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死した竜の物語  作者: 獅子貫 達磨
第二章 死肉竜の目覚め
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14話 質問

「お主、既に自我が芽生えてるじゃろ。」


その音が飛び込んできて、内容を理解するのに少し時間がかかった。

内容を理解して、エヴァーンの方を見ようと反射的に頭を上げる。


「おっと。」


頭がふっと軽くなり、目の前にエヴァーンがくるっと回転し着地する。

ああ、そうか。

エヴァーンは俺の頭の上に乗っていたのだから頭を動かしても見れないわな。

思いの外、俺は動揺しているみたいだ。


「それで、どうなんじゃ?

 妾から見れば反応を見る限り、ほぼ間違いないと思っとるんじゃがのう。

 お主は感情を隠すのが下手なんじゃよ。

 もし、お主がただのアンデットだった場合はあ奴らにも、とっくにばれておったと思うぞ。

 良かったの。人間共が竜の表情に疎くて。」


あ奴ら、ってのはおそらくシドやアルーダの事か。

極力感情を殺して外に出さないようにって思ってたけど駄目だったみたいだ。

動作は誤魔化せても表情は癖で動いてしまうのかな……。

むぅ、ばれてないみたいだったから少し自分の演技力に自信が出てきてたけど、単純に人間が竜の表情変化に疎いだけだったのか……。

少し悲しい気分だ。


まぁ、一旦ばれてしまったモノはどうしようもない。

疑われてる程度なら気を付けて更に誤魔化すって手段も取れるけど、ここまで確信を持たれた口調で言われたら誤魔化すもくそもないだろう。

幸いなのはアルーダと違ってエヴァーンの方はシドと仲が良い感じではなさそうだったしな。

頼めば隠しておいて貰えるかもしれない。

問題はこっちからエヴァーンに意思疎通をとる手段が無いって事か。

そもそも人間の言葉が話せたら捕まってない訳で。


そこまで考えている間に、エヴァーンを叩き潰そうと再び俺の腕が持ち上がる。

っ!

そうか、起き上がった段階で攻撃の意志を示さなかったから命令が優先されたのか。

一瞬驚いたけど、過去に何度か体験した身体が勝手に動く現象には慣れた。

ってか、このタイミングで攻撃したら敵対する意思とみなされないか?

それは宜しくない。

俺は今のところエヴァーンと相対する意思は持ってないんだから。


エヴァーンは特にその場から動く事無く最初の攻撃同様に片手で俺の振り下ろし攻撃を難なく受け止めた。

こうも、あっさり受け止められると俺の攻撃に威力があるのか自分でも疑問に思えてくるな。

エヴァーンの下の地面が少し凹んでいるから、俺の攻撃に威力が無い訳では無いと思うけどさ……。


受け止める瞬間に、一瞬顔を顰めたように見えたが、すぐに「ああ」と思い出したかのように頷いた。


「命令の強制力じゃな。

 妾と違って跳ね除けられる訳じゃ無いんじゃったか。

 失念しておった。

 少し痛むが我慢するのじゃぞ。」


そう言ってトプンと俺の影に沈むように消えた。

む、そうされると攻撃手段が無くなるな。

取りあえず俺の意志での攻撃で無い事は理解して貰えて良かったけど……。

……痛むってどういう事だ?


そう思った瞬間、俺の影が蠢き、そして起き上がった。

起き上がった……?

なんか影が起き上がるって言うのも不思議な気分だが、そう表現する以外にない。

一瞬グネッと動いたかと思ったら地面から剥がれて宙へと起き上がった。

そして俺が呆気にとられている間に、起き上がった黒い影が足と首に巻き付いて、そのまま地面へと叩きつけられた。

ぐぅ。

バフッと砂埃が舞って、壁に叩きつけられた時と同じくらいの衝撃が全身に走る。

さっきの時点であちこち骨折してるからか、さっきより優しい衝撃だが、さっきより痛い。

そして、四肢と首が固定されているので全然動けない。

動かせて指と尻尾と首がやっとだ。


影に潜れるってずるいよなぁ……。

吸血鬼としての能力なのかな?

俺が少しもがいていると俺の首の横周辺の影が持ち上がり中からエヴァーンが姿を現す。

そのまま、俺の鼻先をポンポンと軽く叩いた。


「すまぬな。

 後で治してやるから許せよ。

 さて、時間もない故に手っ取り早く済まそうかの。

 妾の言葉に肯定なら縦に首を振れ。

 否定なら首を横に振れ。

 どちらでもない場合は動かなくてもよい。

 他に良い方法もあるかもしれんが、今はこれが一番手っ取り早いの。」


まぁ、会話するならともかく質問に応えるだけなら問題ないか。

「はい」か「いいえ」での質問にしか答えられないけど。


「まず、一応確認じゃが自我があると思って相違無いな?

 ここまでやってお主に自我が無かった場合、妾のひとり芝居になる故に少しばかり恥ずかしいんじゃが。」


ほぼ確認に近い問いだな。

ここまで来れば恍けるつもりも無いから首を縦に振る。


「うむうむ。

 まだ、死肉竜になって日が浅いと思うんじゃが、

 自我が芽生えたのは最近か?」


最初っからある訳だからこれは違う。

首を横に振る。


「ふむ。

 つまり、お主はアンデットとして目覚めた時から既に意識があったという事か?」


うーん、正しいのか……?

厳密には違うけども……。

目覚める前からあった、が正しいよな。

少し悩んでいると、その意図をくみ取ったのかエヴァーンが再び口を開く。


「む、違うのか…?

 むう……じゃが、そうなると……。

 まぁ、今すぐ聞く事でもないか。

 それでは最後の質問じゃ、心して答えよ。

 ……お主は現在の境遇に満足しておるか?」


ううむ、これもまた難しい。

正直、前にも思ったけど竜天獄で腐っていた時と比べると、今の方が精神的に充実してるって言えるのかもしれない。

……でも、満足かって言われると満足ではない。

自由になりたいかな。

自分より強い相手に隷属される云々は関係なく、単純に自分の意志で動けない事が腹立たしい。

そういう意味では……首を横に振る。


「うむうむ、重畳じゃ。

 悪くないのう。」


俺が首を横に振ったのを確認すると、口角を上げて笑みを浮かべた。

何だ、俺が現状に満足していない事がそんなに嬉しいのか?

俺が不満を抱いている事自体が嬉しい訳じゃ無いだろう。

そう思われるほど、この吸血鬼との付き合いは無いし。

考えてもパッとは分からない。

これ以上はエヴァーンの方から話して貰わないと俺には理解が出来ないかな。

ニコニコしやがって。

俺にも少しは理解させろ。


「む、砂埃が晴れてきたな。

 お主を拘束しておることだし、このまま終わりと言う事で丁度よいか。」


そう言って顔の表情がスッと元の無表情へと戻る。

エヴァーンを見ていて気が付かなかったが、言われた通り辺りに立ち込めていた砂埃は既に地面へと戻りつつあった。


そのままエヴァーンは俺を一瞥した後、背を向けてシドの方へと歩いていく。


「終わったぞ。

 いくら竜種とはいえまだ死肉の段階。

 あっけないモノじゃな。

 運動にもならぬ。」


ふん、と鼻を鳴らしてシドに向かってそう言い放つ。


「……とは言え暫く時間がかかったじゃないか。」


「お前は阿呆か。

 最初の数回はあえて妾が攻撃を受けたにすぎぬのが分からぬのか?

 そんな事も見抜けぬのなら群の長など止めてしまえ。」


シドが苦し紛れに一言伝えると数倍に辛辣になった嫌味が返ってくる。

本当に随分とシドが嫌ってるみたいだな。


「ふん、いくら素体が良くとも施術を施したのが貴様では折角の持ち味が活かしきれなかったのでは無いか?

 ま、妾には関係ない故にどうでもよいがの。

 ああ、本当に妾が貴様なんぞに作られた訳で無くて良かったと言うモノじゃ。」


「……で?戦った感じはどうだったんだ?」


煽るエヴァーンの言葉を無視して、ガットリー達同様に戦った初見を聞こうとする。

よくこの状態から聞こうとするな。

あんまり人と接してない俺でも、この状態で聞いても求めてる回答が返ってくるとは思わないんだけども。


「はっ、なんで貴様に答えねばならぬ。

 どうせ戦っておったところは記録しておったじゃろう。

 勝手にそれで好きに憶測をたてるが良い。

 妾は何も答えぬぞ。」


きっぱりと断られ、シドが押し黙る。

まぁ、駄目元で聞いたってやつか。


にしても、戦闘が終わったのにまだ俺は拘束されたままなんだが。

ねぇ、いつ解いてくれるの?

後、体中が痛い。

全身何カ所骨折してるのか分かったもんじゃ無いぞこれ。


シドとエヴァーンは暫く睨み合っていたが、根負けしたかのようにシドがため息をついて顔を逸らすと、俺の方へ歩いてきた。

エヴァーンはそれを後ろから睨みつけているが、そのまま音も無く自身の影に潜って見えなくなった。


「躁影の能力か……。

 相変わらず能力だけは随分と立派なものだな。

 はぁ、もう少し上手く扱えれば言う事無いんだがな……。」


近くに居る俺にしか聞こえない程度の声でボソッと呟いている。

最後にもう一度溜息をつくと俺の方に向き直って命令を下す。


「戦闘をやめてこのまま次の命があるまで待機しろ。」


それを聞いてようやく俺の身体から力が抜けて、力んでた事で発生してた痛みの類が少しはマシになった。


「エヴァーン。

 術式を解け、このままじゃ動かすことも出来ないだろうが。」


俺の全身を見て縛られたままなことに気が付いたのか、思い出したかのようにエヴァーンにを振り返って叫んだ。

シドが叫ぶのより少し早くに俺の全身の影の縛りが解け、シドが立つ方向と逆方向の身体に何かが触れる感覚と共に何かが流れ込んでくる。

っと、尻尾にも何かをあてがう感覚がある。

振り向かずとも、戦闘前に傷を癒して貰う感覚と同じだったから誰がやってるのか考えるまでもなかった。

結構心地のいい感覚で、俺はゆっくりと身体が再生されていく様を堪能することにした。


シドはシドで振り返った後ろに既にエヴァーンがおらず顔を顰め、俺の方を向き直って既に術式が解かれてることで更に顔を歪めた。

エヴァーンが立っているであろう方向から「はっ」と軽く満足げな声が聞こえてくる。

シドは思考が読まれたことが嫌で、エヴァーンは先読みして動いたことで優越感を得ているらしい。

本当にどうしようもない位に仲が悪いみたいだ。


「~っ!

 身体が治りきったら、待機部屋の魔術陣へと戻れ。

 エヴァーン!

 治し終わったら俺の執務室に来い!」


シドが苦々しげに俺の方を見てそう言った。

そのまま、エヴァーンの方を見ずに大股で立ち去って行く。

そして、壁にある通路の方へと部下とともに見えなくなった。

パッと見える範囲に人間がいなくなった事で軽く辺りを見渡すが、傍らにエヴァーンが居る以外は誰も居なくなっていた。

ガットリー達は既に帰ったみたいだな。


「全く。誰が行くものか。

 ……魔術陣とは転送術式の書かれた物の事じゃろ?

 お主は今は何処で過ごしておるのじゃ?」


身体に治療を施しつつエヴァーンが聞いてくる。

……折角の久しぶりに落ち着いて意思疎通の取れる相手だから俺も話したいのはやまやまだだが、残念ながらこちらの意見を伝える手段が無い。


「っと、お主は喋れんのだったな。

 ふむ、以前にあった奴とは普通に喋れたんじゃが……。

 何の違いかの。

 体躯を見るにまだ子竜のようじゃし、その差かのう。」


多分、俺の考えなら魔術で音を出してるんじゃないかって思うけどな。

少なくとも俺の口の構造的に、成長しても人間の複雑な言葉を超えから発するのは難しいように感じる。

咆哮するのであれば人間とは比べ物にならないほど大きな音は出せる自信はあるけども。

あ、エヴァーンはともかくガットリー達と戦う時に最初に咆哮でもすればよかった。

上手く行ったら怯んだかもしれないのに……。

まぁ、もし再戦する時がまたあればその時にでも使う手段として覚えておこう。

あんまり戦いたいとは思わないけどさ。


「さて、これでほぼ完了じゃな。

 尻尾も無事に繋がったじゃろ。

 ほれ、軽く振って見せい。」


考えてる間に身体の治療は終わったみたいだ。

尻尾も慣れた重心に戻っている。

言われるままに振るうと、いつもと同じような慣れた感覚が戻ってくる。

ああ、良かった。

尻尾は思ってるより大事なんだな。

バランスをとるのに思いの外役に立ってたみたいだ。


「では、戻るとするかの。

 取りあえずお主に着いてゆくぞ。

 まだ話したいこともあるしの。」


そう言って、また俺の影に沈んでいった。

俺は俺でここで分かれる事態にはならなかった事に対して自分で思っている以上に安堵していた。

やっぱり一方的だとしても意思疎通がとれる相手って言うのはいい。


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