100km以上離れた土地へ。
◆◆◆↑立成26年9月◆◆◆
◆◆◆↓立成26年12月◆◆◆
アタシ、政所弓稀は女性のアナウンスで目を覚ました。まぶたと顔をゆっくりと上げ、現在の自分の状況を確認する。
腰にはベルトが巻かれており、身動きをとってはいけない状況なのを思い出した。
「……もうすぐで着くよ、弓稀」
「……えぇ、そうね」
アタシ達家族三人は今、降下を始めた大型旅客機の中にいた。ありがたいことに、アタシはとある水泳の大会で勝ち進み、オーストラリアへの切符を手にしたのだ。この大会で優勝すれば、賞金がもらえる。日本円に換算すると確か手取りで三百万くらいだっただろうか。まあ、優勝できればの話だが。せめて往復の航空賃と宿泊費分くらいは浮かせたい。
「……海外に行くのは久しぶりだね」
「……そうね」
「……最後に行ったのってどこだったっけ? アメリカ? シンガポール?」
「…………フィリピンよ。つくしがくじ引きでペア旅行券当てたの忘れたの?」
「あーそうだったそうだった。子どもがデキてから……」
「捏造しない」
「ぶー。……月ちゃんがウチに来てからは、国内の大会ばっかり出てたもんねー」
「少しでも月の養育費に回したかったのよ」
「……『養育費』って、もうすっかり親気取りだねー」
「お互い様でしょ」
「あははっ。………………別に……さ? ……お腹を痛めた訳でもないのに、すっごく愛しいんだ。月ちゃんが」
「……今後、たとえ月の本当の親が現れたとしても、返したくない。……もう、そんなところまで来ちゃったのよ。アタシ達は」
「二人とも、月ちゃんに冒されちゃったねー。………………今のえっちく……」
「ない」
「あうっ、会心の一発! ……はっ! ねぇ弓稀、あたしに一発出し……」
「は?」
「かかか顔と声が怖いです弓稀様…………」
「はぁ……。まだ月が寝てるんだから、もう少し大人しくできないの?」
「できないよ」
「なんでよ」
「……好きな子と喋るのって、とっても楽しいもん」
「………………」
……アタシは、到着ロビーを出るまでなにも言えなくなってしまった。