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死した竜の物語  作者: 獅子貫 達磨
第一章 死出の旅路
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4話 命の値段

それから俺は建物の中に運ばれ、暗い場所で過ごす羽目になった。

夜の洞窟と比較するとまだ明るいくらいだから別段な何とも思いはしないけど。

ただ、やっぱり檻の中っていうのは窮屈だな。

いつ出られるのかね。

あれから、俺だけになる事が多かったから檻の柵を何とか折るか削るかしようとがんばってみたけど疲れるだけの結果になった。

おまけに牙が少し欠けた気がする。悲しい。

非才な身が恨めしい。

嘆いても仕方ないけど。


さて、気を取り直して真面目に今後について考えよう。

今のところの助かる道としては

一,自力での脱出

二,母さんらの迎えを待機

三,人間の良心に期待

パッと思いつくのはこの三つくらいか。


三は論外だとして一も難しいだろうな。

一番のタイミングは檻から出してもらえる時だろうけど、そう簡単に俺を檻から出すとも思えないし、出したとしても厳重に周りを取り囲まれているだろうな。

まぁ、実際にその状況にならないと何もきっちりとしたことは言えないだろうけども。

本当は俺を捕まえた人間がめちゃくちゃ強かっただけっていう事もなくはない。

無いだろうけど。

あったとしたらそれはそれで移動の際は立ち合うだろうから関係ないしな。


さてさて、となると結論的には二の迎えを待つ、が正解になるしぶっちゃけそれ以外にできる事は無いからな。

魔術が使えたら念話とかで連絡取れるんだろうけど。

……いや、使えたらそもそも捕まってないか。

問題はそもそも母さんがどこまで把握しているかだな。

性格的に俺が捕まってるって知ってたら助けに来てくれる家族ばっかりだろうけど、そもそもそれを知らないと助けるもくそもないからな。

後は、捕まってる事を知っても、場所が分からないと助けようが無いだろうし。

まだ竜天獄の近くだからいいけど、離れてしまうと探す場所が広大だ。


ああ、でも念話で人間と話せるなら聞けばいいだけか。

俺が魔術を使えなくてコミュニケーションが取れないから魔竜だと思われてるだけで、人間は古竜種と事を構えるつもりはないみたいだしな。

そうなれば人間も諦めて助けてくれるだろう。

と言うか、そもそも話が通じるのであれば最初に襲われた時に誤解を解けばよかったんだろうけど。

ま、念話は使えないし俺は言語を解しても話せないから仕方ないな。

人間とは喉の構造が違うんだ、どうしようもない。


まだ床が柔らかい素材なら文字を掘るとかできたんだろうけど、金属製だし、そもそも怖がって人が寄らないから諦めるしかない。


今できる事と言ったら寝る事くらいだな。

周りに人間がいるなら話を聞くのも悪くないが、生憎ここに連れてこられてからは酷く静かだし。

交差させた前足の上に頭を置いて目を閉じる事にした。


▼△▼△▼△▼


「「「お疲れ~」」」


木でできたジョッキをぶつけ合って乾杯し、中身を一気に呷る。

あー、うめえ。


「まぁ、結果的に何事もなくてよかったですよ。

 思っていたより簡単に行って、生け捕りしたので報酬上乗せですからね。」


ま、支払は帝都についてからですけど……と言いつつ

グラレナが大皿からラグー料理を取り皿に移しつつ話す。


「そうだな、実際に誰にも被害なくあっさりと終ったな。

 ……あんなもんなら俺らももう魔竜位なら狩れるんじゃないのか?」


バタバタしてて考える余裕がなかったが、ふと考えてみると子竜と言えども竜種をあっさりと捕まえる事が出来たんだ。

成竜も討伐前提なら俺らで狩る事が出来るんじゃないか?

そんな風に考えたが、グラレナが首を振りながら口を開く。


「いえ、やめておいた方が無難かと思いますよ。

 そもそも普通の成竜はあの五倍は大きくなります。

 身体の大きさがどのくらいアドバンテージになるか分からない訳じゃ無いでしょう?」


あー、5倍か、確かにそれはきついな。

実際に成竜を見たことが無いから実感が沸かないんだよな。

ただ、グラレナがそう言うならそうなんだろう。


「後……まぁ、思い過ごしかもしれませんが、あの子竜は戦いに慣れてなかったように思うんですよね。

 戦いに慣れてなかった、というより戦ったことが無いと言うよな……。」


「まぁ、竜種ともなると基本的に狩りはしても天敵もいないから戦う事もないだろうと思うけどな。

 そのまま大きくなったら今度は戦い方なんて知らなくても体の大きさと硬さで大体の相手はどうにかなってしまうから問題ないんじゃないのか?」


「まぁ、そう言われるとそうかもしれないんですけどね……。

 いえ、昔に竜の討伐の見学に参加したことがあるんですがなんというかその時はもうちょっとピリピリしてた気がして……。」


うーん、やっぱりそれは成竜だったから互いに緊張してたんじゃないのか?

竜の方も以前に人間に襲われたことがあって警戒してるとか。

詳しい事は分からないがな。


「何というか野生の危機感みたいなものが無かったように思うんですよ。

 ……まぁ、私達からすれば悪い事じゃないんでしょうけど。」


「だろ?

 実際に無事に生け捕りにして報酬も上乗せされるんだから悪い話じゃないだろう。」


「ガットリーの言うとおりだぞ。グラレナ、お前は賢いけどその分物事をごちゃごちゃ考えすぎるんだよ。

 今から戦うならともかく、終わった依頼の達成祝いなんだから悩んでも仕方ないだろ!

 もっと飲め飲め。」


そう言ってジャスティ―がまだ中身が半分ほど残ったグラレナのグラスに酒を足していく。

グラレナも納得したのか入れられた中身をグビグビと飲み干した。

こいつ、意外と飲むんだよな。

飲んでも性格変わらないからあんまり一緒に飲んでるって気はしないんだけどさ。

それでも1日で30モネリって言う小遣いとしては十分すぎる額を稼いだから嬉しそうではあるな。

もっと羽目外してもいいのによ。


「ガットリー、捕獲したんだから30モネリ以外に競売の三割が貰えるんだよね?」


「ああ、と言っても競売が終わってからになるから貰うのはもう少し先だな。

 多分、帰りの護衛が終わってから帝都で呼び出しがかかるだろうからそこで受け取るんじゃないのか?」


「えっと、それでちょっと細かい事なんだけど。

 こんな依頼以外でのお金が発生するのって初めてなんだけど、それにも上納金ってかかるの?」


今回依頼で一緒に行動しているギルドメンバーで最年少のアズズが恐る恐る尋ねてくる。

ああ、そういや依頼以外の金額が発生するなんて滅多にないからな。


因みに上納金ってのはギルドに収める金だな。

依頼達成額の二割はギルドに収める規則になってる。

その代わりに俺らはギルドから色々な支援が受けれるって訳だ。

武器の手入れとか人脈の斡旋とかな。


俺らのギルドの『帝国狩猟団』はインジェノス帝国でも上位を争うトップギルドだから、人数も多くて上納金も少なくてすむ。

小さいギルドだと四割とかとられて悲惨らしいな。

人数が少ないと必然それを賄う一人当たりの負担額は増加するもんだ。

ま、余りにも酷いと狩人も他に行っちまうから行きすぎなのは見ないけどな。

あってもすぐに潰れる。


「ああ、アズズは初めてか。

 滅多にないからな。

 結論から言うと納める必要はないから俺ら四人で山分けだな。

 だから売値が高ければ高いほど俺らの小遣いが潤うな。」


それを聞くとアズズはまだあどけなさが残る少年顔で嬉しそうに笑う。

アズズはグラレナと逆で喜怒哀楽が分かり易くていい。


「幾らになるかな~。」


「そうですねぇ、そもそも生きた子竜の競売に参加出来るほどの者たちが多くないでしょう。

 国の研究機関、貴族、一部のギルドと言ったところですかね。

 過去にも幼竜や子竜が競売に翔けられた時は中々の白熱っぷりだったそうですよ。」


まだ見ぬ金貨を数えるようににやにや笑うジャスティ―にグラレナが返事をする。


「お、例があるのか。

 そん時はいくらになったんだ?」


「その時は確か150モネリ以上になってたかと。

 なんにせよ100モネリを下回る事が無いでしょう。

 偶に捕獲されるワイバーンですら90モネリ前後行くんですから。」


100モネリの最低金額だったとしても三割で30モネリか凄いな。

四人で分けても一人あたり7モネリ半か……一般家庭の一年分くらいの収入だな。

そもそもの依頼報酬と合わせると最低10モネリ半。

悪くない。

武器を新調してもいいかもな。

早く欲しいもんだ。


「国に顔を売るだけの安い仕事だと思ってたが、存外悪くない儲けになったな。

 行き渋って俺を指名した奴の悔しがる顔が目に浮かぶぜ。」


「そうですね。

 短期間での儲けとしては戦争の時を除くと群を抜いているのではないでしょうか。」


「えっ、逆に戦争ってそんなに実入りがいいんですか?」


戦争未経験者のアズズが食いつく。

ああ、俺も昔はそう思ったよ。

ただ、実際に戦場に出たらわかる。ありゃ酷えもんだよ。

魔獣相手じゃないから頭も使うしいざって時に逃げるって訳にもいかない。

人間が相手ってだけで俺らの戦い方が通用しづらい相手なんだよ。

そもそも、色々な嫌なものを見る事になるから若いのには勧められないね。


「それはですね……。」


食いついたアズズに注意するべく口を開きかけたが、先にグラレナが諭すように話し始める。

ああいった話はあいつ向きか。

アズズも理詰めで納得するタイプだしな。

俺が話すと説教臭くなって仕方ない。

昔は親父や村長の話を早く終わらないかと聞いてたが、気が付いたら話す側だ。

時がたつのは早いもんだな。


そんな事を考えて、料理に手を付けようとしたら大皿にはほとんど料理が残ってねぇ。

ふざけんな!



〇簡単為替レート

インジェノス帝国周辺では共用統一貨幣と言う物が採用されています。

貨幣はそれぞれモネリ金貨、ダート銀貨、ミゼリ銅貨の3種があります。

地域によって微妙に違いますが、大凡のレートは

金貨1枚≒銀貨48枚

銀貨1枚≒銅貨36枚

となってます。


銅貨1枚で固い黒パンが2個くらい買える感覚です。

安いエールで銅貨2枚。

宿で相部屋の雑魚寝の素泊まりなら銅貨3枚。

低品質の長剣で銀貨3枚前後。

市場価値が違うので一概には言えませんが、大体銅貨1枚=100円くらいです。

なのでざっくり金貨1枚=17万円位。

金貨以上の貨幣は無いので大きい取引などの場合は宝石や貴金属で賄われます。

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