痩せろデブ
「何か臭くね?」
そんな言葉が、俺にわざと聞こえるように飛んでくる。
「近くにいるんじゃねーよな、ゴブリンがよ」
今度ははっきりと俺に向かって言葉が投げかけられる。
「…ごめん。席移るよ…」
今はお昼休憩中。席で昼飯を食べていた俺は食べかけのお昼を持って席を移ろうとする。
「おいおーい、ゴブリン! そっちの席に移ったって臭うんだよねー。移動してよ
。俺たちの目の見えない所にさ」
「そら言い過ぎだろw間違ってねーけどなw」
俺の事をゴブリンと罵るグループが大爆笑をする。これが俺の日常だ。
「…分かったよ」
昼飯をささっとまとめて、クラスを出る。あいつらの笑い声が廊下にまで響いている。
御武 鈴これが俺の名前である。まあ、ゴブリンの由来の一つにもなっている。
ゴブリンのもう一つの由来、これは単純に醜いからである。
体中の肉が垂れ下がり、顔もパンパンに腫れあがっているような状態だ。加えて、汗の量も尋常ではなくだらっだらなのだ。
「そら、デブで発汗量多ければ臭うしなあー言われるのもしゃあなしか」
悲しいけれど納得してしまう。ダイエットしようとは思ったのだ。しかし幼い頃からの喘息のせいで運動をするとすぐに、
『コヒュー……コヒュー……』
死にかけちゃうのである。命と肉を天秤にかけるのであれば、命に傾くものだ。周りに迷惑かけてるのはわかるんだけどさ。
しかし、俺だって今を生きる十七歳。痩せてモテたいと思ったことも、恋人なんて高望みじゃなくても友達でもいい。
「……寂しいなあ」
つい口から言葉が漏れ出てしまう。ついでにため息もつけて。
昼飯を持って俺は持って俺はお目当ての中庭に到着する。
日差しが強いので、木の陰に移動してどっこらしょっと座る。
いや、座らなかった。いやいや、座れなかった。地面に尻をつけようとした瞬間に不意にブーンという音がして、穴が開いたのだ。
その穴に俺は呑み込まれる。あれ、イタズラされたのかな? なんて考えてもみたけれど、その穴は深すぎた。永遠と着地する気配はない。
そして、俺は考えるのをやめて、意識を手放した。