ。

まだ俺にできるのは人間の頭サイズの水球を出すくらいだ。

しかも一個出すのに時間がかかる。

自分で創造魔術が使えるなら自分でやってくれよ。

ここに水を出しても大丈夫だからよ。

使い終わって汚れた水なら海に捨てればいいし、気にする事は他にないと思うんだがな。


因みにヴァゴスに船の構造の知識を漁って貰った感じ、船の後部に雨水を貯蓄して飲料水にする場所もあった。

が、俺とヴァゴスだけならともかくリリルカは生きた人間である以上はあまり安易に真水を使わない方がいいだろう。

特に飲んだり料理に使うのでなければ魔術で事足りる。

逆に言うなら飲み水としては貴重な唯一の真水って訳だ。


で、着替えたいなら着替えればいいと思うが……。

俺から水が欲しいって訳じゃあるまいに。

何を言いたいのか分からずに首を傾ける。

言葉で聞くより首を傾けるだけの方が楽だ。

意図もこれで通じるしな。


ただ、さっきまでは分からない事は首を傾げたら意図を汲んで説明してくれていたが、今回は俺が首を傾げても俯いてモジモジしたまま続きを話してくれない。

なんだよ?

言いたいことははっきり言え。

分からんだろ。


『多分あれだ。

 服を脱ぐからこっちを見るな、もしくは離れろって言いたいんじゃないのか?』


なんでだ?


『人間は…特に女は肌を見られるのに抵抗があるんだろう。』


変わった特性だな。


『と言うよりかは性格と育ちの問題だな。

 まぁ、一応お前も魔人族グロリアって言ったから人間として見られてるんだろうぜ。』


俺が?

人間?

ハッ、笑える冗談だな。

増してやそれを言ったのがレリージオの人間とは。

皮肉が効いてるよ。


『まぁ、この場合の人間ってのは知能のある生物を指す広い意味合いで、だろうけどな。』


まぁ、別になんだっていい。

俺も特別人間が着替えるところを見たいって訳じゃ無い。

黙って後ろを向いて、そのまま船の中に戻る。

リリルカが見つかって中断してたがそもそも船の荷物整理が途中だったしな。

その作業に戻るか。


どうせ船の上以外行く場所がないんだ。

眼を放しても逃げるもクソもないだろ。

軽くだが話した感じ海に飛び降りることもなさそうだ。


「あ、ありがとうございます。」


背後にリリルカの礼を聞きつつ整理に戻った。




さて、あれからしばらく経って荷物の整理も終わり、ついでにそのまま船全体を見て行った。

ヴァゴスに言われるまで全く気にしてなかったけど俺達と違ってリリルカは食べ物が必要なんだな。

それと水。

水はさっき言った雨水の貯蓄があるからいいとして、食材がどの程度あるかちょっと気になって調べたがその心配も杞憂に終わった。

普通に結構な量が備蓄されてた。


まぁ考えてみりゃそりゃそうだよな。

十数人以上でこの船に乗ってたんだもん。

そいつらが生きていく最低限の食材は積まれてるだろうよ。

まぁ、船を奪取した港で積む予定とかもあったかもしれないけど。

でもリリルカ一人が生きて行く分には困らない量があった。

生きた肉も積まれてたしな。


確認のついでに少し味見をしたが家畜の血も悪くなかった。

でもやっぱり血の味は竜>人間>動物>ヴァゴス精製血液って感じだな。

あくまで悪くないってだけで美味いとは言えない。

ヴァゴスとしては普通に旨かったって言って肉を食ってたが、こいつは生肉に限らず何でも食うだろうしあまり舌は当てにならない。


『失礼だな。

 美味いか不味いかは理解できるぜ。

 その基準が他の奴と違うだけだ。』


つまり俺や他の生き物からすりゃ当てにならないって事実には変わりねぇじゃねぇか。


『まぁな。

 そうとも言う。』


ヴァゴスの減らず口を聞き流しつつ甲板に戻った。

結構な時間船倉に居たからそろそろ着替えも終わっただろう。

甲板に上がると船縁の近くでリリルカは樽に腰かけていた。

服も…変わってる…気がする。

同じ白っぽい恰好だしよく分からん。


『ふむ。身体を洗って服を変えると随分綺麗になったな。』


お前の言う綺麗になったって飯として見た場合だろ。


『そりゃそうだろ。

 肉を食うにしてもきちんと表面を洗ってから食った方が美味い。

 もしくは空気とかに触れてた面を切り落として食うとかな。』


物音で俺が甲板に出て来た事に気が付いて、樽から降りると此方へと歩いてくる。


「あ…えっと…。」


近くに来て口を開いたものの特に何かを言う訳ではなかった。

なんだよ。

特に言う事が無いなら別に来なくてもいいんだが。

まぁ、いい取り敢えず事情を聞こう。

何をするにしても情報は大事だしな。

その情報を元に何かを判断するのはヴァゴスだろうけど。

いや、俺も一応考えはするけどな。


「トリあえず、ソッちの事情ヲ聞こウか。」


「……ええ、そうね。

 分かったわ。」


そう伝えるとリリルカも頷いた。

頷いた後に俺が話の先を促すようにジッとしていると恐る恐るリリルカが話しかけてくる。


「えっと…話をするってここで?」


ん?

ここでいいと思ったんだけど。


「もし良かったらだけど、さっきの樽のところででもいいかしら?

 ちょっと話をするなら座りたいのよ。」


ああ、そう言う事か。

地面に座ればいいと思うんだけどな。

ま、別に俺も何が何でもここで話をしたいって訳じゃ無い。

大人しく頷いて樽の方に移動する。

リリルカはさっき座ってた樽にもう一度腰を下ろすと、俺の方へ向き直る。


「えっと…じゃあ何からお話したらいいかしら?」


「ゼンぶだ。

 ココに居ル羽目になッたケイイぜんブ。」


そう言うと少し考える様に顎に手をやった後口を開く。


「じゃあ普段と違ったところから…。

 えっと…十日ほど前かしら?

 私はレリージオの教皇庁に居たんだけど、元老院の偉い人に呼ばれて晩餐会に向かってたの。

 それで、その途中で急に山賊に襲われたわ。

 そしてそのまま私はその山賊に捕まって袋に詰められて攫われたの。

 あ、私の護衛の教皇庁の騎士たちも居たんだけど、山賊の数が多かったみたいで対処しきれなかったみたいね。」


『元老院か。

 お前に教えてやると元老院ってのはレリージオ法国を取り仕切るトップの組織だ。

 各庁からの一番のお偉いさんが集まる組織だな。』


「そして何処かの倉庫のような場所で聖女の服からドレスに着替えさせられたわ。

 そのまま山賊から海賊に身柄を引き渡されたのよ。

 ……最初は金目当ての強盗かと思ったけど、私を捕まえた後も身代金の要求もすることなく海賊に売られたから多分山賊の目的は金目当てじゃないと思う。」


『やっぱりな。

 十中八九、俺様が言った通り攫われたって事実が欲しい誰かの実行だろうよ。』


リリルカの話にちょくちょくヴァゴスが注釈を入れる。

そのおかげで話の内容が分かりやすくなって助かった。

と言うかこのリリルカって人間はあんまり説明がうまくない。

説明に慣れてないだけか?

もしくは単に緊張してるのか。


そのままそう長くないうちに話が終わる。

聞いた話の後半は大体ヴァゴスとさっき話した通りだったな。

まぁ、ヴァゴスの注釈のおかげも相俟あいまって話の大枠が理解できた。

取り敢えず、晩餐会に向かう途中で拉致られたと。

後はこの船の元船長の記憶とも照らし合わせると、やっぱり遠くに売られる予定だったんだろうな。


『じゃあ、そうだな……。

 1、この女が居なくなった場合困るのは誰か?

 2、その誰かが困って一番嬉しいのは誰か?

 取り敢えずこの二つを聞いてくれ。』


ああ、分かった。

大分動かすのに慣れてきた喉を振るわせてヴァゴスが言った内容をリリルカに尋ねる。

するとリリルカは少し考えた後に口を開いた。


「私が居なくなって一番困るのは教皇庁の上の人だと思う……。

 聖女の管理を任されている以上は私たちに危害が及んだ場合に真っ先に国民に非難されるから。

 以前に事故で聖女が一人亡くなった時は教皇庁の高官が一人罷免された事もあったしね。

 そして二番目の問いだけど…。

 悪いけどこれは分からないわ。

 強いて言うなら教会庁の人たちかしら。

 最近聖女の力が大きくなってきて教会庁の人達が運営する治療院の収益が下がってるって聞いたから。

 …でもその為だけに聖女を攫うなんて全然割に合わないと思う。

 私一人居なくなったからと言って教会庁の立場が元に戻るって訳じゃ無いし。」


だそうだぞ。

俺には良く分からん。


『お前なぁ……。

 まぁいい。実際俺様も詳細までは分からん。

 取り敢えず動機があるのが教会庁の奴って事ぐらいだな。

 ただ、動機はあるとしても聖女を攫う程の事じゃない、と。

 となるともうちょっと別の何かが絡んでそうだな。』


成程ね。

もしかしたらこれがレリージオ法国にとって重大な陰謀かも知れないって事か。


『もしくは他国の手引きとかな。

 まぁ、レリージオ法国は大陸丸々一つを治める国家だ。

 結構小さめの大陸とは言えどもな。

 そこに態々攻め込む国もあるとは思えないがね…。

 戦争を起こして勝ったところでそんな別大陸の場所なんざ管理と維持が大変だ。』


むう、じゃあやっぱり国内の諍いかね。


『もしくは単純な怨恨かもな。

 何にせよこれ以上はこの女からも情報は出なさそうだ。

 調べる手段もねぇ。』


まぁ、確かにその通りだな。


『ああ、どれだけ大きな陰謀だとしても俺様とお前からしたら無関係の陰謀だぜ。

 どれだけ被害が出ようが知ったことじゃないね。

 正直なところ興味本位と暇潰しがてらの軽い情報収集以外の何物でもない。

 率直に言えばどうでもいい対岸の火事だ。

 あくまで俺様としてはこいつと法国に恩が売れればそれでいい。』


もしかすると助けたリリルカもその陰謀で死んでしまうかもしれないけどな。


『それならそれで構わねぇんだよ。

 別に今後生きてく上でレリージオ法国に伝が絶対的に必って訳じゃねぇ。

 何かあった時の選択肢を増やせればいい、程度の認識だ。

 あくまで選択肢の目を増やす程度の価値だ。

 というかアンデットのお前からするとそもそも一生関わらないに越した事が無い国だぞ。

 愛護の能力に惑わされるな。

 あくまで今回の事は成り行きに過ぎないんだぜ。』


ああ、分かってるさ。

俺だって一度死んだ身だ。

そこら辺のやつよりかは死なない事に執着してる。

自分の命が一番大事だ。


『ならいい。』


「えっと、その位ですけど。

 他にまだありますか?」


ヴァゴスとそう話していると恐る恐るリリルカが話しかけてくる。

ああ、ヴァゴスと話しててすっかり忘れてた。

頭の中で会話してると傍から見りゃ無言で立ち尽くしてることになるわな。


んー、聞く事か。

俺は特にないかな。


『俺様ももう別段ねぇな。

 後はお前が練習がてら適当に雑談でもしてな。

 ついでに人間的な一般常識を形成しておけ。

 お前は知識が偏りすぎだ。

 ま、俺様も人間から見たら常識的とは到底いいがたいだろうがな。

 ただ、一般的な感性がどんなものかってのは多少は知ってる。

 知った上で行動するのと知らずに行動するのは違うぜ。

 やらないのと出来ないくらい違うぞ。

 意識しておけ。』


分かったよ。

単に常識って言われても相変わらずピンとこないけどな。

まぁ、別に誰かと話すのが嫌な訳ではない。

そもそも誰かと話す経験自体が俺には貴重だしな。

例えそれが人間だったとしても。


『ああ、話にでも困ったら魔術を見せて貰えばいい。

 お前のイメージの補完にも通じるかもな。』


ああ、魔術か。

それはいいね。

名案だ。


どうせ夜になるまでまだ暫くは時間はかかる。

とは言ってももう少しで夕焼けが見れるだろうけどな。


「じゃア……。」


取り敢えず口を開いて話しかける。

さて何の話をしようか。


いつもお読みいただきありがとうございます。

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