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新しい商売を立ち上げましょう


 マーリカは次々とテーブルに宝飾品を並べていく。レインの執務室ではレインと3人の側仕えが興味津々に並べられた宝飾品を見ながら、静かに長椅子に座っている。


 マーリカが並べている宝飾品は貴族の目からすると品質のいいものではなかった。使っている銀の品質が貴族が好む品質ではないのだ。どちらかというと庶民の街に売っていそうな銀細工だ。


 銀細工には細かな柄がついているが、どこにでもある柄であるし、大きさも小さい。ただどの銀細工にも小さいけどキラキラした石がついていた。赤や緑、青の物もある。透明感があるため、濃い目の色も重くない。

 マーリカはレインの前に緑のリボンと小さい銀細工を置いた。


「リボン?」


 レインは目の前にあるリボンを手に取った。綺麗な色に染まっているが、絹ではないので少しごわついている。平民が使うリボンのようだ。ますます訳が分からない。


「このリボンをね、まず結ぶの」


 手のひらを差し出されて、レインはその上に持っていたリボンを置く。マーリカの手によって器用にリボンが結ばれた。


「こうして髪に結んで、これを付けるのよ」


 リボンの結び目に先ほど並べた銀細工の一つを嵌める。結び目が見えなくなるかわりに、キラキラとした石を持つ銀細工が普通のリボンを華やかにした。その劇的な印象の変化にレインは驚いた顔をした。


「これは宝石か?」

「うふふ、そう見えるでしょう?」


 テーブルの上には、さらに小物類が並ぶ。数種類の髪留め、腕輪に首飾り。小物は入れ物や小さなポーチなど、普段平民でも使うようなものが中心だ。3人の側仕えもそれぞれに手に取り、小物類を眺めていた。


「この宝石のようなものが、特徴になるんだね。あるのとないのでは、華やかさが違う」


 興味深く手に取り見ながら、ノルンが呟く。


「ガラスで作るビーズよりも綺麗でしょう?」


 マーリカが得意気に胸を張る。


「ガラスではない、宝石でもないとなると……なんだ?」

「これはね、魔晶石のなりそこないよ」


 指先でキラキラした石を突っいていたレインが驚いて顔をあげる。


「魔晶石は黒だろう?」


 レインの言う通り、魔晶石は真っ黒なのだ。だが、魔晶石にならなかった結晶は色々な色を持っている。


「魔晶石になる過程がどこで止まるかで色が決まるみたいなの。面白いわよ。一つの塊の中に色々な色があるから」


 マーリカも父親のフェドに見せてもらった後、その塊を見に行った。それぞれの石が落ちているわけではなく、大きな塊の中、色が混ざっているのだ。もちろん、中にはきちんと魔晶石になっている部分もあり黒くなっている。その黒い部分だけを魔晶石として取り出すのだ。その手間のかかり方に、職人が嘆いていた。


「結晶化の過程で色がつくなんて、面白いな」


 カークはそう呟き、まじまじと石を見ている。


「魔晶石、マーリカの領地でとれるんだよね?」


ノルンは魔晶石と聞いて納得したように頷いた。ヘールズ男爵家では魔晶石を発掘し加工する家であることを思い出したのだ。


「そうよ。今までこれはゴミとして扱われていたから、すごく嫌われものなの。でも、こうしてカットして使えば綺麗だと思って」

「女なら好きそうだな。贈り物にしても、値段が手頃なら売れそうだ」


 ジョンは小物入れを開けたり閉めたりしながら呟いた。


「でも魔晶石だと、他も真似するんじゃないのか? 他の領地でも取れるだろう?」

「真似してもらっていいのよ。売るのは小物類がだけじゃないの。加工技術を売るのよ」


 マーリカはにっこりと笑う。


「まずは売れることを証明して、その後は産出する領地を持つ領主に掛け合うつもり」


 レインはよくわからず、眉を寄せた。


「技術は秘匿した方がいいのではないのか?」

「そうしたいのは山々なんだけど、どうやら場所によって取れる色が違うらしいの」

「これだけでもいろいろな色があるようにも見えるが……」


 カラフルに使ってある小物入れを指差した。


「うちの領地だけでは、青系統が多いようなの。お父さまの知り合いの領地では黄色系統が多いと聞いたわ」

「1箇所だけでは、使いづらいということか」


 レインが考えるように唇に指を当てる。真剣に考え込んでいるときに見られる仕草だ。


「ノマン、小さくてもいいから平民区域で立地のいい店を探してくれ。カークは予算計画を作ってほしい」


 二人は楽しそうな顔をして頷く。


「俺は?」


 ジョンが何かを期待するように、急かした。レインは苦笑しながら、指示を出す。


「どのような宝飾品が平民に好まれやすいか、調査してくれ」

「了解」


 3人が立ち上がり、これは部屋を後にした。ジョンが扉をくぐる前に立ち止まり、振り返る。


「いちゃつくのはいいけど、執務室だということを忘れるなよ」


 有り難いのかわからない一言に、マーリカの顔が真っ赤になる。


「心配いらない。すぐに私室にこもる予定だ」


 レインはにやりと笑って、ジョンを送り出した。二人きりになり、マーリカはぎこちなく笑った。


「そんなに緊張しなくても」


 くすくすと笑いながら、席を立ち、対座からマーリカの隣に移動する。マーリカはわずかに腰を浮かせたが、すぐに抱き寄せられてしまった。暖かな体にマーリカはドキドキが激しくなる。あんな風にほのめかされた後、抱きしめられて変な汗が出ていた。


「レイン様」

「結婚、遅くなりそうでごめん」


 そっと囁かれて、マーリカは急に冷静になった。マーリカはレインの背中に腕を回す。


「気にしないで。すぐに返済が終わるように頑張りましょう」

「本当は結婚してから、色々したかったけど」

「えっと?」


 色々って、どこまで……!


 マーリカは前世ではそれなりに付き合う人はいたが、ここでは当然ながら、未経験だ。しかも、油断して今日は機能的なパンツをはいており、セクシーさはない。いかに色気のないデカパンを見せないようにしながら事に及ぶか、素早く考えた。

 マーリカが赤くなったり、青くなったりしているので、レインは笑いがこみ上げてきた。


「何を想像している?」


 艷やかな声が流し込まれて、マーリカが完全に動きを止めた。レインは少し体を離し、彼女の顔を覗き込む。期待しているのか、頬はバラ色に染まり、瞳は熱っぽく潤んでいる。


「レイン様」


 小さなかすれた声で名を呼ばれて、レインは目を細めた。


「レイン。様はいらない」

「でも」

「呼んでみて?」


 マーリカは色気のある眼差しに喉がカラカラになる。期待に満ちた目で見つめられて、本当に小さく名前を告げた。


「レイン」


 少し掠れた声にレインは体を震わせ、彼女の肩口に額を当てて顔を隠した。


「はあああ」

「え? レイン?」


 レインの様子がおかしくなったので、マーリカは慌ててレインの顔を見ようと肩を押した。だが、レインは顔を上げずにそのまま抱き着いている。


「うーん、色々キタ。今、手を出したら止まらなくなってしまうから、やっぱり我慢する」

「我慢……」

「初めては結婚した時にとっておく」


 ぼそぼそと言われたと思ったら、がばりと顔を上げた。彼の整った顔は妙な苦悩が刻まれていたが、マーリカはそんな彼に胸がどきどきした。


「気にしなくていいのに」

「キスだけね」


 レインはちょっと笑うと、ちゅっと唇に軽くキスをした。マーリカが不満そうな声を上げる前に、深くキスをし直す。


 マーリカはそのままレインに寄りかかり、優しいキスに酔いしれた。


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