三寒四温の心。
下ネタ警報、発令です。
◆◆◆↑立成17年4月◆◆◆
◆◆◆↓立成17年5月◆◆◆
「1秒以上タイムあげたって……うっそでしょ!? ……なのに、アタシは…………」
アタシ、政所弓稀は、この時期になってまさかのスランプに陥っていた。この前の冬頃……だから三ヶ月くらいだろうか。同級生は個人差はあるものの順調にタイムを上げているというのに。自分は一向に脱出口を見出だすことができないでいた。
「んー……、なんでだろうねぇ」
「……そんなのこっちが聞きたいですよ」
顧問にも、心配されている。
毎日の運動も、食習慣も、今までと変わりはない。なのに、どうして……。
◆
……正直、憤りを感じていた。自分の不甲斐なさに。行き詰まっているこの状況を打破できない自分自身に。毎朝のランニングも、こんなことを考えていては憂鬱になるばかりだ。
でも、不安に駆られていてはどうしても考えてしまう。
「アタシから水泳を取ったら……!」
何が残るというのだろう。
……いや、何も残らない。
水泳の無いアタシなんて。
「……そんなの、アタシじゃない」
そう、呟いた。
アタシが、トラックにぶつかる直前に。
「……え?」
……アタシは、地面に仰向けになって倒れていた。
なにが起こったのか、分からなかった。
……そうだ、そうだった。アタシは考え過ぎていたんだ。だから、曲がり角の塀の向こうからトラックが近づいていたことに直前まで気がつかなかったんだ。なぜだろう。こんなときに限って、冷静になれる。
「…………よく、言うじゃん」
そんなアタシに体当たりして助けてくれた、現在アタシに覆い被さっているこの人物は、そう言う。
「『疲れからか、黒塗りの高級車にぶつかってしまった。高級車の持ち主、暴力団の岡田から言い渡された示談の条件が多過ぎィィィっ!』…………って。だから、疲れからトラックにぶつかっちゃったんじゃないか心配になっちゃったよ。このままだと、絶対に倫理的にアウトな光景…………略して絶り……」
「その単語そのものは別に下ネタじゃないわよ。……板隷つくし」
「そうなの?」
「おい気ィつけろクソガキがァっ! ぶっ○すぞコラァっ! ……あれ、もしかしてこれ百合? 百合なの? ……失礼しましたぁっ!」
そうトラックの運転手が吐き捨てて走り去って行ったのを確認してから、板隷つくしはゆっくりと体を起こした。
「あ、あなたどうして……」
「えへへ。『金輪際会わないで』って言われたあとに陸上部のマネージャーになったから『朝のランニング』、略して『モーニング』を始めたんだよね。おまん先輩みたいに筋肉つくかなって思って。……そしたら肉の棒……じゃなくてソーセージの会社のトラックを見かけて妄想しながらついていったらおまん先輩が轢かれそうになってたから……全身全霊をかけて助けたの」
「あなた、随分と体を張ってくれたのね。……『おまん先輩』はともかく。………………まあ……ありがとう」
「だって、好きな女の子だからね! 助けない理由はないよ! ……この間も言ったでしょ。あたしは、貴女のことが大好きです」
「…………」
「だから…………おチューき合いしてください」
「嫌よ」
「渾身のギャグだったのに!?」
「嘘よ。…………ふふっ」
「お、遅効性でウケた!?」
張り詰めていた気持ちが、なんだかすうっと楽になった。自然と、笑みがこぼれる。
「あなたの…………貴女のためなら、アタシもしかしたらもっと頑張れるかもね」
コンクリートの地面にぺたんと座りながら、アタシ達は二人、優しく笑い合った。