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死した竜の物語  作者: 獅子貫 達磨
第三章 吸血竜の邂逅
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6話 模擬戦再び

ちょっと短いです。

エヴァーンに前足を切り落とされた最初の日から数えて約九日目…と十数時間。

特に代わり映えしない日の連続だった。

佇んで延々と魔領法の腕で負荷をかけ続けるだけだったからな。

傍から見たら何にもしてないけど、心情的には結構疲れてしんどい。


エヴァーンの計算では後数時間で再び爆塵竜が出現するとの事だ。

計算と言うか時間を測る魔道具があるらしくて、それで正確に時間が分かるんだとか。

ほんと、色々と便利なものがあるよな。

魔道具って事は人間が作ったって事だから多分人間の町中に行ったら売ってるんだろうな。

まぁ、結構性能の低い魔道具でも値が張る事が多いらしいが。


因みに人間が技術によって再現可能なものが魔道具、迷宮から産出されるが仕組みが解明されていないものが幻想遺物(アーティファクト)と呼ばれるらしい。

幻想遺物(アーティファクト)も解明されれば魔道具になるらしいから、結構線引きは曖昧らしいがな。

まぁ、正確には幻想遺物(アーティファクト)の発想を元に魔道具を作っているらしく、同じ機能を持った物でも魔道具とは構造が全然違うらしいが。

魔道具で道具としての現象の再現が可能なだけで、機能の仕組み自体が解明された訳じゃ無いんろう。

未だに幻想遺物(アーティファクト)自体は何で動いてるか不明らしい。

まぁ、神々の試練所とも言われる迷宮で産出するって事は神が作ってるんだろうし、早々解明は無理そうだけど。

解明すること自体が不敬だ、って一部の神々の神殿の神官達が言ってるらしいが、魔導学者たちの探究心は止まらずに突き進んで行くらしい。

好奇心って言うのはどの種族でも変わらない。


魔道具の話はさておき、爆塵竜がこの空間にどういう感じで現れるのかちょっと気になるな。

今まで各階層で相手が待ち構えてる所に入る事はあっても、その場で待機してたことは無かったからな。

まぁ、そもそも五階層毎の場所ならともかく十階層毎の一応敵が沸く場所で待とうなんてあんまり思わないだろう。

既定の時間までは相手が来ないって分かってても、あんなデカいやつと戦ってそいつがまた来るって分かってたらあんまり落ち着いて過ごせないんじゃないか?

俺はなんかすぐ倒しちゃったからいまいちデカかったのとブレス当たったら痛そうって程度の認識しかなかったけどさ。


まぁ、それはさておき、魔領法の進捗は現在440メルト程。

一抹の不安は残るが一旦はこれで、と言う結論で俺もエヴァーンも落ち着いた。

正直なところを言うともう少し位は念の為にも有効距離は欲しいそうだが、それよりも帝都に戻る前に魔領法で人型の相手と戦う時の訓練をした方がいい、ってエヴァーンに言われた。

進化後にはそっちはもう訓練する場所も時間も取れないだろうって事らしくて。

模擬戦は騒がしくなるし、何より十全に羽を広げて戦える広さのある場所を確保できない。

だから、優先事項として模擬戦となった。


正直、魔領法の有効距離を伸ばす訓練は帝都の地下室でも訓練できるだろうしね。

吸血竜を縛り直すための術式はそこまで難しくはないが、事前準備が必要らしくて帝都に帰って即座には行われないだろうってエヴァーンが言う。

純血種のアンデットが個体進化で吸血鬼クラスへと進化した場合は、自我が芽生えても安定するまで数日はかかるらしい。

だから一日二日で準備すればいいってシドは考えるだろうって事だったな。

まぁ、最も俺の場合は前例がないから不測の事態に備えて急ぐ可能性もあるから、あんまり悠長なことも言っていられないらしい。

帰ったら作戦は即実行だろうしな。


さて、まぁ、エヴァーンの思惑通りに、ここ数日間はずっぱずっぱ腕を斬られる事を代償にこの階層に居続ける事は出来た。

幸い、爆塵竜の血液と肉を食う事で俺もエヴァーンも腹が減る事も喉が渇く事もなくこの九日と少しを過ごすせている。

……最近は腐りかけてるからあんまり食べたくないけど。

因みにずっと寝てない。

でもやっぱりアンデットだからか全然眠くはならないね。

寝ようと思えば寝れるけど眠気と言う感じの欲求は全くと言って良いほどやってこなかった。

まぁ、練習するのにこれほど適した身体は無いよな。

実際に寝る必要があったなら、有効距離が400メルトすら超えてたか、少し怪しいところだ。


さて、そして、いよいよ次の爆塵竜が来るまでに数時間になって、二年越しにエヴァーンとの模擬戦を執り行う時間になった。

自分でもわかる程度にはそこそこ緊張している。

相手が完全に格上って分かってて戦うのは久しぶりだしね。


「お主と戦うのも二年振りくらいじゃのう。」


俺からテクテクと歩いて距離をとって、少し離れた場所から俺の方へと向き直りつつエヴァーンがそう言った。

随分とのんびりした声だな。

全然気負ってないのが、未だ他の生物の心情に疎い俺でもわかる。

こういう雰囲気を見ると戦い慣れしてるんだろうなって思うよ。

伊達に長生きしてねぇ。


『前回はそもそもエヴァーンと共同関係を組む前の話だったしな。

 あの時は何もできなくて一方的にぼこぼこにされたのをまだ覚えてるぞ。』


「懐かしい…と言うほどでもないか。

 どれ、あれからどの程度の実力が付いたのか見てやろう。

 手加減せずとも良いぞ。」


『言われなくともそのつもりだ。

 もう万全に魔領法を活用出来るようになったってエヴァーンに言われてるしな。

 どの程度通用するのか楽しみにしよう。』


半年位前にエヴァーンに既に自分を超えたって言われたのを思い出す。

まぁ、正確には有効距離や威力の話で細かい制御とかはまだまだって言われたけどな。

素直に手放しで褒めて貰いたいもんだ。

それでも威力とかはもう俺の方が上な訳だし自信は持とうかな。


「いいぞ、その意気じゃ。

 ふむ……。

 じゃが、妾も魔領法を今や手足の様に扱うお主が相手では普通に戦うのは少しばかり面倒で心許ないのう。

 そもそもリーチの差が顕著すぎる故にな。

 故に悪いが今回は妾は獲物を使わせて貰おうかのう。」


そう言いながらエヴァーンは少ししゃがみこむと自分の影へと手を突っ込み何かを探すように腕を動かす。

暫くすると、ズゾゾと影の中から身の丈ほどもある黒い剣を取り出し、軽く振る。

……なんか、随分と禍禍しい剣だな。

黒いオーラが立ち上ってる如何にも毒か瘴気か身体に悪いものです、って言ってる感じだ。

おっかねぇ。


『随分と大人気ないなぁ。

 そもそも、俺は素手の状態でまだ勝ててないんだが。

 最近ずっと俺の前足を切り落としてるのだって素手だったと記憶してるけど。』


「いやいや、大人気も何も妾もこんなに可愛らしい子供の格好じゃぞ。

 子供には花を持たせるもんじゃー。

 それはさておき、素手の件じゃが、あれはお主が妾の趣旨を理解して斬られることを受け入れておるが故の結果じゃな。

 まぁ、最初の時は警戒しておらなんだだけのようじゃがのう……。

 もし、魔纏法を使われて不断の意志を持たれれば、妾も切り落とすことは難しいのじゃ。

 それでも表面を裂く程度はできるがの。

 それに注釈しておくならば、あれは素手ではなく極細の血液で編まれた糸じゃ。

 操血術と繰糸術の合わせ技の一種じゃの。」


そう言うとエヴァーンが剣と反対側の手を軽く振る。

見せようとしてくれたからか、うっすらとエヴァーンの顔の前あたりで紅く光る線が数本見えたような気がした。

ここ数日斬られてたのに全く気が付かなかったな。

と言うか、今聞かなかったら戦闘中も使われてたのかもしれないのか。

初見殺しもいい所だ。


『……前に刃の付いた武器は風情が無いとかって言ってなかったか?』


だからテッセン?が良いとか言ってたじゃねぇか。

思いっきり不気味な黒い刃の剣だぞ。

良いのか?雅なのか?それは。


「似たような事は言ったのう。

 じゃが、『無骨故に好かん』とは言いはしたが、『使わん』とは言っておらんじゃろ。

 残念ながらこの魔剣は妾と相性がいいのでのう。

 そこそこ愛用しておるんじゃ。

 お主の指摘通り雅でもなければ可愛くもないのが難点じゃがの。」


『魔剣なのか?』


「うむ、まぁ、正確には呪われた魔剣故に呪具に近いがの。

 昔に一級戦闘迷宮≪永劫なる種族の眠る墓ノスフェラト・グレイブ≫の六十階層の主、コラプスケルベロスを単体撃破した時に箱から拾った幻想遺物(アーティファクト)、魔剣レフソクレイムじゃ。

 能力は……まぁ、斬られて自分の身体で確かめると良いじゃろう。」


迷宮の名前と剣の名前から察するに死神(レフソ=ウェル)由来の魔剣か……。

剣先を向けられただけで背筋を何かが這い回るような感覚を覚えて寒気がする。

向かい合っただけでこんな嫌な雰囲気を醸し出す剣とか嫌だなぁ。

戦いたくねぇ。

普通の剣は無いのかよ。


因みに迷宮、神々の試練所の中で戦闘を主として先に進むものを分類として戦闘迷宮と言って、戦闘迷宮は中で出てくる魔獣の強さによって零級から六級まで分類分けされている。

例えば今俺たちが潜ってる≪怒れる自然の大遺跡(ムーマーの迷宮)≫は四級戦闘迷宮だ。

だからエヴァーンの言う一級戦闘迷宮はその三段上で、しかも更に今いる階層よりも二十階層も下の場所で手に入れたモノって事だ。

撃破で手に入る箱の中身はそこに至る難易度と大凡比例するらしいから、高難易度の迷宮に深い階層、しかも単独攻略での報酬と考えるとかなりの剣なんだろうな。


因みに戦闘迷宮以外の戦闘力が重要ではない迷宮は特殊迷宮と呼ばれている。

戦闘迷宮と比べると数は少ないな。

例でいうなら遊戯を司る楽神トープルの迷宮≪大遊戯盤≫とかは中が巨大な賭博場になってたりするらしい。


エヴァーンが出したまま降ろしていた剣をスッと眼前にまっすぐ構える。

……自分の身長と同じくらいの剣だってのに、全く体幹がぶれてないな。

刃は嫌いとか言っておきながら、かなり使い込んでじゃねぇのか?

剣を持った相手と戦った経験はそんなないけど、少なくともあんまり隙は見当たらない。

少なくとも無策で突撃はしたくない、と思わせられる。


『その剣、向かい合って向けられてるだけで嫌な気分しかしないんだけど。』


「ふふふ。仮にもお主がアンデットであるが故にその程度で済んでおる。

 仮にも銘に一部とは言えども神の名を冠する剣じゃ。

 類似品は見たことが無い故に稀少度も高いじゃろうし、結構な一品じゃと思うぞ。」


『……そんなもの模擬戦で使うなよ。』


「アンデットであるお主との模擬戦だからこそ使うんじゃがな。

 普通の生きた相手に模擬戦でこんなものを出しては速攻に片がついてしまう。

 最初っから大盤振る舞いで使ってやるのじゃ。

 簡単に終わってくれるなよ。」


そう言って構えていた剣を腕を引いて肩の高さで刃を地面と水平に構え直した。

如何にも突くぞって感じの構えだ。


嫌だって言っても始まるんだろうな。

ああ、やだやだ。


冷静に今までの戦いを思い返してみると、魔領法で数と面で制圧して最初っから押さえ込んでやれば速攻で終わりそうな気はするけど……。

ただ、多分そう簡単には行かないだろう。

何と無くアンデットとしての本能的にそう感じる。

でも、俺だってここまで練習して、かなり魔領法を使いこなしていると言って良いレベルまで成長したんだ。

魔剣の能力が未知数なのが少し不安だが、善戦はできるだろう。


「お主が好きなタイミングで仕掛けて良いぞ。

 その時点で開始じゃ。」


俺に先の手を譲るってか。

随分と余裕だな。


エヴァーンの言葉に甘えて俺は無言で魔領法を使ってオドの腕を十本ほど生やす。

無言で身体を動かさないから、仕掛けたにしては感知できないだろうからちょっとズルいかもしれないけど、これも仕掛けるに入るだろう。

攻撃は攻撃だ。

正々堂々と奇襲してやる。


そして、掛け声の代わりにエヴァーンへと一斉にオドの腕を伸ばした。

さぁ、開始だ。





数字の表示をアラビア数字に一部戻しました。(メルトの表記とか)

数字の表記に迷う。

どう表示するのが見やすいのかな……。

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