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死した竜の物語  作者: 獅子貫 達磨
第一章 死出の旅路
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5話 望まぬ遠征

外でガヤガヤ騒がしくなり微睡んでいた眼を開く。

うっすらと光が漏れているのと昨晩とは打って変わった喧騒さから朝になったことを否が応にもアピールされた。

そういや、洞窟の時は朝は誰かが起こしてくれたたっけか。

起こされずに起きるのは初めてだな。

未だに俺の置かれた倉庫に人影はないな。

さて、どうなるのか……。

願わくばこのままこの場所に留まりたいところだけどな。


そう考えているのを察したかのように音を立てて扉が開き、初めて見る人間が現れた。

白い毛……老体か。

人間は年を取ると体のあちこちの色が抜け落ちるんだったな。

それに僅かばかりだけど死臭がする。

身体の中身の具合もあまりよくないんだろう。

狩りをして年老いた個体を仕留めたときにするのと同じ匂いだ。


その老人の後ろから昨日見かけた男がオドオドとついてくる。

カンテイシとか呼ばれていた男だな。

睨みつけつつ観察をしていると老人が口を開く。


「これか……。

 大したものだ。流石は帝国随一のギルドだな。

 もう、『視た』のだったな。問題は?」


「は、はい、昨晩ガットリー様に言われ視ました。

 初めて見る種族でしたが特に問題はないかと。

 ああ、ついでに加護持ちです。死神の。」


死神。

それを聞いた瞬間、老人が顔をクシャッと顰める。


「レフソ=ウェル……死神か。

 まぁ、いい。儂らには関係ない事だ。

 で、この子竜の輸送準備は?」


「はい、昨晩編隊を組み、視察団のレイセロス伯爵家にも連絡を取り許可を得ました。

 今日の帰途に同行可能との事です。

 帝国狩猟団の方も同様に帰途につきますので、危険はないかと。」


その返事に満足そうに老人が頷く。

まずいな。シサツダンとかレイセロスとかは何かよくわかんねぇけど、ここから輸送されるのは確実か。

今日中に母さんが来てくれる……ってのは無理だろうな。

末の弟が夜に出かけて居なくなった時もすぐに帰ってくるから、と言って探しすらしなかったからな。

弟は弟で実際にそれで帰ってきたしよ。

なまじ俺たちの種族は命の危険性が無い分、行動が遅いんだよなぁ。

それに俺は俺で人間の里に下りるなんて誰にも言わずに来ちまったからな。

仕方ねぇ。


「では再度帝国狩猟団に声をかけるように言って来い。

 万が一にも先に出立されてはかなわん。

 次にこいつを帝都に送るのにどれだけ時間がかかる事か……。」


男に命令しつつ老人は最後にこちらを一瞥し再度ドアを閉めた。

そのまま、遠ざかる音が聞こえて再び真っ暗な中に取り残されることとなった。

それから暫くすると今度は外側への大きな扉が開き、檻ごと外に出される。

一応威嚇はしてみるものの怖がられるだけでそれ以上は無い。

ま、期待してなかったけどよ。


そして、太陽が一度頂上まで登りきっており始めた頃合い。

昨日俺を捕まえたガットリー共がやってくる。

……なにやらキラキラとした眼に悪い木製の檻も一緒に。

いや、檻じゃねぇのか。

あれは人間が乗る馬車っていうんだっけか?

って事は俺もある意味馬に曳かれてるから馬車と言えなくないのか。

どっちでもいいけど。


昨日と同じように俺の檻が馬に繋がれてそのまま動き出す。

そのまま、道から門へ、門から外へと出てさっきまでいた場所はあっという間に見えなくなった。

その間、俺を挟むようにして左右にガットリー共が辺りを警戒する。

俺は昨日の時点で檻の破壊が出来なかった時点でもうできる事は無いからな。

自分だけでも壊せなかった物を周りに警戒されている状態で壊せるわけないし。

壊そうと試みた時点で邪魔されるに決まってる。

大人しく揺れる檻の中で丸まって眠る事にした。




うっ!

脇腹を突かれて目が覚めた。

あまり良い目覚めとは言えないな。

恨みを込めて突かれた脇腹の方へと目を向けるとガットリーが棒の尖っていない方で俺の脇腹を突いたらしい。

軽く唸ってやろうとしたところで、俺が起きたことを確認したのか檻の中に向かって何かが投げ入れられる。


なんだ?暗くて見えないな。ああ、もう夜か。

匂いをかぐと少し血のにおいがする。

……ああ、肉か。

鼻を頼りに投げ入れられた物の方へと顔を近づける。


俺が肉に興味を示したことで仕事を終えたのか振り返らずにガットリーは焚かれた火の近くへと戻っていった。

横目でそちらを見つつ肉の匂いをかぐ。

……別段変な匂いはしないな。

おそらく毒物とかが塗られていることはなさそうだ。

もっとも、現状檻に入れて輸送してる時点で態々毒殺なんて試みるとは思えないけどな。

ま、人間の考えている事はよく分からないから警戒するに越した事は無い。

そのまま、肉を口で咥えて丸呑みにした。

うん、悪くない。


戻って焚火前に腰を下ろすガットリーにグラレナが声をかける。


「肉を入れてきたのですか?」


「ああ、寝てたみたいだからな、起こしてから投げ入れてきた。」


「わざわざやる必要あったのかよ?俺らの食い分が減っちまうよ。」


「道中捕まえたイノシシじゃないですか。どうせ私たちが消費しきる前に腐ってしまいますよ。貴族の方たちは食べるとは思えませんからね。」


「そうだ。それにオークションにかけるなら出来るだけいい状態で出品した方がより金になるだろ?イノシシを干し肉にする時間もないしな。」


焚火の枝が小さく爆ぜる音に混じって声が聞こえてくる。

俺を慮ってと言うよりは単純に打算的な内容みたいだな。

ま、くれるって言うなら貰っておくか。

別段腹は減ってないけどな。


軽く辺りを見渡すと焚火の向こう側にキラキラしていた馬車が見え、木の隙間から光が漏れている。

あいつらの護衛対象も中にいるみたいだな。

俺はまだ目にしてないが、別段見たいとも思わないけどね。

そのまま、ガットリー共の声を聴きつつまた目を瞑る。

こうして、俺はさらに生まれ故郷から少しずつ遠ざかって行くこととなった。




そのまま、特に何かが起こる事もなく日が五回位沈んだ折に次の町についた。

入口で何やら揉めていたが、前の町と変わりなく俺は檻の中で過ごすこととなる。

この町が目的地かと思っていたが、どうも違うようで一晩休むと町から出て再び進み続ける事になる。


新しい町を出てから更に日が六回位沈んだ後にもう一つ先の町が見えてきた。

その町は今までの二つの町の数倍大きく、更に高く物々しい塀に囲まれていた。

因みに十日近くいつも俺の周りに居たガットリー共の会話を聞き続け、人間の話もある程度理解が出来るようになった。

それ曰く、今見えている町が目的地のインジェノス帝国帝都ヴィトゥルームらしい。

ガットリー共は普段ここを拠点にしているんだとか。

まぁ、つまり俺が売られる場所だな。

聞いていた感じ町の中にはガットリーより強いやつもいるみたいで町の中で暴れてもまず逃げ切る事が出来ないだろう。

…飛べれば別なのかもしれないが、あいにく俺は飛ぶ事が出来ないしな。


まぁ、だから、逃げるなら道中でと思ったが檻が破れないうえに四六時中ガットリー共が近くにいるせいでそんな隙は全くなかった。

遠くに来たからか親が見つけてくれる気配も全くないしな。

殆ど今となっては諦めている。

売られた先で隙を晒してくれるようなやつだと良いんだけど。

今はそれを望む程度のものだ。

俺に加護を与えた神は何を思ってみているのやら。

気まぐれらしいから何も考えてないのかもしれないが。


そのこう考えているうちに帝都の門がどんどん近づき門の前で馬車が停止した。


「レイセロス侯爵家の方々と護衛の方々ですね。帝王陛下よりお話は伺っております。」


と思ったらすんなり通った。

人間の取り決めはよくわからない。

俺に関係無い事だからどうでもいいけど。

俺的にはずっと門に入れない事が一番良かったが。

門番は俺をちらりと見るが、俺の檻を囲っているガットリー共を続けてみるとそのまま視線を外した。

ガットリー達を知っているのか?

まぁ、この町が普段の奴らの拠点らしいから不思議じゃないか。

前の町の門番もガットリーが胸元の板を見せたらおとなしくなったしな。

この町では元から奴らの権力が認知されているだけなんだろう。


そのまま、檻で揺られて建物の前で止まった。

止まった建物を見ると見たことのある看板がぶら下がっている。

最初の町で俺が止まった場所と同じ看板だ。

『国際狩人機構 インジェノス帝国本部』

ガットリー共の話を聞く感じはここが全部の取りまとめをしている場所みたいだな。

長ったらしい名前だな。

最初の町と違いがあるとすれば大きさだな。

こっちの建物は十倍くらい大きい。


ガットリーが建物の中に入って少し経つと中からぞろぞろと人が出てきて俺の檻を遠巻きに取り囲んだ。

その間にガットリーは前の馬車で何か話をしているが周りの奴らの声で何を言っているかまでは聞き取れなかった。

というかなんだこいつら。

まわりをぐるりと囲まれると群衆として壁が迫ってくるかのように感じてやや気圧される。


「うわぁ。本当に竜の子供だ。」

「ガットリーの奴ら、よく生け捕りにできたよな。」

「そりゃ、お前、やっぱり成体じゃないからだろう。」

「競売にかけるんだろう?一体いくらの値が付くんだ?」

「うーん、こうやって見てる感じは大人しそうだな。」

「とは言っても竜種の子供だぜ?」

「この竜、競売まではどこにいるの?今月の競売は終わってるから来月だよね?」

「維持費はどうするんだろうな?」

「竜の世話の依頼が出るなら折角だしやってみたいな。」

「マジか、俺は怖くていやだな。手を食いちぎられちゃかなわない。」

「へっ、ガットリーが大丈夫だったなら俺だって。」

「いやいや、お前ベアーどころかスライだろうが。ワイバ級のガットリーさんたちと一緒にするなよ。」

「なんでも臨時で競売開くらしいよ。」

「え、こいつのためだけに?」

「いや、きっかけはこの子竜らしいけど今月は他の出品物もあるから大丈夫だろうって話らしくて。」

「へぇ、見に行ってもいいかもな。競ろすのなんて夢のまた夢だけどな。」

「そもそも競り落としてどうすんだよ。」

「それはお前、手なずけたら狩りがだいぶ楽になるだろう。」

「ま、どうせ貴族様が落とすんじゃないか?」

「貴族っていうと魔獣愛好家のシッズバーグ様のところか?」

「最近あそこ金が無いらしいけどな。」

…………


駄目だ。周りで一斉にしゃべりやがって何言ってるか全くわからねぇ。

俺に興味津々なのはわかるけどな。

竜がそんなに珍しいのか。

……まぁ、俺が最初の町に行った時に抱いた気持ちと一緒なのかもしれない。

それなら少しわかる気がする。

にしても一つ前の町でもあまり囲まれる事は無かった。

この町は余程住んでいる人間の数が多いのか。


人の群れの外で馬車が動き始めたのが見えた。

それと同時にガットリーがこちらに向かってくる。

自然に俺の檻を囲んでいた人間たちがそれを避けて人壁に穴が出来る。


「さぁ、散った散った。

 こいつは一旦捕獲庫に入れるからな。

 道を開けろ!」


ガットリーが声を張り上げるとやや名残惜しそうにしつつも徐々に人が遠ざかって行く。

人間がある程度掃けたところで、ガットリーが俺の檻に繋がっている馬の尻を軽くたたいた。

馬は軽く嘶くとそのまま大きく開かれた扉へと進み、建物の中へと動き出す。

中は少し薄暗いが結構広い空間のようだった。

少なくとも檻の外に俺が出れたら走れるくらいには。

馬車だったら二台位並んで優に動けるだろう。

そのまま、建物の中を数回角を曲がったりしつつ進んでいく。

やや下向きの勾配が数回あったから地下方向へと進んでいるみたいだ。

そうしてじっと連れられていくと檻のたくさんある場所に着いた。

そこで檻の車輪が固定され、馬から外される。

俺の檻を長い間曳いていた馬はそのまま来た道を連れ戻されて最後にこちらをチラリと見たガットリーと眼が合いつつ扉が閉まった。

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