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死した竜の物語  作者: 獅子貫 達磨
第三章 吸血竜の邂逅
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3話 エヴァーンの過去

結論から言うと魔竜のはブレス中に口を無理矢理閉じられて、行き先を失った炎に体内を焼かされ、さらに一気に喉付近が膨張して下顎付近が爆散して絶命したみたいだ。

壮絶な最後だな。

俺は同じ竜種として絶対に御免こうむる。

いや、今の俺なら下顎が吹き飛んだ程度なら治るか……。

まぁ、治るからと言って体感したいかと言えば断じて否だけど。

痛みに幾ら疎くなったとはいえ、想像するだけで体がブルリと震える。


取り敢えずエヴァーンが血抜きがてら竜の血を吸っている。

場所はまだ四十階層の中央広間で、さっき戦ったのと同じ場所で作業を行っている。

エヴァーンに聞くまで知らなかった事だがこの迷宮の十階層毎の相手は倒すと十日位の間は出てこないらしい。

つまりは十日前後の間は五階層毎と同じ安全なエリアになるのだ。

だから少しの間であればここに居ても問題は無い。

元々、四十階層の相手を倒したらその日はその場所で休もうって話だったしな。


さて、血抜きしてるエヴァーンは置いておいて、俺はと言うと魔竜の死体の後ろに現れた箱を開けるところだ。

十階層毎の敵を倒すとそこそこの確率で箱が現れる。

エヴァーン曰く、迷宮を所持する神からの試練を乗り越えた報酬らしく、幻想遺物(アーティファクト)、魔道具、加護、薬、素材など色々入っているらしい。


昔に俺が初めてこの迷宮に入って、十階層で大きい狼を倒した時に出現した箱は空っぽでハズレって訳ではなく、中に加護が入っていたみたいだな。

実際に開けた時に俺の中に何か温かい物が流れ込んでくる感覚があったのを覚えている。

あれが加護を得たときの感覚なんだろう。

因みに手に入った物は基本的にエヴァーンに預けている。

自由になったら売って折半する予定だ。

加護はともかく他の報酬は実体のあるものだから俺が持って外に出る訳に行かないしな。


さてさて、今回は…なんだこれ?

うーむ、金属の鉱石…か?

濃い藍色にキラキラと光の粒が散りばめられた石の様な塊が入っていた。

見るからに道具とかって感じはしないな。

加工された人工物って雰囲気は無いし。

多分何かの金属素材かな?

何の素材かまでは俺には分からないけど、微妙に魔力を感じるから多分これは魔導金属の類だろう。


「おお、夜輝金(ステライウム)では無いか。

 良い物が出たのう。」


と出てきた物について考えていたら隣から声がかかった。

いつの間にやら、エヴァーンが隣から箱を覗き込んでいる。


『知ってるのか?』


「うむ。当然じゃ。 

 魔導金属では二番目に稀少な品じゃぞ。

 見た目が特殊な鉱石故に結構有名なんじゃ。

 カンヨウ石とかも言われるておるのう。

 加工すると夜空をそのまま宿したような綺麗な品物が作れるのじゃ。

 よく、貴族の連中が飾り武器としても好むのう。

 単純な鉱石としての特性も結構高いぞ。

 魔導鉄(マナミウム)程ではないが魔力の伝導率もそこそこ高く、神々鋼(デウシウム)並に頑丈なんじゃー。

 まぁ、少しばかり比重が重いのが玉に瑕じゃが。」


カンヨウって神様のカンヨウかな?

確か見た目が不定形の水関係の神様だったっけ。

そういやその神様も成程、体表がこんな夜空みたいな感じって前に聞いたから言い得て妙か。

確かに原石とは言え、キラキラと綺麗な色をした鉱石だ。


「この大きさじゃと売れば20モネリは固いのう。

 うむ、今までで一番の掘り出し物かもしれんな。

 加工する伝手があれば妾がこれで作った獲物が欲しいくらいじゃー。」


ああ、二番目に稀少って言ってたもんな。

高く売れる訳だ。

まー、今の俺たちが持っていても仕方ないからなぁ。

互いに鉱石を加工する技術も伝手も持ち合わせていないからね。

綺麗だから俺もちょっと加工してみたいって思ったけど、エヴァーンと違って加工したところで俺は武器を使わないから意味が無いか。


『獲物って武器の事だよな?

 使ってるところ見たことないが、どんなのが欲しいんだ?』


興味本位で聞いてみる。

エヴァーンは基本戦わないし、戦ったとしても魔術が主だからまだ肉弾戦を見ていない。

から、武器が欲しいって言われてもあんまり直接戦うイメージが掴めないんだよね。

本人いわく「乙女は前で忙しく戦ったりせんのじゃ。」との事だが、多分面倒くさいだけだ。

実際、二人で戦う時も俺が前でエヴァーンは後ろから適当に魔術撃ってるだけだもんな。

俺から見ても魔術撃つ方が楽そうだよ。


「んー。そうじゃなぁ。

 剣などは無骨故に余り好かん。

 妾が持っておってもあまり違和感のない雅な物が良いのう。

 鉄扇とかどうじゃ?乙じゃろ?」


テッセン?

何だそりゃ?

不思議そうな顔をしてる俺の顔を見て伝わっていないと思ったのか、エヴァーンがごそごそと自身の懐を漁って中から短い棒を取り出す。

そして、エヴァーンが片手でその棒をバサァと振るとそれが一気に横に広がり、半円状に変化した。

おお、かっこいいな。


「これじゃ。

 鉄扇はこれの素材を全て金属で作って頑丈にしたものじゃな。

 本来は扇いで涼を取るものなんじゃが、ただの武器と言うのも妾には合わん。

 こういう風情のあるものが似合うじゃろ。」


そう言って軽く自分に向かってパタパタと扇いでいる。

うーん、品とか風情はよく分からんからノーコメントで。


俺が無言で顔を逸らすと、「全く風情の分からぬ若い者は……」と聞こえてくるが無視だ無視。

若い者と言うか種族差な気がするけどな。

竜は基本道具はあんまり使わないし。

そのまま愚痴りながら、箱の横に置いてあった夜輝金(ステライウム)の鉱石をエヴァーンが自分の影にずぶずぶ沈めていく。

ああ、それは便利でいいよなぁ。

俺も使えないかなって聞いたけど、能力だけじゃなくて術式も混ぜ込んであるらしくて無理だった。


えーっと、確か操影能力と空間魔術の融合した影空法って言う技術らしいな。

何れ魔術が使えるようになったら教えてくれるって約束だったから、その時まで楽しみにしておこう。

今のところはエヴァーンがこの術式使えるから、物の保存には困ってない。

そこまで容量は大きくないらしく、エヴァーン二人分くらいしか入らないんだとか。

今までの階層でそこそこの戦利品を入れている為、何かあった時にエヴァーンが退避する用としてのスペースを開けておかないといけない事を考えると、そろそろ容量限界だろうな。


そう考えつつ、後ろを振り返ると竜の巨大な死体が横たわり、その隣の桶は既に竜の血で満杯になっていた。

血と肉を分け終わったから箱の方に来たのね。

随分早い事で。

ああ、操血法ってのも吸血鬼は使えるんだっけ?その応用かな。


影とか血とか色々と操れる能力があって便利でいいよな、吸血鬼は。

屍鬼竜になったけど再生能力が上がって力が強くなって日光に弱くなった位だ。

もう少し何かあってもいいんじゃないかなぁ。

しかも再生能力は自前の物があったからあんまり恩恵感じないし。

心無し早くなってるような気はしないでもないが。




元からここで休む予定だったから、上の階層から持ってきた薪をエヴァーンが影から取り出して魔術で火をつける。

俺は竜の死体を魔領法のナイフで適当に切り分けて、肉を手ごろなサイズにする。

一応、俺が食う用のサイズとエヴァーンが食う用のサイズで分けている。

因みに死んだらオドはマナへと戻っていくので、死体であれば魔領法の刃も比較的通りやすい。


火をつけたエヴァーンと眼が合うと、焚火近くの地面をポンポンと叩くのが目に入った。

あー、はいはい。

そっちへ向かい、叩かれた地面の場所に俯せになるといつもと同様に寄りかかってきた。

そのまま、俺は肉の切り分けを魔領法で続ける。

まぁ、見てさえいれば別に少し離れてても肉の切り分けに支障はない。

少し離れた場所での焚火って言ったって十分俺の魔領法の有効範囲内だ。


「いやはや。呆気無いものじゃったのう。」


『あの魔竜の事か?』


二年付き合って分かったが基本的にエヴァーンが寄りかかって来る時は、暇だから会話しろって合図だ。


「うむ。

 まぁ、考えれば当然と言えば当然よ。

 さっき主が倒した魔竜種はスタブエクスドラゴンと言う種類なんじゃが、

 基本的に得意とする戦い方が広範囲殲滅なんじゃ。」


そんな名前だったのか。

広範囲殲滅ねぇ。

まぁ、ブレスとか威力高いだろうからあんなのを、密集して戦う事の多いヒュマスが食らえば一瞬で大勢が骨までこんがり焼けるだろう。


「反面、広範囲を一気に攻撃するという特性上、自身の攻撃からも身を守るために本体の防御力が高めで鱗が厚くなっておってな。

 その鱗が結構重くて動きが鈍重なんじゃー。

 故に、素早く一匹で動くお主とは、戦う相手として最も相性が悪かったんじゃろ。」


故に慢心するでないぞ、とパシンと前足の付け根を叩かれる。

別に慢心しちゃいないよ。

実際にかなり呆気無いなとは思ったけどさ。

三十階層の相手の方がもう少し苦戦したぞ。

にしても、自身の攻撃からも身を守るってどういうことだ?


『自分の攻撃?ブレスじゃなくてか?』


「うむ、あの竜種の本来の攻撃は鱗の隙間から可燃性の粉をばら撒き、それをブレスで一気に着火して爆破するという戦い方をするんじゃよ。

 通称、爆塵竜じゃ。

 もっともその攻撃をする前の様子見のブレスで死んでしまったから、広範囲も何もないがのう。」


そんな攻撃手段があったのね。

知らなかった。

そもそも俺は初めて見る相手だったしな。

それにしてもエヴァーンはそこらへんの知識をよく知ってる。

流石、長生きだけはある、って前に言ったら怒られたけどさ。

なんでだよ。


『……エヴァーンは魔獣とか魔術とかよく知ってるけど、どこでそんな知識を身に着けてきたんだ?』


まぁ、俺と違ってエヴァーンは顔を出したり日光に皮膚を晒さなければ人間として町中にも入れるだろうから、集めようと思えばそんなに情報源に苦労はし無さそうだな。


「む?

 ふむ、あまり考えたことが無かったのう。

 長い間過ごしておると知識なんぞ勝手に入ってきおるからのう…。」


『と言うか、エヴァーンは長い間って言うけど今何歳なんだ?』


そう念話で聞いてチラッとエヴァーンの方を見ると、俺の身体に体重を預けているエヴァーンと眼が合った。

ジロリと半眼で睨まれる。

なんだよ。


「乙女に年齢を聞くでない。

 と、言いたいが、まぁ、人間でも無いお主に言ってものう。」


ハァ、とこれ見よがしに溜息をつかれる。

そう思うなら品だとか何とか中途半端に押し付けないで頂きたいものだが。


「ふぅ、まぁよい。そうじゃなー。

 もう吸血鬼になって400年近くになるかのう…。」


少し遠い目をしてエヴァーンがそう答える。


『400年か。随分と長いな。』


「されど、お主の二十倍程度じゃな。

 あまり大したことは無い。

 神祖の吸血鬼達なんぞ数千年は生きておると言うではないか。」


『あれはそういう伝説だろう?』


「いや、吸血鬼にしかあまり伝わっておらんが神祖達は実際に今でも存在するぞ。

 見たり会ったりしたという、吸血鬼の実際の体験談が残っておるでのう。」


ああ、そうなんだ。

へー。

逸話を聞く限り、あんまり会いたいとは思わないな。

と言うか、なんか話を逸らされそうだったので話を戻す。


『んで、エヴァーンはその400年何してたの?』


「む、どうした?

 やけに妾の事を聞きたがるのう。」


むぐ、とエヴァーンが言い淀みながら俺の質問に、そう質問で返してくる。

質問に質問で返すのは良くないって前に言ってなかったっけ?

まぁ、別に気分を害したりする訳じゃ無いからいいけどさ。


『いや、二年間一緒に居て技術とか知識は色々と聞いたけど、

 エヴァーン自身の事とかってあんまり聞いてなかったなぁって、ふと思っただけだよ。』


「うーむ。

 まぁ、アズラン…シドの師匠じゃな、に捕まるまでは諸国を放浪しておったよ。」


『従属種って事だったけど、親となる吸血鬼に着いて行ったりしてたって訳じゃ無いんだ?』


「うむ、そうじゃな。

 別段着いて来いと言われた訳でもない。

 そもそも、血を吸われて妾が殺され吸血鬼として目覚めたときには既に妾を吸血鬼にした親となる張本人はおらなんだ。」


俺は肉を切り終って、切った肉を焚火回りに順々に挿していく。

チラッとエヴァーンの方を見るとさっきと同じように俺の腹辺りにもたれ掛って、空を仰いでいた。

まぁ、室内だから空は見えないし、厳密には仰いでいたのは空じゃなくて洞窟の天井だけど。


『うん?そもそもどういう状態で血を吸われたんだ?

 前にちょっと聞いた時には、生きてた時には高貴な身分だった、って言ってたと思うけど。』


「ううむ、覚えておったのか。

 そうじゃなぁ、妾は当時その国の王女じゃったよ。

 王宮に乗り込んできた吸血鬼に血を吸われたんじゃー。」


『そんな急に王女が血を吸われたのかよ。

 護衛とかいなかったのか?』


肉が焚火に倒れないように形を整えつつ、そう尋ねた。

エヴァーンがスッと見上げていた視線を焚火へと戻す。


「……うむ、おったぞ。

 ただ、妾を守ろうとして先に殺されたのじゃ。

 そして、守ってくれる者も居なくなって、そのまま妾も血を吸われたと言う訳じゃの。」


『よく蘇った後に処刑されなかったな。

 俺も本を読んだけど400年前近くって、アンデットに対する風当たりが今と比べると強かったろ。

 王族からアンデットが出たとなったら外聞も考えて処刑されてそうなものだけどな。

 もしくは、殺されずに監禁でもされたのか?』


今ほど、アンデットに対する理解が無い当時の認識はアンデット=よく分からない怖い者って認識だったみたいだ。

感染条件も発生条件もわかってなかったらしい。

案外、高貴な身分がアンデットになったって場合にはあっさり処刑されたり、心情的に殺せなくて地下で軟禁したりって話は聞いた。

俺はどっちも嫌だけどな。

肉を整え終って後は焼き終わるのを待つだけとなった。

そのまま話の続きを聞くためにエヴァーンに向き直る。

エヴァーンはジッと火を見ていたが、俺の問いかけにゆっくりと首を振って答えた。


「いや、恐らく正常な状況であれば流石に、幽閉もしくは最悪の場合処刑もされたじゃろうな。

 確かに妾は愛らしい外見で当時は無邪気な性格じゃったから身内からも愛されてはおったよ。

 ただ、そんな理由だけで身内から出たアンデットの脅威をそのまま見逃すほど身内に甘い父…王でもなかった。

 まぁ、周辺諸国に比べるとアンデットの扱いに対して、即時滅殺の様な雰囲気は無い寛容な国であった。

 それも妾が知ったのはアンデットになって数年たった後の事じゃがな。

 妾に対する扱いの場合は単純にそうする余裕もなかっただけじゃ。」


『余裕が無かった?

 戦争でもしてたのか?』


「……いや、単純な話じゃ。

 アンデットとなった妾が処断されるより先に王も、王女も、王子も、近衛兵も、皆がアンデットになっておっただけの事よ。

 しかも、王達は従属種への変異が上手くいかなかったのか、理性の無い下位吸血鬼となって民を襲い始めておった。」


あー、成程。

うん?

えーっと、何処かで聞いた気がする話だな。


「妾が目が覚めたときには王宮は血に染まり、城下町も彼方此方で阿鼻叫喚の地獄絵図になっておった。

 程なくして爆発的に増えた吸血鬼は次々に民を襲っていったわい。

 そして、襲われてアンデットになった者が次々と別の者を襲う連鎖じゃった。」


ああ、思い出した。

本で読んだんだな。


『エヴァーンの居た国って…。』


俺が言いかけるとエヴァーンが焚火から目を離してこちらを向いた。

そのままコクリと頷く。


「うむ、お主の想像している通りで間違いないぞ。

 妾の故郷はアンデットの坩堝に沈んだ呪われた国。

 アルクカタンじゃ。」


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