表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
死した竜の物語  作者: 獅子貫 達磨
第三章 吸血竜の邂逅
50/104

20話 脱出

『さて、じゃあお前の疑問もそろそろネタ切れか?』


ネタ切れって…。

まぁ、今のところはもう殆ど無いかな。

新しく疑問に思ってもその時に聞けば済む話だし。


『まぁ、そうだな。

 そんじゃぁ、まぁ、脱出と行くか。』


そうだな。

日光も気にしなくていいみたいだし。

ずっとこの埃っぽい場所でゆっくりしてる訳にもいかないだろう。

インジェノスにさっさと向かいたいね。


『ああ、その前に一応俺様の資料を破壊して行こうか。

 脱出した後にここを調べられると面倒だ。

 もし追手がかかった時に弱点はなるだけ知られないに越したことはないしな。

 地上にも資料は残ってるかもしれないが、だからと言ってここの資料を態々残しておくメリットもないだろ。』


分かったよ。

ちょっと勿体ない気がするけど。


培養器脇の机の上にあった資料は、ヴァゴスが外に出てくると時に溢れた培養液で少し濡れていた。

魔領法の腕を出し大きくして、そのまま握り潰す。

普通の紙ならこんな風に握るだけじゃグシャグシャニなるだけだけど、ここの紙は元から経年劣化してたから破壊するには十分だろ。

魔領法を解くとバラバラになった資料が地面にばらまかれる。

あーあ、勿体ない。


『その資料の生きた実験体はお前の体内に居るだろ。

 俺様に聞けばその資料の内容くらいは教えてやる。』


いやまぁ、知識自体はね。

単純にああいう手合いの資料を読むことも好きなんだよ。

人間に捕まった数少ない嬉しいことは本が読めた事だろう。

知識を吸収するのは楽しい。

ま、別に資料とか本なんて他にもいっぱいあるだろう。

切り替えていこう。


……でも、勿体なかったなぁ。


そのまま、ボロい扉をくぐって隣の部屋にあった資料も破棄する。

加えてまだ残存する培養器…中身は腐って汚水になってるけど…も破壊する。


最近破壊されたのがヴァゴスの培養器だけじゃないって思わせるためだ。

まぁ、資料が無いと何処から何が出て来たのか分からなくはなるだろうな。

でも中に入ってる液体はヴァゴスのは透き通ってたのに対して、こっちの培養液の中身は腐って濁った色してるけどな。


あっさりと培養液の壁は割れて中からドロッと粘度の高い汚れた汚水が流れ出てくる。

同時に酷い匂いが辺りに立ち込めた。

吸血鬼になって感覚が鋭くなってる身からするときつい。

さっさと立ち去ろう。

この匂いが酷いって理由で調べるのに時間がかかればその間に俺は逃げることができるしな。


出口の有る部屋への扉をくぐって大きい扉の前まで来る。

そういやここだけぴっちりと隙間なく閉められてるよね。

そう考えてるとヴァゴスが口をはさんでくる。


『俺様の器に関する経緯を説明した時に言ったが当時の人工スライムに関する研究員は俺様が殺して食っちまったからな。

 ちゃんとした知識のいる奴が残ってなっかったんだろ。

 だから、取り敢えず隙間から脱出されちゃかなわんって事で隙間が無いように設計したんじゃないのか?

 そもそも培養器から俺が出れなかった時点であんまり意味のない処置だったけどな。』


ああ、成程ね。

そういや言ってたね。

もし培養液からスライムが逃げてもこの倉庫から逃げ出す隙間が無ければ安全だって思ったのか。

えっと、ここから出た後はどうすんの?


『取り敢えずは地上に出ないとな。

 お前は飛べないんだよな。

 となると都市にある六つの門のどこかを突破する必要がある。

 ……まぁ、俺の知識が古くなければ。』


よくよく考えるとここに居るのって三百年前の知識の奴と始めて来る奴って言う、中々不安な組み合わせだな。


『ま、何とでもなるだろ。

 一先ず扉を破ったら地下通路があるはずだ。

 そこを左手に進んだ先に地上への道がある。

 一旦はそこまで行こう。』


んー、ざっくりだな。

それで外に出たら門まで走るって事か?

計画が雑過ぎない?


『んなこと言っても仕方ねぇだろ。

 お前が人間に化けれるって言うならいいけど、出来ねぇだろ?』


まぁ、出来ないけど。

エヴァーンの言ってた万化術式とか使ったらいけるのかな。

まぁ、変化できないと、どう足掻いても図体の問題で補足される訳か。


『エレガンティア魔術都市は上から見ると歪んだ楕円をしてたはずだ。

 今いる中央錬金大学はその中でも南側に位置する場所だったはず。

 だから、外に出た時点で町の防壁が近い方に向かえばいい。

 森にまで逃げ込んだらこっちのもんだ。

 ……まぁ、三百年前のままなら。』


はいよ。

三百年たってるのが不安要素だな……。

まぁ、全く知識のない俺よりかは何倍もましだけどさ。

外に出てからどっちに行ったらいいか聞くよ。

それじゃ、扉を破るぞ。


『おう、警報が鳴ると思うが気にせず突っ走れ。』


了解。

魔領法の腕をはやして拳を作る。

そのまま勢いを付けて扉を殴りつけた。


すると、ガシャン!!と言う音と共に俺の魔領法(・・・・・)が砕けた。


え。


『ヘイ!その技、魔素をメインに使ってるだろ。

 ああ、今はオドって言う方が正しいのか。

 おそらく扉に散魔術式が付与されてるな。

 散魔術式は触れた対象の魔力を散らす術式だ。

 直接的な魔術での接触は無駄だぜ。』


直接的な?


『ああ、変化術式とかで別の物質を変化させたものをぶつけるならいい。

 あれは変化を行ったという結果を物質に付与するだけだから無効化されない。

 創造系統の術式は一時的にオドやマナで他の何かを一時的に形作る状態だから無効化される。

 主に創造魔術と理魔術が直接的な攻撃だな。

 お前の今やったのは理魔術だろ?』


いや、魔領法だけど。


『そりゃまた珍しいもんを使ってるな。

 ただ、理魔術はマナとかオドを変質させずに形だけを変える術式だ。

 だから一応魔領法もその一種って言っていいだろうよ。

 まぁ、厳密には違うがな。

 なんにせよその扉には魔領法は使えない。』


じゃあ、どうすんだ。

魔領法が一番火力が出るんだけど。


『さっきも話しただろ。

 頭は置き物じゃねぇんだから思い出せよ。

 別にこの扉が破れたらいいんだから火力はそこまでいらんだろ。

 普通に身体で壊せ。

 唯でさえ肉体に優れた竜種だろうが。

 怪力の能力まで持ってるなら十分壊せるだろ!』


むぅ、あんまり自信がないけど。


『それでも不安なら身体の外から俺様も疑似筋肉造ってやっからとっとと殴れ。』


分かったよ。


前足を挙げると、足の付け根から赤い液体…ヴァゴスの細胞…が溢れ前足を覆う。

そのまま、液体が固まり帯が重ね合うように俺の腕を包み込んだ。

なんか筋肉みたいだな。


『筋肉だぞ。

 普通は体の中にある筋肉を、今回はお前の腕を骨に見立てて外で疑似筋肉組んでんだ。

 さっさとそれで殴れ。』


俺の前足が普段の二倍くらいの太さになってる。

前足じゃないみたいだ。

ここだけデカいと酷く不格好だな……。

ただ、その分、力は増したように感じる。

ただ半面、重くもなったけど誤差だろ。


太くなった前足を振りかぶって扉を殴りつける。

一瞬の抵抗の後に、あっさりと扉が吹き飛び通路の反対側の壁に激突する。

辺りを木片が舞い、激突した扉が通路の壁に当たり大きな音を立てた。


『な?簡単だったろ?』


確かに。

思ってるよりあっさり壊れたな。

でも、俺の力が強いというか扉が脆かっただけでは?


『いや、お前の力が強いんだよ。

 お前は適度な比較対象が近くに居なかっただけだ。

 人間と比較したら勿論、今となったら成竜よりも力は強いと思うぞ。

 エヴァーンとかみたいな真祖まで行った化物群は置いておいてな。』


……真祖まで行くとやっぱり単純な力も強いんだな。

まぁ、俺も力負けしてたし。

吸血竜になったらひょっとしてって思ったけど、まだ負けるかもな。

会った時の楽しみにしておこう。


扉を抜けた先は石レンガで出来た壁の続く通路だった。

通路の左右には俺が破ったような扉が取り付けてあり、扉の上に番号が振られている。

俺が破った扉跡の上を見上げると『13番倉庫』と書かれていた。

うん、読んだ論文の通りだな。


通路に出て左手側に向かって番号は減っていて、右手側に行くと番号が増えている。

おそらく左手側通路の先に1番の扉があってその向こう側に外への出口があるんだろう。

そう思って左側の通路突き当りを見るとそっちには大きな扉があった。

チラッと後ろの右手側の突き当りには土がむき出しの壁しかない。

多分、拡張する時はその先を掘り進めるのかな。

そんな事を思いながら言われた通りに左側通路奥へ直進した。

って、片方の前足だけ力が強くて走りにくいぞ。

左手側の奥にある扉もさっきの扉と同様に閉ざされてる。


『気にせずその扉も吹き飛ばせ。』


ヴァゴスの声に従って扉に向かって前足を振りかぶる。

さっきの扉より少し重い手応えがあったが、轟音と共に吹き飛んだ。

その先には薄暗い吹き抜けの空間だ。

円柱状にくりぬかれた場所の一番下の底の部分。

多分、上側が地上なんだろう。

俺が思ってたより結構深い地下だったみたいで、地上まで20メルト位ある。


チラッと上を見上げると薄暗い空が見えた。

日暮れか夜明けか。

俺が気絶してた時間的に夜明けだと思うが、夜明けにしては遅すぎないか?

個体進化で結構な時間意識を失ってたと思ったけど。

そう思ってたら呆れた様にヴァゴスが話しかけてくる。


『お前のいたプリマイブ大陸は今いるインセプティ大陸のほぼ裏側だぞ。

 むこうとこっちじゃ時間が正反対だ。』


え?どういう事?

時間が正反対?


『あー、面倒くさいから今は日暮れってだけ認識してりゃいい。

 また時間がある時に俺様が暇なら教えてやる。

 そして、その時間がある時は今じゃねぇ。』


ううん、気になる。

でも実際に今ここで講義を聞いてる時間は無いしな。

幸い日暮れならこれから人間じゃなくて俺の時間だ。

吹き抜けは石壁がずっと上まで続いていて結構高い。

それに昇るところが何もない。

……いや隅っこに人間が上り下りする用の小さい階段があるか。

でもあれは俺の身体じゃ通らないな。


ヴァゴスの培養器とか運ぶときはどうしたんだろ。


『上の隅に見えてる魔道具で上から滑車で下に降ろすんだよ。

 別に部品だけ降ろして下で組み立てるって手もある。

 んな事より上にさっさと行くぞ。』


はいはい、分かったよ。

以前の俺なら途方に暮れてただろうが、これくらいの高さなら魔領法の刃を壁に突き刺して上ればいい。

夕暮れならヴァゴスに身体を覆ってもらう必要もないだろう。

一応、念の為に全身を覆う準備を頼んでザクザクと石壁を傷付けながら垂直に上を目指す。


数十秒で上には着いた。

上に着いて吹き抜けの上側についてた柵をなぎ倒して辺りを見渡す。

パッと目に入ってきたのは帝城並みにでかい建物。

そして、俺達の出て来た穴を取り囲む様に立ち並ぶ人間の集団だった。


あれ、やばくね?


いつもお読みいただきありがとうございます。

レビュー、感想、評価していただくと嬉しいです。


引き続き本作をお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ