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死した竜の物語  作者: 獅子貫 達磨
第二章 死肉竜の目覚め
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16話 解放計画

『……どうやって?』


まぁ、実現可能か不可能かは一旦置いておくとするならば、俺としても考えの一つではあった。

俺を縛っているのは死霊魔術で、その術者はシドだからそりゃ術者を殺しさえすれば確かに俺もエヴァーンも自由の身だろう。

それは分かってはいるんだけど、その目標自体が酷く達成困難な条件だから悩んでいるのだ。

だから、エヴァーンから簡潔にそう伝えられても「はいそうですか」とは一概に言えない。

実際、俺も命令でシドに害をなせないし、エヴァーンもさっき自分から攻撃はできないって明言してたしね。

その状態でどうやって殺すって言うんだ?


『ふむ、まぁ、そう焦るな。

 順を追って説明してやろう。』


自信満々にエヴァーンがそう念話に戻った声が頭に響く。

おう、説明してもらおう。

失敗した場合は俺は「自我を持っている事を知られていない」って切り札を失うだろうし、反乱に近い事を起こすわけだから、失敗後は何をされるか分からない。

納得できないと賛同も出来なからな。


『ふむ、まず一つ質問じゃが、

 死霊術師がアンデットの類を隷属させる為に取る手段についてどの程度知っておる?』


ん?何の話だ?

今の話とあんまり関係なさそうだけど。

まぁ、丁度この前本で読んだ範囲だな。


『俺が知ってるのは二つだけかな。

 一つ目が死霊術師が自らアンデットを創造する方法。

 二つ目が術師に隷属されていない自然のアンデットを屈服させて隷属する方法。』


『うむうむ、よく知っておるな。

 正しいぞ。基本的にはその二つしかない。

 一つ目が死者創造と言われておる一番メジャーな手法じゃ。

 二つ目は隷属契約じゃな。』


ネーミングに捻りが無い。

まぁ、分かり易いに越したことは無いんだろうけどな。

エヴァーンの話で言うなら俺は死者創造の手法で作成されたアンデットって言う訳だ。


『そして、その二つの契約には大きな違いがある。

 まず死者創造で創造されたアンデットは術者に絶対服従となる。

 ただし、創造された時点では術者の手に余る様な事は無い。

 詳しく言うのであれば、創造された時点で素体のスペックが高かった場合はその能力がかなり抑制される。

 ここまでは良いか?』


ええっと、死者創造は絶対服従、術者より力を持て余す事は無いように力が抑制される。

かな?

うん、大丈夫だろう。

俺が頷くと話を続ける。


『次に隷属契約じゃ。

 これは厳密には死霊魔術ではなく契約魔術の一種なんじゃよ。

 二つの生物間での非対等な契約を結ぶ際に用いられる。

 そして、契約の成立には互いの合意か屈服が必要となるのじゃ。

 その際に互いの力量差に応じて契約内容が決められる。』


ふむふむ、俺が生きていてシドに引き渡される前に人間が俺にかけようとしていた術式がそれに近いんだろうな。

全部弾いてやったけど。

契約魔術の一種で契約には合意か屈服が必要と、そして互いの力の差に応じて契約内容が決まる、かな。


『そして、隷属契約の場合は契約内容で主人が隷属者にいくつかの命令を定着させる事が出来るのじゃ。

 この命令の数は先程言った力量差に応じて決まる。

 逆に言えばその命令自体にもコストによる差がある故に無制限に何でもと言う訳にはいかんがな。』


なる、ほど?

うーん、少し難しくなってきた。

首を傾げている俺を予測していたのかエヴァーンが注釈を続けた。


『分かりづらいじゃろう故、具体例を出すぞ。

 かく言う妾はシドに隷属契約を結ばされておる。

 元はシドの師匠であるアズランと言う死霊術師に隷属させられたのじゃ。

 そ奴が病気で死ぬ際に隷属権をシドに引き渡したのじゃな。

 そして、シドと妾の隷属契約になったが妾とシドでは力量差が大きすぎた故、その際にシドの奴が妾に対して定着させれる事が可能な命令権は三つのみだったのじゃ。

 一つ目が「シドの生命を脅かすことを禁ずる」

 二つ目が「契約書を破棄しようとする行動を禁ずる」

 三つ目が「極力命令を聞き遂行する」

 と言う物じゃ。

 因みに三つ目は絶対服従を命じたかったようじゃが先も言ったコスト的に力量不足故、絶対服従の条件は認可されずに弾かれ、しぶしぶ極力と言う形に落ち着いたのじゃ。

 これで分かったかの?』


ふむふむ。

それならば大凡分かる。

つまり互いの力の差的に上限が設けられるが、命令権と制限を設定する事が出来るって感じか。

確かにシドからすればエヴァーンの使い勝手がかなり悪い訳だ。

その点で言うならばアルーダは死者創造だから、絶対服従だから従順でエヴァーンより弱くとも扱いやすいんだろう。


『まぁ、三つ目の「極力」と言うフレーズのせいで、あ奴は妾に命令を下したところで無視されるのよ。

 もっとも、ある程度は聞かぬと契約に背くことになる故に、妾も重要度の高いものは仕方なく従って聞いておるがの。』


あ、今まで聞いて思ったけどそもそも隷属契約じゃなくて死者創造の俺には命令を無効化する方法は使えないんじゃないの……?

てっきりそれを使って何かするものだと思ってたけど……。

ぐぬぬ、じゃあ今後も命令には従わないといけないのかぁ。


あれ、と言うかさらっと死者創造の時に聞き流してたけど能力の制限ってどういうことだ?

今の俺も何かの制限を受けているのか?

少し気になったので聞いてみる事にする。


『ああ、その件か。

 うむ、確実な事は言えんが十中八九制限されておるじゃろうな。

 故にお主も解放されればその時点で多少なりとも身体的な能力が全体的に上昇すると思うぞ。

 そもそも、シドの奴は別段優秀ではない故にの。』


『でも、この国の死霊魔術師で一番偉いんじゃないの?』


『よいか、人間の中では一番偉い事と一番強い事は同じではないんじゃよ。

 まぁ、それを抜きにしてもシドはこの国では一番優秀な死霊魔術師といえるがの。

 ただ、履き違えるでないぞ。

 『一番優秀な魔術師』ではなく『一番優秀な死霊魔術師』なんじゃよ。

 そもそも忌避される魔術故に死霊魔術師に好んでなる者は少数じゃ。

 その少数の中で優秀じゃったとしても全体から見ればあまり優秀じゃない部類となっても不思議ではない。

 実際、妾ももし最初の隷属契約で屈服させられる為に戦闘になった相手がアズランでなく、シドの奴になら難なく勝って今も自由にしておったじゃろう。

 単純にシドの師匠であるアズランが強すぎただけじゃ。

 実際にアズランとの契約では妾はもっとガチガチに契約に縛られておったからの。

 逆にアズランで縛れていた物が自分の代になったら縛れなくなった、では自分から力量の未熟さを吹聴しておる様なものじゃ。

 じゃから妾に対する当たりもきついのじゃろう』


いや、多分エヴァーンの対応にも問題があると思うぞ。

言わないけどさ。

取りあえず俺に制限がかかっているのも、エヴァーンを縛る力が弱いのもシドの未熟のせいって事か。

思っているよりシドって強くないのか?

いや、さすがに俺よりは魔術に造詣が深いんだろうけど。

ただ、エヴァーンが従わされている現状を考えて、てっきりエヴァーンよりもシドの方が力量が上だと思っていたけどそう言う訳じゃ無いみたいだな。

少し安心した。

さっき戦った感じ、エヴァーンより強いって言われたら、いよいよシドを何とかするって言うビジョンが思いつかないところだ。


『さて、ここまでが説明に必要な死者創造と隷属契約の詳細じゃ。

 着いて来れておるか?』


『なんとか。』


まだ何のためにこの説明がされているのかは分かってないけど。

聞いた方がいいのかな?


『分からなくなったら随時説明する故、聞くのじゃぞ。

 さて、続いて解放方法についてじゃ。』


と思ったら話が繋がるっぽいので黙って聞く事にする。


『まず、死者創造の方は解放用の術式を術者が発動させるか、術者の死亡によって自由の身となる。

 もっとも、アンデットに対する風当たり的に解放されることは全くと言っていいほどないがの。

 自分の管理下におけないアンデットは滅されるのが今の世の常じゃ。

 勝手に動き回るアンデットなんぞ人間どもからすれば百害あって一利無しと言うものじゃろうな。

 故にお主が自由になるためにはシドに解放用の術式を使用させるか、シドを殺すかしかない訳じゃが、実質は殺害一択じゃのう。

 まぁ、そうでなくとも手っ取り早いのがどちらかは言うまでもないじゃろう。

 続いて隷属契約についてじゃ。

 これは一つしか解放の手段が用意されておらん。

 隷属契約を行った際に契約内容の記入がなされた紙がある。

 これを燃やすなり破くなりで破棄する事じゃ。

 破く際は契約者の名前の箇所を裂くようにせねばいかんがな。

 因みに妾の契約書はシドの書斎の鍵付きの引き出しに厳重に仕舞われておる。

 逆に言うのであればシドが死んだとしても契約書を破棄しなんだら、妾の隷属状態は維持されてしまうのじゃ。

 ……その場合は一時的に契約書の所有者となった対象に所有権が移る形での。

 まぁ、契約者が死んだ時点で制限は解放される故に、さっさと自分で契約書を破り捨てれば良い、と言うだけの話でもあるのじゃがな……。』


ふむふむ、成程。

俺が解放されるためには解放用の術式を使用してもらうか、シドを殺す。

エヴァーンが解放されるためには隷属契約の契約書を破棄する。

か。

何と無く話の全貌が見えてきたな。


『さて、では計画自体はほぼ終盤じゃ。

 ここまで話せば大凡どうすればよいのか分かって来たじゃろう。

 まず、妾は制限によって触る事の出来ない契約書をお主に破棄して貰う。

 お主はまだ妾の契約書に関する制限を受けておらんからな。

 次に自由となった妾がシドを殺す。

 そうするとお主も自由の身となる。

 この流れで行こうと思っておる。』


成程。

それだけ聞けば、まぁ、確かに可能だ。

一つだけある問題点を除いたら、の話だけど。


『概要は分かったし理解したよ。

 けど、一つ致命的な問題として、どうやって俺が契約書を破棄するんだ?』


『うむ、妾もそこが問題じゃと感じておった。

 そもそもお主に自我が無いと話にならぬ故、第一関門としてお主に自我があること。

 第二関門として協力体制を築けることがそれぞれ必要じゃった。

 そして、最後の関門としてお主に魔術を使用してもらう事が必要だったのじゃ。

 身体を変化させる万化術式は難しい故に、単純に身体の大きさを変更する拡縮術式を教えて小さくした身体でシドの書斎に行って貰おうと思っての。

 ただ……。』


ああ、ただ、俺が術式を知らないんじゃなくてほぼ使えないって事は想定してなかった訳だな。

単純に知識が足りないのであれば、エヴァーンが教えて補って俺が術式を使えるように根気よく練習に付き合えばいい。

ただ、魔蔵肥大病のせいで魔術自体の習得にどれだけの時間と根気を有するか分かったものじゃない、と言う事か。


『俺が魔術が使えないのが想定外って事だな。』


『うむ……。正直、呪いの祝福の事は想定しておらなんだ。

 そもそも罹患者が圧倒的に少ない病故に、

 そこまで想定するのは無理と言うモノじゃ。』


『でもさっきの話っぷりでは不可能じゃないって言ってたと思うけど、どうなの?』


『うーむ、不可能ではない。

 不可能ではないが、今からじゃと時間がかかりすぎる。

 今回の話はシドがお主に自我が芽生えたと判断するであろう時期、つまりお主が吸血竜へと個体進化するまでに行わねばならんのじゃ。

 吸血竜になったタイミングで契約更新をされてしまえば、お主がシドに不利となる行動を制限される可能性があるのでな。

 そうなってしまっては全てが終わりじゃ。

 そうなる前に行動に移さねばならんのじゃよ。

 あくまでシドがお主に自我が無いと思い込んで、制約を最低限にしかかけていない今しか使えん計画じゃ。

 そして、大凡お主が進化するまでの期間は妾の見積もりでは二年から三年位。

 そして、呪いの祝福持ちがいくら根気よく鍛練を続けたとしても、魔術の習得には十年はかかるじゃろう。

 つまり、全く間に合わん。』


じゅ、十年……。

むう、ただそうなるとここで手詰まりか。

そもそも以前に試したように身体のサイズ的に転移魔術以外の方法で、俺がこの場所から出る事は出来ない。

物理的にドアと通路の幅が地下と言う事も相まって狭すぎるのだ。

だから、エヴァーンは俺に拡縮術式だっけ?の魔術を教えて使って貰おうとしたんだろう。

あれ、と言うかその術式をエヴァーンに使って貰うのは駄目なのか?


『エヴァーン、その拡縮術式とか万化術式をエヴァーンが俺にかけるって言うのは駄目なのか?』


『無理じゃ。

 まず、他者の身体を変異させる術式は酷くオドを喰う。

 効率が悪すぎるのじゃ。

 術者のオドと対象となる者のマナ浸透抵抗率が反発し合うんじゃろうな。 

 しかも、元からかけ離れた姿にするほど効率が落ちる。

 呪いの祝福を無視して考えてたとしても、体躯の大きいお主を術式にかけるとするのであれば、いくら人間よりも圧倒的にオドを持つ妾でも10分ほどが限度じゃ。

 そして、その時間程度であれば書斎にたどり着く前に妾のオドが尽きてしまう。

 ましてや術式を破った後に妾はシドや帝国の騎士と戦闘になるのじゃぞ。

 流石にオドが空っぽでは騎士団一個を相手するのが精いっぱいで逃げ切れるとも思えん。

 それにそもそも、最初にも言うたがお主に直接かける術式は透りが悪すぎる。

 念話ですらあれだけ消耗すると言うのに、もっと複雑な術式じゃと、きっちり作用するかすらもわからん。』


ええ……。

じゃあ無理じゃん。

書斎まで俺が辿りつく事が出来ないとこの計画は基礎から破綻する事になるだろう。

他の計画を練るしかないんじゃないのか?


『故に先程お主から話を聞いた時点で妾は

 お主をを書斎へ送り込む計画は諦めた。』


え、それじゃ今までの説明は何のためだったんだよ。


『諦めて、お主にはこの地下室から契約書を破棄して貰う事にする。』


……どういう事なの?


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