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ついに開店です!


 レインが用意した店は、平民区域の商業地区にある中心部だ。立地の良い空いている場所を探したから、とても狭い。狭くとも扱う宝飾品は小さいので問題はなかった。

 マーリカはうきうきとした気持ちで、男爵家から連れてきた使用人にあれこれと指示した。


「お嬢さま、楽しそうですね」


 古くから我が家に勤めてくれている使用人が口元に笑みを浮かべてそう声をかけてきた。


「そう?」

「ええ。お嬢さまはいつだって楽しそうですけどね」


 くすくすと笑われながら、最後の調整をお願いした。


「ありがとう。後はわたしだけで大丈夫だから、戻ってちょうだい」


 お礼を言い、使用人を帰す。彼の後姿を見送ってから、マーリカは小物の入った箱を奥の部屋から運び出した。箱の中には頼んでおいた宝飾品の他、飾りつけに必要なクロスや宝石箱、鏡などの小物が入っている。


 それらを取り出しながら、前世のショッピングセンターにあるおしゃれな雑貨屋をイメージして商品を配置した。


 白を基調にした店内、中央に置かれた大きなテーブルは明るい色の木目調、壁際にはエル字型にした。テーブルの上に白いクロスを引き、可愛らしい白い箱を置く。その中に綺麗に髪飾りを飾った。髪飾りもリボンと一緒のもの、コームにつけたものなどがいくつも並んでいる。


 首飾りは小さなスタンドを幾つも置いて吊るした。他にも、宝飾品を入れる小箱や髪を梳かす櫛などを置く。華やかさを足すために、ドライフラワーなどを所々に飾った。大きめの鏡を所々に置いて、見やすさを確認する。


 イメージは出来上がっていたので、すぐに店内は支度が終わった。マーリカは入り口から少し距離を取って、外からの様子を確認した。


「もう少し見やすい方がいいかな?」


 気合を入れて並べたため商品同士の密度が高く、ごちゃごちゃしていた。マーリカは一つ一つ丁寧に確認しながら、商品の並べる数を調整した。


「手伝いに来たのだが、もう終わりそうだな」

「レイン!」


 作業に没頭していると、後ろから声がかかる。ぱっと顔を上げれば、レインとノルンがいた。少し離れたところを見れば、護衛達も控えている。


「最後の確認をしていたところなの。どうかしら?」

「見たことのない展示方法だね。マーリカが考えたの?」


 ノルンがゆっくりと店内を見回しながら、そんな質問をしてきた。マーリカはニコッと笑う。


「そうよ。とても可愛い感じでしょう? 女の子は可愛いものが好きだから」

「でもこれでは、男性が入りにくいぞ?」


 レインはわずかに眉間にしわが寄っている。男性が入りにくい、と聞いてマーリカは瞬いた。


「女の子に来てほしいから、別にいいと思ったんだけど?」

「平民がどうかは知らないが、宝飾品は男性が贈るものだ」


 レインの言葉になるほどと納得した。ノルンも一通り見てから、会話に混ざる。


「あとは、一緒に選びに来るとかね。この店、可愛いけど男性は入る勇気が必要かも」

「宝飾品は基本、家族が贈るか、恋人が贈るものだと思っていたのだが」


 家族か恋人が贈る。


 マーリカも自分自身を思えば、その通りだと頷いた。高価なものはフェドが贈ってくれるし、自分では買った覚えがなかった。屋敷に来てくれる商人にあれこれと好みの注文をつけるぐらいだ。

 マーリカは知らないうちに前世の価値観に引っ張られていたようだ。


「そうね。言ってくれてありがとう。男の人でも入りやすい様に変えてみるわ」

「壁が白いから、白いテーブルクロスはやめて、ドライフラワーも外したらどうかな?」


 ノルンはそう提案しながら、テーブルの半分だけささっとドライフラワーを外し、クロスも外す。そして、むき出しのテーブルにアクセサリーを並べた。


「それはちょっと寂しすぎないか?」


 レインも腕を組み、テーブルを見比べた。マーリカが飾ったテーブルは可愛すぎ、ノルンが整えたテーブルは質素過ぎた。


「そうね。この中間になるようにしたいわね」


 3人は色々と広げたり、飾りを外したりしながら店の準備をし続けた。



******


 マーリカは大きく息を吸った。姿見に映る自分をもう一度点検する。今日は開店する日だ。今日の動きが今後の指針になるので気合がどうしても入ってしまう。


 売り子としてのドレスは、平民が着るワンピースを選んだ。

 丈がふくらはぎの半ばで裾がふわっと広がっている薄水色のワンピースだ。靴は編み上げのブーツを合わせいる。パスリーブの長袖、襟もきっちり詰まっていた。派手過ぎず、地味過ぎず。ふわふわしたミルクティー色の髪はハーフアップに結い上げている。毛先を緩く巻いてもらった。

 目指したのは、前世のアクセサリー店にいる可愛い定員さんだ。


「お嬢さま。レイン殿下がおいでです」


 家令が来客を告げに来た。慌ててマーリカは部屋を出て階下に降りる。階段下には今日のために白いシャツとズボンを着たレインがいた。いつものような王子様な意匠ではないが、金髪に明るい青い瞳をしたレインはそれだけでとても素敵だ。


 ついついガン見してしまう。いつ見てもレインからは柔らかな光が舞っているように見える。金髪だからという理由ではない気がしていた。存在自体がきらきらだ。

 食い入るように見つめれば、レインが小さく笑った。


「マーリカ、おはよう」

「……おはようございます」


 はっと我に返って挨拶を返す。素の自分が出てしまって、思わず赤くなった。こんな風に真正面から見つめてしまうなんて、恥ずかしい。こっそりとみるべきだった。


「マーリカは可愛いね。もうちょっと近くに来てもらえる?」


 レインが手招きするので、マーリカは逆らうことなくふらふらと近寄った。彼の手の届く位置で立ち止まれば、彼の手が伸びてきた。

 彼はためらうことなく、すっと髪飾りを差し込む。驚いて目を瞬けば、レインが嬉しそうに笑った。


「よく似あうよ。これを付けてもらいたかったからお願いしていた甲斐があった」

「お願い、って誰に?」

「もちろん、君の侍女に。髪に映えるようにこの髪型にしてもらったんだ」


 驚きすぎて声が出ない。思わず後ろを見てしまった。そこに控えていた侍女がにっこりと笑う。いつの間に結託したのか、マーリカは恥ずかしくなってしまう。


「あー、そろそろいいかな? 俺たちを忘れてもらっては困るんだけど」


 困ったように声をかけてきたのは、ジョンだった。ぽりぽりと頬をかいている。マーリカはようやく3人の存在を認識した。


「おはようございます」

「おはよう。今日は俺たちも売り子で入るから」

「え?!」


 予想外の申し出に、マーリカが素っ頓狂な声を上げた。ノルンがくすくすと笑っている。


「殿下とカークは会計、僕とジョンがお勧めする係」

「わたしは?」


 マーリカが聞けば、全般に目を向けてと言われてしまった。とりあえず頷いた。


「では、よろしくね」


 マーリカは4人もイケメンがいて店は大丈夫なのか、といささか不安を覚えた。下手するとアイドルコンサート並みにけが人が出るかもしれない。女子が暴走しなければいいな、と少しだけ思った。




 結果的には。

 開店後、3時間で完売した。用意していた個数が足らなかったのか、それもと4人を間近で見ようとしていた女子が沢山いたせいなのか。


 よくわからないが、とりあえず全部売れた。


「うん、良かった」


 ノルンが頬を上気させて言えば、ジョンが笑う。


「まあ、俺たちがいたからな。こんなもんだろう」

「もう少し多めに生産しても問題ないようだ」


 カークの真面目な一言に、マーリカも反論しなかった。それぐらい熱心に選んで買ってもらえたのだ。


「男性客が少ないのが気になったな」


 レインが気がかりを呟いた。それはマーリカも気になっていたところだ。宝飾品は男性も選ぶと言っていたので、恋人同士で来るものだと思っていたのだ。ところが今日来た客はほとんど女性客ばかり。明らかにこの4人が目当てのように思えた。


「もう少し入りやすくした方がいいのかもね」

「とりあえず王宮へ戻ろうか。反省会をしよう」


 レインの言葉に皆頷いた。


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