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死した竜の物語  作者: 獅子貫 達磨
第一章 死出の旅路
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3話 たくさんの初体験

目が覚めると頭がずきりと痛む。

思いっきり頭を殴りつけやがって。

唸りながら辺りを見渡すと、俺が起きたことに気が付いた人間が慌てて武器をこちらへ向ける。


見渡そうとして頭が固い物に当たった。しっぽも何かコツンと硬い棒状の物に触れる。

そして地面が揺れている事に気が付く。

今度は気を付けて眼だけ動かして辺りを見渡すと何か囲いの様なものに入れられ、その囲いごと運ばれているみたいだった。

これは……そうだ『檻』だ。

祖父から聞いた話に出てきた物と一致する。

人間が何か生物や同族を捕えておくためのものだったか。



警戒されつつ俺を入れた檻が運ばれていく。

前足でも入れたら噛み付いてやるんだけどな。

残念ながら棒を向けられることはあっても攻撃できそうな距離まで近づいてこない。

魔術が使えたらいいんだけどな。


まぁ、仮に噛み付いたところで攻撃されて痛い思いをするだけだろうから俺の気が済む以外の結果にはならないんだろうけど。

仕方がないので唸るだけ唸って威嚇する。


そうこうしている内に俺が降りた(滑空した)森から出て、人間が加工したであろう道に出る。

檻は方向を変えて道沿いに進み始めた。

因みに檻には丸い車輪がついていてそれが地面と接触するたびに揺れる。


道沿いに進み空が暗くなり始めたころに自然では見たことのないのっぺりとした壁が目に入る。

……あれが人間の建物で町と言うやつか。

当たり前だが初めて見る。

壁と道が交差する箇所には壁に穴が開き中へと入れるようになっていた。


その穴……入口の前にはまた人間が立っている。

たしか、門番と言うんだっけ?

人間は大勢で集まりそれぞれの決まった役割をこなすと教わった。

その大勢の中に異物が混じらないように集団の外で見張る役目の人間に付けられる呼称だ。

壁前の門番たちは俺を運ぶ檻に気が付くとやや緊張した面持ちで前足に持った武器を構え始めた。

それに気が付いたのかは知らないが檻を曳く馬も減速しはじめ入口の前で静止する。


「無事に依頼を終えてきたみたいで何よりだ。

 流石は帝都に籍を置く大規模ギルドの一員だな。」


俺へと目線をチラチラ送りつつ、先頭の男……俺の肩を刺した奴で道中の人間の会話を聞いているとガットリーという名前らしい……に門番が話しかけた。


「偶々だよ。成竜じゃなかった事と寝てる間に包囲出来たから運が良かっただけだ。」


首から下げた金属の板を門番へと見せながら、肩をすくめてガットリーが返す。

まったくもって忌々しい奴め。

……実際のところ微睡まずにきっちり警戒していたとしても命の獲り合いをするのは初めてだったからちゃんと戦って勝てたのかはわからないけど。


「そう謙遜するな。それでも包囲後に生け捕りにしているんだからな。

 ……よし全員分のイーホカードを確認した。通って良し。

 一応確認するがその檻は壊れないんだろうな?

 子竜とは言え街中で暴れたら大惨事だぞ。」


門番はやや不安げに俺の方に視線を向けてつつガットリーに尋ねる。

尋ねられたガットリー当人は肩を竦めて、そのまま後ろの細い奴……俺に魔術を叩きこんだ奴で確か名前はグラレナ?だった筈……に視線を送る。


「ほら、俺の心配が的外れって訳じゃなかっただろう?」


どうだ、と言わんばかりに威張るガットリーにグラレナが軽くため息をつく。


「だからと言って威張れるものでもないと思いますけど。

 門番の方はともかく貴方は遠征の時にはリーダーを務めることもあるでしょう。

 しかも魔獣退治の。そんな人が知識不足では困るんですけどね。

 ……で、檻についてですが問題ありません。

 魔竜種の子供には金属製の檻は破れませんから。

 そもそもこの檻は元々、イーホ…狩人機構から貸し出された物なので、

 そこらへんもイーホの危機管理を考えれば大丈夫だと判断できると思いますがね。」


ガットリーを軽く睨むとため息をつき、面倒くさそうに門番に説明を行う。

魔術が使えればその説明が間違っていることを今ここですぐに証明してやるのにな。

何もできないこの身が今は忌々しいことこの上ない。


イラついたので軽く金属の床を爪で音を立てて叩く。

コツコツ。

納得しかけた門番がギョッとした顔でこちらを見て心配そうにグラレナへと再度視線を戻した。


「んじゃま、大丈夫だろってことで通るぜ。

 一応なんかあったらイーホ支部に来てくれ。

 多分そこで連絡がつくだろうしな。」


ガットリーは門番にそう言って、馬のお尻を叩く。

馬が嘶き動き始めるとそれに合わせて再びガタガタと揺れ、固まったままの門番を尻目に俺を入れた檻が進んで、そのまま町中へと入っていった。


町の中は当然だけども産まれて初めて見るモノばかりだ。

いままでの外の自然の景色とはうって変わってどこか直線的な質感の印象を受ける。

これが人間の作った町と言うやつか。

住む場所だけじゃなく、地面や壁も全て自分たちで加工したのか。

人間ってのは気の長い事をするんだな。


竜はもっぱら自然の中に棲みついて、せいぜい加工するって言っても洞窟に穴を掘るくらいだしな……。

それも魔術で掘るから楽だけど、こんな何かを加工して積み上げたようなものを作ることはしない。

少なくとも俺の居たアバローネ山脈付近では見たことが無かったな。


「ははっ、こいつさっきまで唸ってたのに今はキョロキョロしてるな。

 人間の町が珍しいのか。」


町をあちこち見渡していると横から人間が嘲笑った。

あん?なんだよ見ちゃいけねぇってのか?

喧嘩売ってんのか?買ってやるから檻から出せよ。


「まぁ、山で過ごす生き物……と言うより人間でも初めて見る物には興味を抱くでしょう? それと同じことだと思いますけどね。

 私たちは赤ん坊のころから生きていますから当たり前ですけど、自然と人工物はかなり違いますからね。」


笑ったやつに唸ろうとしたら、反対側に居た魔術師のグラレナがそう返した。

まぁ、逆に俺は産まれてこの方自然の中でしか生活してないから、実際にモノ珍しいんだ。悪かったな。


なんかそのまま見渡して笑われるのも癪だったから、檻の中の手に頭を置いて目を閉じて寝たふりをした。薄眼は開けて見れる範囲で見ておいたけど。


そのまま、揺られて進む先に見えてる大きい建物が更に大きくなったように見えてきたころに檻が止まった。

顔を上げて辺りを見ると、ガットリー達が建物に入っていく後ろ姿を目にする。

ここが目的地なのか?


人間達が入っていった建物を見ていると壁からぶら下がる小さな看板が目についた。

えっと、『国際狩人機構パーダーボルン支部』か。

ドアと壁には『IHO』と書かれている。

文字は分かっても内容が理解できていないとあまり意味が無いんだな。

取りあえず文字は教わっていたから読めても読めた文字の意味が分からないと意味がない。

考えてみれば当たり前だけど。


そんな事を考えていると鼻をふわりと良い匂いがくすぐる。

匂いの方へと頭を向けると、人間が道端の箱の中で何かを焼いている。

その焼いているモノにさらに何かをに塗っている。

塗られたモノに熱が通ると一層いい匂いが漂う。

……お腹すいたな。

ぐぅと腹が鳴るが、如何せん檻からは出れないから鳴らすことしかできない。


ああ、そういえば朝に少し肉を食べて、後は果物とかだけで何も食べてないなぁ。

もう夜だからお腹すくな。

取りあえず人間が戻って来るのを待つしかないのかな。


なんて思考を読んだかのようにドアが開いて、奴らが、俺を捕まえたガットリー達が出てくる。

その後ろから見たことのない男も出てきた。

……そいつはあまり強そうじゃないな。

威嚇代わりに吼えたらビクッとさせることには成功したが、前に居たガットリーに武器で突かれた。

いってぇなぁ。


「それで早く見てくれ。」


「あ、ああ。わかってる。大丈夫だ。」


ガットリーに急かされた男がこちらへと向き直る。

と同時にほんのりと男の目にオドとマナが集まるのが分かる。

微妙に光も帯びてるな。魔術……とも違うみたいだし何してるんだ?

訝しんでいるうちに終わったのか、集まった目元のオドを霧散させ、手元の紙に何かを書き始めた。


「出た。確認してくれ。」


「おう、……グロリア?」


渡された紙を見てガットリーが反応して首をかしげる。

それに対してグラレナが無言で手をつき出して見せろと要求する。

言われたまま大人しく手渡された紙へとグラレナが目を通し、しばらくして口を開く。


「……グロリア・アローサルオリジン、ですか。

 聞いたことない種族名ですね。グロリアの名を冠しているので魔族の亜種だとは思いますが……。

 まぁ、過去の鑑定結果でも竜種はおおよそグロリアに分類されていましたか。

 しかし、アローサルオリジン……聞いたことありませんね。

 鑑定士さん、聞き覚えは?」


紙から顔を上げてグラレナが男に聞く。


「いや、初見だ。今まで見たことが無いな。

 竜種などの魔獣の鑑定結果は大凡『グロリア・~ドラゴン~種』と出るんだが……。

 例えば一般的な紅鱗の火竜なんかは『グロリア・フレイムドラゴン・クリムゾン種』

 みたいに表示が出る

 種の表記が無いのは魔獣としては珍しい。」


「ええ、この表記は人種に近いですね……。

 まぁ、知識不足が原因の事は考えてもいい結果にはなりません。

 帝都に送って研究機関で調べてもらうのが一番良いでしょう。

 しかもこの竜、珍しい加護持ちですね。」


「加護?魔獣が?」


ガットリーが訝しむように尋ねた。

グラレナがチラリと俺を見て続ける。


「一部の高位魔獣は加護を持っていることも珍しくありませんよ。

 偶に発生する特殊個体の力はおおよそ加護が根源の事が多いんです。

 まぁ、生物由来の力でも加護由来でも能力には変わりないので学者以外はあまり気にしませんけどね。

 例えば竜はよくエンディガーの加護を持っているんです。

 エンディガーが龍神なのでそれ自体は別段不思議じゃなくよくある事なんですが。

 ただ、この子竜は『復活なるレフソ=ウェルの癒加護』と言うのを持っていますね。」


そうですね?とグラレナが鑑定士と呼ばれた男に確認を取る。


「ああ、俺のこの『鑑定』も『眼識なるトープルの鑑加護』という加護から与えられているモノだ。

 加護はいわば神から力を借りている状態だからな。

 同じようにそいつも『復活なるレフソ=ウェルの癒加護』と言うものを持っている。

 加護の効果までは俺の鑑定では分からないが。」


それを聞いたガットリーが怪訝そうにしたのを察したグラレナがため息をつく。


「ガットリーさん。貴方、もしかしてレフソ=ウェルを知らないんですか?」


「あー、いや神様って十五柱もいるじゃねーか?

 自分の崇める神以外はあんまり興味なくてな……。」


「芸は身を助ける、じゃありませんが芸同様に知識は身を助けるんですよ。

 逆に私に言わせてみれば、十五柱しかいないんです。

 そのくらい覚えておかなくてどうするんですか……。」


周りからの微妙な視線に晒されガットリーは気まずそうにしている。

ざまぁみろ。いい気味だ。

…にしても、神様ね。俺も全く知らないな。

聞いたことがない。

あー、いや、聞いたかな?聞いたような気がしなくもない。

あまり記憶に残っていないけど。

そもそも自分に加護があるっていうのも初めて知ったぞ。

ガットリーとグラレナの話が続く。


「そういえば聞いてませんでしたが、そもそも貴方の崇めている神とはどなたなんですか?」


「ん?ああ、壊神だ。」


「ふむ、職人と鍛冶と怪力を司る壊神、グアカリブですか。

 少し意外ですね。剣神かと思ってました。」


「俺は剣じゃなくて槍だからな。

 後、実家が鍛冶屋だったからその影響だと思うぜ。」


話題が少し逸れた事で周りからの視線が減って嬉しそうに答える。


「壊神と同じように言うならば、その子竜に加護を付けたのは死神ですよ。

 血と復活と次元を司る死神、レフソ=ウェル。

 一部では未だに恐れられている一柱ですね。」


「何というか悪そうな神だな。」


「漠然とした為にならない感想をありがとうございます。

 実際に過去に三悪神の一柱に換算されていましたよ。

 ただ、他の神同様に大きく人の益になる訳でも無ければ、同様に害になる訳でもないので……。

 まぁ、実際に信徒は少ないですけどね。

 主な信徒は治癒魔術師位です。」


「ん?治癒士なのに死神崇拝してるのか?」


ガットリーが不思議そうに聞く。


「ええ、復活を司っている点と死神と言う事は逆に生かせることも精通している訳で……。

 まぁ、信徒になったからと言って加護がもらえる訳じゃありませんけど。

 それに、貰える加護が必ずしも欲している加護とは限りませんから。

 ……話が逸れましたね。ええ、まぁ、そんな加護です。

 癒加護なので外傷が治りやすいとかそんな内容なんでしょうかね?」


無理矢理話題を戻して話をまとめた。

ほう。俺にそんな力があったのか。

確かに魔力暴発で怪我をしても一日位で治ったが。

他の家族は怪我をそもそもしないから比べようが無くて気が付かなかったな。

実際にもう肩の怪我もなくなってるし、頭も傷まないが……。

これは加護によるものだったのか。

これからは意識しておこう。


「あー、えっと、話の途中だけど俺はもういいのか?

 いいなら戻るけど。」


横でずっと話を聞かされていた鑑定士が話を遮る。


「ああ、すみません。

 すっかり話に集中してしまいました。

 そうですね。種族と加護が分かっただけで十分かと。

 因みに鑑定士さんはこの子竜の加護に心当たりはありませんか?」


「うーん、俺にはちょっと分からんね。 師匠に聞けば分かるかもしれないけど。

 加護も元からあまり詳しくないからな。

 俺は基本見た内容を紙に書くだけだ。」


「わかりました。

 一応支部長に報告を。

 取りあえず任務完了と言う事でこの子竜はここに置いておきますよ。」


「ああ、伝えておく。」


そのまま、俺を捕まえたガットリー達は歩いていき直ぐに見えなくなった。

しばらくその背中を眺めていたが、建物の方へ向き直ると鑑定士と目があい、鑑定士が軽く悲鳴を上げて建物の中へ逃げて行った。

うーん、どうやら俺はここで待ちぼうけみたいだな。

さて、どうしたものか。


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