舞台端
今回で三章は完結です。
過酷な環境のデバスター大陸にある唯一の国、ファンディ魔王国。
その国の中心街にして唯一の都市ハイガンの商売人が集まる目抜き通り、極彩色市場。
大通り一帯に所狭しと商人が犇めき合い、店を目立たせるために各々がかなり独特な外見の店を出店している。
その為か極彩色の名前の通りに酷く目に優しくない一帯と化しているのだが、始めて来た者以外は慣れたもので一店一店を素早く見て回り掘り出し物を探していた。
そんな極彩色市場を荷物も持たずに歩く男が一人。
黒い眼鏡に商人風の動きやすそうな黒い服、極僅かに深緑のかかった黒い髪と黒尽くめの怪しい外見であったが、外見の話を言うのであればファンディではそもそもまともな人型をした者と言うのが珍しい。
世界で最もグロリアの集まる差別の最も少ない場所。
差別しようにも互いに似た箇所より違う箇所の方が多いことが多く、同胞を探すことが難しい。
それがファンディ魔王国なのだから。
毛むくじゃらの腕が六本ある一つ目の店主がお勧めする錬金用調合器具。
男は他国で売られているより若干質の良いその器具を仕入れた場合に、他国で売れた場合の損益と需要のある国までの経費を計算しつつ店主と談笑に応じていた。
その時、男は自身の胸ポケットで振動を感知し、一旦店主に断りを入れて服の中に手を入れる。
そのまま店から少し離れつつ、慣れた手つきで振動の元となった二つ折りになった黒い魔道具を取り出した。
魔道具の表面には白く文字が浮き出ている。
《ウタレフソン・J・クロムウェル》
男はその魔道具に表示された名前を見るとにこやかな笑みで「珍しいですねぇ」と呟き、二つ折りになった魔道具を開き中のボタンを押すと顔の横へと持っていき口を開いた。
「プレイルです。
お久しぶりですね。
息災そうで何よりです。」
男がそう話しかけると魔道具から声が返ってくる。
『ああ、久しぶりだな。
こっちは全然息災じゃねぇけどよ。
仕事に忙殺されそうだぜ。』
「まぁ、お忙しいのは良いことですよ。
少なくとも暇を持て余すよりはずっと。」
『適度って言葉を俺は体感したいがな。
ここまで忙しいと俺にとっちゃ劇薬の暇も多少は恋しくなるぜ。
分担してこの忙しさだ。
お前の旧友はよく一人でやってたもんだな。』
魔道具から聞こえる声は嘆息すると共にそう愚痴った。
「まぁ、彼は彼で今の貴方達ほど手広くやっていた訳じゃありませんから。
そもそも貴方自身のタスクは今も昔もさほど変わらないじゃありませんか。
まぁ、人間からすれば貴方が忙しいと言うのもぞっとしない話でしょうけど。」
『変わらないのに他にやるべきことが増えたのが問題だっつってんだよ。
機関の頃ですら休みのない日々だったのによ。
……まぁいい、別に愚痴を言う為にお前に連絡した訳じゃねぇからな。
本題に入るぞ。』
「貴方からのご連絡は基本的に仕事のご依頼ですからね。
私は別に貴方からの愚痴のご連絡でも一向に構わないんですが。」
『野郎に愚痴言って何が楽しいんだよ。
それにお前に愚痴を言うと後で面倒そうだ。
俺の愚痴から得た情報をどこに売るやら。』
「おやおや、それは心外ですね。
心配であれば気を付けて愚痴を言えばよいのでは?」
『話す内容にいちいち気を遣うのは愚痴じゃねぇよ…。
はぁ、んじゃ本題だ。
五時間ほど前に空間振動を感知した。
未登録の魔力だ。』
「別に各国で空間術式が研究されてる現在となっては別段珍しくないのでは?」
『ただの空間振動ならな。
だが、隠蔽の跡があってな。
まぁ、それ自体も国同士の情報秘匿で使うレベルなら気にしなくていいんだが、今回のは俺が痕跡を辿り難い高レベルの隠蔽だ。
隠蔽されている事自体は分かっても何を隠されてるか分からん。』
「ほう、それは何とも。
しかし、貴方が辿りづらい隠蔽の類となれば、
それを行える希少性から下手人も限られるのでは?
心当たりはありませんか?」
『んな事ぁ、お前に言われなくても分かってる。
心当たりはある。
白い奴が黒だろうよ。
……ややこしいな。
まぁいい、だがまずそいつがやったって証拠が無ぇ。
当然口だけで言ってもはぐらかされるだろうよ。
それにその心当たりの奴はな、やろうと思えばもっとレベルの高い隠蔽ができるはずなんだ。
本気でやるならログの一部を隠すんじゃなくてログ事態を消せばいい。
本気で隠すつもりだったならそもそも俺が発動して短時間で隠蔽に気が付く事自体おかしいんだよ。
つまり気付かせるためにわざと杜撰な隠蔽をした可能性がある。』
「つまりは貴方がどの程度の隠蔽に対処できるかを見極めるために?」
『いや、どっちかと言えば俺が気が付いて聞きに来る事自体が目的か、単純に気付かれてもいいと思って適当にやったのどれかだな。』
「成程。
それで私にどうして欲しいのでしょうか?」
『空間振動の元と先で何があったかを調べろ。
それぞれ座標を送る。
送られた物に関しても調べろ。』
同時に男の持つ別の魔道具が振動する。
男は顔と肩に通話用の魔道具を挟み込むと、今振動した魔道具を取り出して、中身を確認する。
「この座標ですと……元がインジェノス、先がエレガンティアですか。
送った物は三メートル四方の物体と。
今の空間術式の技術発展具合的にはありえない距離の移動ですね。」
『だろ?
ゲームの中でチーターが遠慮なしにバカ騒ぎしてりゃログにも残りやすい。
十中八九気付かせる気満々でやったんだろうけどな。
ま、存外覚醒魔族の奴らはこのくらいの距離は空間移動できるんだろうが。
だけど隠蔽具合は明らかに地上の奴らじゃねぇよ。』
「調べてどうしますか?」
『あー、適当に対処しろ。
放っておいて面倒になるなら消せ。』
「了解しました。
報酬は?」
『いつものでいいか?』
「構いませんよ。」
『じゃあそれで。
報告もいつも通りでいい。
要件は以上だ。
じゃあな。』
ブツリと切断されて魔道具からは何の音も発さなくなる。
暫く通信の切れた魔道具を見つめていた男は、そのまま店前に戻るでもなくニコニコとにこやかに笑いながら再びポチポチと魔道具に付いたボタンを押して操作を行う。
「すみませんねぇ。
基本的に依頼のバッティングは先に依頼された方を優先する主義なので……。」
そう呟きながら男は魔道具の画面で目的の名前を見つける。
《メルロイ》
そのままその名前を選択すると再び顔の横に魔道具を持って行った。
数コールの後に元気な女性の声が聞こえる。
『はいはい、こちらメルロイの電話ですよー。
おはこんばんちはです!
今相手がどこに居て何時でも通じる挨拶ですよ!
便利ですよねぇ。
えっと、あじゃらんは今はファンディですか!
良い所ですよね~。
ギアちゃんなんかは出禁食らってましたけどね!
ああ、でもノベたんが無事に神界入りして魔王さんがリセットされたから解除されたんですかねー?
それでそれで、あじゃらんから電話はと珍しいですね!
愛の告白か何かですか?』
「期待されていらっしゃったら申し訳ありませんが告白ではありません。
依頼されていた内容の報告ですよ。」
流れるように淀みなく高テンションで紡がれる言葉にいたっていつも通り男は返す。
数少ない昔の名前を呼ぶ相手に少しばかり頬を緩ませた。
もっとも常に微笑を浮かべてる故に他人からは分からない程度の緩ませ方だったが。
『ありゃりゃ、残念ですね!
定時報告はこの前受けたばっかりだったのでてっきり告白かと思いましたけど!
この時点で報告と言う事は何か動きがあったんですね!』
「ええ、貴女の仕込みが無事に発動したみたいで、それに対する調査の依頼が来ましたよ。」
『ふむふむ!
なんて言ってましたか?』
「取り敢えずは空間振動のあった箇所と転移した対象の調査ですね。
対象は面倒そうであれば消せとの事でした。
後は痕跡を見つけれた事を訝しんではいましたが。」
『物騒な依頼ですね!
自分の加護の与えた相手を消そうなんて酷い奴ですよ!
慈愛に溢れる私だったらそんな事しませんけどね!
痕跡はわざとです!』
「依頼内容に干渉して申し訳ありません。
差支えなければお教え願いたいのですが、何故わざとログに残るような真似を?」
『え。
だって、完全に隠してたらもしばれた時が怖いじゃないですか!
わざと見せておけば、もしばれた時に本気じゃなかったんです!って誤魔化せると思うんですよ!
それに本当に全てを秘匿したい訳じゃありませんからね!
準備が整うまでです!』
男は内心では、どちらにしてもばれた時に酷い目には合いそうだなとは思ったものの口には出さなかった。
「成程。ご回答ありがとうございます。
取り敢えずはあちらの依頼には正直な調査報告を致しますが、それで宜しいのですか?」
『ええ、ええ、それで大丈夫です!
無問題です!
子竜ちゃんも見つけても殺さなければ好きに『調査』してもいいですからね!
あじゃらんのやりたいようにしてください!
あ、ただ依頼の報告のタイミングは私が連絡するまで待ってください!』
「報告の件は了解しました。
にしても、子竜ですか?」
『ああ、あじゃらんには今回何があったか言ってませんでしたね!
NGG計画の一環でちょこーっと私的な事を行ってましてねー。
レフさんには暫く隠しておきたいんですよ!
その工作の一環が今回の件です!
子竜ちゃんを使った実験です!
可愛いんですよ!
ほら、あじゃらんに依頼したじゃないですか!
二年ほど前にインジェノスで捕まったあの子ですよ!
私が狩人への聞き込みを依頼したやつです!』
「ああ、ありましたね。
あの程度の聞き込みで報酬を貰っていいか疑問だったので印象に残っていますよ。」
『いえいえ!妥当な報酬ですよ!
私たちは出来る事が多い分、動くと証拠が残りやすいんですよ!
情報一つを調べるにしても出来れば地上に直接干渉したくないんです!
少し前に伝言を伝えるついでに証拠をどれだけ消せるかの実験も兼ねて信者の身体を借りましたけど、凄い面倒臭かったんですからね!
ドラゴンが蟻を踏まないように注意して移動するのは大変じゃないですか!
それと同じですよ!』
「そういうものですか…。
因みに話の流れを聞く感じでは今回の空間振動で運んだのはあの子竜と言う事ですか?」
『ピンポーン!
でもそれ以上は自分で調べてくださいね!
あんまりネタバレしても面白くないでしょうし。
色々あれから変わってて面白いですよ!
ではではー、報告ありがとうございましたー!
依頼報酬はいつも通りで!』
「はい、お願いします。」
最初から最後まで高テンションなまま通話が切れる。
通信の切れた魔道具を男は二つに折って懐にしまい直した。
さっきの店主のところに戻ると残念ながら錬金用調合器具は売れてしまったみたいだった。
男は店主に挨拶をしてその場を離れる。
そのまま極彩色市場の雑踏へと消えていった。
次回の四章ですが少し開始まで時間がかかります。
(少なくとも今週の更新は最後です。)
年末年始で少しばかりリアルが忙しくなりそうなんです。
楽しみにして頂いている方々には申し訳ありません。
引き続き本作をよろしくお願いいたします。




