7話 甲板の戦い
別視点です。
少しグロ表現ありかもです。
苦手な人はご注意を。
どこからがグロ表現なんだろうか。
俺の耳に聞き慣れた鐘の音が響いて、不自然に途絶えた。
聞き慣れていはいてもあまり聞きたくない類の音だがな。
船で火急の事態が起こった際に鳴らす鐘だ。
普段なら三回鳴らないと船に戻らなかっただろうが、今回は妙な胸騒ぎがするな。
鐘が不自然に途絶えたからかもしれねぇが。
「アドラルク船長……。」
陸に連れてきていた手下が不安そうに俺を見る。
チッ。
しかも寄りにもよって俺が取引で珍しく船から離れて陸にいる時に限って。
いや、珍しく地上に居るから無意識に警戒心が上がってるだけか?
まぁ、それならそれで別にいいんだが。
間違って鐘の音を鳴らしただけなら間違えた奴をどやしつければそれで済む話だ。
ただ、この仕事は直感が命と利益を救う事が多いからな。
折角の取引中だったが急いで船に戻る事にした。
なぁに、取引相手は最近台頭してきた小物の海賊団だ。
こっちから途中で切り上げても大きな声で文句は言えねぇだろうし言わさねぇ。
この世界、いくら面子が大事だって言ってもそれじゃどうにもならない実力ってのがある。
一緒に陸に来ていた手下には合図をしたら船に来るように指示して、そのまま飛行術式で空を飛ぶ。
飛行術式はそこまで頻繁に使わねぇと思って刻印発動じゃなく、詠唱発動の形をとっているが刻印化するべきかね?
基本的に余裕のある時にしか使わねぇから刻印にしなくてもいいとは思うんだがな。
刻印を刻むのはまだまだ値が張るんだよなぁ。
新しい物ってのは何でも値段が高くなる。
俺も今のところ刻印にしてるのはメインでの攻撃術式である『爆球』と利便性の高い『反復』だけだ。
ありふれた術式の爆球でもそこそこ良い奴隷と同じ位の値段がした。
ま、そこら辺は帰ってから考えりゃいい。
どうせ今できる事じゃねぇ。
船を遠目から暗視術式と遠見術式を発動させて確認すると船内で留守を命じてた船員が船の外へと落ちていくのが見えた。
チッ。
嫌な予感ってのは当たるもんだ。
ま、この時期なら寒い気温でもねぇから死にゃしねぇだろ。
後で陸の奴らが来る際に拾わせればいい。
取り急ぎ陸の奴らに合図する。
それを確認した手下も急いで小舟を海岸にもっていく。
直にこっちへと来るだろ。
その際に仲間を拾わせて一緒に船に戻ってくればいい。
さて、騒動の原因は何だ?
騒動の原因自体は探さなくとも甲板ですぐに見つかった。
デカいトカゲだ。
確かインセプティ大陸でよく見るタイプの奴だな。
迷彩蜥蜴だったか。
IHO基準だと第四級程度。
ただ、でけぇな。
特殊変異した個体か。
ただの第四級程度なら船に残ってた船員でも十分に対処できる筈なんだがな。
ん?
唐突にバサッっと帆が張られた。
おいおい、何が起こってる?
気が付くと既に錨も上げられてんじゃねぇか。
……よくよく考えれば迷彩蜥蜴がこんな場所まで乗り込んでくるのも不思議な話だな。
手段も分からんがそもそも動機がねぇな。
腹が減ってたにしては船員を外に落としてたしな。
その後に船が動き出すとはまるで魔獣の目的が船の奪取だったみてぇじゃねぇか。
となると恐らくあの特殊変異個体の迷彩蜥蜴を操ってる魔獣使いがどっかに居やがるな。
見渡した感じじゃ見当たらねぇが……。
取り敢えず迷彩蜥蜴が邪魔だ。
さっくり吹き飛ばすとするか。
刻印にオドを込めて爆球を顕現させる。
そのまま甲板にいる迷彩蜥蜴に向けて射出。
幸い上に居る俺には気が付いてないみたいだな。
第四級程度ならこれで吹き飛ぶだろ……って思ったがそうでもなさそうだ。
爆音と煙が晴れた後から無傷の迷彩蜥蜴が俺の方を睨んでいる。
ま、うちの船の船員が対処できない時点で第四級程度じゃねぇとは思ってたが無傷か。
ちと傷つくぜ。
剣の方が得意とは言っても魔術の腕前も第二級クラスはあるって自負してんだが。
まぁ、魔術に対する異常な耐性を持った変異なのかもしれねぇ。
まずは魔術が無効かどうかを確認しねぇとな。
地上に降りて剣で戦ってもいいが、その場合は再度空に飛ぶ際には飛行術式を組み直しになる。
詠唱する時間が取れるかどうかも分からねぇ。
取り敢えずは適当に攻撃術式で様子見と行こうか。
再度、爆球を射出する。
撃ち慣れたこの術式は俺の狙いに寸分の狂いもなく迷彩蜥蜴へと飛んでいく。
爆音の後に姿を確認するが無傷か。
相殺術式や散魔術式じゃねぇな。
爆発自体はしてる。
僅かだが爆発のタイミングが狙った着弾より早かった気がする。
となると俺の魔術に合わせて相手も何かを射出して事前に爆発させてるって線が濃いな。
迷彩蜥蜴にそんな能力はねぇから魔獣使いの術式付与か特殊変異故の能力か……。
面倒くせぇが術式付与だった時のことを考えて魔力を見ておいた方が良いか。
魔視眼は疲れるから好きじゃねぇんだけどなぁ。
……なんだ……こりゃ?
一瞬集中して発動した魔視眼で迷彩蜥蜴を見ると想像だにしてなかった光景が飛び込んできた。
濃い魔力で編まれた腕上のナニカが数本揺れて、同じように魔力で編まれたナニカがすっぽりと迷彩蜥蜴の全身を覆っている。
……どうやら俺の魔術はあの全身を覆う魔力に当たって爆発してたみたいだな。
始めて見るものを相手に驚いたが狩人やってた頃なんかそんなことしょっちゅうあった。
寧ろそれで驚いて硬直した奴から死んでいく職業だったしな。
取り敢えずあれが何なのかなんぞ倒してから考えればいい。
今の問題はあの魔力にどの程度の脅威があるかだな。
っと、向こうも魔力の腕を俺に向かって伸ばしてくる。
捕まれたらどうなるのか分からないが良い事は無いだろう。
魔視眼使ってねぇとやばかったな。
感知だけだときっちり避けれたかどうか。
飛行術式で横にずれて魔力の腕を避ける。
っ!
そしたら今度は十数本一気に腕を伸ばしてきやがった。
まだ数を増やせるのか!
さっきと同じ様に横に避けようにも回り込まれている。
あたりを囲まれた。
チッ。
素早く剣を抜いて破魔の能力を纏わせる。
効果があるかどうか分からないからあまり接触させたくなかったが仕方ないだろ。
斬っても爆発とかはしねぇよな?
腕を切りつけると魔術の術式破壊と同様に霧散して消えた。
よし、破魔は有効って事だな。
取り敢えず避ける方向を確保に二本だけ斬り落として、出来た隙間に向かってすばやく移動する。
牽制用に爆球を再度投げる。
さっきまでと同じ様に命中するが、やっぱり身体の周りにある魔力に覆われた箇所で爆発を起こして、本体まで届いていない。
だが、よく見れば爆発した個所は魔力の覆いが破れている。
まぁ、見ているとすぐさま修復されてるな。
自動修復まであんのか面倒くせぇ奴だ。
恐らくもう少し威力が高ければ爆発の威力を奥まで無理矢理届かせることは可能なんだろうな。
残念ながら詠唱発動と違って刻印発動は決まった定量の術式を繰り返すだけだからな。
威力の調整とか細かい事が出来ねぇ。
かといってデカい爆球を作るにはそれなりの詠唱時間が要る。
今攻撃を避けて空を飛びながらそれをやるのはちと無理があるな。
成程。
となれば刻印発動の火球に続いて小さい火球を詠唱発動で追加発動させればいい。
威力上げるにはちと詠唱が長くなるが小さい爆球なら短い時間で詠唱発動させれる。
威力は落ちるがこの際仕方ねぇだろ。
タイミングを見計らって素早く小さい爆球の詠唱を行い発動する寸前に、刻印にオドを込めて普通のサイズの爆球を発動させる。
そしてそれに追随させるように詠唱した小さい爆球も射出。
序に別の刻印の『反復』も起動させて追随する小さい爆球を二個にして威力をカバーさせる。
さてさて結果はどうなるか。
小さい爆球は迷彩蜥蜴の死角になるように爆球を撃ったから、さっきまでと同じように覆いだけで防御するつもりみたいだな。
さっきまでと同様に一発目の爆球が覆いを破壊して、空いた穴から続けて詠唱した小さい爆球が侵入し爆発。
迷彩蜥蜴が吹き飛ぶのが見えた。
よし。狙い通りだ。
頭部と前足に傷を負わせられたみたいだな。
だが、吹き飛んだ先で普通に体勢を整えてた。
あまり深いダメージじゃないのか?
血も出てないように思えるが……。
そう思いつつ相手の出方を伺っていた俺は次の瞬間驚愕した。
傷を負っていた筈の頭部と前足が、みるみるうちに塞がっていく。
なっ、軽い切り傷ならともかく頭の一部が欠けるほどの重傷だぞ!
回復術式かと一瞬思ったが魔視眼では魔力の動きが見えなかった。
それに第四級程度の魔獣がいくら特殊変異個体と言っても術式は使う訳がない。
そんなのは知性ある高位の魔獣だけだろ。
迷彩蜥蜴は動揺する俺を嘲笑うかの様に更に理解できない行動を取る。
唐突に迷彩蜥蜴の背中付近から血の様な赤い何かが吹き出す。
吹き出したかと思えば、それは姿を変え一本の白く細長い物へと変化した。
魔眼では魔力を確認できず、肉眼では確認できるからあれは魔力的な物じゃねぇ。
くそっ!
理解が追い付かない。
なんだ?
なんなんだ?
俺は今何と戦っている?
せめて魔力を操るだけの特殊変異個体ってなら分かる。
だが再生能力に不明の物質作成能力だと?
第四級程度の能力なんぞ遥かに上回っているぞ。
魔力で出来た腕でその白く細長い物を掴むと、俺の方へと腕を伸ばしてくる。
そのままその細長い物が俺に向かって振り下ろされる。
ぐっ!咄嗟に剣を抜いて応戦する。
さっきと同じように破魔の力を込めて斬魔を繰り出すが、カン!と弾かれる。
やっぱりこの白い物は実際に存在する物質みたいだ。
間近で見た感じ何かの骨って感じだ。
骨にしては細く砥がれている。
骨を素材にして作った剣みたいな形状だな!
くそが!
空中だと踏ん張れない!
魔術を打ち合うなら避ける範囲の広い宙が良いが、剣はいまいち足が踏ん張れないから苦手だ!
ただ、数回斬り結んで分かった事はこの魔獣の剣の腕前は下手糞だ。
素人に毛が生えた程度の腕前だな。
それにこの骨の剣も強度がそこまで高くない。
数回斬り結んだだけで刃の部分が欠けている。
この程度の剣の腕前と剣の強度ならそこまで脅威じゃない。
少し余裕が出てきた。
もし部下が今の光景を見ていたら、俺は宙に浮きながら同じように宙に浮く剣とチャンバラしてるように映るんだろうな。
っと、上段から振り下ろされた剣を斜め下へと反らして、勢いを殺せなくなったタイミングで腕を斬魔で切り裂く。
するとさっきの腕と同じ様に切断した個所から先は霧散して消失した。
当然腕の先にあった骨の剣もそのまま宙に放り出されて動かなくなる。
それを空いた方の手でキャッチした。
二剣流は得意じゃないが別に投げるのにも使えるだろう。
相手の攻撃を反らすのには二本あった方が良い。
あのトカゲは手数が持ち味みたいだし此方も手数を揃えておかないとな。
っと、やっぱりな。
迷彩蜥蜴がさっきと同じように背中から骨の剣を取り出す。
しかも今回は四本。
四本の骨の剣をそれぞれ違う魔力の腕で掴むと、一斉に伸ばして斬りかかってくる。
だが、微妙にタイミングがずれている。
剣の間合いの理解が低いな。
練度が浅い。
この程度なら両手に剣を持った俺なら簡単に受け流せる。
右側と右上から斬りかかってくる攻撃を利き手に持った使い慣れた剣で弾く。
同様に下と左側から半ば突く様に攻撃してくる剣をさっき奪った骨の剣で弾く。
……筈だった。
攻撃を弾く筈の左手に何の手応えも無かった。
それと同時に足と左脇腹に熱が走る。
左側で弾く筈だった攻撃を食らったと気付いたのは一瞬経ってから。
ぐう!
何とか飛行魔法で距離を取る。
腕を離したのか脇腹と足に骨の剣が刺さったままだ。
抜かれて出血するよりはマシか。
距離を取って何があったのか理解できずに左手に持った骨の剣に視線を向ける。
すると先程までしっかりと剣として形を保っていた骨の剣が水飴の様にグニャリと曲がって折れていた。
しかもその折れている位置はさっきの攻撃で丁度俺が剣を弾こうとした箇所から。
何が起こっているのか理解できずに剣を見ている俺の目の前で、更にその剣が一瞬蠢いたかと思うと形状を変える。
なっ!
咄嗟に剣を投げ捨てようとするが、同時に刺すような痛みが手に走ると剣から出た棘が掌を貫通して手に纏わりついていた。
そして骨の剣がグニャリと姿を歪めると骨の刀身から口が現れる。
「おいおい、ダメじゃねぇか。
敵から貰った物をあっさりと信用して使ったりなんかしたらよ。
呪われた武器だったらどうすんだ?
……俺様みてぇにな。」
その声を聴くと同時に骨の剣が刺さった足と脇腹からもズブリと身体を突き刺すような痛みが走った。
次の瞬間脇腹の剣が身体を貫通して腹から飛び出す。
ぐ……。
クソ。
「それじゃ、あばよ。」
最期に俺が見たのは剣から出た口が大きく広がり俺の視界一杯に広がる光景だった。
そして俺の意識は消失した。
いつもお読みいただき有難うございます。
第三章のキャラ紹介の項目に絵を追加しました。
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