45話 決着
ゾブリ、ズブブブブ。
一瞬の抵抗の後に杭がそれを押し破る。
布を裂き皮を破り肉を貫き再び皮を破る。
その後に抵抗が少し軽くなったのは反対側から杭が飛び出たからか。
口に咥えて刺した事で刺さった感覚はあっても咄嗟にどこを刺したかを理解するのには時間がかかる。
こういう時にヴァゴスが作る眼で咄嗟に俯瞰して見れたら強いんだろうな。
練習しておくメリットを実感出来た。
まぁ、なんにせよ今の体にヴァゴスは居ないから無理なんだけど。
さて、仮にこの手すら読まれて回避されていたら正直打つ手は無い。
無いけどこれで仕留めたと思い込んで動かないのもまた違うだろ。
慢心して反撃を食らって死ぬなんざ嫌だね。
死んだ後もヴァゴスに笑われちまう。
勢いがすでに消えて動きの止まった杭から口を開けて牙を放し、魔領法でヴァゴスのほうへと腕を伸ばす。
斬!
チクショウめ!
伸ばした魔領法が俺の体に届く寸前に割断された。
クソ!
まだ駄目だってのか!
現状死神の背中に張り付く格好になっている。
このままじゃ死に体だ。
反射的に魔領法を短く伸ばして、背中から飛びのく。
流石に空中で姿勢を整える余裕はないな。
ただ、今は距離をとるのが最優先だ。
飛びのいたことで死神の全身を視界に収めることができた。
俺の刺した杭は……よし!取り合えず胸の心臓にぶっ刺さっている。
ただ、死神はまだ動けるみたいで、俺の魔領法を鎌で切り上げた恰好のまま此方を振り返る。
だけどその動きはかなり精彩を欠いて、さっきまでとは比べ物にならないほど鈍い。
「そんなに俺様は魅力がないかね?
浮気ばっかされると悲しいぜ。」
足を落され身体を斜めに分断された俺の体が死神の後ろでそう呟いたのが聞こえる。
それと同時に杭が一本射出され、此方を向いた死神の腕を直撃する。
鎌を持っていた腕は肘関節ごと砕かれたみたいで、杭が貫通した断面からは骨が飛び出す。
一瞬の間は僅かな肉片で繋がっていたみたいだが、それも腕の自重と鎌の重さで地面に落ちる。
鎌を持った腕が千切れる光景を見て反射的に魔領法で着地寸前の地面を蹴りつけて、俺の体の方へと飛び掛かった。
死神の頭上を通る形になるが、今なら今この瞬間なら俺に対する攻撃手段がないだろう。
その考えは正しかったようで、俺を視線で追いはするが手を出してくることはなかった。
咄嗟だったからか着地位置がちょっとずれそうになったが、そこは魔領法を伸ばして今度こそ元の体と合流を果たすことに成功した。
『よ、おかえり。』
ただいま。
さっきまであった竜の頭部がベコリと内側に凹む様にしてめり込んで消える。
最低限形だけ作ってたみたいだな。
まぁ、渡せたオドもほんの少しだったし仕方ない。
頭が消えて首の断面だけになったところへ生首の俺が着地する。
そのまま、急いで身体と足の復元に意識を集中させた。
足は地面に落ちてるから魔領法で集めて胴体の切断面と合わせて復元を図る。
幸い、切り落とされただけだから大してオドを使わずに元の姿に戻る事が出来そうだ。
『さて、どうなるか。』
ヴァゴスの方は再生は俺に任せて死神の方をずっと注視している。
死神は腹と心臓を杭に貫かれ、右腕は肘から先が千切れた満身創痍。
さっきまで見たいに杭を抜いて投げ返したり、再生する気配もない。
俺が、俺たちが一つに戻ったことで此方を見てはいるが、さっきまでみたいに素早く攻撃をしてくる気配はない。
『取り合えず悠長にしてて反撃されても面白くねぇ。
とっとと決着をつけようぜ。』
ヴァゴスがそういうと同時に俺から残る僅かになったオドを吸い上げて、骨の杭を作る。
そればっかりだな。
有効だからいいんだけど。
『そこそこ頑丈で創りやすいんだよ。
骨の先端を尖らせるだけでいいからな。』
そのまま、射出された骨の杭が死神の顔めがけて飛んでいく。
残った左腕で抵抗しようとするが、大きくは動けないみたいだ。
本当にさっきまでとは比較にならない位弱体化したな。
やっぱり心臓への一撃が効果あったのか。
ズブリ。
左腕で杭を弾こうとしたみたいだが、力がそこまで籠めれなかったみたいだな。
杭は手の平をあっさりと貫通してそのまま眼球を貫いて頭の奥深くへと突き刺さる。
そのまま貫通こそしなかったものの、刺さった勢いのまま死神は後ろに突き飛ばされるようにして倒れこんだ。
………。
『………。』
ヴァゴスと一緒にそこから動きがないか見張る…が、そこから動く気配はない。
と、凡その復元が終わったな。
足もくっついた。
可能ならこのまま魔領法かヴァゴスの杭で遠距離から追撃を加えたいが…それをするだけのオドがもう残ってない。
近づくか?
どうしよう。
『そうだな…。ッ!』
そんな風に考えてヴァゴスと相談しようとした時、死神が現れた時と同様に唐突に線が一本地面に現れる。
現れたかと思うと瞬く間に中央が膨らみ、死神の体を覆うように黒い空間が開かれた。
そのまま沈む様に死神の身体と右腕、鎌が空間の中に消えていく。
数秒もするとその完全に姿は沈み消え、消えると同時に現れた時と同様黒い空間は細くなるとそのまま消失し後には血痕が残るだけとなる。
音は何も聞こえず静寂だけが辺りを漂う。
……終わった、と思っていいのか?
『……これで更に次が始まったら終わりって事は確かだな。』
そのまま暫くは油断なく辺りを見渡したが変化はないな。
うん、今度こそ終わったと思っていいみたいだ。
ガコン!
そう思っていると周囲で突然そんな音が鳴る。
警戒が抜けそうになった瞬間でびっくりしたが、身に覚えがあるな。
徐々に俺の周囲の地面が盛り上がって箱を形作った。
50階層の時に経験したな。
報酬の選定箱か。
これが出てきたってことは本当に終わったってことだな。
さて、今回は何が貰えるかな。
箱に近づいて文字を見てみると、50階層の時と同様に複数の言語で文字が書かれている。
えーっと、≪永劫の死鎌≫だってさ。
死神の持ってた鎌かな。
『だろうな。』
その隣を見てみると…なんだこりゃ。
何も書かれていない、と言うか文字の書かれてあるはずの場所が削り取られている。
これじゃ何が入ってるか分からないな。
諦めてそのまま順番に見ていく。
1,≪永劫の死鎌≫
2,≪■■■■■■■■■■≫
3,≪■■■■■■■■■■≫
4,≪永劫鉱のインゴット≫
5,≪加護:血なるレフソ=ウェルの病加護≫
6,≪■■■■■■■■■■≫
7,≪魔剣レフソリーパー≫
七つの内、三つの文字が削り取られていた。
なんだろうな?
『さぁな。
俺様も分からん。
ただ、削られてる奴は選べるにせよ選べないにせよ博打になるな。
選べたとしても何が貰えるか分かったもんじゃねぇ。
諦めて文字のある四つから選ぶことを勧めるね。』
まぁ、そうだよな。
ここで下手なものが手に入ったら悲しいし、わざわざ賭けに出るほどじゃない。
選べる物が余程微妙だとそれもありなんだろうけど、そこまで微妙なものはない。
と言うか加護もある時点で十全と言っていいだろう。
確か以前にイザヨイの言っていた話だとここは一回経験すると二度と来れないって話だ。
それを踏まえると尚の事、慎重に選ばいないとな。
…と言っても前回の経験を踏まえると俺は加護一択かね。
今のところ不用意に荷物を増やしても持ち運べる手段に乏しいし、それが戦力になるとも思えない。
ま、なんか加護の内容的に50階層の時と同じ血に関する何かって雰囲気を感じるけど。
そう考えている間に、ヴァゴスからも大した反論が無いからきっとその考え方で間違ってないんだろう。
暫く考えてから加護の箱へと進んで前足で箱を叩いた。
前回の時と同様に箱の蓋が勝手に開くと、中から冷たい風が俺にまとわりついて直に消える。
さてさて、どんな風になったかな。
鑑定…と行きたいが今はヴァゴスの眼を持ってないからな。
代わりに鑑定して貰うとしよう。
いつもお読みいただきありがとうございます。




