8話 真祖吸血鬼の実力
エヴァーンがスッと手を肩近くに持っていき、その高さで剣を構える。
魔領法だけで何とかする作戦は惨敗したので俺も身体を動かさないとな。
因みに断じて横着していた訳じゃ無い。
魔領法に全集中力、それこそその場から動く事すら捨てた集中力、を費やして何とかするのが一番勝率が高いと思っていた。
実際、今までの階層は全部魔領法でどうにかしてきたようなもんだったからな。
割と力押しで何とかできるだろう、と高を括ってたよ。
逆にそう思えるほど魔領法ではかなり何でもできたんだ。
反面、肉体的な技術はお世辞にも上昇したとは言いづらい。
練習してないんだから当たり前だけどな。
だからこそ、中途半端に肉体を交えてぶつかるより魔領法に集中して攻防した方が一番勝率が高いと思ってたんだよ。
と言うか弱点があるならもっと最初に教えろよ!
二年間言われるがままに練習してたのによ。
文献もなかったからエヴァーンの言葉を丸呑みにしてたからな。
まぁ、どこかのタイミングで伝えようとはしてたんだろう。
それが今回のタイミングだったってだけの話で。
愚痴っても始まらない。
現状、直接的に魔領法で攻撃をする事は難しそうだ。
あまり多く展開しても、さっきと同様に耐魔結界で根元から供給を断たれるとオドを単に無駄遣いしたってだけになる。
幾ら俺がオドが潤沢にあるって言っても、そんな勢いで浪費してるとあっという間に底をつくだろう。
オドの効率がかなりいいのが売りである魔領法で浪費してたら世話がねぇ。
故に現状最もいい魔領法の使い方は肉弾戦のサポートだろう。
基本は魔纏法で身体強化をして肉弾戦。
攻撃を受けきれなかったり、無理な体勢から攻撃や回避に転じる時に魔領法を使うって言うのが一番いいと思う。
それなら直接エヴァーンに魔領法を使う訳じゃ無いから砕かれも無効化もされない。
魔眼で見られるのは防げないが、それも次にどう動くか予測が立てられやすくなる位だろう……。
まぁ、エヴァーン位肉弾戦に慣れた相手に予測が立てられるのは結構辛い気もするがそれは言っても仕方ない。
動き回るから座標指定で発動する結界の類も早々使えないだろう。
あれは俺と魔領法を遮るように発動させないと意味ないからな。
発動範囲をデカくして丸ごと覆われても砕けばいいだけだ。
術式自体の脆さはさっきので露呈してるしな。
多分、俺が動き回ったら使わないような気もするが。
とか頭で作戦を考えてたらエヴァーンが動いた。
速っ!
ダンッと軽い音と共に地盤が捲れるほどの踏込で一直線に剣を突き出してくる。
まぁ、突きをするぞって宣言する様な構えだったからな。
動きがあればすぐさま回避できるように注視していたが、それでも避ける余裕は無かった。
回避を切り捨てて全身のオドをフル回転させて魔纏法でオドを固めるイメージを持って全身に纏う。
同時に魔領法で四重の層を俺とエヴァーンの間に展開する。
……が、パリィンと言う音が四回響いただけで一瞬で割られた。
ちっ、やっぱりあの魔剣はエヴァーンが術式破壊の術式付与を行った訳じゃ無いんだな。
あの剣に元から備わってる魔剣としての能力みたいだ。
厄介な。
つまり、あの魔剣は触れるだけで俺の魔領法を無効化してくるって事だ。
俺が魔領法に特化してる事を知っててその剣を選んだなら意地が悪いぜ。
首を一直線に狙ってきたが、何とかそれは回避して前足に当たるように身体を逸らす。
ブシュッっと俺の右前足の付け根に浅く切り傷が出来る。
同時にエヴァーンが突撃した反対方向に地面を蹴って移動し、振り返る。
エヴァーンは少し不思議そうに剣と俺の切り傷を見比べていた。
「ふむ、前足を半分くらい斬り裂いてやるつもりじゃったんじゃが……。
思っているよりも随分浅いのう。」
『単純に俺が避けたから力が籠らなかっただけだろ。』
「いや、斬った感触はあったが想像以上に硬かった、と言うのが正しいかのう。
随分と硬い魔纏法じゃ。
魔纏法だけでそこまで固くなるとは、相変わらず随分と馬鹿げたオド量じゃな。
羨ましいのう。」
そいつは何より。
思ったより魔纏法で得られた効果が高く、硬かったらしい。
そして、今の攻防で一つ分かったのは魔領法と違って魔纏法は術式破壊では無効化されない。
考えたら分かるけど、あれはオドに直接刃が触れる事で強制的に破壊されてるだけだから、身体の下をオドが巡回する分には斬られたところで何の問題もないな。
と言うか、当たり前か。
そんな身体を斬られただけで体の中にあるオドまで消されちゃ、術式破壊だけで随分と魔術師泣かせだ。
「まぁ、良い。
硬い相手なら硬い物を斬るつもりで斬れば良いだけの事よ。
続けて行くぞ。」
再度剣を構えて突撃してくる。
さっきと同じ事されたら流石に俺だって学習するぞ。
腹から魔領法の腕を飛び出させて、その勢いのまま地面を殴りつける。
俺の身体が物理的に不可能な動きで反動を得て空中へと飛び上がった。
「む、良い魔領法の使い方じゃな。
そう使われると妾から魔領法には手出ししづらいからのう。
最初と同じように回避しようとするだけであれば膾切りにしてやろうと思うたが、ちゃんと対応できるようで何よりじゃ。」
そう言いつつ、俺の下をエヴァーンが通過する。
空中に居る間にさっき斬られた右前脚の付け根の傷に集中して、回復を促す。
すぐさま傷口が癒着して、地面に着地する頃には元に近い状態に復元された。
幸い、斬り落とされたりグチャグチャに潰されたりしてないなら、意識を少し集中したら傷は自力で塞ぐ事が出来る。
反動と言うか副作用として腹が減るけどな。
その反動も少しの時間なら我慢できるさ。
俺が着地すると同時にエヴァーンは次の攻撃を仕掛けてくる。
突撃では攻撃の芽が無いとみて、普通に斬りかかってくる。
ぐぅ、流石に素早い。
仕方なく前足の爪で応じるがこっちはは如何せん剣戟での対応なんてここ二年していない。
魔獣とはまた違った連続攻撃から捌ききる事が出来ずに、前足をはじめとして複数個所斬りつけられた。
幸い魔纏法のおかげで大きな切り傷は付いていないが、地味に切り傷が増えていく。
今度は俺の方からと隙を見て前足で襲い掛かるが、剣を持っていない方の手で軽くいなされ、返す刀で反対側の前足を斬られた。
チクショウ、やっぱ肉弾戦じゃ相手にならんぞ!
斬られるとほぼ同時に尻尾を振って吹き飛ばそうと狙うが、当たる瞬間にぬるっと上方向へ勢いを逸らされる。
斬り飛ばされないだけましだがそれでも有効打を与えられていない事には変わりはない。
「ふふふ、肉弾戦はやはりまだまだじゃのう。
頑張るのじゃぞ。」
楽しそうに笑いながらそう言いつつ、再度斬りかかってきた。
上段からの斬り下しを爪で弾いてなんとか斜め下に逸らせる。
が、途中で軌道を変えられ、そのまま横にまっすぐ首の根元付近を浅く斬られる。
一瞬怯んだ俺に追撃とばかりに、再度斜め下から切り上げようとしてきた。
俺は自分の身体の死角となる場所から魔領法で腕を伸ばして、エヴァーンを突き飛ばし、距離を何とかとらせる事で回避することに成功した。
が、突き飛ばされたエヴァーンは空中でバランスを取って、少し離れたところに着地するだけだった。
「ふむ、いい感じに肉弾戦に魔領法を混ぜてれておるのう。
悪くない。
その調子で肉体と魔領法を虚実織り交ぜて運用するとよい。
急に魔領法を死角から出されると対処も遅れるのでな。」
確かにとっさに使ったにしては魔領法がちゃんと当たった。
まぁ、エヴァーンからすればさっきまでの魔領法は来るのが分かってるのを見ながら避けるだけだったのに対して、今回は死角からの急襲だからな。
そりゃ流石に命中するか。
むぅ、ただ俺も身体で剣戟を捌きながら魔領法を十全に操作できるほど器用じゃない。
今のもとっさに出ただけだからな。
いや、まぁ、とっさで出せる程度には魔領法には慣れたって事なんだろうけどさ。
剣で無効化されるって事を除けば魔領法の腕は身体のパーツが増えるのと同義だからな。
ただ、成程。
実際の肉弾戦で魔領法を織り交ぜて使う有用性は理解できた。
まぁ、肝心の肉弾戦がまだお粗末なんだけどさ。
と言うか今更だが人間の身体と比較すると竜の身体は結構不便だな。
噛み付きも隙が大きくて素早い相手にはまず当たらない。
足を攻撃手段として使おとすると、普段立つのに使う足が一本足りなくなって、バランスを崩しそうになる。
最初っから手と足に分かれてる人間の方がそりゃ攻撃手段に優れるってもんだ。
これも人型の相手と戦わないと分からなかった事だな。
手が使える人型の相手は肉体としての状態で攻撃の自由度がめちゃくちゃ高い。
まぁ、武器とかってその自由度を活用する為に発明された物なんだろうしな。
反対に俺の使える有効な器官は尻尾だが、大味な攻撃しかできない。
弱いやつを大量に攻撃するのには薙ぎ払うだけで十分だけど、強い一体と戦う時には大体いなされるから細かい制御ができない事には使い物にならん。
ん?そうだ。
尻尾の薙ぎ払いを考えてたら一個良い事を思いついたぞ。
エヴァーンがもう何度目か分からない突撃を敢行してくる。
それに対して剣戟を最低限逸らす…振りをしながら反対側の足を思いっきり薙ぐ。
逸らす振りだったから、そこそこ深く肩を斬り裂かれたが一旦は無視。
一瞬、俺が攻撃を受けたことに不思議そうな顔をしたが、届くか届かないかの距離での俺の反撃に対しては苦し紛れと取ったのかきっちりを回避を選択した。
その間合いの攻撃なら逸らすんじゃなくて避けてくれるって思ったよ。
薙いだ前足が当たる瞬間に前足の先端から魔領法の腕を出して前足を疑似的に伸ばす。
魔領法の腕が見える魔視眼を持つエヴァーンからすれば文字通り前足が伸びたように見えたんだろう。
一瞬驚いた顔をしたが、魔領法の伸びた腕の薙ぎ払いが命中して真横にすっ飛んだ。
二年前の模擬戦で吹っ飛ばした時は不自然に空中で静止された。
何をしたのかは聞いてないが、恐らく結界系の術式か何かで足場を作ったんだろう。
俺は吹っ飛ばしてもろくに有効打にならなかったのを未だに覚えてるからな。
同じことはさせんぞ。
って事で吹っ飛ばした方向に即座に魔領法を壁状に展開する。
次の瞬間、俺の思惑通りにその魔領法の壁にエヴァーンが叩きつけられた。
流石にこの一瞬の間に術式を発動する暇は無かったみたいだな。
近くで魔領法を展開し続けても剣か結界で消されてオドを浪費するだけなので即座に引っ込めて、そのまま後ろ足に力を込めて飛び上がり、襲い掛かる。
幸い即座に壁を作ってそこに叩き付けたことで対して距離は開いていない。
地面に膝をついたエヴァーンに迷わず前足を振り下ろして地面に叩き付ける。
同時にエヴァーンの方から俺に向かって飛来する何かを察知して、慌てて前足の軌道を変えて飛来物を叩き落とす方向に変更する。
前足に衝撃が走り、俺の顔を狙ったであろう物体は逸れて首に突き刺さった。
くっ。何かと思ったらエヴァーンの魔剣かよ!
苦し紛れになって投げやがったな。
急いで追撃しようと再度目線を戻すと、既にエヴァーンは立ち上がり俺から少し距離を取っていた。
チッ、追撃のタイミングを逃したな。
横に薙いだ魔領法が直撃して、腹にダメージが行ったせいか口から血を吐いていたみたいだな。
既に傷は完治してるみたいだから口元の血からそう察しただけだが。
口元の血を拭いつつエヴァーンが口を開いた。
「……やるのう。
肉弾戦で一撃貰うとは……。
想像以上に肉弾戦で手足の様に魔領法を混ぜられると厄介なんじゃな。
ここまで自由に魔領法の展開が早い相手と戦ったことが無かった故に想像だにせんかったわい。
警戒する物が多すぎて厄介じゃなあ……。」
『よく言うぜ、咄嗟に剣を投げて最低限のダメージで済ませたくせに。
まぁ、これで獲物は無くなった訳だしな。
今度こそ俺の勝ちか?』
「いやいや、面食らいはしたが勝ちを譲ってやるほどではないのう。」
そう言って俺に向かって掌を開いて見せてくる。
一瞬魔術か何かかと思って警戒するが、次の瞬間俺の首に刺さっていた魔剣が抜け落ち、エヴァーンの方へと飛んでいくとスッと手に収まった。
「……残念ながら獲物もなくなっておらんようじゃしな。
魔剣の能力の一つじゃ。
亡くすことが無くて便利じゃろ?」
ニッと笑うとそう言った。
率直に言ってズルい。
剣が無くなって多少は楽になると思ったのに……。
まぁ、一撃与えたのは直ぐに回復するだろうとは思ってたしな。
『……と言うかそもそもこの模擬戦の勝ち負けの条件を決めてなかった気がするんだけど。』
「おや?
ふむ、そう言えばそうじゃのう。
では首が飛んだ方の負けと言う事でいいじゃろ。
吸血鬼の決闘での伝統的なルールらしいからの。」
随分物騒な条件だな吸血鬼。
まぁ、互いにそれじゃ死なないからいいんだろうけど。
人間対吸血鬼の決闘でそのルールになったら、人間側の負け=死じゃねぇか。
「さて、そろそろ爆塵竜が沸く時間じゃのう。
さっさとケリをつけるとするかの。
続けて魔剣の能力を見せてやろう。
もっともさっきからお主は能力を体感しておるはずなんじゃがな。」
そう言って剣を振り上げて斬りかか……ぶん投げてきやがった!
慌てて魔領法で壁を展開したがあっさり術式破壊の効果で破壊され俺の脇腹に突き刺さる。
そして、独りでに抜けたかと思うとエヴァーンの手元へと戻っていく。
卑怯だー。
「こういう風に使うことも出来るぞ。
まぁ、これで消耗戦をしても詰まらんが。」
そう言って今度こそ斬りかかってきた。
最初と同じようにいくらかは受け止めて、いくつかは受け止め損ねて斬られる。
にしも既に能力を体感している?どれの事か分からん。
考えながら応対していると肩口をバッサリ切られた。
っ!
あっぶね。
もう少しで片足を切り落とされるところだ。
慌てて距離を取る。
傷口を何とか魔領法で支えて治療を促す。
と、そこで気が付いた。
だんだん付けられる傷が深くなってる。
この肩も最初に斬られた箇所と同じだけど切り傷の深さが全然違う。
だんだん与えてくるダメージが大きくなってるのか。
これがエヴァーンが別段力の調整をした訳で無いのなら……。
『傷が深くなっているのか。』
「正解じゃ。
この魔剣はのう、斬って吸収した対象の血に応じて切れ味が上昇するんじゃ。
もう幾度となくお主の血を吸っておるからのう。
そろそろ片足位であれば切断できるじゃろう。
更に斬った対象のオドも吸うのじゃが、お主はオド量が多すぎるからのう。
そちらは大したダメージにはならなさそうじゃ。」
ぐっ。
魔纏法を最初と変わらず保ってる筈なのにだんだん貫通してきたのはそのせいか。
何とか硬さで対抗しようとしてたけど拮抗が崩れそうになって来た。
何か対抗策は無いものか……。
そう考えた時、ズンッと地面が揺れた。
エヴァーンの攻撃か、と思って魔領法で身体を囲むがエヴァーン本人は特段構えることなく俺の後ろを見ていた。
「ぬぅ。時間切れじゃのう。
爆塵竜が沸きおった。
もう少し早く始めるべきじゃったか……。
いやここはお主が想像以上に強かったと素直に褒めるべきかのう。
では最後にこの魔剣の最後の能力を魅せてやろう。」
後ろを振り返ると縦に空間が裂け、中からニュッと爆塵竜が姿を現した。
……こうやって出てくるのか。
取り敢えず今は出現するまでに少しは時間がありそうだったから、エヴァーンの方へ向き直ると剣を腰に構えていた。
「さっきまでのお主から吸い取った血とオドを溜め込んでおったじゃろ。
溜める事で切れ味を上昇させると同時に吸った物を一気に解放することも可能なんじゃ。
避けれるなら避けても良いぞ。
避けきれた場合でもお主の勝ちとしよう。
……行くぞ。」
そう言って、腰に構えた剣を振った……んだと思う。
全く剣の軌跡が見えなかった。
と同時にエヴァーンの剣から巨大な赤い刃が飛来する。
避けないと、と思った瞬間視界が回転し、そのまま地面に近づき真っ暗になった。
今のところ主人公がかっこよく勝ってるシーンが無い。
がんばれ。




