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死した竜の物語  作者: 獅子貫 達磨
第三章 吸血竜の邂逅
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7話 魔領法の弱点

思ったより戦闘が長くなったので前後に分けます。

俺が無言で仕掛けたオドの腕がエヴァーンへと伸びていく。


魔領法の展開速度についてだが、これも有効距離に比例する。

と言うよりそもそも有効距離はオドがマナに溶けこんでしまう時間の期限までに如何に周回速度を早くして手元に戻せるようになるか、とも言いかえられる。

つまり有効距離が伸びたって事はそれだけ短時間で長距離を移動させられるって事だ。


今の俺とエヴァーンの距離は大凡10メルトほど。

その程度の距離であればほぼ一瞬で距離を詰められる。


「まず、一つ目じゃ。」


もう少しで届く!って思った瞬間、エヴァーンがそう発した声が聞こえた。

何のことか分からずに疑問を抱くが、今は目の前の戦闘に集中しよう。

次の瞬間、エヴァーンへと掴みかかろうとした手が何もない空間を鷲掴みにした。


なっ!

エヴァーンは掴まれる瞬間に構えを解いてスッと一歩前へ出る事で回避したみたいだ。

エヴァーンの背後で腕が地面に突き刺さる。

回避した事実は理解できるが、何故回避できたのかが分からない。

驚愕する俺の耳に続いてエヴァーンの声が飛び込んでくる。


「まず一つ目。

 お主は魔術が使えん故に魔力感知もあまり得意ではないじゃろ。」


腕を手元に引き戻すようにして、エヴァーンを背中側から襲おうとする。

が、そちらも横に半歩動かれる事で避けられた。


「熟練の魔術師はのう、魔力感知で周囲のオドをかなりの精度で感知可能じゃ。

 魔領法は空気中のマナの大海の中を異物であるオドを高速で移動させる。

 それは咆哮しながら空中を翔ける竜の様なものじゃ。

 酷く目立つ故に容易に感じ取れる。」


左右から挟み込もうとした腕に対して、今度はピョンッと軽く飛び上がって上へと避けられる。

くっ!ここまで来るとまぐれじゃ無いな。

不可視の技の優位性で初撃を食らわせれるって思っていたが、そう上手くは行かないみたいだ。

魔力感知か。オーラ感知が他者に対するオドの感知なら魔力感知は空気中のマナに対する感知方法だったか。

確かに俺は魔術が使えないから今は必要ないって事で全く練習してないな。


でもな、自分でタネをバラしちまってたら世話無いぞ!

その例えで言うなら空にあまりにも大量の竜が居て、常に多方向から咆哮されてたらどこから来るか分からなくなるだろうが!


今度はオドの量にモノを言わせて百本近くの腕を伸ばす。

ここまで数が多いと全ての腕の細かい制御は出来なくなるが、大半はエヴァーンの周囲で動かしまくるだけでいい筈。

数本の腕だけに集中してさっきと同じように掴みかかる。


「うむ、それはそれで悪くない手じゃな。

 周囲がオドで埋め尽くされておる。

 じゃが……。」


エヴァーンはそう言ってニヤリと笑った。

掴みかかった数本の腕の間を縫うようにして皮一枚の距離で全てやり過ごされる。

ほぼ制御してない蠢く程度のオドの腕には、全く関心を向けていない。

なんでだよ!どう見分けつけてんだ!


「残念ながらこれが二つ目じゃ。

 魔領法は魔視系の魔眼に弱い。

 最も魔眼としての所有者が多いのは魔視眼じゃが、

 その魔視眼ですら魔領法の腕を普通の腕と同じように見る事が出来る。

 魔視眼の所有者からすれば普通に腕を伸ばされているのとそう変わらぬ。

 ある程度の体捌きが有れば避けられるじゃろう。」


そう言うエヴァーンの目にはオドとマナが集まっている。

鑑定を使う時と似た感じだ。

話から察するにエヴァーンも魔眼を持ってんのかよ。

ずるいぞ!!


「ふふふ。じゃがここまで膨大な魔領法は見たことが無い。

 オド量にモノを言わせておる感は否めぬが、それでも天晴じゃ。」


全て!避けながら!言われても!嬉しくねぇんだよ!!

操作に集中する腕を切り替えて奇襲をしても、避けられる。

真後ろの腕をまっすぐ突撃させても、背中に目ん玉着いてんのかってレベルで避けられる。

それがまた避けられる距離が皮一枚ばっかりだから何かの拍子に捕まえれるんじゃないかって思わされて苛つく。

なんなら、エヴァーンの皮膚に触れる腕さえあった。

触れれただけで掴めた訳じゃ無いが。


……。

まぁ、いい。

分かったよ。

腕が全部見えてるんだろう?

じゃあ、これでどうだ。


俺は魔領法で操る腕を数本に戻し、その代わりに操る腕を肥大化させた。

さっきまでは人間と同じ程度の太さだった魔領法の腕が、今は人間の胴体くらいの太さはある。

その内の一本を大きく迂回させてエヴァーンの回り数メルトをぐるっと囲う。

そして、そのまま内側へと閉じ込めて圧迫させる。

このままじゃさっきと同様に上へと逃げられることが分かってたから、別の腕の掌で上側を塞いで逃げ道をなくす。


魔領法が全部見えて避けられるなら、見えたとしても避けようが無いように攻撃すればいいだけだ。

さっきまでは細い腕だったから、ひょいひょい避けてやがったが腕を太くして念の為に距離を取った周りから囲い込んでやる。

そもそも人間が通れる程度の隙間すら見せなければ物理的に避けるもクソもないだろう。

魔領法は俺のオドそのものだ、人間の腕が一番使い勝手がいいだけで好んで使ってるけど、思ったように形を変えれるのは当然知ってるだろう。


隙間を殺し、内側を締め上げる。

このまま行けば人間なら内圧で押し潰されて中身が飛び出す惨事だろうが、吸血鬼の場合は大丈夫だろう。

痛いかもしれないけどな。

でも巨大な腕の中のエヴァーンはこの後どうなるかは、腕が魔眼で見えている以上把握しているはずなのに、嬉しそうな笑い声を響かせていた。


「ふふふふふふ。いいのう。いいのう。

 手で捕えられんと思ったら即座に網で捕えようとするその発想の切り替えは素直に誉めてやろう。

 案外こういった想像力を使う魔術的な分野では発想の切り替えがモノを言う。

 お主は案外良い魔術師になるのやもしれんな。

 まぁ、それはさておき……三つ目じゃ。」


声と同時にエヴァーンが無造作に剣を振るとガシャンと何かの割れる音。

と同時に制御していた巨大化させた腕の一本が中央から断ち切られ、切断された先の部位が身体に還元されずに空気中のマナへと溶けて行く。

破壊できたのかっ!?


「三つ目。

 魔領法の腕はいくら力が強くとも、遠くに届こうともあくまでそれはただの押し固めたオドじゃ。

 前も言ったがオドは不安定故に安定したマナと術式にめっぽう弱いんじゃよ。

 故に今の様に術式破壊を軽く当ててやるだけで容易に崩壊するのじゃ。

 術式の破壊と違って術式の核に当てずとも触れるだけで壊れる故に簡単じゃぞ。」


ぐっ!

たしか、術式破壊は発動した魔術式の核となる部分を破壊して魔術の効果を無効化、もしくは著しく弱める付与系の術式だ。

魔術陣を一部欠けさせたら発動しなくなるのと原理は一緒だな。

ただ、飛来したりする術式の核を即座に見破るのは酷く困難だし、据え置き型の魔術とかに使ったりすることが多い。

まぁ、熟練の剣士とかは飛来する魔術も術式破壊の込められた剣で斬り捨てたりするらしいが。

俗にいう斬魔だ。


成程。言われてみれば魔領法はオド自体を押し固めたモノだから、ある意味全体が術式で言う所の核に該当するのか。

他の生物に侵入しただけでオドは解けるもんな。

そりゃ術式破壊で断ち切られたらその部分から崩れるってのも納得だ。

魔術の知識があんまり深くないからそこまでは思い至らなかった。


「魔領法は火力は高いが魔術側からの介入による耐久力は無い。

 分かっていれば砕くのは容易じゃ。

 特に魔術師は魔力の扱いに長けておるからのう。」


そう言って再度剣を振るうとガシャンと軽い音共に魔領法の腕が砕かれる。

くっ、速度もダメで閉じ込めもダメときたもんだ。

中々に辛いな。


ただ、現状当たりさえすればダメージは与えられるはずだ。

それに術式破壊で砕かれるのだって元々魔領法に込めていたエネルギーが消える訳じゃ無い。

魔領法の腕で殴る瞬間だったら剣で打ち消したとしても、それなりの衝撃がエヴァーンへも行くはずだ。

そして、エヴァーンの言い方的に俺の魔領法の衝撃を直接的に食らいたいとは思ってないはず。

そうであるなら動的に活動している魔領法に関しては術式破壊で打ち砕くのではなく、今まで通り避けに徹するはずだ。


……問題は魔眼で腕が見えている現状で素早いエヴァーンにどうやって当てるかだけどな。

ただこれもそんなに難しくない。

速さもダメ、威力が高いだけでもダメ、閉じ込めてもダメ。

なら速くて威力の高い面での制圧を行えばいいだけだ。


再度、太い腕を四本出す。

一本一本が俺の胴体くらい、つまりエヴァーンの胴体の四倍くらいはある。

その腕でさっきまでと同様に上下左右からタイミングを考えて殴りかかる。


「おっ。成程っっと。

 考えたな。おっと。

 確かにこれであればっ、妾は逃げに徹するしかできんのう。」


避けるのにさっきまでと違ってあんまり余裕は無いみたいだ。

そもそもがかなりデカい拳のラッシュだ。

流石に自分の身長よりもでかい直径の拳は大きく動いて避けるしかないわな。

小さく避けたところで絶対に当たるもんな。

かといって術式破壊で相殺しようにも拳を消す代償に込められた力で吹っ飛ぶ。

吹っ飛んでしまえば残った腕で叩き潰す時間は十分ある。

まぁ、エヴァーンもそれは分かってるだろうからさっきから避けるばっかりで剣を振るわないんだろう。


そのまま、徐々に逃げる方向を制限して壁際へと追い込む。

そして壁にエヴァーンが気が付く瞬間に上から叩き付ける予定の拳をパっと平手に広げる。

拳より威力は下がるが平手でも破壊力は十分だ。

しかも上からの攻撃が一番避けづらいだろ?

さっきまでと違って急に拳が広がった事で直前に一気に攻撃範囲が倍近くになる。

一瞬、目を見開いたエヴァーンと眼が合った。


グシャリッ。


叩き潰す音。

む。しかし思っていたより軽いな。


可能であれば全身ぺっしゃんこにしようと思ったが、実際には左手と左足を持っていっただけか……。

ちっ、どうせ持っていくなら厄介そうな剣のある右側を持っていきたかった。

だがまぁ、これで機動力は削げただろう。

さっきみたいに避ける事はできないぞ。

動けば即座に追撃できるように腕を壁際近くから少し離れた場所に構える。

近すぎるとまた剣で破壊されかねないしな。

ふふふ、と片足で壁にもたれたエヴァーンが笑う。


「ふむ。やってくれおる。

 お主から攻撃を食らう予定は無かったんじゃがのう。

 単調な攻撃が続くだけだと思っておった故に侮っておったぞ。」


『そこまで馬鹿じゃない。

 魔獣相手ならそれでもいいけど、さすがに同じパターンだとエヴァーンには見破られるだろうと思っていたよ。』


「成程。

 知性ある者と戦った経験が浅いじゃろうと妾が侮っておったからか。

 こりゃ一本取られたのう。」


『さて、じゃあ今度は俺の勝ちかな?』


リベンジを果たせた、と思ってエヴァーンにそう尋ねるとキョトンとした顔をしている。

なんだよ、そんなに負けたって信じられないか?

そう思っていたら今度は笑い出した。


「ふふふふ。ははははははは。

 そうか。そうだったか。

 お主はまだ吸血鬼と戦ったことが無いんじゃったなぁ?

 では知らぬのも無理はないのう。」


そう言った。

瞬間、まるで怪我をする瞬間を戻したかのようにエヴァーンの腕と足が再生した。


なっ!

……死肉から屍鬼に進化した時に確かに再生能力は上がった。

本でも吸血鬼は再生能力に優れているのは読んで知っていた。

から、放っておくと再生するだろうとは思っていたけどその再生速度が尋常じゃない。

想像してたよりも圧倒的に速い。


「残念ながら真祖ともなるとこの程度は怪我のうちに入らぬのう。

 吸血鬼の再生は屍鬼までとは別次元じゃぞ。

 そもそも再生と言うよりは復元と言った方が正しいくらいにな。

 それに……。」


魔領法の腕を振り下ろす。


ドゴォン!


驚いた、が呆けるより先に腕を動かす。

いや数秒硬直しちゃったけど。

それでも話してる間はその場からエヴァーンが動かなかったから、エヴァーンのもたれ掛っていた壁に向かって魔領法の腕を勢いよく叩き付けた。

話してる途中で悪いけど模擬戦中だから悪く思うなよ。


でも、手応えは、無かった。


同時にブワッと拳が命中した場所から大量の霧が噴出した。

うわっ!

何かの術式か?

慌てて魔領法で自分の周囲を覆って霧が侵入しないようにする。


ただ、霧はそのままこちらへは来る事無く、指向性を持ち纏まると少し離れた場所に飛んでいく。

その場所で人型に固まると色が付き、エヴァーンが中から実体化した。


「……霧化じゃ。

 上位吸血鬼(ハイ・ヴァンパイア)になれば誰でも使える。

 話の途中で攻撃するでない。

 折角解説を交えてやっておると言うのに。

 さっきの続きじゃが……。

 それに、模擬戦と言う割には妾はまだ攻撃らしい攻撃をしておらんのじゃろ。」


ぐぬう、これで仕留められてたら言う事なかったけど、話しながら対策は練ってたのか。


霧化ね。

これも文献では見たことがあったけど実際に見たことは無いから抜けてた。

一時的に体を霧に分解できるんだっけか。

ただ、さっきの腕で多方向から攻撃して壁に追いやった時。

あの時は霧化する素振りが無かった。

多分使おうと思っても直ぐには使えない技なんだろうな。


さっきので仕留めきれなかったのは残念だったが、道はある。

デカい腕での連続攻撃では避けに徹していたからな。

あれを続ければいずれクリティカルヒットするだろう。

流石に頭部を含めた身体の半分も潰せば蘇るのに時間がかかるはずだ。

俺はさっきのを繰り返すだけでいい。

そうおもって無言でさっきと同じように四本の腕で襲い掛かった。


「む。もうそれはよいわ。

 同じ手を使うで無い。 

 ほれ、最後に四つ目じゃ。」


そうエヴァーンが言ったと同時に俺の魔領法の腕が身体の根元付近ですっぱりと切断された。

一瞬何が起こったか分からない。

が、切断されると同時に俺の身体を半球状に何かが覆った。

その覆いの境目で魔領法が断ち切れている。

外にあったであろう腕は戻り先を失い、マナに溶けて行く。

ぐっ、デカい腕を作ってただけに結構な量のオドが持っていかれたぞ。

大体エヴァーン二人分くらいのオドだ。


「四つ目。

 これも三つ目と同じじゃが魔領法は脆く術式に弱い。

 理術式の基礎である耐魔結界を展開しただけで一瞬で繋がりが断たれてしまう程に。

 本来この術式は魔術に対して防御を行う結界系統では最低難易度の術式じゃ。

 物理的には脆く一瞬で砕けてしまう程度のな。

 じゃが展開された魔領法を遮るように設置するだけで、外側に残った魔領法はいとも簡単に解けてしまう。」


実際に新しく作った腕で覆われた結界を軽く殴るとヒビが広がり直ぐに砕けた。

……確かに物理的には脆いな。

ただ、切断されるように展開されると厄介極まりない。


「あくまで魔領法は術者本体から伸びたオドが形作る現象に過ぎぬ。

 座標を指定して発動する術式とはそこが違う。

 故にいくら強大な魔領法であったとしても本体周辺を結界で多い遮断してしまえば、いとも簡単に消えてしまうのじゃ。」


ぐぐぐぐ。

確かにこれはきつい。

幾ら展開しても俺の周囲を覆われたらそれだけで無効化されるんだからな。


「ふん。

 今言った四つが大凡の魔領法の弱点じゃ。

 お主は動かずに魔領法だけで妾をどうにかしようと思っておったようじゃが甘い。

 今のお主がその場から動かずに妾を害そうなんぞ片腹痛いと言うモノよ。」


なんだよ。一発食らった癖に。

……まぁ、一個ずつ教えるためだろうから最初っから完封されてたら実際に一発も食らわせられてなかっただろう。

確かにその場から動かないとまた結界で覆われて無効化されるだろう。

ただ、別に舐めてその場から動かなかった訳じゃ無い。

単純に大容量の魔領法の操作に意識が行って身体を動かす余裕は無かったんだよ。

……仕方ない。俺も魔領法だけじゃなくて動きながら身体の動きと交えて対応しよう。


「さて、散々お主の魔領法は食らってやったからの。

 今度は此方から行くぞ。

 覚悟はいいな?」


そう言ってエヴァーンが再び黒い魔剣を構えた。


いつもお読みいただきありがとうございます。

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