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死した竜の物語  作者: 獅子貫 達磨
第二章 死肉竜の目覚め
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13話 露見

「ふー、何とか勝てたか。」


「危うい所でしたよ。

 私のオドも残り僅かです。」


「ああ、一応危ない所は無かったとはいえ気を抜いたら負けてたかもな。

 特に最初に様子見で警戒して戦って良かったぜ。」


戦闘が終わると同時にガットリー達が地面に座り込んで話し合っていた。

俺は傷の回復に努めるよう命令され、その場で伏せて、傷が癒えるのを待つ。

あちこちに軽い切り傷、肩にそこそこの刺し傷、全身に万遍なく火傷位か。

生きてる頃なら地面をのた打ち回って痛がっただろうけど、今は戦闘が終わって冷静になっても「まぁ、痛いな」って程度で済んでる。

座り込むガットリー達にシドとシド同様にローブを着た人間…シドのところの魔術隊員だな…の二人が近づいていく。


「早速で悪いが戦った知見を聞かせてくれ。」


「ああ、分かったよ。」


シドが話しかけ、それにガットリーが答える。

その間にシドの隣の魔術隊員がローブから紙とペンを取り出していた。


「まず、以前と比較して……。」


色々と以前の戦いと今回の戦いの差を聞いてるみたいだな。

と言っても前回はそもそも奇襲、今回は正面から、って差は結構大きいと思うけど。

そもそも最初に襲われた時には、俺は殆ど戦闘になって無かったって記憶があるぞ。

微睡んでた所を急に襲われて為すがままに気絶させられて捕まったからな。

それに対して今回は最初っから両者警戒状態から開始だ。

まぁ、多分だけど最初の時に今回と同じ条件だったとしても、同じように肩を刺されて終わりだっただろうけどさ。

そもそも、人間も俺を見つけたら逃げるだろう、って心のどこかで思ってたし。

警戒心が今ほどじゃなくても少しでも欠片でもあれば、あんな場所で意識を自ら手放して微睡むような真似はしなかった筈だ。


ペタリ。


うわっ!

突然、脇腹に何かが触れる感覚にびっくりする。

一瞬体がビクッっと反応しそうになるのを何とか抑える事に成功する。

驚くのは不自然だもんな。

危ない。

触れられた方向へとゆっくりと首を動かす。

相手もこちらを見ていたのか、紅い眼球とバッチリ眼が合った。


ガットリー達と戦う前に俺の影に沈んだ小さい吸血鬼だ。

名前は確かエヴァーンって呼ばれてたか。

その吸血鬼が俺の鱗をぺたぺたと触っている。

丁度俺の鱗一枚とエヴァーンの掌が同じくらいだな。

小さい手だ。


「ふむ。竜族のアンデット、それも骨で無く死肉状態か。

 珍しいのう。

 しかもオドを見るに魔竜種ではなく霊竜種……それも皇級。

 もっと珍しい……どころか霊皇竜自体が絶滅種じゃしのう。

 こんな仕打ちを家族が知ったら帝国はおしまいじゃぞ。」


ブツブツと小声で独り言を言いつつ俺の身体を無遠慮にペタペタと触る。

以前に王子に触られた時と違ってあまり嫌な気分にならないのは同族だからか。

それとも邪な気持ちが感じられないからか。

なんにせよ抵抗なんてできないにしてもストレスを感じる事は無かった。


にしても、独り言を聞くにエヴァーンは俺の種族を知ってるっぽいな。

そこまで知ってるなら俺が死ぬ前に対処して欲しかった。

そしたら俺の対応ももう少し変わったかも、あわよくばそのまま竜天獄に返してもらえたかもしれないのに。

ま、今更そんな事言っても詮無きことか。

既に死んでしまったモノはどうしようもない。


「のう、お主は何故こんな所におるんじゃ?

 体躯的にまだ竜種としては子供じゃろうが、

 それでもそこらの人間に負ける事なんて無かろうに。」


俺の鱗を撫でながらそう尋ねてくる。

久しぶりの俺個人に対する質問に応えたくなる。

が、元々エヴァーンも俺の答えを期待してた訳じゃ無いだろうし、黙って見つめ続ける事にする。


って、何かエヴァーンから俺に流れ込んでくる感覚がある。

撫でられた箇所から微量の何かが送り込まれて……各傷を負った箇所にその何かが送られていく。

送られた先ではさっきの戦いで負った傷がみるみる塞がっていく。

……治してくれてるのか。


「ふぅ。まぁ、今のお主に言っても仕方ないのう。

 互いに難儀よのう。

 自分より弱き者に使役されるなんぞ、苛立ち以外何も感じぬじゃろうに。」


そう言って優しく俺の体躯を撫で続ける。

自分より弱い物に使役、か。

実際に霊皇竜だが魔術が使えないのと、奇襲だっとはいえ普通に負けた俺は人間より強いとは言えないだろうな。

と言うか人間より弱いだろう。

だから、エヴァーンの言うような立場ではない以上、彼女の言葉にピンと来る事は無かった。

個人的には痛かったし苦しかったからそれは根には持っている。

ただ、それでもわざと俺を苦しめるためにやった訳ではないのも、まぁ理解はしてない訳ではない。

それに、こんな風になってここに来たから知れたことと言うのも色々ある。

竜天獄でずっと腐って生き続けるよりかは、って少し思う事すらあるくらいだ。


だから、悪いが同調してやることはできないかな。

申し訳ないな。


そう思ってエヴァーンを見ていると、不意に目を逸らし前方を睨む。

ん?どうした?

と同時に横から呼びかける声が聞こえた。

シドの奴か。


「エヴァーン。

 次はお前がこいつと戦え。」


「はっ。

 小僧、先も言うたが何故妾が貴様の命令なんぞ聞いてやらねばならん。

 ……と言いたいところじゃが、まぁ、良いじゃろう。

 妾も少しこの竜に興味がある。」


エヴァーンが声をかけてきたシドに心底嫌そうな顔を浮かべるものの応答する。

てっきり断られて押し問答になる事を想定していたのか、あっさりと了承したエヴァーンに対してシドが拍子抜けした様な表情を浮かべた。


「ふんっ。

 あくまで妾が興味を持ったからにすぎん。

 それが偶々貴様の思惑と一致しただけじゃ。

 心底癪じゃがその思惑に乗ってやろう。

 感謝するのじゃな。」


そう捲し立てると、シドの返事も聞かずに俺から手を放してガットリー達の居た方向へと歩いて行った。

傷はすっかり塞がっている。凄いな。


エヴァーンが歩いていく方向をなんとなく眺めると、ガットリー達が見当たらない事に気が付いた。

俺がエヴァーンと会話…と言うか一方的に話を聞いてただけだが…している間に帰ったのか?

あまり周りを見渡すわけにもいかないから、後ろとかは見れないけどさ。


「さっきと違い、次は殺す気で行って構わん。

 全力で戦え。」


横合いからシドの命令が下される。

んー、まぁ、強いって話だから多分妥当な命令なんだろう。

でも、どうしてもガットリーよりはるかに小さいあの体躯を見ると俺が一撃叩き付けるだけでひしゃげて即死しそうな印象を受ける。

ま、実際に命令を下された以上は手を抜けないし、考えても仕方ないだろう。

これで死なれたら結構寝覚めが悪いからシドを恨むけどな。

寝覚めも何も俺は寝ないんだけどさ。




さっきと同様に中央で互いにエヴァーンと向かい合う。

そして、その間にローブの人間が立っている。

エヴァーンはガットリー達と違って構えるでもなく腕を組んでこちらを興味深そうに眺めている。

かなり自然体だな。

雰囲気で言えば俺が洞窟で寛いでた時に似ている。


互いに向かい合ったことを確認したのかローブの男が号令と共に合図を下した。

合図が下っても、ガットリー達と違ってエヴァーンは微動だにしない。

何と無く気味が悪くて、あんまり走って行く気になれない。

ここで俺が魔術でも使えたら牽制として撃ち込むんだが、生憎ながら今も昔も肉弾戦以外は何もできない。

ので、俺は仕方なく後ろ足に力を込めると一気に駆け寄って、前足をエヴァーンに叩き付けた。


俺の前足はそのまま地面へと吸い寄せられるように落ちて行き、静止した。

てっきり避けられるものだと思ってた俺は一瞬起こった事象に理解が追いつかない。

ただ、まぎれもなく俺の前足は地面から少しの高さ、そう丁度エヴァーンの身長と同じくらいの場所でぴったり静止してそこから力を込めても地面に到達する気配はなかった。


マジか、俺が体重と勢いを乗せて振り下ろした一撃を止めたのか。

しかも直前まで受け止めるような素振りすらなく。

恐らくは自然体のままで。


今まで受け流された経験はあっても、止められたことは一度もなかった。

いや、正確には自分より体躯の小さい相手に肉弾戦で止められた事は無かった。

だから、目の前で起こった出来事が酷く非現実的な事に思えて一瞬俺の行動が止まる。


ただ、そのまま攻撃を止める訳にもいかず、反射的に振り下ろした方とは反対側の前足で今度は横に薙ぎ払った。

すると、今度ばかりは直撃して、ふっ飛ばす感覚。

いままで俺が薙ぎ払った中で一番軽いんじゃないかって手応えと共に、真横に向かってエヴァーンがすっ飛んでいく。

が、空中で不自然にエヴァーンの体が急停止する。

そのまま、くるっと一回転するとすっと地面に降り立った。

最初からその場所に立っていたかのように、真横に飛ばされた事実なんてまるで無かったかのように。


「ふむ。力はそれなりじゃのう。

 ただ、身体に頼った力の運用しかできておらんな。

 ……それも当たり前の事なんじゃろうが。」


む。

力に頼るしかないだろう。

魔術が使えないんだから。

なんで急に止まったのかわからない以上、余りむやみに攻撃するのも悪手な気もするが、残念ながら愚直に攻撃する以外の手段を俺は持っていない。

ので、そのまま再度突撃して前足を薙ぎ払う。


「もうそれはさっき見たぞ。

 同じ手は飽きるからやめい。」


ズンと軽い衝撃が全身を襲う。

は?

その瞬間、俺の視界に満点の夜空と少し欠けた月が飛び込んできた。

なんで空が見える?

何が起こったのか全く理解できない。

魔術か?

さっきまでエヴァーンが見えていた筈だ。

そう思っていると視界端からエヴァーンが覗き込んできた。


「飽きれるほど素直に攻撃してきおって。

 そんな素直に力を込めるなんぞ攻撃前に宣言しているようなもんじゃぞ?」


くっ。

何をされたのかわからないが起き上がりざまに身体を回転させて尻尾で薙ぎ払う。

が、今度は鋭い痛みが尻尾に走る。

同時に勢い余ったのか、身体のバランスが崩れて再度こけそうになった。


っ!

慌てて辺りを見渡すと少し離れたところにエヴァーンが最初と同様に立っていた。

最初と違うのは竜の尻尾を持っている点だけ。

尻尾を軽く振るといつもより短くて軽い心許ない感覚が返ってくる。

くっそ、尻尾斬られたのかよ。

何を使って斬ったんだ?

ガットリー達と違って何も持ってないだろう!


斬られた後に佇むエヴァーンも俺の尻尾を持っているだけで武器らしきものは何も持っていなかった。

ぐっ。

理解すらできない。

さっきから全ての物事に対して何をされて、何が起こってるのか全く理解ができない。


「まぁ、後で繋がるじゃろう。

 繋がりやすいように綺麗に斬ったしの。

 終わったら妾が繋いでやろう。」


そういって無造作に俺の尻尾を地面に投げる。


「ほれ、もう終わりか?」


そう言って、退屈そうに腕を組みなおした。

ぐぬぬ。

叩き潰そうと思っても叩き潰せず。

薙ぎ払えばよく分からない内にこかされる。

尻尾で勢い任せに吹っ飛ばそうとしたら切断された。

どうしろって言うんだ。これ。


「待っててやるから、魔術でも何でも使ってきていいんじゃぞ?」


魔術が使えたら最初っから使ってんだよ。

使えたら苦労しない。

と言うか使えたらそもそもこの場所に俺は居ない!


「ほれ、オドを練るんじゃよ。

 こうやって、のっ!」


っ!

エヴァーンの体内から流れるようにオドが放たれたかと思ったら、瞬間的に現象を形作り、一本の大きな氷の槍が出来上がる。

そのまま、間を置かずに一直線に俺に向かって飛来する。

慌てて反射的に横に飛びのくと、氷の矢がさっきまで俺のいた場所に勢いよく突き刺さり、地盤をめくりあげ砂埃が舞い散る。

無茶苦茶しやがる。

グラレナは愚か、下手すると母さんより術式を練るのが早い。


くっ。

と言うか砂埃で何も見ない。

辺りを見渡すがモウモウと立ち込める砂埃で視界が最悪だ。


「ほれ、周辺の探索を怠るのは致命的じゃぞ。」


俺の真横から飛び込んできた声に反射的にそっちを向くが、同時にすさまじい衝撃と共に反対側へと吹き飛ばされた。

驚愕だ。

何がって、飛ばされる瞬間に一瞬だけエヴァーンの姿を捕える事が出来た。

エヴァーンが今したのは魔術でも何でもない。

ただ純粋に叩いただけだ。

俺がやったように俺の身体に自分の前足を叩き付けただけだ。

どれだけ体格に差があると思っていやがる。

そのまま、勢いを殺すことも出来ずに俺は壁まで飛んでいき叩きつけられた。


ぐふっ。

全身に衝撃が走る。

これ、生きてた頃なら息が出来なくなってるぞ。

それに全身から伝わる感覚的にこれはあちこち骨が折れてる。

ただ、吹っ飛ばされただけで何だこれは。


俺が壁に叩きつけられた事で俺の周囲に再度大きく砂埃が舞い散る。

ただ、後ろは壁だからエヴァーンの来る方向は分かるぞ。

俺は自分が飛ばされた方向へと意識を集中する。


「残念。上じゃ。」


真上から言葉と共に強烈な衝撃。

頭が地面に叩きつけられた。

クソいてぇ。舌噛んだ。

ぐぅ。


「折角、カモフラージュ用に砂埃を散らしてやったと言うのに、

 何故魔術を使わん。

 ……ひょっとしてお主使えんのか?」


そのまま、俺の頭の上に居るのか頭上から声が聞こえてくる。

カモフラージュって何に対してのだよ。

俺は魔術が使えないんだってば!


……って、うん?

よくよく考えれば術式なんて高等技術は自我が無いと使えないだろう。

昨日読んだ本を思い出す限り、自我の無い低級アンデットは直接的に肉体でしか戦えないって話だった。

かなり熟達してるであろう吸血鬼であるエヴァーンがそんな事を知らない筈は無い。

なのに死肉竜の俺になんで魔術を勧めてくる?

俺が疑問に思ったのを見計らったかのように再度頭の上から声が降ってきた。


「何を不思議そうな顔をしている。

 魔術は使わんのか?と聞いておるんじゃがな……。

 ひょっとして、妾が気が付いてないと思っておるのか?

 お主、既に自我が芽生えてるじゃろ。」


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