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死した竜の物語  作者: 獅子貫 達磨
第三章 吸血竜の邂逅
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1話 竜と鬼の夜

新章です。

「ほれ、こっちへ来たぞ。」


言われなくても分かってるよ。

そう思ったけど、念話には出さずに黙って前足を横に薙ぐ。

空からタイミングを見て飛びかかって来たワイバーンはそれを見て急停止すると、ギリギリで身を躱した。

チッ、尻尾をかすっただけかよ。

一々飛びやがって面倒臭いな。


そのまま、再度タイミングを見測ろうと上昇していく。

体勢を変えて捕まえようとしたが、同じタイミングで別のワイバーンが急降下してきたから仕方なく意識をそっちへ向ける。

が同じように対処して、同じように逃げられる。


さっきから同じ感じの繰り返しだな。

多分こっちの消耗を狙ってるんだろうなぁ。

空からこっちを見下ろす五匹のワイバーンを見上げつつ、そう考える。


「お主は全然肉弾戦は上達せんのう。

 まぁ、妾も身体の構造が違う故に教えてやる事は出来なんだが。」


そう言われてもな。

エヴァーンやガットリー達がやったような攻撃に対する受け流しとかは、少しはできるようになったって思うんだけど。

ただ、やっぱり力でゴリ押す癖がついているのか、言われた通り肉体の技術はそこまで上達してないかもしれない。


「まぁ、仕方ないのう。

 基本的に魔領法ばっかり練習させとったからの。

 肉体の動かし方については今後の課題とするのじゃ。

 ほれ、そろそろ飯の時間じゃぞ。

 飽きた故に、はよう終わらせい。」


全く、急に肉体の動きを見たいから制限付きで戦えって言ったのはそっちなのによ。

我儘な奴だ。

まぁいい、エヴァーンのそう言う所は今更だ。

早く終わらせろ、って事はもう使っていいんだな?


一匹ずつ突撃しても有効だが与えられないと思ったか、そもそも痺れを切らしたのかは不明だが今度は二匹同時にワイバーンが急降下してくる。

俺はさっきまでと同様に前足を振り上げて、薙ぐ素振りを見せる。


片方のワイバーンは俺の前足を躱すべく、今までと同じように急停止して再度上昇を試みる。

もう一匹の方は、俺の背中ががら空きだ!と言わんばかりに俺の背面を……厳密には俺の背中に乗ってるエヴァーンを狙ってそのまま突撃してくるのが感じ取れた。

当のエヴァーンはと言うと、狙われているのが分かっているだろうにジッとして動かない。


ドカ!グシャ!

突撃してきたワイバーンがその勢いのまま俺の後方三メルトくらいで、見えない何かに勢いよく突撃して即死した。

そのまま、ズリズリ、と見えない板に沿う形で地面へと落ちていく。


同時に急停止してから上昇を始めたワイバーンも急にピタッと空中で静止する。


「クエッ??」


尻尾にかかる急激な力と尾の付け根に走った痛みからか、一瞬何が起こったのか分からずに混乱する鳴き声が聞こえる。

奴からすりゃ急に尻尾を引っ張られた感じなんだろうな。

そのまま、急降下する時以上の速度で地面に引き戻されて、その勢いのまま地面へと叩きつけられる。


グシャッ!!


さっきの奴より大きい音を立てて激突したな。

あっちも即死だろう。


ワイバーンは竜種と違って魔術じゃなくて肉体的な能力で飛んでる奴らだからな。

身体全体が軽くできている。

つまり、鳥と一緒。

骨も軽い、が反面それは脆いともいえる。

だから、自重と同じだけの衝撃を喰らっただけで、全身を粉砕骨折して即死する。

ダメージさえ与えてやれば楽に倒せるんだよな。

まぁ、空を飛ぶ上にその速度がそこそこ素早い故に、それが出来なくて死んでいく人間も多いらしいが。


さっきまで何も出来ていなかった俺が急に二匹を即死させたという事で、上空に残る三匹も少し混乱しているみたいだ。

さて、どう出るかな?

向かってくる?逃げる?


正直、飯は二匹で十分だし逃げられたところでこっちに痛手は無いが……。


可哀想に相手さんは特攻を選んだみたいだな。

三匹同時に急降下してくる。

前の二匹がどうやって殺されたかもよく理解しててないだろうに。

分からないものに対して恐怖心を抱けないと今後は生きて行けないぜ。

まぁ、あいつらに今後はもう来ないんだけどな。


俺は急角度で滑空してくる三匹を何をするでもなく眺めていた。

それを諦めと取ったのか、勝機と取ったのかは知らないが雄叫びにも聞こえる鳴き声を三匹があげる。

狙いは変わらず俺の背中に居るエヴァーンだな。

まぁ、俺は倒した所で運んで行けないだろうしね。

それなら小さくて運び易いエヴァーンを、って事なんだろう。


狙われている当の本人は暇そうに欠伸しながら、俺の背中の毛に埋もれている。

呑気なこった。


もっとも、エヴァーンを捕まえて巣穴に持っていったところで全滅するのはあいつらの方だろうけどさ。

ただ、そうすると後で俺がこっぴどく怒られるのでご免こうむる。

主に服が痛んだって理由とかで。


ゴキッ、バキッ、ゴキッ。


急降下中の三匹の首が面白可笑しい方向へ曲がっていく。

あー、正確には首が折れたのが二匹で、一匹は胴体が折れ曲がってる。

ちょっとミスったか。

残念。

まぁ、死んでる事には変わりないさ。

ワイバーンのそれぞれ首と身体が曲がると同時に、急降下から自然落下へと軌道が変わって落ちていく。


程なくして、ボタボタと俺の周辺にワイバーンの死体が降り注ぐ。

真上に落ちた来た一匹は俺の頭上でスッと向きを変えて俺の斜め前へと落ちて行った。


はい、おしまい。


「ふぁーあ、終わったかのう。

 今日はこのまま此処で休めばよかろう。

 燃える物を集めて来い。」


ずりずりと俺の背中から下りながらエヴァーンがそう言った。

むぅ、俺ばっか動いてるんだけど。

俺に追加で働かせて、自分は気分良く吸血タイムですか。

良い御身分だな。

……まぁ、生前は実際に結構な身分だったみたいだけど。

普段着てる赤いドレス調の服もその名残なんだろう。

人間の服を見分けられるようになった最近まで意識してなかったけどさ。

と言うか服どころか性別も顔も意識して見分けられるようになるまで時間がかかった。

人間なんてみんな同じ顔だから仕方ないだろ、って言ったら、エヴァーンには「竜なんてみんな同じ顔じゃろ」って言われて何も言えなかったけど。


エヴァーンが地面に下りたのを確認して、俺はそのまま薪を探しに林の方へと向かう。

ま、近くの林には当然木があるからそこまで苦労しなくても見つかるだろう。





パチパチと集めた薪が燃える音が辺りに響く。

焚火を中心にゴロリと横になると、当たり前に様にエヴァーンがもたれ掛ってくる。

焚火には血抜きの終わった(正確には血の吸われ終った)肉が刺してあり、偶に脂が火に触れてパチッと小気味良い音を奏でている。

もう少ししたら食べようかな。


エヴァーンは既に血で結構満足してるのか、手に小さいサイズの骨付き肉を齧っているだけで焚火の肉に新たに手を出そうとする様子は無かった。


ワイバーンの肉は初めて食べた時は存外美味しくて、貪るように食べたらエヴァーンに大層笑われた。

仕方ないじゃん、竜天獄に居たころは態々山上のワイバーンなんて取りに行こうって思わなかったんだから初めて食べたんだよ。

実際は食べ方に品が無いって事だったらしいけど、品ってなんだよ。

一応、それからエヴァーンに食べ方のマナーについて教えられたけど、手間がかかるばっかりで全然実用的じゃなかった。

まぁ、小煩いので渋々従って言われるがままに食べるとエヴァーン曰く「マシになった」との事だったが。

俺にはそう言われてもどう違うのかさっぱり判らない。


因みにエヴァーンの話では外にいる野良のワイバーンはあんまり美味しくないらしく、迷宮に居るワイバーンの方が臭みが少なくて美味しいんだとか。

何の違いかと聞いたら、知らぬ、と返された。

総じて、迷宮産の食材は既存の地上で獲れる食材より臭みが少ない事が多いらしい。


今いるのは前と変わらず怒れる自然の大遺跡、ムーマーの迷宮だ。

階層は三十九階層。

最初の事を思えば随分と深くまで来たもんだ。

次が四十階層だから、今まで通りなら試練部屋だろう。


以前からは考えられないくらい深く来たけど、深い階層でも周りの魔獣を気にせず、楽に野宿できる程度には強くなった。

まぁ、ここまで快適なのはエヴァーンが居る時限定で、一人の時は念の為に律儀に安全な場所まで戻って休んでるけど。

因みにこの迷宮は五の付く階層が安全なエリアになっている。


「おい、肉を取れ。

 小さいのじゃぞ、その奥側に刺してある小さい奴じゃぞ。」


む、二本目を食うのか。珍しい。

無言で魔領法で作り出した腕を使って、焚火に刺さった小さい肉を取り、エヴァーンの手元まで持っていく。

因みに俺的にはこの魔領法で作る人間の腕と指の仕組みが物を掴んだり細かい作業をするのに大層便利で助かっている。

竜の足は指も少ないし鋭い爪が邪魔で細かい作業に向かない。

魔領法が出来て何気に一番嬉しかったのはストレスなく本のページがすいすい捲れるようになった事かもしれない。

そのまま、魔領法の腕で取った肉を渡すと、エヴァーンは手に取って満足げに食べ始めた。

傍目から見ると急に肉が宙に浮いて、エヴァーンの手元まで移動する感じだから奇妙に感じるよな。


「に、しても、」


肉を齧りながらエヴァーンが声をかけてきた。

おい、前に俺が食べながら念話したら行儀が悪いとか言ってなかったか?

念話じゃなくて肉声ならいいのか?

絶対に念話より行儀が悪いのは俺でもわかるぞ。

口に出すと無言で殴られるから言わないけど。

俺には注意する癖に理不尽だ。


「お主、本当に、魔領法は、上達したのう。」


ハムハムと食べながらそう言った。

そう言って貰えると嬉しいよ。

ところで、その行動には品はあるのかい?


まぁ、品はさておき、最初にエヴァーンに声をかけられて、互いの解放を誓ってからもう二年経った。

二年だ。

長いようで存外早かった。

そう感じるのは、少なくとも竜天獄でずっと漫然と過ごしていた時と比較すると戦って明確に自分に力がついていくのを実感できたからだろう。

もう二年か、って感じるな。


『エヴァーンに教わってから二年経つからな。

 基本的にずっと魔領法だけで戦えって言われてたら、そりゃこうもなるだろ。』


俺は念話でそう返す。

最初は魔纏法がようやく使えるようになって来たかな?って段階で急に魔領法だけで戦え!とかって無茶なこと言われたもんな。

あれは無理だよ。


「いやいや、前にも言うたが妾でも今のお主ほどに十全に魔領法を使うのに十年以上かかったんじゃぞ。

 それを考えるとたった二年でそこまで上達するとは思っておらなんだ。

 つくづくオド量の差に理不尽を感じたものよ。」


食べるのを一旦止めたのか、通常通りの声でエヴァーンがそう返す。

オド総量が多いから練習量も多くなって、上達が早いって言ってたか。

実際に練習してみると分かるんだけど魔領法は魔纏法と違って、失敗したらオドがそのまま空気中に溶けて減るからな。

でも使用するオドを減らすと周回させる量が足りずに練習にならない。

その最低限のオドは俺からすると少量だったが、オドの少ないヒュマスとかからすると自分の持ちうる全てのオド、とほぼ同量なんだろう。


ヒュマスより圧倒的にオドの多い…厳密には十倍と言っていたエヴァーンでも練習で失敗した場合はオド総量の十分の一は消し飛ぶらしい。


まぁ、そう考えると俺の場合は百回近く失敗してもオドが半分にもならない。

そりゃ、練習しまくって失敗続きでもコツをつかむのが早い訳だ。

ましてや練習なんて期間が空くと前に手ごたえを感じてても忘れてしまう。

その手ごたえを忘れることなくずっと練習に打ち込めるのはメリットだったんだろう。


「全くもって不平等じゃ。

 まぁ、そもそもお主は霊皇竜故に基本的なオド量ですら多いからのう。

 仕方ない事なのかもしれんが。」


そう言いつつもブツブツと不公平じゃー、と零している。

俺に言われても困るんだけどなぁ。

愚痴を続ける吸血鬼のお姫様は無視して、俺も自分の肉を取るべく焚火にある一番大きい肉を取って口元に持ってくる。

うん、魔領法は便利だな。

戦闘でも日常生活の両方でも使える良い技術だ。

肉を齧ると淡白な味わいにギュッと込められた旨みが口の中に広がる。

焼いたことで香ばしくなって皮がパリッとしてるのも最高だな。

今まで生で食ってた肉が馬鹿馬鹿しく思える。

やっぱり肉は焼いた方が旨い。

肉を旨く感じれるって言うのは大事だな。


因みに一年ほど前に無事に屍鬼竜に個体進化したことで、身体が少しがっしりした。

少し鱗に潤いが戻って、心なしか背中の毛も毛並みに艶が戻った気がする。

加えて明確に物理的な力が強くなったりもした。

でも、一番の変化尻尾が一本増えて二本になった事かな。

最初は身体の器官が一気に倍になって動かすのに慣れるので大変だった。

特に尻尾は今でこそ自由に動かせるが、最初はそれぞれを動かすのにかなり手間取った。

地下室で一本目の尻尾を動かそうとして、隣の尻尾が動いて何回かエヴァーンを轢いて怒られたものだ。

因みにエヴァーンに聞いたけど人間の場合は別に屍鬼になっても身体上で新しく何かが生える事は無いそうな。

だから、しきりに首を傾げてたな。

同じくシドも首を傾げてた。

まぁ、シドは新しい発見だ!って言って学会?か何かで発表する材料が出来たって喜んでもいたけどな。


反面、デメリットも追加されて一番のデメリットが日光の耐性がかなり下がった事だ。

シドみたいに日光で皮膚が燃え上がるという事は今のところ無いが、日光の下ではかなりの力の低下が実感できる。

何だろう、太陽の下では力が吸われるって言う感じだ。

体感的に半分以下。

だから今ではさっさと四階層までは駆け抜けている。


次のデメリットとして飢餓感がかなり出てきたこと。

死肉竜の頃は何も食べなくても何とも思わなかったけど、屍鬼竜になってから一定時間ごとに酷く腹が減るようになった。

しかも減った腹は肉でしか満たされない。

植物食べても木の実を食べてもダメだった。

エヴァーン曰く屍鬼竜は肉を食う事が唯一存在を保つ手段らしい。

因みに吸血鬼になるとそれが血になるんだとか。

日光に関してもそういうモノだから諦めろって事だった。


ま、無事に進化できた事で他のアンデット同様の道筋は辿れる事が確認できたらしい。

尻尾が増えた事以外は別段アンデットとしておかしい事は無いんだとか。


そう言えば、魔領法の俺の腕の威力は既にエヴァーンを超えている。

でも、有効距離が300メルト前後でまだ目標の五百メルトには届かない。

まぁ、正直なところ戦闘面では300メルトも届けば全く困らないんだけどね。

俺の中で魔領法は既に戦闘面では不可欠な存在となりつつある。

まぁ、最近は魔領法に慣れ過ぎて肉体の動きが遅れてる!ってよくエヴァーンには怒られるけどな。

一旦は魔領法でいいだろ、とも思う。

解放されない事には肉体技能が上がったりしても意味ないんだからさ。

身体自体も個体進化した事と魔纏法を使う事で能力自体は上昇してるんだから補えてると思うんだよね。


「ふぅー、旨かった。

 満足じゃー。」


肉を啄みながらそうこう色々と考えてるうちにエヴァーンが二本目の肉も食い終わったみたいだ。

骨を焚火に投げ込むと、ドレスの皺を整えて俺の背中へと登って行く。


「さて、満足した故、妾は寝るぞ。

 きっちり周囲警戒をせい。

 妾をつまらぬ事で起こすで無いぞ。」


そう言って俺の背中の毛が一番密集してる翼の付け根に体を丸めて横になった。

最近ずっとそこで寝るよね。

寝心地いいのか?

もぞもぞと動いて体勢を整えていたみたいだが、すぐに動かなくなった。

おやすみ、って言おうとしたけどエヴァーンが寝て、術式が解除されたのか既に念話は通じず返事もなかった。

仕方なく音をたてないように気を付けて肉を喰らう。


うん旨い。


屍鬼竜に至る過程の話もを書くか悩みましたが、少しスキップします。

また時間がある時に別の閑話として入れるかもしれません。

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