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死した竜の物語  作者: 獅子貫 達磨
第三章 吸血竜の邂逅
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17話 命名と融合

なんとか!書いた!頑張った!

さて、受け入れるか受け入れないか。

メリットとデメリットを再度比較してみる。


まずメリット。

1、吸血衝動が解決できるかもしれない。

2、話し相手ができる

3、知識を教えてもらえる


次にデメリット。

1、身体を乗っ取られるリスク

2、今後独りになる事が難しい

3、用事に付き合う必要が出てくる


こんなもんか?

他にも細かいこと言ったらありそうだけど大きく見るとこんなもんだろ。

俺的にはメリットの話し相手ができて色々教えて貰えるって言うのは嬉しい。

実際に知識を教えてくれるかは聞いてないけど雰囲気的に教えてくれそうだなとはなんとなく思う。

吸血衝動を除いてもまぁ良いだろうって思える程度のメリットではある。

もちろん吸血衝動の話自体はかなり魅力的だけどね。


逆にデメリットもそこまで懸念する事態は考えてみるとなさそうだ。

取り敢えず俺に害をなす事は宣誓をすれば無いだろう……。

破る前提で使うにはディスプレイの宣誓はあまりにも罰が重すぎるから割に合わない。

それは魔界の民であったとしても変わらないだろう。

そして共生したが最後ずっと一緒に居なければいけない点。

まぁ、厳密には魔界に帰るまで、だけど。

これも別にそこまで俺的にはデメリットって言うほどじゃない。

強いて言うなら離れられない以上喧嘩してもずっと一緒って話だから、離れる離れないの選択権が無くなるって意味合いがデメリットではあるが。

ただ、エヴァーンと二年過ごして喧嘩してないから喧嘩はしないんじゃないかな。

……いや、エヴァーンとは違う性格だしするかも。

まぁ、その時はその時で、したときに考えればいい話しか。

用事に付き合う、ってのは相手の目標である魔界に帰る手段。

それを見つける方法があればそれを探す事になるだろうからだ。

まぁ、俺もインジェノスの一件を片せば用事が普段からあって忙しいって身の上って訳じゃないしな。

一緒に世界を見て回るのも一興だろう。

一応確認はいるだろうけど。


『一応確認だ。

 俺は今訳あって急いでいる。

 お前は俺と外に出たら魔界に帰る方法を探したいだろうが、

 俺の用事を優先させて貰うぞ。

 それが駄目って言うなら少し厳しいんだが。』


なんか脅すみたいでちょっと心苦しい。

コイツからすれば駄目って言われる事はまた長い期間ここにいろって事と同義だからそれを逆手に取った訳だし。

でもこれは言っておかないとエヴァーンが今どうなってるかも分からない現状だと、あんまり悠長にしてられない。

さっさとプリマイブ大陸に戻ってインジェノスを目指さないと。

無事にエヴァーンも逃げてるなら、それに越した事は無いけどそうでないなら助けないとな。

エヴァーン自身も自由になるためとはいえ散々世話になったんだ。

それくらいは報いないと。


そう書いた文字を見せると球体の体を揺らして笑った。


「ケッケッケ。

 俺様は別になんだっていいぜ。

 確かに帰りたいが今は少なくともこの場所から自由になれるなら、その先は急がなくてもいい。

 この場所が変わり映えしなくて退屈だってだけだしな。

 外を自由に動けるなら俺様は特別急いで魔界に帰る理由も目的も持ち合わせちゃいない。」


あまり気にした様子はなくそう言ってもらえて何より。


「で、俺様にそう確認を取るって事は共生の道を選択してくれるって事でいいのか?」


そのまま、そう続けてきた。

それに対して俺はゆっくり頷く。

頷きながら文字を提示する。


『ああ、いいだろう。

 ただし宣誓はしてもらうぞ。

 悪いが会って間もない仲だからな。

 当然俺も誓う。』


「よし!

 そう来ないとな。

 宣誓もいいぜ。

 元より裏切る気なんてねぇからな。」


左右の触手を球体の前で拍手のようにパンと打ち合わる。

水の中だから音はしなかったけど。

その後に触手をひっこめた球体の身体が培養液内をくるくると回転している。

なんだろう嬉しさでも表現してるのか?

口ならともかく目の付いた球体の感情を読み取る力は生憎ながら学んでこなかったからな。

まぁ、声的に悪くない反応なんだろう。


あー、にしてもディスプレイの宣誓ってどうやるんだ?

ディスプレイの名前を出して誓うだけでいい凄いシンプルなものだった気がするけど。

特に儀式とかはいらなかったよな。

一応確認で聞いてみる。

ああ、でもこれで嘘つかれたら宣誓も無意味になるって考えるとちょっと宣誓対象に聞くのもなって思うけど……他に手段もなさそうだ。

ああ、いや先に実践してやってもらえばいいのか。

と言う訳で。


『先に宣誓をしてくれ。

 宣誓内容は俺を悪意をもって害さない事でいい。』


「ヘイヘイ!ちょい待ち。

 それだと仮にお前が俺様に敵対してもこっちが一方的にやられるだけなんだが?

 お前から害意をもって攻撃されない限り俺様からはお前を害さない。

 これでどうだ?」


『ん?

 ああ、それでいい。』


確かに俺から攻撃してもさっきの内容なら反撃もできなくなるのか。

なかなか難しい。

……これで抜けは無いよな?

それじゃ、と話始める。


「真理を司る物神ディスプレイに宣誓する。

 俺様ヴァゴスは……目の前の…あー、今更だがお前の名前なんだ?」


まだ聞いてなかったよな?と確認された。

まぁ名乗ってないしね。

と言うか目の前のコイツの名前も今初めて知ったよ。


「そういや互いにまだ名前を知らなかったな。

 じゃあ、先に自己紹介と行こうか。

 知的生命体たるもの、互いの名を知って尊重し合わないとな。

 さて、俺様の名前はヴァゴス。

 お前の名前は?」


と、聞かれても無いんだよなぁ。


『名前はない。』


「はぁ?無いだ?何で?」


竜は…うちだけなのか他の竜もそうなのかは分からないが、成体にならないと名前を貰えないって決まりだった。

俺は成体まで二年って時分に人間に捕まったからそのままずるずると名無しの状態なんだよな。

エヴァーンも二人っきりだったから名前を呼ばれることもなかった。

おい、とかで事足りてたしね…。

別段隠すことでもないし、事の経緯を説明する。


「はーん。

 名前無いと不便だろ。

 よしよし、俺様がいい名前を付けてやろう。

 なに遠慮するな。」


えー。

いや、今となっては竜天獄に戻ったところで名前が貰えるかどうかわからないけどさ。

そもそも戻ったところで歓迎されるかどうか。

前の生きたままの状態ならよく戻ったって言われるけど、今のアンデットとなった身としては何とも言えない。

寧ろ、この二年で人間が吸血鬼に対して抱く感情と対応がどんなものか理解した。

俺が世界でも数少ない、もしかしたら唯一の吸血竜だとしても生きた竜からしたら同じ感じなんだろう。

だから帰っても迷惑じゃないのかなって思うんだよね。

そうなるとずっと名前は無いままになるよな。

……別になくても困ってないんだけどね。


うーん、でもまぁ貰えるなら別に貰うことに抵抗するほどでもないか。

なんか今まで無かったから今更貰えるのも、って思ったけど、貰ったところで困るわけでもないか。


「ふーむ、さてさて、何にしようかな。

 ああ、因みに俺様のヴァゴスはヴァンパイアとショゴスと足して二で割っただけだ。

 シンプルで悪くないだろう。

 ……少なくとも逆に足して二で割ったショイアよりは良いと思ってるぞ。

 本当は妖魔としての名があるんだけどな。

 そっちは捨てたからこっちを名乗るぜ。」


ヴァンパイアショゴスの文頭と末尾を合わせてヴァゴスね。

俺の場合はヴァンパイアドラゴンだからヴァゴン。

うーん、なんか嫌だ。

ショイアよりはいいと思うけど。

掛け声みたいだよね。

ショイアッ!ショイアッ!

うん、ダサい。


「よし、決めたぞ。」


決まったらしい。

因みに俺は別に名前を付けて貰う事に関して了承したつもりはないんだけど……。

どうにもヴァゴスの中では既に決定事項らしい。

嫌じゃないけど、こっちの確認位とれよ。

後、変な名前だったら置いていく。


「グリムルでどうだ。」


グリムル?

グリムル……グリムルか。

うん、まぁ悪くない……と思う。


俺は別にネーミングセンス無いから、すごくいい!とかは分からないし、余程変な名前じゃないと怒るつもりはなかったけど。


『因みに何か意味はあるのか?』


「お、因みにって事はグリムルで認めてくれるんだな。

 よしよし、お前は今日からグリムルだ。

 名前はグリーシュ古代文字から引用した。

 恐ろしい~とか、悪夢とかって意味合いだ。」


何でそんな怖い意味合いを持ってくるんだよ!

古代文字から引用するにしても、もうちょっとなんかあっただろ。

こう、竜とか吸血鬼的なモノから引用できなかったのかよ。


「いや、何か言いたそうな顔をしてるけどよ。

 お前、ただでさえ竜種なんて人間からしたら天災並みの魔獣なんだぜ。

 それに吸血鬼としての特性が備わった竜とか悪夢以外の何物でもないだろ。

 だからちょうどいいって。

 それに、グリーシュ古代文字は今となっては知ってる奴は少ねぇよ。」


ぬう。

吸血鬼のエヴァーンに勝てない時点で俺はその名前に負けてる気がするけどな。

まぁ、意味合いはともかく響きは悪くない。

グリムル。

まぁ、いいか。

言ってる通り拘りはそんなに無いんだし。


『じゃあ、それでいい。』


「おいおい、じゃあってなんだよ!

 気に入ったぜ!ありがとう!位言おうぜ?

 ぜ?」


『気に入ったよ。ありがとう。』


「……なんか素直に帰ってくると面白くねぇな。」


どうしろと?

どう返事してもダメって事じゃないか。


『名前が決まったなら宣誓してよ。』


「ったく、少しは余韻に浸るとかしろよ。

 ……ま、改めて。

 真理を司る物神ディスプレイに宣誓する。

 俺様ヴァゴスはグリムルから害意ある攻撃を受けない限りグリムルに害を加えないと誓う。」


……今更だけど文字でもいいのかな?

まぁ、やってみないと分からんか。


『真理を司る物神ディスプレイに宣誓する。

 俺グリムルはヴァゴスから害意ある攻撃を受けない限り、ヴァゴスを不当に見捨てないと誓う。』


ヴァゴスがそう言った後に俺も空中にそう文字を書いた。

次の瞬間、俺とヴァゴスの間に黒い線が結ばれた。

反射的に前足で触ってみるが、すっと通り抜ける。

線は数度黒く瞬いたかと思うとスッと空気中に溶けるように消えた。

……タイミング的に考えて今ので物神ディスプレイへの宣誓が成ったって事でいいのかな?


「成程。

 宣誓するとあんなことになるんだな。

 俺様もしたことないから初めて見たぜ。」


ヴァゴスは線が触れていた箇所をを不思議そうに触手で触っていた。

暫く触って満足したのかこちらへ向き直る。

そういえばこうやって対峙して暫く経つからか眼がいっぱいあってギョロギョロ動くのにも慣れたな。


「さて、これで宣誓は成った。

 お前に憂いは無いな?

 これで俺様を受け入れてくれるって事でいいんだな?」


そう言われた問いに空気中に文字を書くことで俺も返事をする。


『ああ。

 じゃあ、そこから出せばいいのか?』


「ま、そうだな。

 俺様は内側からじゃこの培養器を壊すのはちょっと面倒だからな。

 お前が可能なら頼む。」


その言葉に頷いて魔領法で拳を形作る。

そのまま、力一杯目の前の培養液の入った透明な壁へと叩きつけた。


次の瞬間、殆ど抵抗なく壁を拳が突き破る。

同時にガシャン!!!!と大きな音。

そしてバシャァと培養器に入っていた液体がこちら側に溢れ出てくる。


液体の流れに沿ってヴァゴスがこちらに培養器内から流れ出てくる。

そのまま体表を玉蟲色から赤黒い色に変化すると目や口が身体に吸い込まれるように消えていく。

そして俺の方へと触手を一本伸ばしてきた。


なんとなく意図を察して無言で前足を差し出す。

すると、そのままするすると俺の前足に触手が巻き付く。

なんか軽い様で重くて崩れそうで崩れない不思議な感触だな。

水が巻き付いたらこんな感じかなって気分だ。

そして、俺が魔領法でも字を書くために傷つけていた傷口を見つけるとそこから体内へと入ってくる。


サーっと流し込むかのように体内にどんどん流れこんでていき、そう長くない内に目の前にあった赤黒かった塊は腕の中へと消え失せた。

腕に何も付いてないことを確認して腕の傷を修復する。

そんなに大きな傷じゃなかったし直ぐに塞がった。


なんか、消え失せたっぽいけど俺の中に居るんだよな?

何の感じもしない……いや、なんか不思議な感じがしなくもないか?

うーん、でもやっぱり何も感じない。


おーい、ヴァゴス。

いるのか?

なんてな。


『おう、いるぞ。』


うおっ!

適当に頭の中で考えただけなのに返事があったらびっくりするだろ!

って前にもエヴァーンの念話もこんな感じだったっけ。

既視感がある。


『今、全身の細胞を血液に再変換したところだ。

 一旦血液代わりにお前の身体を循環させてもらうぜ。

 因みにお前の脳付近に居ると会話ができるみたいだな。』


また俺の思考が筒抜けだ……。

まぁ、別にいいけど。


『慣れればこっちに見せる思考とそうじゃない思考を分けれるようになるさ。

 さてさて、存外住み心地がいいな。

 お前の中に引っ越して正解だ。

 そんじゃま、末永しくよろしくな。

 兄弟。』


そう言ってヴァゴスは俺の身体の中を廻っていった。


やっと主人公くんに名前が付いた…。

50話近くまで主人公の名前無しだったよ。

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[一言] な、名前なかったんか・・・全く気づかなかった・・
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