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死した竜の物語  作者: 獅子貫 達磨
第一章 死出の旅路
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2話 相容れない思惑

「なぁ、ここら辺で飯の旨い酒場ないか?」


「飯?あー、お前らどこに泊まってた?」


「宿ならユウガリ亭……?だったかな。」


「ああ、なら諦めろ。この町にユウガリ亭よりうまい飯屋はねぇよ。」


「マジかよ。宿屋の飯が旨かったから他にも期待してたんだけどなぁ……。」


さて、困った事にパーダーボルンって町のイーホ支部に行ったが帝国南端の辺境だからかあまり割のいい依頼は置いておらず暇になった。

ギルドメンバーも今日は休むのか宿から出てくる気配もなかったし。


支部の受付のおっさんと近隣の旨い酒場の話でも聞いて時間をつぶし、昼過ぎになったらその店に行くか娼館にでも行くかと考えたんだが当てが外れた。

元々護衛の依頼でこの町には来ただけで、この町を俺らが目指して居た訳じゃないからあまり詳しくは調べてなくて知らない事が多いんだよ。


国の最南端だし、田舎の辺境だからと言って強力な魔獣がいるわけじゃないからなぁ。

帝都の近くにある森の方がまだ歯ごたえのある魔獣がいる。

逆に言うなら、だからこそ普段はこんな場所にくる機会はなかったんだけど。


こんな場所っていうと住んでるやつに失礼かもしれないが、実際帝都と比較する方が烏滸がましいレベルで不便だ。

帝都に慣れきってるからかもしれないが。


今回の依頼もあんまり受けるつもりがなかったが、国からの指名依頼っていうのと報酬の高さにつられた事が大きい。

ま、国に媚は売っておかないとな。

どれだけ等級が上がっても人として生きている以上は国とは切っても切れない縁だし。

国は国で有効なギルドが国外へ出て行かないように便宜は計ってはくれているだろう。


「さーてんじゃ娼館にでも行くか……。」


飯屋は諦めて……宿屋の晩飯に期待するとして、町をぶらつくか。

そんなのんびりとした俺の休日の素敵なプランは勢いよく開けられた入口ドアの音によってあっさり否定された。


「竜が!竜が出た!」


肩でぜえぜえ息をしながら農民風の若いにいちゃんが転がるように支店に入ってきて、いきなりそう言い放った。


突然の事で組合の受付や組合員も驚くが、内容を理解すると自然と俺へと視線を送る。

……あー、まぁそうなるわな。

今現在だとこの町で一番等級が高いのって俺らのギルドだろうしな。

巡り合わせが悪いというかなんというか。

こういう時のための等級なんだろうし恩恵は受けてるから仕方ないっちゃ仕方ないんだけど。


取りあえず受付のおっさんから水を貰って入ってきたやつに近づいて声をかけることにする。


「にいちゃん、取りあえず水飲めよ。

 んで、落ち着いたら詳しく話しな。」


「そんな事言ってる場合じゃない!」


俺の渡そうとしたコップには目もくれず怒った形相で俺を睨む。

威勢のいいことだな。若いっていうのはいいね。

ただ、こういう時は焦っても大概いいことはなんだがな。

大変な時ほど落ち着けって言うだろ?

まぁ、見た感じ狩人って訳じゃなさそうだし、ってことは町民だろうから魔獣見たらビビるわな。

その気持ちはわかる。

だけど落ち着いて聞かないと変に情報がねじれた場合、こっちはダイレクトに命を落とすことに直結してるから、適当に合わせて話を促すわけにはいかないんだわ。


「んな焦った状態の奴から話を聞いてもこっちが困るんだよ。

 落ち着いて見た事話せよ。

 ほら、取りあえず座って水飲んで落ち着け。な?」


軽く睨み返して肩を少し強めにつかんでやると、睨んでいた眼が逡巡しやや痛そうにして言い詰まった。

数瞬の葛藤の後に小さく「分かった」と言い大人しく椅子に座る。

おう、それでいい。


「それで、さっきは竜が出たって言ったな。

 どこで見かけてそれをお前はどこから見たんだ?

 見かけたやつはどんな様子だった?」


水を飲んで落ち着いた様子を見せたところでさっそく本題に入る。

焦る事は無いが急ぐ内容ではありそうだしな。

もっともまだ人命にかかわる案件じゃなさそうだが。……今のところは。


「ああ、えーっと、見かけたのは南の森の方角。

 アバローネ山脈の方から飛んで降りてきたところを見かけた。

 俺は南の森に入ったすぐのところにある伐採所から見ていた。

 後は、えっと。」


ふむふむ、取りあえず即座に危ないってことは無いわけか。

今のところは森に竜が下りてきただけと。


「取りあえず確認からするけど、伐採所に居たってことはにいちゃんは木こりか?

 俺は今臨時でこの町に来てるだけだから知らないんだが、

 竜が森に降りてくる頻度はどのくらいあるんだ?」


この町の常識を俺が知らないからな。

もしかしたら日常的に竜が下りてきてるかもしれないし。

慌てようからして多分ないだろうけど、念のための確認だ。

ちらりと受付のおっさんにも視線を送って確認を取る。


「殆ど無い。と言うか俺は産まれて初めてだ。

 あんな近くで竜を見たのは。」


「ああ、あまり聞く事ではない。

 普段はアバローネ山脈の七合目付近でワイバーン、

 頂上付近に魔竜種が居るのを遠目で確認できるくらいだ。

 基本的にワイバーンすらも下山して森まで下りてくる事は無いな。」


最初ににいちゃん、それに補足するように受付のおっさんが答える。

基本的に山から下りてくる事は無いと……。

ま、日常的に森にドラゴンが出るなら危なくてやってられないだろうし、出るなら出るでこの町の狩人の全体的なランクはもっと高いだろうしな。


「大体普段の状態は分かった。

 んでにいちゃん見かけたのはどんな奴だ?

 色でも見た目でも大きさでも遠目に見た分かるだけの情報でいい。」


この町に来たギルドメンバーは俺を入れて四人。

ランクは全員第二等級、つまりワイバクラスだ。

同じ竜種でも正直ワイバーンならともかくドラゴンは少し……いや普通に荷が重い。

場合によっては俺らが出来る事は偵察だけして援軍を呼ぶだけだろう。


「遠目では灰色の鱗の竜。

 大きさは遠目でわかりにくかったけど木と比較したらそこまで大きく無い……かな?

 普通の竜の大きさは分からないけど。

 多分、全長は俺二人分くらいの大きさ位だと思う。」


うーん、小さいな。

聞いた感じ全長三メルト強程度か?

その程度の大きさならワイバーンじゃないのかね?


「ちょいまち。

 聞いた感じワイバーンっぽいんだが、前足と翼は一体化してたか?」


途中で遮って悪いがそもそも根本的なことを忘れていた。

俺ら狩人と違って町の狩りもしないやつらからするとワイバーンもドラゴンも全部同じだろう。


「……いや、多分別々だったと思う。

 翼で滑るみたいに宙を動いてたけど、前足は前足で生えてたように見えた。」


ふーむ。それならドラゴンだな。

って事は魔竜種の幼体……いや三メルトだと流石に子竜か。

うーん、悩ましいな。

正直魔竜の成体は俺らには荷が重すぎるが、子竜なら狩れるか……?

あえて危険を冒す必要もないように感じる。

難しい所だな。依頼って訳でもないから無用な危険を起こすのもなぁ。

悩んでいると受付のおっさんが口を開いた。


「即座に戒厳体制と言う訳じゃないが、お前が対処しないのなら帝都支部に応援を呼ぶ程には宜しくない事態だ。

 少なくともこの町の支部に居る狩人の等級じゃ対処しきれん。

 早めに決定を下してもらえるとこちらとしても助かるな。」


それはまぁそうだろうな。

依頼で来ただけとはいえ町で一番等級が高いのは間違いなく俺らだろう。

ただ、今回は俺がリーダーで来てるとはいえ流石に一存じゃ決めかねるな。

特にこういう判断に迷う所は俺が決めるとろくなことにならないのは経験上よく知っている。


「それは分かるが、俺も即座にこの場で決めるわけにはいかねぇな。

 一緒に来た仲間と相談してみない事には何ともな。

 取りあえず俺らが対処するにせよしないにせよ緊急依頼の募集をかけたらどうだ?

 俺らが出るとなってもこの町の奴にも手伝ってほしいことには変わりないからな。」


「そうだな。

 では、そっちは相談してきてくれ。

 俺は緊急依頼を書いて、その後に領主へ報告書を書かなければ。」


取りあえず俺が決められるのはこのくらいだし、受付のおっさんもそのくらいわかってるだろう。俺の返しに頷くと即座にカウンターの奥へと小走りで向かっていった。

俺も宿に戻ろうとしたところでオロオロするにいちゃんを思い出した。


「つーわけで、お前の仕事は一旦終わりだ。

 どうするにせよ木こりが介入するのは難しいだろう。

 お前は仲間の木こりがその森に向かわないように仲間に知らせて来い。」


どうせ、焦って仲間への報告はしてないだろ。

どちらかと言えば即座に命の危険があるのはそっちだから先にそっちに報告すべきなんだが、まぁ焦ってただろうし仕方ないことだ。

俺の言にハッとしてドアへ向かって走って行った。

さて、俺も仲間に相談するかね。

寝てるかもしれないところ悪いけどな。


▼△▼△▼△▼


「僕は行ってもいいと思う……かな。」


「だな、魔竜種の子供なら俺らでも行けるはずだ。」


「…………。」


賛成が二、無言が一か。

ああ、俺もどっちかと言えば賛成だから賛成三だな。


「グラレナ、黙ってるけど意見は無いか?

 正直一番知識があるのはお前だろう。」


今回のメンバーで唯一の魔術使いで頭脳担当のグラレナに話を振る。

元々帝都で教鞭をとっていた経歴を持つこいつが俺らの中では一番知識が豊富なはずだ。


「……そうですね。基本的に私としても反対ではありませんよ。

 ただ、一点だけ気になっているのがその子竜は本当に魔竜種なのかと思いまして。

 もし古竜種だった場合こちらは壊滅的な被害をこうむる上に、親竜が出てきた場合は最悪町が滅びます。」


古竜種ねぇ。もう寝物語の類だと思うが。

正直俺は見たこともない。

いらぬ心配だと思うがな。


「それこそ要らない心配じゃないかな?

 ここ数百年で古竜種を見たって話は聞かないから流石にないと思うよ。

 そんな珍しい相手だって疑って機会を逃すのは勿体ないんじゃない?」


おっと、ジャスティ―が俺が言う前に同じこと言ったな。


「俺も同意見だ。

 逆になんで古竜種なんて心配をするんだ?」


グラレナは別段妄想家でも夢想家でもない、どちらかと言えば現実主義者だ。

そんな奴が言い出すからには何かしらの根拠があるのだろう。


「いえ、少なくとも古竜種は現存しますよ。

 生物学者の間では知られている事ですが過去数年でも遭遇した方は居ます。

 数は少ないですがね。

 そして私が心配する根拠ですが、この場所です。」


そういいグラレナは真下……つまりは広義的にこの町と言いたいんだろうな。

にしても場所?この町が何か問題なのか?

首をかしげているとそのまま話が続く。


「ええと、確かその数少ない遭遇者の方にある生物学者が聞き込みを行った論文がありまして……。遭遇箇所や遭遇した竜の特徴、遭遇後に古竜種が飛び去った方角などを。

 そうすると遭遇箇所はばらばらだったんですが飛び去った方角は面白い結果になりましてね。

 結論から言うと古竜種が飛び去る場所は決まった二箇所だそうです。

 飛び去る方角が全部その方角に固まっていたそうですよ。」


あー、なんとなく分かった。

つまりその二箇所のうちの一箇所が……。


「その二箇所は一つがグロリアの聖地のデバスター大陸。

 そしてもう一つがアバローネ山脈なんですよ。」


アバローネ山脈。今俺らが居る街がその山脈の麓に当たる。

やっぱりな。

そう繋がるか。


「そして、普段は降りて来ることのない竜が降りてきた。

 まぁ、端に魔竜の子供が親と逸れただけと言えばそれまでですが、なんとなくですが嫌な感じがしまして。

 確率で言えばかなり低いですし、私の勘の域は出ません。

 が、一応の危険性を考えて悩んでいました。」


なるほど。納得いった。

ふーむ。難しい所だな。

……個人的に古竜種に付いてはあまり知らないんだが、古竜種でも子供ならどうにかなる気がするがどうなんだろうか?

俺には分からんので素直に聞く。


「無理ですね。」


断言かよ。


「古竜種は人間と同じかそれ以上に頭が回り言語を解します。

 その上非常に優れた魔術も行使するという話もあります。

 子竜だからと侮ると私達程度だと全滅するでしょうね。

 と言うよりそもそも全滅以前にこの町も襲われた場合壊滅しますよ。」


うげ、魔術まで使うのか。

それは確かに厳しいものがあるな。

ましてや言語を解するならこっちの作戦が聞こえた場合に丸わかりだしな。


「……まぁ、とはいえ心配しすぎなことは自分でも否めません。

 この話を踏まえてもう一度決をとってみては?

 私も今度は答えますので。」


「そうだな。じゃあもう一度聞くぞ……」


▼△▼△▼△▼


再び支部のドアを開けると受付のおっさんが振り返る。


「戻ったか。

 どうなった……その様子だと受けるみたいだな。」


「ああ、満場一致で受けることに決まった。」


受付のおっさんは軽く頷くとこちらに紙を渡す。

緊急依頼用のやつだな。

受け取って紙を眺める……ん?


「おいおい、おっさん。

 討伐じゃなくて捕獲になってるがどういう事だ?」


突っ込むとおっさんは頭をかきつつ気まずそうに返答する。


「あー……。緊急依頼が発生すると国際狩人機構の査定委員会に知らせることになってるのは知ってるか?

 今回も知らせたんだが、そこで帝国本部のお偉いさんが捕獲しろって言ってきやがってな。

 子竜だろうが竜種を捕獲させたっていう実績が欲しいみたいだ。

 他の国の本部への示威行動だな。

 そんな余裕はねぇって伝えたんだけどな……。」


はぁ?ふざけんなよ。

仮にも狩人機構のお偉いさんなら捕獲と討伐の難易度の違い位理解してるだろう。

実際に手を焼くのは現場にいる俺達なんだぞ。


「……こっちはそんな余裕ないぞ?

 討伐でも命がけなんだからな。」


「ああ、分かってる。

 一応了承したが可能ならと言う言質は取った。

 だから無理しなくてもいい。

 ただ、捕獲になれば報酬五割増しに加えて、更に競売にかけた売り上げの三割を上乗せする。

 捕獲用の檻はうちの支部の狩人に運ばせるから試してみてくれないか?」


……まぁ、試すだけならいいか。

一応後ろのギルメンを振り返ると少し悩んだ様子だったが、グラレナも軽く頷く。

…まぁ、大丈夫って事か。


「分かった。可能だったら、だからな。」


「ああ、それでいい。悪いな。」


「いや、そっちも上からの指示だろ。きにすんな。」


申し訳なさそうなおっさんから檻の場所を聞き、一緒に向かう狩人を顔を合わせた後、集まり次第木こりの言っていた場所へと案内してもらった。


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