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100年先まで、一緒に。

 ◆◆◆↑立成26年12月某日(滞在1日目)現地時間午後15時20分◆◆◆

 ◆◆◆↓立成26年12月某日(滞在2日目)現地時間午前2時3分◆◆◆



 アタシ、政所弓稀まんどころゆきが用を足して戻ってくると、いつのまにか起きていたつくしがアタシのベッドの中にいた。

 ここは、オーストラリアの某州某市内に建つホテルの一室。アタシ達、政所まんどころ一家(といってもつくしは板隷いたれい姓のままだが)は大会当日までの一晩をここで過ごしている。当たり前といえば当たり前だけど洋室のワンルーム。昼間はビーチを見下ろすことができる大きな窓、キャビネット、背もたれの広い椅子とテーブル、そして二組のベッドなどが備え付けられている、そんな部屋だ。アタシが一つ、つくしとつきとで一つ、というふうにベッドで寝ていたはずだけれど、どうやらアタシがトイレに行っている間に入り込んできたらしい。


「……起こしちゃったならごめんなさい。…………で? どうしてこっちに来てるの?」

「ひどいなぁ。せっかく彼女がバスルームしてきたっていうのに」

「『よくじょう』違いね。普段ならもっと恥ずかしげもなくストレートに言うでしょ?」

「……本当に『そういう気分』になっちゃうと、なんだか照れくさくなっちゃって。ほら、つきちゃんも寝てるし。いいでしょ?」


 ベッドに戻ってきて寝転がるアタシの胸に、つくしが顔を寄せてきた。そういえばここ最近は二人揃ってつきに構ってばかりで、二人きりの時間があまりなかったかもしれない。こうして素直に触れられると、つくしは下ネタが大好きな変質者である前にアタシを大切に思ってくれている一人の人間だということを改めて思い出す。


「ね? いいでしょ? あたしの先っぽだけだから」

「どこなのよつくしの先っぽって」

「いっぱい候補あるよ?」

「そうね」



 ◆◆◆↑立成26年12月某日(滞在2日目)現地時間午前2時9分◆◆◆

 ◆◆◆↓立成26年12月某日(滞在2日目)現地時間午前3時12分◆◆◆



「ねぇ、覚えてる?」


 お互いに汗ばんだ肌を寄せ合い、つくしが聞いてきた。つきは、隣のベッドで寝たままだ。自分の親代わりの人間がすぐそばで「あんなこと」をしているだなんて知らずに、幸せな夢でも見ているのだろう。


「何を?」

「学生時代のこと」

「今と変わらず、あなたが変質者だったことは覚えてるわ」

「一番最初に思い出してくれるんだ、あたしのこと。なんか嬉しい。……変質者? ……んーまあいいや。変質者上等。最終的には弓稀ゆきをゲットできたんだから結果オーライってことで。……あ。安座井あんざい先生って女の先生がいたの覚えてる?」

「体育のでしょ? 『たとえ靭帯が切れても、私は諦めない。私は……バレーが……したいです! さあ試合開始まで3・2・1・はいキュー!』って言ってた」

「そうそう。それで感化されたバレー部の子が『この前の試合は私の投球がよくなかった! 悔しいです! 今から自分を殴る!』って言い出して、その場に居合わせた子達で止めに入ったんだよね。懐かしいなぁ」

「ちょっとした騒ぎになったのよね。確か……あのとき騒いでたのが植杉南子うえすぎみなこ……だったかしら。当時最上級生だった。……彼女が新聞部の取材で『屈辱に歪んでしわくちゃな顔しててね。嘘みたいでしょ? 真剣だったのよ。あれで』って答えてたって校内新聞に載ってたわね」

「あれはいい思い出だったよね。止めるの大変だったけど。…………あ! そうそう……って、明日本番だよね。違う『ホンバン』を今やったばかりだけど。ごめんね。もう寝よっか」

「……いきなり学生時代の話をするなんて、なんだったの?」

「ううん、なんでもない。……ただ、今も昔も楽しかったなぁって。…………昼と夜。過去と未来。いつだってあたし達、一緒だよね?」

「……もちろんよ」


 つくしはふわっと微笑むと、ゆっくりとそのまぶたを下ろした。





 ……そういえば。


 汚したシーツ、どうしよう。

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