19話 吸血竜の能力
なんでお前は俺が最初っから吸血鬼化した竜だって知ってたんだ?
『何でって俺様が鑑定持ってるからだ。』
あっさりと答えが返ってきた。
……ああ、成程。
『種族名は何でかグロリア・ヴァンパイアじゃなくてグロリア・アローサルオリジンになってたけどな。
ただ、持ってる能力が吸血鬼の連中が持ってるものと似てたからピンときた。
そもそもお前は新種だろうからオリジンなんだろ。』
あー、吸血竜になってもヴァンパイアって表記にはならなかったのか。
……ってその言い方的に『アローサルオリジン』が何か知ってるのか?
『あん?
正確にはアローサルとオリジンの意味はそれぞれ知ってるぜ。』
マジかよ。
インジェノスでは誰も知らなかったんだよ。
シドの奴も二年近く調べてたみたいだけど、見つからなかったみたいだし。
それこそエヴァーンですら聞いた事が無い種族じゃのう、って言ってたからな。
まさかお前が知ってるとは思わなかったぞ。
良ければ教えてくれ。
『そこまで言うなら仕方ねぇなぁ。
俺様が教えてやろう。
あー、そもそもアローサルってのは種族名じゃなくて称号に近いもんだ。
一定以上の力を持ったグロリアの種族名の前につけられる。
だからグロリア・アローサルヴァンパイアもグロリア・アローサルドラコニトとかも居る。
ただ、力って言ってもイコールで強さって言う訳じゃない。
確か昔に妖魔だった頃に研究員に召喚された時に小耳にはさんだが細胞の魔素割合がどうのこうのって言ってたな。
ま、別にあって困るものじゃない。
んで、次にオリジン。
オリジンは、あー、その前に種族はそれぞれ別名があるって話をするか。
グロリア・ヴァンパイアだと吸血種、グロリア・ドラコニトだと竜人種って感じでな。
それで言うならオリジンは唯一種って意味合いだ。』
唯一種……。
名前の通り唯一の存在って事か?
『ああ、その認識で問題ない。
グロリアは誰が分類分けしてるのか知らなねぇが、他種族に当てはまらない奴は全部グロリアに分類される。
そのグロリアの中でもオリジンは酷く数が少ないどころか、そいつ一体しかいない突然変異の奴。
そういう奴に付けられる種族名だ。
つまりお前はこの世で一匹しかいない種族って事だな。』
んー、まぁ吸血竜なんて俺以外いなくても不思議ではないか…?
なんか少ないとはいえ居そうなもんだけど。
……いや、待てよ。
俺がアローサルオリジンって言われたのはIHOでの鑑定の時だ。
つまりアンデット化する前の鑑定で既にそう言われてなかったか?
『んじゃ、十中八九、お前は突然変異なんじゃないのか?
呪いの祝福と関係あるかは分からんけどな。』
むう。
『因みにオリジン種は全てがアローサルが付く。
理由は分からんけどな。
少なくともアローサルオリジンであるお前は他の並のグロリアと比較すると優秀な事には違いは無いだろう。
多分な。
どこがどう優秀なのかとか迄は俺様には分からんがな。』
まぁ、なんで唯一種になったのかまで分からないけど、俺の種族がどんなものなのかは分かって良かった。
『にしても珍しいな。
お前産まれたの最近だろ?
最近はアローサルオリジンは中々新しく産まれなかった。
千年以上前…それこそ神が来て御界暦が始まる前なら結構な数が居たんだけどな。
アローサルの連中からすると地上の世界は魔力が薄くて息苦しいらしいぜ。
産まれてからずっとそこで生きてるお前は感じない事かもしれんけどな。』
千年以上前って。
ちょっと待て、ヴァゴスお前何歳だ。
『あん?
年齢なんぞは二千より先は数えてねぇよ。
そもそも魔界と地上じゃ時間の流れが違ったりするから、あんまり当てになんねーぞ。
器に入ったのは三百年と少し前だが、妖魔としては俺様は随分と長生きだ。
それこそ妖魔召喚の教本に名前が載る程度にはな。
……ま、逆に言うなら名前が知られてると召喚魔術で呼ばれちまう。
だから前の名前は捨てるんだ。
幸い地上に居たら新しく召喚で呼ばれることもない。
このままある程度地上で過ごせば、召喚の儀式に応じないって事で死んだと思われて名前が忘れ去られる事を期待してんだよ。』
ああ、前の名前云々ってそういう事か。
納得だ。
ヴァゴスから聞く感じだと妖魔召喚で精神生命体がそのまま地上に来るのは結構苦痛らしいからな。
呼ばれたくないんだろうよ。
ところで鑑定があるなら一つ頼みたいんだけど。
『鑑定して内容教えろってか?』
頼みたいね。
基本シドが鑑定を俺に行うようにアルーダに指示してたけど、その鑑定結果を見る機会はまれだったんだよ。
基本書かれたメモを地下室に置いて行って貰わないと見る手段がなかったからな。
エヴァーンが鑑定持ってたらよかったんだけど生憎と持ってなかった。
それに吸血竜になってからは一回も鑑定受けてないしね。
多分、シドもあのエヴァーンとの反乱が無ければ次の日にでも鑑定するつもりだったんだろう。
で、頼めるかな?
『まぁ、いいぜ。
今のところお前が俺様に頼んでばっかりだよなぁ?
いずれ何かで返して貰うからな。
鑑定結果はどうすればいいんだ?』
あー、そこまで考えてなかった。
どうしよう。
そこら辺の紙に書こうか?
『いや、多分だけど出せるぞ。』
ん?
出せるってどういう事だ。
『ああ、今お前の頭に俺様が直接話しかけてるだろ?
逆にお前からもこっちに意思を伝えられる。
んで、エヴァーンの容姿をお前の頭から読み取ったみたいに、会話以外の情報も渡せそうなんだよな。
それを試してみようと思ってよ。』
ふーん?
良く分からんがそれで結果が分かりそうなら教えてくれ。
『おう、ちょっと待ってろよ。』
暫く言われるままに待ってると頭に情報が叩きこまれた。
なんかぬっと頭に情報が入ってきた感じで、不思議だな。
入ってくる瞬間少し痛かったし。
『あ、これ、あんまりでかい情報を一気に送ると不調をきたしそうだな。
あとアンデット以外でこれやると結構な頭痛になりそうな気がするぜ。』
成程ね。
二人とも痛みをあまり感じないからこそできる事って訳か。
さて、じゃあ送られた情報を見てみるか。
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名前:グリムル
種族:グロリア・アローサルオリジン
能力:
『吸血』
『闇なる復活』
『怪力』
『不老』
『猛毒血液』
『四尾なる命』
『脳髄再生』
『隠遁存在』
加護:
『血なるレフソ=ウェルの毒加護』
『復活なるレフソ=ウェルの貯加護』
『龍なるエンディガーの脳加護』
『謀なるメルロイの隠加護』
『自然なるムーマーの往加護』
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お、名前がある。
こうやって見ると名前があったほうが嬉しいね。
前回との相違だと能力は『吸血』『闇なる復活』『怪力』『不老』が加わって『連なる命(制限付き)』が消えている。
代わりに『■■なる■(使用不可)』だったのが『四尾なる命』に変化したんだと思う。
多分『連なる命』の制限は『四尾なる命』が使えるようになるまでだったのかな。
そもそも『四尾なる命』が顕現する条件は分からないけど……。
吸血竜になったから?
うーん。分からない。
加護は変化は無しと。
まぁ、そうそう加護は変化しないらしいし。
『吸血』は多分吸血鬼が全員持ってる能力なんだろうな。
吸わないと吸血衝動が強くなったりするのもこれのせいか?
逆に吸うと何のいいことがあるんだろうか。
『吸血鬼の吸血能力は生命力やオドを吸い取ることだな。
それによって自身の回復を促進するんだよ。
特に下位は自前の回復能力はまだ未熟だ。
だから多量に血を吸って補う感じだな。
…まぁ、お前は竜としての再生が優秀だから例外として置いておくとしてな。
それに、血を吸いきって殺した相手を眷族にするかどうかも選択できるようになるはずだ。
別に眷族にしないなら、吸った相手はそのまま死ぬ。』
生命力とオドを吸い取る、か。
逆に他者からそうやって定期的に吸わないと衝動と成る程燃費が悪いのか?
ヴァゴスから吸った時は生命力はともかくオドは回復しなかったけどいいのかな。
『もともと俺様はオドは持ってねぇよ。
この器も造り物だからな。
自前でオドを生成できねぇんだ。
だからお前からオドを貰ってようやく十全に能力が満たせる。
オドはお前の場合有り余る程の量があるから回復しなくてもいいって感じじゃないか?』
ふむふむ。
成程。
じゃあ次に『闇なる復活』かな。
これはエヴァーンから前に聞いたな。
『再生』と『太陽の呪い』が統合された能力だったか。
再生能力が強化される反面、太陽下で身体が燃え上がると。
『厳密には心臓以外の再生能力の上昇だな。
吸血鬼系統の種族は心臓が弱点だ。
ただ、心臓が破壊されない限りはオドの続く限り身体が復元する。』
オドで身体を作ってんのか。
そこらへんはヴァゴスと似てるのかな。
『ちょっとばかり違う。
俺様の場合はオドを消費して細胞を新しく作ってる。
吸血鬼はどちらかと言うと復元だよ。
俺様の場合は造った細胞を切り落とされてもそのままだが、吸血鬼の場合は腕を切り落とされたら、切り落とされた腕は灰になる。
そして、元あった腕が灰で復元するっていう感じだな。
新しく生やすのではなく、切り落とされた物で再構築するって感じだ。
まぁ、実際に戦う上ではあまり気にする差ではないが。
封印が有効かどうかの差程度しかない。』
良く分からん。
『まぁ、身体の一部を切り落とされたら相手に取られるなって事だ。
ここ等辺は感覚の問題でもあるからあんまきにすんな。』
分かったよ。
まぁ、まだ吸血竜になってからまともに戦ってないしね。
ピンとは来ないだろう。
『因みに太陽の呪いはお前の身体が日光に触れなければいい。
だから身体の表面を俺が細胞で覆えば日中でも外に出れるぞ。』
お、それはかなり嬉しいな。
日中どうやって外で活動するか悩んでたしな。
アルーダみたいに全身を覆う布を手に入れるわけにもいかないし。
理屈は同じか。
覆うのが布なのかヴァゴスの細胞なのかって差で。
『ま、自前の鱗で日中うろつくのは真祖になるまでの我慢だな。』
それじゃ次。
さて、『怪力』と『不老』は……。
まぁこいつらは文字通りの意味か。
怪力ってあんまり力が強くなったって気がしないけど。
『まだ、力いっぱい何かを攻撃してないからだろ。
別に力が溢れてくるって訳じゃない。
純粋な腕力強化の能力なんだからよ。
感覚的にはそうそう変わらんだろ。』
かな?
ああ、そういえば基本的に何かを攻撃するのは魔領法が癖になってたか。
実際に自分の足で攻撃する事が無かったな。
エヴァーンにはその点を気をつけろって言われてたっけ。
不老は……まぁ、アンデットだしな。
今更感はあるけど。
別に嬉しくもなんともない。
『人間の中にはその能力欲しさに悪道に身を落とす奴もいるってのに。
呑気だねぇ。
ま、俺様は精神生命体だから元から寿命は無いんだけどな。』
俺も元々の寿命がかなり長いからな。
あんまり嬉しくないのはそこら辺の感性の差かな。
さて、じゃあ『四尾なる命』か。
四尾って数字が俺の尻尾と連動してるから多分関係あるんだろうけど。
何か知ってる?
『いや、聞いたことないな。
ただ、お前の話を聞く感じだと連なる命の代わりに出たようなもんだろ。
それならそれに似た系統、もしくは上位互換って可能性が高いだろうな。
となると心臓が破壊された時に関する何かかね。
悪いが詳細は分からんな。』
ふむ。
まぁ能力だしそうそう悪いモノじゃないだろう。
デメリットのある能力もあるみたいだけど、デメリットだけって事は無いだろうし。
ただ、緊急時に発生しそうな能力ならおいそれと試す事もできないな。
『さて、猛毒血液は文字通りの能力だな。
因みに俺様は毒物関係は耐性があるから効かん。
正確には毒物無効化する細胞を生成できるってだけだが。
だから俺様が体内に居ても死なないから安心しろ。
むしろ俺様がお前の血液って認識されれば、俺自身が毒物になれるのかね?
そこらへんはどうなんだろうな。』
どうなんだろうな。
俺も分からん。
『んじゃ、脳髄再生か。
これは知ってるぜ。
竜種しか持ってない能力だ。
エンディガーの加護から貰える奴だな。
これは吸血鬼の心臓と似てる。
脳を破壊されない限り身体が再生するって能力だ。
再生速度はそこまでらしいが休めば欠損も再生するらしいな。
偶に竜の中には逃がせば次会うときは全快してる個体が居る、って人間が騒いでたぜ。
この能力もってたんだろうよ。
こっちも再生でオドを食う。
吸血鬼の復元よりかはこっちの再生の方が俺に近い能力だな。』
ああ、そういう能力だったのか。
これは前の時は説明されなかったから知らなかったよ。
いや、人間も知らなかったのかな。
『因みに最後の隠匿存在は俺は知らねぇ。
多分何かを隠す系の能力なんだろうけどな。
おそらく常時発動じゃなくて意識して使うタイプだろうから試してみてもいいかもな。』
こっちは分からずか。
今度試してみよう。
ま、それでも結構な数の能力が分かって助かった。
因みにふと思ったんだけどさ。
『ああ、俺様も同じことを思ったぜ。』
うん。
『闇なる復活』は心臓を破壊されない限り再生するよね。
んで、『脳髄再生』の能力で脳が破壊されない限り再生するよね。
これって矛盾してない?
『……いや、一応矛盾はしてないな。
おそらく心臓が破壊されている間は闇なる復活が発動しない。
脳が破壊されていると脳髄再生は発動しない、って事じゃないか?』
ああ……。
え、じゃあ俺はどうやったら死ぬんだ?
『死にたいのか?
悪いが俺様が宿ってる以上死なせんぞ。
俺様が困る。
まぁ、強いて言うなら脳と心臓を同時に破壊されたら死ぬと思うぞ。
死ぬというか消滅だろうけどな。
正確には同時というより心臓が破壊されて再生する前に脳が破壊されたら、か。
逆も然りだな。』
なんにせよ想像以上に死に難いんだな。
『ま、死ぬときゃ死ぬがな。』
無常である。
いつもお読みいただきありがとうございます。




