表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/20

突撃訪問者


 マーリカは出来上がった貴族向けの装飾品を持って、レインの執務室にいた。なんだかんだと言いながらも、職人であるマークには無理をしてもらって一週間で作ってもらった。


 ただし試作品だから、完璧な状態とは程遠いらしい。完璧ではないと嫌がるマークを何とか説得して奪ってきたのだった。

 職人の目からしたらいまいちな出来かもしれないが、マーリカの目からは十分に美しく仕上がっていた。そのため先にレインたちに出来上がりのイメージを見てもらいたかったのだ。やはり普段見慣れている貴族の目から見た方がいいと思うのだ。


 試作品を幾つもテーブルに並べながら、マーリカは並べた宝飾品を眺め、ため息をつく。


「マーリカ?」


 レインが彼女のため息に気がつき、顔を上げる。マーリカはどこか浮かない顔をしていた。


「これ、売れるのかな?」

「美しい仕上がりだと思うが……」


 レインはマーリカの懸念がよくわからないようだ。ジョンの方へと助けを求める。ジョンもマーリカの不安にきょとんとした顔をしていた。


「ああ、仕上がりの問題じゃなくてね。売ろうと思うと、とても高い設定になってしまうのよ」

「なるほど」


 マーリカの言葉足らずな説明に納得したのはカークだった。カークはじっと宝飾品を見つめ、手に取った紙にさらさらと何かを書きつける。


「おそらくこれぐらいの値段で売れると思う」


 紙を差し出されて、マーリカは受け取った。書きつけられたのは、それぞれの宝飾品の売値だ。その値段にマーリカの眉が寄った。レインはマーリカの隣から紙を覗き込む。


「まあ、これぐらいだろうな。これ以上高くすると、宝石を使っても変わらなくなる」

「そうよねぇ」


 マーリカははあっとため息をついた。決して悪い金額じゃない。平民にはかなり頑張らないと手が届かない金額、貴族家においては安くはないが高くもない金額。何とも絶妙な金額だ。


「どうしたの? 不安はちゃんと解消しないとダメだよ」


 ノルンがマーリカに心配事を吐き出すように促した。


「この細工がかなり手間がかかっていて、ジョンの書いた金額だと利益率があまり高くないのよ」

「そうだろうな」


 すぐに頷いたのはカークだけだった。他の3人はそうなのか、という顔をしている。


「だが、利益にはなるのだろう?」

「利益はあるわね」

「だったらいいのではないか? 例え利益率が高くなくとも、売れる層が広がるだけでも御の字だ」


 マーリカはしばらく考え込んでいたが、レオンの言葉に納得したのか一人頷いた。


「そうよね。すぐにがっぽり儲かるなんて、ありえないわよね」

「悪徳商人のように、ふっかけてみるか?」

「評判悪くなると他も売れなくなるからやめておくわ」


 ようやく空気が和らいだ。好き勝手に感想を言い合う。

 いつもと変わらない心地よい空気が、突然の訪問客で固いものに変わった。


「お邪魔するわね」


 そんな気軽な言葉で入ってきた女性たちを見て、流石のマーリカも固まった。放心したように見つめた後、我に返って深々と頭を下げた。


「楽にしてちょうだい」


 楽し気に許しを出すのは王妃だった。そしてその後ろに付き従うのは側室のエリー。レインの母親だ。

 王妃とこれほど近い位置で接したことがなく、マーリカは一人息を飲んだ。人を圧倒するような存在感だ。

 エリーも寵姫と言われているとおり、レインほど大きな息子がいるとは思えないほど美しい。腰もきゅっと細く胸が豊かだ。ただエリーはレインとよく似ているのでこちらは親近感があった。


 マーリカはちらりとレインを見る。レインは特に驚いた顔をしていないので、二人がやってくるのは知っていたようだ。さらにノルンやカークも見れば、彼らも平然としている。

 どうやら知らないのはマーリカ一人だったらしい。


「貴女がマーリカね」

「はい。お初にお目にかかります。ヘールズ男爵家の娘、マーリカと申します」


 そう挨拶すれば、エリーがころころと笑った。


「まあ、可愛らしいお嬢さんね。レインとアデルは性格が合わないとは思っていたから、心配していたのよ。婚約解消していいと伝えても、なかなか動かないし」

「エリー。そう明け透けに言うものではないわ」


 王妃がエリーを窘めた。エリーはぺろりと舌を出す。とてもレインのような大きな息子がいるような感じはなく、その仕草は少女のようだ。磨き上げられた美貌が近寄りがたい感じであったが、その仕草で一気に親しみやすさが増す。

 それにマーリカとレインの関係を歓迎しているようにも思えてほっとした。


「それで、レインが見せたいものがあると聞いてきたのだけど」


 王妃に促されて、はっとした。マーリカはテーブルの方へと二人を案内した。


「こちらが新しく作った宝飾品です。まだ試作品なので最終段階ではないのですが」


 二人は興味津々でテーブルの縁まで寄ってきた。


「あら。素敵じゃない」


 貴族用に作られた宝飾品は曲線の美しい繊細な造りをしていた。マークが短い時間に拘って作り上げたものだった。その細工に大ぶりのクズ魔晶石を入れている。


 この世界の宝石はダイアモンドとエメラルド、サファイア、ルビーぐらいしかないので、これらの色を避ければ区別は容易なのだ。ただ今回は、平民向けの安い商品とは異なり、魔晶石も美しく光を反射するようにカットされている。マークたち職人のげっそりと窶れ切った姿を思い出し、後で差し入れをしようと決めた。今回、かなり無理してもらっていた。


「手に取っていいかしら?」

「どうぞ」


 王妃は一つの首飾りを手に持った。じっくりと魔晶石を見つめる。少しづつ傾けて光を当ててみたり、遠くから見てみたり。無言で観察している。エリーは耳飾りを手にしていた。どちらも使われているのはマーリカがマークに注文した雫型だ。

 首飾りの方は銀細工が細かく編み込んだようになっており、そのトップに雫型の紫色の魔晶石が飾られている。鎖の所にも小さな魔晶石が使われていた。


「素敵な意匠ね」


 エリーが気に入ったのか、ほうっと感嘆のため息を漏らす。王妃も次々に宝飾品を手にする。


「石もそうだけど、細工も素晴らしいわね」


 熱心に見ている二人に、レインは尋ねた。


「どうですか? 茶会など、公の催し以外の時に使えると思いますか?」


 この場にいる人たちの目が王妃に向けられる。王妃はにこりと笑った。


「ええ、大丈夫だと思いますよ。今度、茶会でつけてみましょう」

「ありがとうございます」


 レインはほっとしたのか、自然と顔をほころばせた。マーリカにも笑みが浮かぶ。


「よかったら、これを持って行ってください。試作品ですが、改良したものはまた後で届けます」

「あら、いいの?」

「はい」


 マーリカは宝石箱を取り出して、宝飾品を片付けようとした。それをエリーが止める。


「折角だから、つけてみたいわ」

「母上。私がつけますよ」


 レインはエリーが選んだ首飾りと耳飾りを手早くつけた。ほっそりとして華奢なエリーに雫型の宝飾品はよく似合っている。少しの動きによって揺れると、光を反射してとても綺麗だ。宝石とはまた違った美しさだった。


「あら、すごくいいじゃない。揺れている感じがとても素敵だわ」


 王妃も感心したように褒めた。エリーは嬉しそうに頬を染めてほほ笑んだ。


「これ、ありがとう」

「よくお似合いです」


 嬉しくてついつい気安く告げてしまった。エリーも咎めることなくにこにこしていた。


「レイン、わたくしたちは戻るわね。後で王太子妃の所へも届けてあげて」

「わかりました。今日はありがとうございました」


 レインが挨拶をしたので、マーリカは二人の女性に頭を深く下げた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ